幸せな小国オランダの智慧 災害にも負けないイノベーション社会 (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569803180

作品紹介・あらすじ

スウェーデン、フィンランドなど北欧諸国を抑えて「子どもの幸福度」1位に輝くオランダ。400年の交流がありながら、日本人はこの小国をあまり意識してこなかった。ところが震災を経て混迷を深めるいま、1000年に及ぶ洪水との死闘を乗り越え、欧州屈指の低失業率で経済的にも安定を続けるオランダが一躍注目されている。自由闊達な対話を認め、問題解決に向け協力し合う関係性豊かな社会。日本人にもっとも欠けている「不確実性に強い知的弾力性」はどこからくるのか?"オランダ的思考"の強さの秘密。

感想・レビュー・書評

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  • では3本目は「幸せな小国 オランダの智慧 災害にも負けないイノベーション社会」です。お前なんでオランダなんだよ~?と言われると思われますが、私はTPP推進派なのですが、日本の農業もたいせつ~と思っています。

    そこで私の郷里の高知県では、天才・尾崎正直知事の下、オランダの農業振興策を参考にしているとのことで、是非実態を知りたかったのですが、なかなかピッタリの書籍を探せず、本書に出会ったという感じです。

    まず著者は21世紀は「グローバル。ウィアーディング(Global Weirding)」の時代だと説きます。これは地震、津波、洪水、竜巻、豪雪などの自然災害を指すとのことです。

    これらに対処するには「知的弾力性」が必要であると著書はいい、その典型がオランダ及びオランダ人だそうです。

    なぜオランダは知的弾力性を持つようになったか?それは、度重なる洪水などの災害で「社会的思考(ソーシャル・シンキング)」を培ってきたというのだ。その結果、オランダ人の間には災害や危機に対する能力を解決する能力「ソーシャルキャピタル(社会的知的資本)」が蓄積されたのだ。

    現在の社会においては、ソーシャルキャピタルが不確実性に対する社会の許容度や知的弾力性を高め、天災等による危機に対する復元力をもたらすからである。またソーシャルキャピタルは、イノベーションに欠かせない知の多様性(ダイバーシティ)という側面も持っている。

    著者は指摘する。20世紀の工業国家の優等生だった日本は、21世紀の知的経済社会にうまく対応できてないと説く。それを克服するためには社会システムの変化を起こさないといけないそうだ。

    一般的には災害の対策は、技術的問題あるいは「モノ」、「カネ」の問題に帰してしまいがちだが、肝心なのは危機や不確実性に対応する社会の知的弾力性、すなわち智慧なのだ。

    オランダでは初夏にもなると、どこともなく人々が運河沿いのカフェに集まってビールを飲んだり、水辺で語り合う。これは「ヘゼリッヒハイト(gezelligheid)」というオランダ語で共生する、共に飲み食いするといったオランダ人の人生観・幸福感を反映したものである。

    国土の4分の1が海水面以下というオランダは、何度も大洪水に見舞われてきた。1953年の大洪水の後、オランダは多数の堤防やダムを建設して「一万年に一度」の確率の洪水に備えられるようにした。

    いまオランダから学べることは、「災害に強い知的国家」の本質とは何かである。その基本単位は、社会や過去の仕組みに単純に依存しない「個」とその相互の関係性、対話力ではないか?と筆者は説く。

    ところで割り勘は英語で「Go Dutch」というが、協力的かつ個人的なオランダ人は単純に人数頭で割り勘しない。一人一人が飲んだ量に応じて割るのだ。

    そんなオランダ人は3.11の時も大使館に「国外へ逃避したい」という自国民の声に反対して、東京在住のオランダ人に東京に滞在しても大丈夫だという判断を下している。

    なぜなら、彼らには「知の弾力性」があったため、予め大掛かりなシュミレーションをしていたという。例えば大使が死んで、日本語ができるオランダ人スタッフが一人だけになったらどうするか、テーラーメイドの実験をやったそうだ。そして災害慣れしているオランダ大使は、OKの命を下したそうだ。

    またオランダは1980年代に経済危機に陥ったが、見事オランダ人の智慧で解決している。即ち政・労・経お互い議論を行い、「同一労働・同一賃金」、「ワークシェアリング」、「ダイバーシティの導入」を行って、窮地から立ち直り経済繁栄をもたらし、国債はトリプル・エーの格付けを得た。

    と本書の触りだけ紹介したが、とても複雑かつ有機的なので、私の筆ではこの程度でしか書けない。一言でいうと、オランダは「知の弾力性」による社会的知的資本を下に「知識経済とイノベーション」を標榜しているのだ。結果も出ており「購買力平価ベースの一人当たりのGDPランキング」では、毎年10位(日本は25位)を保っている。

    私の知りたかったオランダ農業の事も一定量記載がある。関心のある方是非本書を取って欲しい。このブログは没論理的であるが、この書籍は一貫して論理的整合性が取れている。

    と本書の触りだけ紹介したが、とても複雑かつ有機的なので、私の筆ではこの程度でしか書けない。一言でいうと、オランダは「知の弾力性」による社会的知的資本を下に「知識経済とイノベーション」を標榜しているのだ。結果も出ており「購買力平価ベースの一人当たりのGDPランキング」では、毎年10位(日本は25位)を保っている。

    私の知りたかったオランダ農業の事も一定量記載がある。関心のある方是非本書を取って欲しい。このブログは没論理的であるが、この書籍は一貫して論理的整合性が取れている。

  • 掘り下げているのに、新書であるのでサクサク読めるそんな本。
    最近読んだ新書の中では、一番な好印象。
    時々出てくる他の専門家の発言や著作からの引用が、いやらしい感じがまったくなく、説得力を加えてくれている。

    オランダと日本は異なるので、だからこそ学ぶべきところがあるのではという視点。(単純にマネしろなどとそこ浅はかなことを決して著者は論じていない。)
    災害とイノベーションという一見関係性の薄い事柄を「知的弾力性」の視点を通じて見る。

    オランダだって、問題は山積している。
    それでも終わりなき対話に真摯に向かい合い、ちょっとずつでも個々人の幸福を追求できる社会。持続性をある社会。

    日本の「男性的(性別により役割分担される)」で「寛容性が低い(多様性を認めない・受け入れにくい)」社会と対極に位置するオランダ社会を通じて、われわれ一人一人の変革の必要性について考えざるを得ない読後感となる。

    ただ、失われた20年で、日本から「ソーシャルキャピタル」も失われたことになっていますが、これってそうでしたっけ。むしろ、ボランティアの精神なんかがその隙間を埋めるように浸透したように思います。。

  • 読み終わってオランダという国への興味が増した。

    オランダの強み
    社会インフラの充実
    →個人主義と共同体意識の共存

    知的弾力性
    一度決まったことについて再度見直し、ダメな部分は改める

    上記2点は、海抜が低く、昔から多くの洪水に見舞われる中で円熟してきたもの

    すぐには無理だが、日本には必要な、かつて持っていたもので取り戻すべきもの(明治維新前後の日本にはあったと自分は考える)

    また、経済危機を経て、導入した「同一労働同一賃金」という考え方のワークシェアリングは多少の問題はありながらも、閉塞感の強い日本にも導入すべきであるし、下らないシガラミを無視出来れば実現可能

    最後に個人的にはトータルフットボールに見るオランダ人分析が一番面白かったという印象

  • 2012.02.11 ソーシャルキャピタルの豊かさがオランダの豊かさ、経済的な成功のベースのようだ。日本は今、オランダの正反対。このままではどんどん幸せから遠ざかりそうだ。国家戦略の転換が必要だ。もう間に合わないぞ。

  • 集団主義で個人主義。一人一人が政党といわれるほどの主張にもかかわらず話し合いで解決しようとするポルター文化。その裏には洪水の度に流されてきた国土を守ることにあった。小国ながらも幸福度の高いオランダから学ぶべきこととは。

  •  FBのお友達の推薦。

     とてもおもしろい。一つ一つがどうというより、オランダをみる観点が納得感がある。

    (1)カギになるのが、デザインやアートなどの要素であることはなんとなくわかっている。だだ、その力が表層の差異化だけでなく、産業や組織の深層レベルで発揮されなければならないのだ。(p226)

     著者は断定しているが、自分もなんとなくそうだと思う。福岡伸一さんが「うつくしいかどうか」が決めてといったのとも近い。

     知識産業化とはイノベーションというのも、うつくしいかどうか、いいデザインとおもえるかどうかがカギじゃないかな。

    (2)創造性経済の根幹をなす知的資産を生み出す場として都市が注目されている。(p95)

    (3)干拓地を中心とするボルダーという共同体を中心としたボルダーモデルがオランダ復活の決め手。(p49)

     必ずしも、自治会とかいうのにこだわらず、職場のタテ関係ではない、よこのつながり、それがFBであろうと、マンション管理組合であろうとかまわないので、そういうよこのつながりを大切にしていくことが、都市の再生の一歩のような気がしてきている。

     なお、オランダの都市計画については、角橋さんの『オランダの持続可能な国土・都市づくり』(学芸出版社)が参考になると思う。(自分は、2010.8.2にブログでコメントしている)。

  • フューチャーセンター界隈で名前が挙がった本。日本はやはりオランダから学ぶべきか?

    <目次>
    プロローグ 「予測不能な時代」を生き抜くための力とは
    第?部 いま、なぜオランダなのか?
     第1章 「トモダチ」でも「遠い」友人ーオランダという映し鏡
     第2章 災害を乗り越えてきた不屈の歴史ー自然災害と経済災害
     第3章 オランダから見る「内向き日本」−鎖国の真実をよく知る国
     第4章 小国オランダの知識経済戦略ー国民一人ひとりの持続的な豊かさ
    第?部 人のつながりを力に変える
     第5章 ソーシャルキャピタルとは何かー関係性が資本となる
     第6章 個人主義と集団主義の矛盾なき両立ーオランダ的「場」の思考
     第7章 いまオランダが抱える問題ー自由の代償
     第8章 混沌を許容する文化ー対話しつづける人々
    第?部 オランダ人のイノベーション力
     第9章 「製造業」と「サービス業」の垣根を越えてー経済格差とグローバル展開
     第10章 思い込みから解き放たれた経営ーシナリオ的アプローチ
     第11章 会社に縛られない働き方ーネットワークとコミュニケーション
     第12章 「オランダ的思考」の原点ー人間の知を無駄にしない哲学
    エピローグ 「美徳」の資本主義


    <メモ>
    ・日本人にもっとも欠けている「不確実性に強い知的弾力性」(カバー)
    原発事故の時、駐日オランダ大使が「なぜ、東京にとどまったのか」
    ・第一の理由は、『原発事故による放射線量は、医学的に、東京に住んでいる人たちに影響を及ぼすレベルに達していない』とのオランダ政府の判断
    ・第二の理由は、関東には約700人のオランダ人がおり、大使館として撤退はできない。
    ・第三の理由は、日本とオランダの400年以上の長い関係に大きな責任を感じており、事態が悪化した時にとどまることも「トモダチ」の証だと考えた」
    (読売新聞 2011年4月25日)(6-7)

    第1章 「トモダチ」でも「遠い」友人ーオランダという映し鏡
    ・「特異」な日本の価値観ー男性的/不確実性の回避(24-25)
    ・日本はある意味で克己心を保ち、欧州諸国と協調しつつも、きわめて孤立した性格(こつこつと努力を積上げる)によって成功を生み出してきたユニークな社会だったといえる。(29)

    第2章 災害を乗り越えてきた不屈の歴史ー自然災害と経済災害
    ・鎖国時代の日本:諸外国が関心を引いたのは事実上、捕鯨用の中継基地(アメリカ)、不凍港(ロシア)、そして銀の為替レートによる金貨(小判)の魅力だった。鎖国を続けられたのは、大きな資源がなかったことと、オランダがほかの諸外国をマークし、ブロックしていたからである。(75)
    ・田中明彦氏『新しい中世』
     「新中世圏」人が自由に往来。EU、日本、アメリカ西海岸など
     「近代圏」領土的野心、拡張。中国、ロシア、韓国、北朝鮮
     「混沌圏」秩序が崩壊。イラク、アフガニスタン、ハイチ
     日本は新中世圏の国でありながら、地政学的には近代圏の国に囲まれている。そのため「新中世圏のなかで生きる方向を見失わないこと。近代圏の国々と上手にかかわること、混沌圏への対応もしっかり行うこと」の3つの対応に迫られる。(80)

    第5章 ソーシャルキャピタルとは何かー関係性が資本となる
    ・ソーシャルキャピタルは、社会的なネットワーク、信頼、互酬性、参加意識、市民の力、生活者としての価値観、多様性、帰属意識などによって形作られる(98-99)
     
    第7章 いまオランダが抱える問題ー自由の代償
    ワークシェアリングの考え方
    ・日本は90年代以降、日本的経営でもオランダ的ワークシェアリングでもない、「安心できない雇用」に国民を追いやったといえるだろう。日本の場合、雇用制度は産業や企業の論理に経っている。オランダは国民(人間)の論理に経っている。両者の差異はソーシャルキャピタルを重視したか否かである。(135)
    ・日本は世界一病院死が多い。日本人は8割(81%)が病院で死んでいる。高齢者施設は3%、自宅などが16%、とくに、がん患者の院内死亡割合は93%とぬきんでている。オランダは病院が35%、高齢者施設33%、自宅などが31%(池上直己「終末期ケアの課題と将来展望」、『社会保障旬報』2004年9月4日)(138)

    エピローグ 「美徳」の資本主義
    ・加護野忠男:最近の日本企業の元気のなさの理由として、経営精神の喪失を指摘する。それは過去と現在を切り離し(自身のルーツを忘れ)、表層的なグローバル経営に目を向け、社会性より営業利益の追求に走り、コミュニティを喪失してしまった過程ともいえる。過去の日本企業へのたんなる回想ではなく、経営精神を回復しなければならないのだ。(244)

  • 再読。やっぱりオランダには学べる面が沢山ある。

    あの規模だから(日本の九州くらいの大きさ、ただ人口密度は日本と変わらない)出てくるチャレンジ精神みたいなものもあるだろうし、人種のるつぼとしての多様性への理解もベースになってるだろうし、何よりああいう地形、土地柄が「今のオランダ」になる根本的な部分として大きいと思う。(2017/01/19)

  • 自ら土地を創り民主主義を生み出したオランダの「ポルターモデル」現実的な問題をソーシャルキャピタルのもと実践的に解決する思考と行動力。日本企業や社会に取り入れた方がいいと思う。

  • 日本が目指すべき国の一つオランダ。どういう仕組みの国なのか勉強します。同質価値労働同一賃金とか知りたい。

     オランダはすごいけれど、日本人はオランダ人にはなれない。でも見習うことはできると思う。

     オランダ人の民族性とか本質をきちんと説明している。

    _____
    p8 トップが力不足とは言うが
     「日本は現場は優秀だがトップは力不足」というのが常套句になっているが、ただ単に信頼関係の不成立と責任転嫁のためだけに言っているように思える。
     こういう言葉が出るのはトップを信用して行動できないからであり、とはいえ現場の責任を忘れずに取ってくれという保険を掛ける言動である。
     上司を信頼し、自分の仕事に絶対的な責任を持つ、という人間関係だったら出てこない言葉である。こういう言葉が横行している点は日本人の民度の低さである。

    p27 不確実性回避
     世界の中で不確実性を許容しないのはギリシアやスペイン語系民族やロシアや日本である。日本人は昔から多言・多様なものが苦手なのである。それなのに多様化を進めているから、現在ひずみが発生中なのである。
     逆に不確実性に寛容なのはシンガポールや香港、マレーシアなどの港湾国家である。

    p31 望遠鏡
     歴史上、最初に望遠鏡を作ったのはガリレオではない。改良したのがガリレオです。最初につくったのはオランダ人のハンス=リッペルスハイである。

    p36 10000年に一度の災害
     オランダは海抜0m以下の低地国家である。嵐による洪水の危険性に常にさらされている国である。それゆえその対策は10000年に一度の大災害を想定している。一方福島原発は500年に一度の災害対策であった。
     オランダの水害予防事業は10000年に一度の対策に終わらず、常に研究を重ねている。「安心」は作ったが、それが「安全」であるとは限らないことを理解しているからだ。

    p43 ハンス=ブリンカー
     オランダを救った伝説の少年。昔ある秋の日に、8歳のハンス少年は人気のない所で、堤防に水漏れを発見した。彼は自分の指を差し込み水を止めた。そこは人が来ず、一晩水を止め続けたハンスは寒さで命を落とした。しかし、彼のおかげで堤防が決壊して町が被害に遭うことは避けられた。という伝説。
     これはアメリカ人による創作らしいけど

    p45 ちょっと前のオランダは今の日本や
     1960年代にオランダで天然ガス油田が発見された。その資源輸出で大儲けし、それに依存するようになった。その結果、通貨高が起き、輸出産業は後退し、国内産業の衰退につながった。このため国内経済は落ち込み、ガスで儲けていた時期の政策を続けられず、増税やむなし、しかし高い失業率、財政の構造的赤字に悩むことになった。
     この天然資源に依存し、産業発展を怠る国の在り方を「オランダ病」というようになった。
     日本は天然資源はないが、「日本的経営」という古い考えに固執して発展を阻害している点でオランダ病に近いものがある。

    p70 鎖国
     鎖国のコンセプトは、海外との絶交というイメージの物ではなかった。あくまでカトリックという宗教の弊害を嫌い、それを避けるための政策で、実際プロテスタントのオランダと交流を続けている。鎖国というだけで閉鎖的なイメージを持ってはいけない。ただ、その字面のせいでいつの間にかイメージが固定してしまって、内実もそうなってきてしまったのであろう。

    p72 伊万里焼き
     伊万里は秀吉の朝鮮出兵で連行した陶芸技術者たちが日本で技術を伝来したことで始まった。明の海禁政策と重なって、伊万里焼は世界で陶磁器の覇権を獲得した。これを世界の窓口になったのもオランダである。

    p74 ナポレオン当時
     ナポレオンの時代、オランダはフランスの支配下にあった。当時、オランダの国旗が掲げられていた唯一の場所が、日本の出島だったという。

    p78 老化
     日本はリアルに高齢化しているが、メンタル分野でも国家的に老化している。若者が老人のような思考をする。成長志向や挑戦欲がなく、社会が縮小する一方になってしまう。
     やはり老人が多いから国家全体に保守的な機運がある。そうすると、和を貴ぶ日本人は足並みをそろえてしまう。だから若者も保守的に、内にこもり気味になるのであろう。多数派がそうあるべきと望むから。

    p85 購買力GDP
     日本のGDPを見ればまだ世界3位であるが、購買力平価ベースで見れば、25位と高くない。オランダは10位。韓国はすぐ下、香港、シンガポール、台湾は日本より上である。
     日本は人口が多いからGDPが高いが、一人一人の購買力で見れば、貧しい人が多いということになる。
     日本は国家のランキングに必死で、一人一人の生活の豊かさに目を向けない国になってしまっている。

    p92 移民政策
     オランダでは移民にオランダ語を習得しなければ移民資格を与えないとしている。イノベーション国家を目指すオランダは教育にも力を入れていて、移民にも高い能力者を求めている。

    p98 ソーシャル・キャピタル
     社会的人間関係を「資本」と捉える概念。
     社会的なネットワーク、信頼関係、互酬性、参加意識、市民の力、価値観、多様性、帰属意識などによって構成され、豊かさの尺度になる。これが高いと、犯罪発生率が低く、不要なセキュリティ費用が減少し、効率的な資源配分が可能になる。などの効果がある。つまり、民度の高さってやつ。

    p106 オランダの企業とプロテスタント
     オランダはプロテスタントの国家である。しかし、国家経済のために宗教と国家は分離すべきだと結論した。それができるのも、国民が相互に信頼を持てているからである。これもソーシャル・キャピタルである。

    p122 オランダの悪いトコ
     自転車国家で放置自転車が日本の比じゃなく、景観を損ねている。
     それと「文句を言う」ところ

    p127 日本人に移民についてどうアドバイスするか
     日本が移民政策を導入すると言ったら、オランダに慎重になるよう勧めるだろう。それよりも、女性の政治参加やダイバーシティの強化をまずは達成すべきである。それと、日本人の若者が海外に出たがらないことを改善すべきというだろう。まずは日本人が海外に出られるようになって、外人にオープンな国にならないと絶対に移民政策は爆弾になる。
     移民を「労働力」としか見ていないなど、論外と言われえるだろう。

    p133 ワークシェアのデメリット
     帰属意識の低下、協同作業への意欲低下、仕事へのプライドの低下、熟練工の育成困難、などがある。また、企業に使い捨てにされる危険性も高まる。
     日本も実質はオランダに次ぐレベルのパートタイム国家である。しかし、社会保障の制度が全然違う。
     国がパートタイマーへのセーフティネットを強力にしてくれているから、モチベーションを維持できるし、会社へのビジネス的な信頼関係が良好に構築できている。
     日本はそこを曖昧にしているから成功できない。

    p137 安楽死と自殺
     日本は自殺が圧倒的に多い国である。それでいて、安楽死を認めない。安楽死も自殺なんだから、毎年3万人も自殺する人を何とかすべきである。
     安楽死を認めたら、もっと自殺者が増えちゃうのかな

    p154 『ようこそアムステルダム国立美術館へ』
     各所の意見が錯綜してなかなか改装工事が完成しない美術館のドキュメンタリー映画。オランダ人の「文句を言う」性質がよくあらわされた映画である。
     オランダ人は良くも悪くも、思ったことを何でも言う。それが他人の利害を顧みないことでも平気で言う。たぶん日本でこんなに言ったら場がしらけるくらい、話にならないくらいずばずば言うのだろう。だから、議論が窮して改修計画がまったく進まなくなったのだろう。

    p161 知を出し合える社会
     北欧の国家は少人数ながらも規模ではなく、質を武器に国力を高めてきた。不確実性への挑戦(イノベーション志向)、人間中心主義、デザインや美的価値への理解など、日本もこういう知を出し合って創造していく、クオリティ国家を目指すべきだ。

    p165 サービス経済
     日本はものづくりが強みという観念はいまだに残る。しかし、日本のGDPの7割はサービス業である。実際、人件費の高い日本では製造業で儲けは出ない。これからはサービス業と製造業を組み合わせた「サービス経済」を発展させていかなくてはいけない。
     モノだけでなく、コトにも力を注いだ、高付加価値のモノを作っていかなければいけないのである。
     高付加価値を生み出すのは、「知」である。それも、従来の「答えのある知識」ではなく「答えのない知識」である。教育改革が必要とされる。

    p170 産業分類はやめよう
     産業構造は一次→二次→三次へと発展するとある。しかし、これからはもうそんな分類はせず、すべてが掛け合い、組み合わさった産業を作っていかなければいけない。安部さんはそれを全部足して6次産業とか言った。

    p171 農業純輸出
     農産物の輸出と輸入の差が一番大きい国はオランダで279億ドルある。日本は輸出23億ドルの輸入460億ドルである。アメリカは輸出927億ドル(世界一)の輸入747億ドルで純輸出は180億ドル程度である。
     オランダは一次産業が一番強いわけではない。しかし、高付加価値を作りだし、農業で効果的に利益を作り出せている。

    p174 部品屋とブランドショップ
     日本はいつまでも部品屋から抜け出せない。優れたモノづくりで高性能な部品は作れるが、それで作られるiphoneのようなブランド品は発明できない。
     日本はブランドショップを目指さなアカン。

    p185 ポシビリズム
     世界は多様に発展しうるという考え方。従来の分析決定論的経営へのアンチテーゼ。
     それぞれの地域ごとの特性に合わせた経済開発を行い、そこに生じる不確実性を尊重し、むしろ不確実性を創造性で付加価値に転換していく、クリエイティヴな考え方である。

    p196 コト・デザイン
     日本に必要なのは、モノをデザインする力ではなく、コトをデザインする力である。
     日本の家電製品はキレイで多機能ですごい。しかし、モノとしてはすごいが、コトとしては低レベルである。
    消費者が必要としない機能まで盛り込み、独自性のない潔癖な見栄えは、抽象的な価値は低い。
     抽象性にまで踏み込んだ価値の向上に努める能力を伸ばさざるを得ない。

    p198 ドラッガー
     彼の家系はイベリア半島からオランダに移ったユダヤ人である。かれもオランダ人。

    p201 フリーエージェント社会
     「仕事=会社じゃない」という意識が来る。
     ①副業の浸透(一つの会社に帰属する危険性)②働く単位が日から時間になる(真の成果主義へ)③人々のやる気を引き出す管理職(リーダーは管理から能力の活性化へ)④多様な働き方(テレプレゼンスやテレワークなど、場に囚われない労働)⑤大人な職場へ(面倒見の良い職場から、個人の自律を尊重する職場へ)
     組織による効率化もあるが、技術の発展のおかげで、今は個による効率化の局面に来たということだな。

    p211 日本のICTの失敗
     日本人はメールの使い方を間違えた。メールは本来コミュニケーションを豊かにするためのものであるが、日本人はメールに頼ることで、非人間的なコミュニケーションをするようになってしまった。面と向かったコミュニケーションが大事なのに、すべてをメールで済ませるようになってしまった。

    p213 ウェブは別物という意識
     日本ではインターネット系の物を「ウェブ業界」と限定して、社会で隔離してしまった。自分の業界とは関係ないからとビビってしまったせいか、ウェブを他の物と連関させる発想が実に乏しくなってしまった。

    p217 オランダの3要素
     ①人間中心主義… エラスムスのヒューマニズムも尊厳死の考え方も、この考え方があるからできる。オランダ人の考え方は、人間味をもっている。
     ②シナリオ的可能主義… 水害の国らしい考え方。不確定要素(自然災害など)に対して、希望的観測を持ち込まず徹底的に対策を練ること。
     ③個人主義的協業主義… 個人主義志向の人間ばかりだが、自分の利害が最大になるよう協業を積極的に推奨する考え方。アジア交易などでもこの考え方が、宗教に寛容になれた要因かな。

    p229 教育
     教育では小手先の知識や技術を教えてはいけない。オランダでは、社会とともに生きること、地域社会に必要なこと、それらを自ら考えること、が強調して教えられる。広い範囲の「公」ではなく、コミュニティへの「公」の意識が大事なのだ。

    p235 ノーベル賞経済学者の大罪
     という本がある。読んでみたい。
     経済活動というのは、カネの計算や会計などの知識だけでなく、博愛と勇気・正義と節制・信仰と希望などの美徳も伴うものである。

    p239 民の力はアートで生まれる
     オランダでレンブラントなどの芸術活動が花開くとき、日本でも俵屋宗達などによる芸術活動が盛んになった。これらの芸術家を支えたのは富を集めた市民である。
     市民は文化芸術を得て、さらに活発に活動していく。人々は芸術や文化によって力を生み出し、それをまた芸術や文化の創造に還元していく。
     民の力を生み出すなら、芸術に投資すべきである。

    ______

     オランダをまぁまぁ学べた。難しくなくてよかった。

     同一価値労働同一賃金は難しいし、きっとオランダでも普及してるってわけでもないんだと想像する。ただ、そういう仕組みもちゃんとあって、正社員という仕組みもあって、やはり働き方の多様性があるってことだと思う。

     とにかく、日本が賃金格差を是正するにはセーフティネットを超しっかり作るしかない。

     最初のうちは企業に使い捨てされる人が多いはず。小泉さんの改革でまずそうなった。これからは次の段階で、雇用福祉制度の充実をガンガン進めるのだ。

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著者プロフィール

紺野 登(コンノ ノボル)
多摩大学大学院教授
1954年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博報堂などを経て、現在、多摩大学大学院教授、慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、エコシスラボ株式会社代表。博士(経営情報学)。イノベーション経営を加速支援する一般社団法人Japan Innovation NetworkのChairperson理事、Future Center Alliance Japan代表理事、日建設計顧問などを兼務。約30年前からデザインと経営の融合を研究、知識生態学の視点からリーダー教育、組織変革、知識創造の場のデザインにかかわる。主な著書に、『イノベーション全書』『ビジネスのためのデザイン思考』(ともに東洋経済新報社)、『幸せな小国オランダの智慧』(PHP新書)、野中郁次郎氏との共著に、『知力経営』(日本経済新聞社、FT最優秀マネジメント・ブック賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(ともに東洋経済新報社)、『構想力の方法論』(日経BP社)などがある。

「2021年 『失敗の殿堂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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