なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569819419

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  • 世界の競合と戦うグローバル経済(主に貿易可能な製造業)と、地元住民を顧客とするローカル経済(主にサービス業)を分けて現状分析・今後の提言を行っている。グローバルとローカルをはっきり切り分けて、企業側・就業者側の視点で各々の進む方向性を示しているところが非常にわかりやすい。一方で「年収は住むところで決まる」で言及されたグローバル企業と地域(ローカル)の関係についてはあまり触れておらず、ローカルの人達はどこからお金を手に入れるのだろうという疑問はちょっと残った。

  • 日本は人類史上初の少子高齢化社会を迎えている。それにともない人手不足問題が地方経済において顕著に現れ始めている。2013年10月の推計では高齢化率は25%を超え、少子化もまったなしの状態で進行している今、生産年齢人口が増加に転じることは考えられない。この現象は一過性のものではなく、日本の人口動態に起因する構造的な問題として対処しなければならない。

    現在の日本の政策の多くは、人に余裕があるという従来のパラダイムで構築されたものであり、現在迎えている社会情勢との間に大きなズレが存在している。アベノミクスにおいても再び日本経済を勃興させようという絵空事のもと効果的ではない政策であるのが現状だ。

    しかし日本のGDPの7割、雇用の8割を占めるのは製造業ではなくサービス産業である。サービス産業の大半は世界で勝負するグローバル企業ではなく、国内の地域をマーケットとするローカル企業が大半だ。グローバル企業は国際経常収等には貢献するが、海外での売り上げは日本のGDPにカウントされず、また上位数パーセントの知識労働者のみを吸収するので日本に大量の雇用を生むことはない。対してローカル経済圏では、顧客との密着レベルが効率を決定する「密度の経済性」が効く労働集約型産業なので、比較的凡庸的・平均的人材が求められ、幅広い雇用吸収力をもつ。つまり日本の経済を支えているのは非製造業を中心とした公共交通・物流・飲食・小売・宿泊・医療・介護といった地域の対面サービスであるといえる。

    2つの経済圏が従来のような垂直の下請け関係だった頃と異なり、グローバル化によるG企業の海外移転が進みトリクルダウンも引き起こさない。つまりGとLは大きく異なる経済圏をフィールドにしているため、双方がそれぞれの領域で別の戦略を用いて生産性を上げていく必要がある。

    そのためにG経済圏においてはグローバルプレイヤーが戦える環境をいかに整えるかが大切である。厳しい競争の中を勝ち抜く企業を生むことは、L産業の創出を生んだり日本のイノベーションへの大きな貢献となり得る。

    対するL経済の問題は中小企業問題とも言い換えることができる。人手、需要、供給が減少する中で大多数の人々を抱える中小がいかに変わるかが決め手である。先述したように日本の雇用の8割は地域密着のL経済なので、大半の産業は裏を返せば顧客との密度、繋がり「密度の経済性」が価値を生み競争が起こりづらい。人手不足が深刻化している中で、生産性の低い会社が生き残る事はL経済の足を引っ張る大きな要因である。L企業の新陳代謝をいかに活性化させ、退出と集約による経営改善をしていくかは賃金上昇による労働市場の活性化にも期待できるL経済圏の伸びしろといえるだろう。こういった構造的な改革に加えて、ICT導入等によるテクニカルな労働生産性の向上や、地域金融の役割、規制や退出条件の緩和、コンパクトシティ化など賢い集約をキーワードとしてL経済を考えねばならない。多様な地域において無理ない収入を確保して生きていくことができる人間をいかに地域に増やしていけるかという所がLのゴールといえる。

    私たちは実際問題GとLが交錯する中で生きるわけで、2つの領域どちらかの二項対立的な話でない両領域を選択できる社会をつくりだしていくべきなのだろうと感じる。

  • 日本にはローカル経済とグローバル経済の全く異なる2種類がある。ローカル経済圏では、少子化&若者の都市移住&団塊の世代の退職で、5年前から人手不足になっている。グローバル経済圏は人余り、グローバル競争、グローバル人材能力などが必要だが、日本経済全体の3割しかなく、さらに製造業の海外移転で減少傾向。一方、ローカル経済圏はグローバルレベルの優秀人材は必要ではなく、それなりにまともな経営者が数多く求められており、ローカル企業(メインは運輸、小売、医療、サービスなど)の利益率を上げるために、だめな企業には退出頂き、良い企業を増やす努力がかかせない。ローカル経済圏は、女性、高齢者などの活用がマスト、外国人も入れたいが田舎では歓迎されないと悲観的。

  • ローカル経済圏の中核にあるサービス産業において、労働生産性を上げるためのアプローチは、「ベストプラクティスアプローチ」が望ましい。
    別の企業や事業体が行う似たようなパフォーマンスを自社に取り入れ、労働生産性を上げることを意味する。

    人手不足に陥ったローカル経済圏のマーケットで穏やかな体質を促進する鍵は、労働市場にある。
    具体的には、サービス産業の最低賃金を上げることだ。
    労働監督、安全監督を厳しくすることも有効だ。

  • グローバル経済(G)とローカル経済(L)は完全に別個の経済体系でありその発展の仕方別々であることがはっきりわかる。
    この考え方は分かっているようで、分かっていなかった。盲点であった。
    そういう意味でとても新鮮で分かりやすく、具体例な図表を十分に使って飽きさせない工夫に富んだ新書で一気に読んでしまった。
    そして最後に読者である消費者がこの2つの経済体系をどのように選び、利用していくかは各個人にゆだねられ、選択と多様性が与えられている点で、自分ならどうすべきか、選ぶにあたって何がその基準になるのか考えるきっかけを与えてくれたいい本でした。

  • グローバル経済(G)とローカル経済(L)を区別し、それぞれの特徴と問題点、今後の成長戦略について説明している。

    著者の主張としては、経済を考える際にGとLは区別して考えるべきであり、Gを目指す様な政策などをLに強要してもその殆どがナンセンスであるというもの。

    グローバル経済においては世界標準の中で常に世界一番を目指さなければならず、その中で遅れをとらないよう日々切磋琢磨しなければならない。
    日本でも国際競争が出来る様な地盤を作らなければならず、法人税減税などの法律の面や、競争優位な大学や研究施設の整備をする必要がある。

    一方で、ローカル経済は現在はほぼグローバル経済から切り離された者であり、作用する経済原理もまったく異なっている。
    そのため、ローカルはローカルなりの観点から政策や制度設計を考える必要があるというもの。


    大手外資系コンサルより独立し、国の制度設計や各企業や団体のコンサルティングを行ってきた著者であるため、有意義な提案を知る事が出来た。

    読むにあたっては、基本的な経済学?や簿記?の知識などが必要なのかなと。
    それらがあればかなり理解が進むような気がした。

  • 本書では、経済をグローバル(G)とローカル(L)に分けた上で、この二つのモードを柔軟に選択できる社会を、これからの日本は追求すべきだと結論付けている。

    本書を読んで、ここ最近の、ユニクロのパート・アルバイトの正社員化や、すき家の人手不足による開店休業などのニュースが、一連のものとして理解できた。
    すき家は、特にその杜撰さが目立ってしまったため、そのビジネスモデルを第三者委員会により指摘されてしまうまでになった

  • 企業をグローバルな視点だけではなく、ローカルな視点からも考えるグローカルな視点の重要性を感じた。

  • 冨山和彦さんに本を頂いた。BCG、CDI、産業再生機構COO、JALの再生といったご経歴のイメージが強いけど、今経営されているコンサルティング会社IGPIは、被災地を含む東北各県のバス会社を束ねるみちのりホールディングスの100%株主。つまり超ローカルな路線バス会社の経営もされている。そこから、グローバルに戦わざるを得ない企業の世界(G)と、ローカル密着の企業の世界(L)はまったく原理が違う、起きている構造問題も違うこと、そして、日本は両方あるし、実はほとんどの産業は「L」なんだから、それぞれが、それぞれのやり方で良くなっていくことを考えようよ、という姿勢で書かれた本。
    Lが労働人口減少という史上初めての環境変化に直面していることなど、ファクトに「おー!」とびっくりするものが複数。アイディアも、Lの成功基準は「県大会上位」レベル、カギは労働生産性と穏やかに退出を促し集約化を図る「スマートレギュレーション」。外国人投資家に褒められるようなガバナンスは不要で、「非営利ホールディングカンパニー」のような形のほうがいいかも、と。東証をGとLに分けるというアイディアなんかも面白かった。気仙沼や被災地に通って仕事をしているみなさん、地方で仕事してる皆さんの肌感覚、感想をききたいと思いました。
    また、ビジネスメディア、ウェブメディアで見かける言説、何か違うと感じていたのが、少しすっきり。Gの論理でLの分析をしているケースや、Gの論理の理解が表面的なケースだったのね。自分がGワールド出身で、いまの仕事はLのほうだから、よけい感じたのかも。
    Lの中核はサービス業で、この本では著者のバス会社経営経験に近い、地域インフラのタイプの話が中心だった。そういう「ニーズを満たす」もののほか「ウォンツにこたえる」サービス業、例えばライブ、美容、教育など、この本をきっかけに考えてみたい。

  • グローバリズムに関する論争に日頃違和感を感じていた理由が明快に整理できた。著者のこのような整理がこれから一般的になってくるように思う。

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著者プロフィール

冨山 和彦(トヤマ カズヒコ)
株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長
1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長、パナソニック社外取締役、経済同友会政策審議委員会委員長。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、国土交通省インフラメンテナンス国民会議議長、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。主な著書に『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)、『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(いずれも文藝春秋)などがある。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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