世界史を大きく動かした植物

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569840857

作品紹介・あらすじ

一粒の麦から文明が生まれ、アヘン戦争は「茶」から始まり、大国アメリカはジャガイモが作った。植物という新視点から世界史を読む。

感想・レビュー・書評

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  • 私たちは、植物の手の平のうえで踊らされているのかもしれないー(扉表紙裏より)

    人類の歴史は、自分や共同体の人々が如何に生き残るか、その知恵の出し合いと攻防の歴史である。そこには、当然食物である植物は大きく関与せざるを得ない。常に植物の見えざる意志によって、人類が翻弄されてきたのは確かだったとは思う。

    しかし、もちろん人類史の契機は食物だけで説明はできない。歴史を作ったのは、植物だと理解するのは間違いだと思う。歴史学者ではなく植物学者の稲垣氏の歴史記述は、大袈裟な部分があるので注意が必要だ。例えば「チャの輸出が外貨を得て、日本は近代化の道を進んでいくのである」(143p)

    閑話休題。以下クイズに出そうなトリビア情報を箇条書きしていく。特に日本関係を中心にした私的覚書です。無視してください。
    ・イネ科の植物がケイ素(ガラスの原料にもなるような物質)を体内に蓄えるようになったのは、600万年前。これによって、草食動物の多くが絶滅したと考えられている。
    ・2万年前から1万年前に気候が変化して、乾燥化や寒冷化が始まった。草原は食べ物が少ない。だからこそ、農業が発展した。最初は、イネ科を食用にする動物の家畜化。やがて非脱粒性のヒトツブコムギが炭水化物を種子に蓄えることで農業が始まり、富も蓄積され始めた。
    ・農業の魔力によって、人類は人類となっていくのである。
    ・戦国時代の日本は、同じ島国のイギリスと比べて、すでに6倍もの人口を擁していた。それを支えたのが「田んぼ」というシステムと「イネ」という作物である。
    ・東南アジアでは、イネは数ある作物の一つだが、日本では主食。
    ・15世紀ヨーロッパでは、コムギは種子に対して3ー5倍の収穫、17世紀の日本では、種子に対して20ー30倍の収穫。現代でも、コムギは20倍、イネは110-140倍もの収穫がある。
    ・イネの栄養は、タンパク質、ミネラル、ビタミンも含む。不足はアミノ酸リジン。それを多く含むのが大豆。味噌汁とご飯で日本人は完全食を食べれた。コムギはタンパク質が不足するので、肉類が必要で、主食にならなかった。イネは日本のモンスーン気候にも合っていた。 
    ・大航海時代にポルトガルは東回りで、アフリカ、インドへ、スペインは西回りでアメリカ、インドへ到達する。そうやって手に入れたかったのがコショウである。しかし、産業革命で蒸気船ができるとコショウの価格は下落する。
    ・1492年、スペインのコロンブスはアメリカのトウガラシをコショウと言い張るために、レッドペッパーとしたが、味も種類も全く違いもの。トウガラシはヨーロッパに受けいられなかったが、1500年にブラジルに到達したポルトガルは、船乗りのビタミンCに必要で、かつ害虫の繁殖を防ぎ、食材や料理の保存に便利で、食欲亢進にもなることでアフリカ・アジアに輸出。受け入れられた。
    ・人間の味覚は生存するための手段。苦味は毒の識別、酸味は腐った物の識別、甘味は果実の熟度の識別、しかし、人間の舌には辛味を感じる部分がない。カプサイシンは舌を強く刺激して、痛覚が辛さと勘違いする。カプサイシンを早く消化・分解させるために胃腸が活性化、様々な機能が活性化して、血液の流れは早くなり、発汗もする。更には痛みを和らげるために陶酔感さえ覚える。←辛さを感じる人に個人差かあるのは、こういう仕組みだったのか!
    ・赤い果実は動物にとって甘いのが常識。しかしトウガラシは、辛味によってカプサイシンを感じる受容体がない鳥だけを、種子を運んでもらうパートナーに選んだ。
    ・16世紀初めにポルトガルは中国経由でトウガラシを日本に輸入、よって唐辛子と書く。ジャガイモはジャガタラ芋、つまりインドネシアのジャカルタ経由。サツマイモは、元は中米原産。九州では中国経由で唐芋と呼び、日本全国へ薩摩経由で薩摩芋になった。トウモロコシも南米原産だが、中国経由で唐もろこし又はナンバン、カボチャはアメリカ大陸原産で南京。トウガラシは鮮度を重視する日本ではあまり広まらなかった。加藤清正経由で日本から渡ったトウガラシが韓国で広まったのは、当時は元の支配下で肉食だったから。
    ・種芋から増えるジャガイモは悪魔の食物と呼ばれたが、飢饉対策として、王室は栽培を広めるために努力した。イギリスは葉や茎を使って料理してエリザベス一世をソラニン中毒にして失敗、ドイツフリードリヒ二世は成功、ドイツにジャガイモが広まる。フランスで広めたのは、ルイ十六世とマリー・アントワネット。
    ・日本ではジャガイモはサツマイモやカボチャと同じ時期に輸入、しかし味が甘くなくて広まらなかった。広まるのは肉食(カレー、シチュー)と合う明治時代。
    ・カレー粉を発明したのはイギリス海軍、船の揺れに対応した。コメを食べるベンガルに駐在していたので、カレーライスを作った。シチューも同時に作り、これに航海食として欠かせなかったジャガイモを入れた。日本は1920年に日英同盟が結ばれると、イギリス海軍に見習いカレーライスを作る。更には砂糖と醤油を入れて、肉じゃがも作り、家庭に広めた。
    ・トマト、ジャガイモ、トウガラシはアメリカのアンデス山脈周辺原産で、コロンブス以後(16世紀)ヨーロッパに渡った。しかし、トマトだけは200年食用とされなかった。その時ナポリ王国(後のイタリア)だけは、安いトマトをスパゲティソースやピザソースとして使って(17世紀)やっとヨーロッパに広まった(ナポリタン)。そのあと、アメリカがトマトケチャップを作り、フライドポテト、ハンバーガー、オムレツに使った。
    ・ワタのおかげでアメリカは経済的に豊かになった。そしてワタのおかげで多くの黒人奴隷たちが犠牲になったのである。
    ・ワタは塩害に強く、江戸時代の干拓地(豊田、今治市、倉敷市、北九州市)で広まった。車産業、タオル、ジーンズ、工業地帯の基になった。
    ・薬としては、抹茶飲み方が優れている。宋代に日本僧侶(栄西)が伝えて、茶道になる。中国ではそのあと抹茶が廃れる。「茶」は中国「チャー」日本「チャ」ヒンディー語・モンゴル語・ロシア語・ペルシア語「チャイ」福建省「テ」ヨーロッパ「ティー」。ヨーロッパ紅茶ブームが米独立戦争を引き起こす。緑茶と紅茶は同じチャという植物から作られる。チャは抗菌成分を含むので、忙しい工場労働者が沸騰しない水で淹れて飲んでも赤痢菌などにかかる心配がなく、産業革命時に広まる。
    ・ソメイヨシノは吉野の桜という意味ではない。「染井村で作られた吉野の桜」という意味である。吉野ブランドを利用された、吉野とは関係ない桜だった。明治時代に命名。散る桜に美を見出したのは、明治以降。本居宣長の桜(敷島の大和心を人ととはば朝日に匂う山桜花)は、大和心を散る桜に求めたのではなく、美しく咲く桜を歌ったものだ。桜が一斉に咲き散るのは、桜が時期を知るのではなく、クローン桜だから。

  • 【感想】
    もし「重要な植物ランキング」があるとすれば、文明を形作った「穀物」がエントリーするのは間違いないだろう。実際、世界で最も多く栽培されている作物はトウモロコシであり、二位がコムギ、三位がイネだ。トウモロコシ、コムギ、イネは「世界三大穀物」と呼ばれており、やはり穀物が植物界の中心にいる。四位にジャガイモ、五位にダイズと続き、食料として重要なこれらの主要な作物に次いで生産されているのが「トマト」とのことだ。

    本書には上記のほか、大航海時代を作った「コショウ」、アヘン戦争を生み出した「チャ」、糖のもととなる「サトウキビ」、産業革命を引き起こした「ワタ」など、重要な植物を様々に取り上げている。植物一つひとつの原産地や生育方法といった「生物学的知識」はもちろん、その植物を通じた世界史上のできごとも学べる、一粒で二度おいしい本となっている。

    各植物の紹介も非常に面白かったが、私が一番印象に残ったのは、「おわりに」の記述だった。そこには人間を介した植物の生存戦略が書かれている。
    人類ははるか昔から災害と飢饉の間を生き抜いてきた。病気や干ばつに見舞われても生き残れるよう、植物を品種改良することでより安定した収穫を目指してきたのだ。ムギで言えば「非脱粒性」という性質を持つ変異株を選別し、交配させてきた。イネで言えば病害虫に強い新品種を開発し続け、増え続ける人口をカバーできるように進化させてきた。
    こうした取り組みを目の当たりにすると、ともすれば「人間は自らの都合のいいように植物を飼いならし続けてきた」と思うかもしれない。しかし、筆者に言わせれば逆だ。植物が自らの生存範囲を世界中に広げるため、人間を飼いならし続けてきた、というのである。

    ――作物は、今や世界中で栽培されている。種子を広げることが植物の生きる目的であるとすれば、世界中の隅々にまで分布を広げた作物ほど成功している植物はない。そして、一面に広がる田畑で、栽培作物は、人間たちに世話をされて、何不自由なく育っている。そして人間は、せっせと種をまき、水や肥料をやって植物の世話をさせられているのである。 そのために、人間の好みに合わせて姿形や性質を変えることは、植物にとっては何でもないことなのだろう。人間が植物を自在に改良しているのではなく、植物が人間に気に入るように自在に変化しているだけかも知れないのだ。(略)
    人間の歴史は、植物の歴史かもしれないのである。

    なるほど、考えてみれば確かにそうだ。世界中のどこを見渡しても、ここまで植物の世話に熱心な生き物は人間しかいない。そう考えると、今まで人間に食べられてきた植物の数々が、実は人間に食べさせるよう誘導し、裏で支配し続けてきたように思える。実は全てが植物の掌の上だったなんて、何とも面白い視点ではないだろうか。
    ――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    0 まえがき
    人類は植物を栽培することによって、農耕をはじめとした文明を生みだした。植物は富を生みだし、人々は富を生みだす植物に翻弄された。人口が増えれば、大量の作物が必要となる。作物の栽培は、食糧と富を生み出し、やがては国を生み出し、そこから大国を作りだした。富を奪い合って人々は争い合い、植物は戦争の引き金にもなった。

    人々の営みには植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ。


    1 コムギ
    イネ科植物は、乾燥した草原で発達を遂げた植物だ。
    イネ科の植物は、ガラスの原料にもなるケイ素という固い物質を蓄えて身を守っている。 さらに、イネ科植物は葉の繊維質が多く消化しにくくなっている。こうして、葉を食べられにくくしているのである。

    イネ科植物は、他の植物とは大きく異なる特徴がある。普通の植物は、茎の先端に成長点があり、新しい細胞を積み上げながら、上へ上へと伸びていく。
    ところが、これでは茎の先端を食べられると大切な成長点も食べられてしまうことになる。
    そこで、イネ科の植物は成長点を低くしている。イネ科植物の成長点があるのは、地面スレスレである。イネ科植物は、茎を伸ばさずに株もとに成長点を保ちながら、そこから葉を上へ上へと押し上げるのである。これならば、いくら食べられても、葉っぱの先端を食べられるだけで、成長点が傷つくことはない。

    じつは、イネ科植物の葉は固くて食べにくいだけでなく、苦労して食べても、ほとんど栄養がない。イネ科植物は、食べられないようにするために、葉の栄養分をなくしているのである。

    人類は、葉が固く、栄養価の低いイネ科植物を草食動物のように食べることはできなかった。人類は火を使うことはできるが、それでもイネ科植物の葉は固くて、煮ても焼いても食べることができない。
    それならば、種子を食べればよいではないかと思うかも知れない。現在、私たち人類の食糧である麦類、イネ、トウモロコシなどの穀物は、すべてイネ科植物の種子である。
    しかし、イネ科植物の種子を食糧にすることは簡単ではない。なぜなら、野生の植物は種子が熟すと、バラバラと種子をばらまいてしまう。何しろ植物の種子は小さいから、そんな小さな種子を一粒ずつ拾い集めるのは簡単なことではないのだ。

    ところがあるとき、私たちの祖先の誰かが、人類の歴史でもっとも偉大な発見をした。それが、種子が落ちない突然変異を起こした株の発見である。種子が落ちる性質を「脱粒性」と言う。自分の力で種子を散布する野生植物にとって、脱粒性はとても大切な性質である。しかし、ごくわずかな確率で、種子の落ちない「非脱粒性」という性質を持つ突然変異が起こることがある。人類は、このごくわずかな珍しい株を発見したのだ。

    恵まれた場所の方が、農業は発達しやすいと思うかも知れない。しかし、実際にはそうではない。自然が豊かな場所では、農業が発達しなくても十分に生きていくことができる。たとえば森の果実や海の魚が豊富な南の島であれば、厳しい労働をしなくても食べていくことができる。農業というのは重労働であり、農業をしなくても暮らせるのであれば、その方が良いに決まっている。そのため、自然が豊かな場所では農業は発展しにくいのだ。
    厳しい環境の中で、多くの人々が生き抜くための術を身につけたのである。それが「農業」だった。

    そして、農業が生み出すのは、単に食糧だけではない。種子は食べるだけでなく、保存することができる。保存しておけば翌年の農業の元となるが、残った種子は、人類にある概念を認識させる。それが「富」である。
    植物の種子は、そのときに食べなくても、将来の収穫を約束してくれる。保存できるものだから、たくさん持っていても困るものではない。また、保存できるということは、分け与えることもできる。
    つまり、種子は単なる食糧に留まらない。それは財産であり、分配できる富でもある。こうして富が生まれていったのだ。


    2 イネ
    農業を行うためには、水を引く灌漑の技術や、農耕のための道具が必要である。
    必要は発明の母というとおり、農業によってさまざまな技術が発展した。農業は「富」を生みだし、強い「国」を生みだした。そして、技術に優れた農耕民族は、武力で狩猟採集の民族を制圧することができるようになった。
    稲作はコメだけでなく、青銅器や鉄器といった最先端の技術をもたらしたのだ。

    イネはムギなどの他の作物に比べて極めて生産性の高い作物である。イネは一粒の種もみから700~1,000粒のコメがとれる。これは他の作物と比べて驚異的な生産力である。十五世紀のヨーロッパでは、コムギの種子をまいた量に対して、収穫できた量はわずか3~5倍だった。これに対して十七世紀の江戸時代の日本では、種子の量に対して20~30倍もの収量があり、イネは極めて生産効率が良い作物だったのである。現在でもイネは110~140倍もの収量があるのに対して、コムギは20倍前後の収量しかない。
    さらにコメは栄養価に優れている。炭水化物だけでなく、良質のタンパク質を多く含む。さらにはミネラルやビタミンも豊富で栄養バランスも優れている。そのため、とにかくコメさえ食べていれば良かった。
    唯一足りない栄養素は、アミノ酸のリジンである。ところが、そのリジンを豊富に含んでいるのがダイズである。そのため、コメとダイズを組み合わせることで完全栄養食になる。ご飯と味噌汁という日本食の組み合わせは、栄養学的にも理にかなったものなのだ。かくしてコメは日本人の主食として位置づけられたのである。

    十六世紀の戦国時代の日本では、同じ島国のイギリスと比べて、すでに6倍もの人口を擁していたとされている。それだけの人口を支えたのが「田んぼ」というシステムと「イネ」という作物である。 
    ヨーロッパの三圃式農業に対して、日本の田んぼは毎年イネを育てることができる。一般に作物は連作することができない。しかも昔はイネを収穫した後に、コムギを栽培する二毛作を行った。ヨーロッパでは三年に一度しかコムギが栽培できないのに、日本では一年間にイネとコムギと両方、収穫することができたのだ。


    3 コショウ
    コショウは肉を保存するために必要なものであった。しかし、贅沢な食生活をする貴族であれば、金さえ出せばいつでも新鮮な肉を食べることもできる。じつは、コショウは実用的な保存料というだけではなく、むしろステータスを表すシンボル的な存在だったのだ。

    どうしてヨーロッパの人々に必要な香辛料がヨーロッパにはなく、遠く離れたインドに豊富にあったのだろうか。
    それは、気候に関係がある。香辛料が持つ辛味成分は、もともとは植物が病原菌や害虫から身を守るために蓄えているものである。冷涼なヨーロッパでは害虫が少ない一方、気温が高い熱帯地域や湿度が高いモンスーンアジアでは病原菌や害虫が多い。そのため、植物も辛味成分などを備えているのだ。


    4 トウガラシ
    カフェインはアルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質であると考えられている。このカフェインの化学構造は、ニコチンやモルヒネとよく似ていて、同じように神経を興奮させる作用があり、依存性がある。他にいくらでも植物はあるのに、世界の人々が魅了されているのは、すべてカフェインを含む植物なのである。

    それでは、トウガラシはどうだろう。トウガラシの辛味成分はカプサイシンである。このカプサイシンも、もともとは動物の食害を防ぐためのものである。ところが、人間がトウガラシを食べるとカプサイシンが内臓の神経に働きかけ、アドレナリンの分泌を促して、血行が良くなるという効果がある。カプサイシンを無毒化して排出しようと体の中のさまざまな機能が活性化され、血液の流れは速まり、発汗もする。
    しかし、それだけではない。カプサイシンによって体に異常を来したと感じた脳が、ついにはエンドルフィンまで分泌してしまうのである。結果的に私たちは陶酔感を覚え、忘れられない快楽を感じてしまう。こうして、人々はトウガラシの虜になるのである。

    こうしてヨーロッパからアジアへと伝わったトウガラシだが、アジアでは瞬く間に広まっていき、ごく自然に現地の食事の中に取り入れられていった。高価なコショウを求めていたヨーロッパの人々にとって、新しい大陸の見慣れない植物よりも、アジアの香辛料こそが本物で価値あるものである。そのため、トウガラシもヨーロッパの人々に次第に広まっていった。


    5 ジャガイモ
    ジャガイモの原産地は、南米のアンデス山地だ。
    現代のヨーロッパ料理には、ジャガイモは欠かせない。土地がやせていて麦類しか作れなかったヨーロッパにとって、やせた土地でも育つジャガイモは、まさに救世主のような存在だった。今でもドイツ料理に代表されるように、ヨーロッパではジャガイモは欠かせない食材となっている。

    しかし、見たことも聞いたこともないアメリカ大陸の作物が、簡単にヨーロッパの人々に受け入れられたわけではなかった。
    もともとヨーロッパには「芋」はない。芋は、雨期と乾期が明確な熱帯に多く見られるものである。雨期に葉を茂らせながら貯蔵物質を地面の下の芋に蓄えて、その芋で乾期を乗り越えようとしているのである。

    冷涼な気候のドイツ北部地域にとって、飢饉を乗り越えることは大きな課題であった。しかも近隣諸国との紛争の多かった中世ヨーロッパでは、食糧の不足は国力や軍事力の低下を招く。そのため、ジャガイモの普及が重要な課題だったのである。
    ジャガイモはコムギが育たないような寒冷な気候や、やせた土地でも、たくさんの芋を得ることができる。しかも畑が戦場となってコムギが全滅することがあっても、土の中のジャガイモはいくらかの収量を得ることができる。
    ジャガイモは保存が利き、冬の間も食糧とすることができた。そして、豊富にとれたジャガイモを家畜の餌にすることができた。その家畜が豚だ。

    ジャガイモの普及によって食糧供給が安定したヨーロッパの国々では人口が増加した。そして、この労働者の増加は、後の産業革命や工業化を下支えしていく。

    ジャガイモは食文化にも革命をもたらした。ジャガイモによってヨーロッパは肉食が可能になったのだ。
    ヨーロッパは牧畜文化圏ではあるが、安易に肉食を行うような余裕はなかった。馬は馬車を引いたり、荷物を運ぶためのものであったし、牛は鋤で畑を耕したり、農耕に利用した。牛乳を得ることはあっても、殺して肉にすることはできなかったのである。また、アジア原産のワタが伝わる以前のヨーロッパでは、衣服を作るために羊毛が重要であったから、ヒツジの肉も得られない。
    保存が利き、あり余るほど豊富に得られるジャガイモは豚の餌になる。ジャガイモさえあれば、たくさんの豚を一年中飼育することができる。さらにジャガイモが食糧となったことによって、それまで人間が食べていたオオムギやライムギなどの麦類を牛の餌にすることができる。こうして、ヨーロッパの国々は冬の間も新鮮な豚肉や牛肉を食べられるようになった。そして、さまざまな肉料理が発達し、肉食文化の国となっていくのである。


    6 ワタ
    ワタはワタの実から採取される。ワタの実は種子を守るために、やわらかな繊維で種子をくるんでいる。このやわらかな繊維が「ワタ」となるのである。

    産業革命のきっかけとなった植物の一つがワタだった。イギリスは、材料のワタのみをインドから輸入し、綿布の国内生産に努めるようになった。そして、マニュファクチュアによって綿織物が作られるようになっていく。
    布を織る作業が効率化すると、今度は糸をつむぐ作業が間に合わない。やがて糸をつむぐ紡績機が発明され、作業が効率化していく。作業が効率化すれば、生産工場は大規模化していく。大規模化すれば、作業は分業化され、都市がどんどん大きくなっていく。
    そして十八世紀の後半になると、安価な綿織物を求める社会に革新的な出来事が起こる。石炭を利用した蒸気機関の出現により、作業が機械化され、大工場での大量生産が可能になったのである。これが「産業革命」である。産業革命によって安価な綿織物が生産されるようになると、伝統的なインドの織物業が壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。


    7 サトウキビ
    それまでの農業は奴隷を必要としていなかった。
    ところが、サトウキビは違う。なにしろサトウキビを栽培し、収穫するのは重労働である。それまでの農業にも重労働はあったが、鋤で畑を耕すような単純な作業は、牛や馬を使うこともできた。
    しかし、サトウキビは三メートルを超える巨大な植物であり、収穫という、家畜ではできない作業が重労働となる。二十世紀になって機械が開発されるまでは、サトウキビの重労働は人力で行われるものだった。
    これがプランテーションである。


    8 ダイズ
    中国の農耕を支えたイネとダイズは、自然破壊の少ない作物である。イネは水田で栽培すれば、山の上流から流れてきた水によって、栄養分が補給される。また、余分なミネラルや有害な物質は、水によって洗い流される。そのため、連作障害を起こすことなく、同じ田んぼで毎年、稲作を行うことができる。
    また、ダイズはマメ科の植物であるが、マメ科の植物はバクテリアとの共生によって、空気中の窒素を取り込むことができる特殊な能力を有している。そのため、窒素分のないやせた土地でも栽培することができ、他の作物を栽培した後の畑で栽培すれば、地力を回復させ、やせた土地を豊かにすることも可能である。


    9 トウモロコシ
    世界で最も多く作られている農作物は、コムギでもなく、イネでもなく、トウモロコシである。
    じつは、トウモロコシはさまざまな加工食品や工業品の原料としても活躍している。
    さまざまな加工食品に用いられるコーン油も、コーンスターチも、トウモロコシを原料としている。トウモロコシのデンプンからは、「果糖ぶどう糖液糖」という甘味料が作られるため、チューインガムやスナック菓子、栄養ドリンク、コーラなど、さまざまな食品に入っている。私たちは知らず識らずにトウモロコシを食べているのだ。
    一説によると、人間の体のおよそ半分はトウモロコシから作られているのではないかと言われるほどである。まさに神がトウモロコシから人を作ったという、マヤの伝説そのものだ。

    現在では工業用アルコールや糊もトウモロコシから作られており、ダンボールなどさまざまな資材も作られている。また、限りある化石資源である石油に代替するものとして、バイオエタノールがトウモロコシから作られている。二十一世紀の現代、私たちの科学文明は、トウモロコシ無しには成立しないほどだ。

    • Manideさん
      すいびょうさん、おはようございます。

      面白い本ですね、植物が人間を飼い慣らしているというのは、本当に面白い発想です。と、同時に、なにかとて...
      すいびょうさん、おはようございます。

      面白い本ですね、植物が人間を飼い慣らしているというのは、本当に面白い発想です。と、同時に、なにかとても儚い感じもしますね。

      素晴らしい要約と感想なので、とても勉強になりました。
      2022/11/11
    • すいびょうさん
      Manideさん、いつもありがとうございます。

      人類は結局どこまでいっても、環境に支配されざるを得ない動物なのかもしれませんね。そうし...
      Manideさん、いつもありがとうございます。

      人類は結局どこまでいっても、環境に支配されざるを得ない動物なのかもしれませんね。そうした目線に立つと、私たちが当たり前に思っている「人間と自然との関係性」を少し見直すきっかけにもなるかもしれません。

      素晴らしい要約と感想とは、恐れ多いです...!
      これからもいい本を紹介できるように頑張ります!
      2022/11/12
    • Manideさん
      すいびょうさん、こんばんわ。

      深いですね〜
      自然から見た人間を意識すると、また、違った景色が見えてきそうですし、自然に対する直接的な振る舞...
      すいびょうさん、こんばんわ。

      深いですね〜
      自然から見た人間を意識すると、また、違った景色が見えてきそうですし、自然に対する直接的な振る舞いも変わりそうです。

      これからも楽しみにしております♪♪
      よろしくお願いします。
      2022/11/15
  • フォローアーの方がレビューしてらっしゃるのを拝見して、「読んでみたいけど、分厚くて難しい本なのだろうな」と思い敬遠していたら、他のフォローアーの方が次々とレビューされていて「200ページくらいで、図書館で借りられる」と書いてくださった方がいらしたので、読んでみました。
    ただ、皆さん素晴らしいレビューばかりなので、すいませんが私は図書館に返却する前に抜粋をさせていただきます。

    はじめに

    人類の影には、常に植物の姿があった。
    人口が増えれば、大量の作物が必要となる。作物の栽培は、食糧と富を生み出し、やがては国を生み出し、そこから大国を作りだした。富を奪い合って人々は争い合い、植物は戦争の引き金となった。兵士たちが戦い続けるためにも食べ物がいる。植物を制したものが、世界の制覇を獲得していった。植物がなければ人々は飢え、人々は植物を求めて彷徨った。そして国は栄え、国は亡び、植物によって人々は幸福になり、植物によって不幸になった。
    歴史は、人々の営みによって紡がれてきた。しかし、人々の営みには植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があった。

    以上。

    世界で生産されている量は、多いものから。
    1トウモロコシ
    2コムギ
    3イネ
    4ジャガイモ
    5ダイズ
    6トマト   だそうです。

    特に面白かったのは、私はコショウ、ジャガイモ、チャ、サトウキビ。

    世界の歴史とのつながりが面白いのと、自分がお茶を飲むのが好きなので。
    巻末に参考文献がも載っているので、他の植物と歴史の関連の本も読んでみたいです。

  • タイトルに「植物」と入っていると思わず手に取ってしまう。
    それに何といっても稲垣栄洋さんだもの。
    「なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか」が大変面白かったので、さっそく読んでみることに。もう期待のはるか上を行く面白さで、蘊蓄も盛りだくさん。
    著者の簡潔にして明快な文章で、学校で習う世界史などより数段興味深く読める。
    私たち人間は様々な植物を栽培し利用してきた・・と思っているのは人間側の都合で、実は植物に支配されているだけで、植物の歴史がそのまま人間の歴史なのではと思わせられる。

    採りあげられるのは、コムギ・稲・コショウ・トウガラシ・ジャガイモ・トマト・綿・チャ・サトウキビ・大豆・玉ねぎ・チューリップ・トウモロコシ・サクラ、の14種。
    (文中ではもちろん全部カタカナ表記。読みにくいので時々漢字にしてみた)

    特に面白かったのはトウガラシの章。
    我が家で収穫したトウガラシを干しておくと、カラスがその辛いトウガラシをかっさらって行く。野生動物は辛いものは食べないはずなのにと不思議に思っていたら、鳥類は丸飲みするため辛さは感じず、短い消化器官を通り消化されずに体内を通過すると言う。
    賢いトウガラシは、そんな鳥類を種子を運ぶパートナーとして選んだのね。
    そしてトウガラシのカプサイシンが脳内エンドルフィンを分泌し、虜になるという記述で思い当たることがあった。
    トウガラシを常食する民族は、異常なほど沸点が低いということ。仕事上それで苦労させられた経験を次々と思い出すこととなった。
    国際交流をうたうなら、その民族の食事内容にも気を付けた方が良いと痛切に思う。

    カフェインを含む「チャ」のために、様々な国々の争いが生まれたことなども。
    アメリカ人がコーヒーを好むことの理由も。
    あるいはジャガイモが「悪魔の植物」と呼ばれて裁判にかけられ、有罪となったのち「火あぶりの刑」に処せられたこととか。
    トマトもまた、19世紀の米国で「野菜か果物か」で裁判になったとか。
    トウモロコシは目からウロコが何十枚落ちたことか。きっと、神様はヒトよりも先にトウモロコシを作ったに違いない。

    「しかし」「それでは」「ところが」などいう接続詞が登場するたびに胸がワクワク。
    さて、次なる展開は?・・とそれは楽しみながらの読書だった。稲垣先生、今回もありがとうございました。

    • kazzu008さん
      nejidonさん、こんにちは。
      フォローといいね、ありがとうございます。
      『戦争と平和』へのコメントもありがとうございました。あちらに...
      nejidonさん、こんにちは。
      フォローといいね、ありがとうございます。
      『戦争と平和』へのコメントもありがとうございました。あちらにもコメントをさせていただきましたが、自分への通知しかこないので、もしかしたらお気づきにならないかもと思い、こちらにもコメントさせていただきました。

      この『世界史を大きく動かした植物』もすごく興味深い本のようですね。ぜひ、今度読んでみようと思います。ご紹介ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
      2019/07/12
    • nejidonさん
      kazzu008さん、こんにちは♪コメントありがとうございます!
      そして、お気遣いいただいてすみません。
      先ほどそちらのお返事も見て参り...
      kazzu008さん、こんにちは♪コメントありがとうございます!
      そして、お気遣いいただいてすみません。
      先ほどそちらのお返事も見て参りました。
      高2の夏の読破に驚いていただいて、むしろ驚きました・笑
      若い頃は基本的に体力も時間も余ってますから(悩みも皆無だったし)、大人が
      思うほど大変なことでもないのですよ。
      そうそう、「トルストイの民話」はカテゴリーの「民話・昔話」の中に鎮座しております。
      好みの分かれる分野ですので、概略をチラ見して(笑)OKのようでしたらどうぞ。

      はい、稲垣栄洋さんの著作はどれも面白いのです。
      文章も簡潔だし、興味をひく展開で飽きさせません。
      kazzu008さんにも楽しんでいただけるのではと思いますよ。
      2019/07/13
  • この本もレビューで知りました。
    kazzu008さんやnejidonさん達の素晴らしいレビューを読んで本書を読まずにはいられなくなりました。

    幸いなことに、図書館で貸出されておらず、書棚にあったのですぐ借りることができた。

    非常に良書。
    人類と密接な14種類の植物についての、壮大なドラマが書かれている。200ページちょいなのでサッと読めてしまう。

    個人的にはコムギとイネとジャガイモとトウモロコシの章が面白かった。

    カバーの袖に「私たちは、植物の手の平のうえで踊らされているのかもしれない」とあるけど、まさしくそのとおりだな、と思った。
    特にトウモロコシと人類の共生関係は深いなあ...
    トウモロコシは人間の助けなしに育つことは出来ないし、人間の体の半分はトウモロコシからできている、なんて。
    現時点で、人類を最も手玉に取っている植物は、まちがいなくトウモロコシということだ。

    全然関係ないけど、tomorrowという英単語を見ると、昔からどうしてもトウモロコシを思い浮かべちゃうんだよな...

    トゥモロゥ...コシ...

    • nejidonさん
      たけさん、はじめまして(^^♪
      フォローとポチを下さり、ありがとうございます。
      この本もお読みいただけたのですね!
      とても嬉しいです。...
      たけさん、はじめまして(^^♪
      フォローとポチを下さり、ありがとうございます。
      この本もお読みいただけたのですね!
      とても嬉しいです。
      本当に面白い本で、こんな視点もあったのかと大きな学びになりました。
      また興味深い本に出会いましたらご紹介くださいね。
      こちらからもフォローさせていただきます。
      どうぞよろしく。
      2019/08/01
    • たけさん
      nejidonさん、はじめまして!
      こちらこそフォローありがとうございます!

      おっしゃるとおりで、「世界史を大きく動かした植物」を読んで、...
      nejidonさん、はじめまして!
      こちらこそフォローありがとうございます!

      おっしゃるとおりで、「世界史を大きく動かした植物」を読んで、新たな視点を得ることができました。とても興味深い本ですよね。
      2019/08/01
  • この本を読んで分かったことは「人間の歴史は全て植物によって説明できる」ということです。

    世界四大文明があの場所で興ったことも、コロンブスがアメリカ大陸を発見したことも、アメリカがイギリスから独立したことも、清国(昔の中国ね)が列強諸国によって植民地にされたことも、アフリカの何百万人もの黒人の方たちが奴隷にされたことも、日本人がなぜ米を食べるようになったのかも全部、植物によって説明できるんですね・・・。

    本書は、コムギ、トウモロコシ、イネ、ジャガイモなど14種類の植物がそれぞれどのようにして人間の歴史に関与していったかが、非常に分かりやすく説明されています。
    特にコムギの章は、コムギを栽培することによって「初めて人間の間に持つ者と持たざる者という貧富の差が生じることとなった」という部分が非常に感慨深いものがありました。
    著者の書きぶりも非常に理解しやすく、物語を読むように楽しく読むことができます。高校生の時にこの本を読みたかった。そしたら世界史の理解度がぐんと上がったと思いますね(笑)。

    著者の稲垣栄洋先生は、静岡大学教授で植物学者。過去の著書は『面白くて眠れなくなる植物学』や『身近な雑草の愉快な生きかた』等。
    そして僕、この先生の本、以前読んでいました『敗者の生命史38億年』。レビューも書いていました。しかも☆5つで(笑)。すいません。全然、気がつきませんでした。
    どちらも面白かったです。マジです。もう、稲垣先生、好きです。

    本書のあとがきにもありましたが、我々人間は、自分たちのことを「地球の支配者だ」なんてことをたぶん思っていますが、この本を読んだらそんなこと全く思わなくなりますね。

    地球の支配者は植物です(断言)。
    植物にとっての繁栄とは「地球全土に子孫を残すこと」。植物にとって人間は、鳥や蜂と同じように、植物の世話をしてあげている一動物に過ぎないのです。植物の為に、土地を耕し、種を運び、受粉させ、収穫し、種を集め、そしてそれをまた違う土地にまく。いうなれば人間は植物の奴隷なのです。そう考えると他の動物もすべて植物の為に生きているといっても過言ではないですね。

    一人の人間なんてちっぽけなものです。たった100年ほどしか生きていけないし、直接の子孫だって多くても10人そこらしか残せない。身体の機能だって1000年前と比べてもほとんど変わらない。
    こう考えると、一人の人間が持っている悩みなんて空気中に漂っているチリよりも軽いものなんでしょう。

    さりとて、何も考えないで生きていく訳にもいかないので、せめてこのような本を読んで、教養くらい身につけていきたいなと思いました☆。

    • nejidonさん
      kazzu008さん、こんにちは♪
      何とまぁ、もう読まれたのですね!先日話題にしたばかりですのに。
      皆さん読むのもレビューを挙げるのも早...
      kazzu008さん、こんにちは♪
      何とまぁ、もう読まれたのですね!先日話題にしたばかりですのに。
      皆さん読むのもレビューを挙げるのも早く早くてびっくりです。
      一体どうやって読書時間を確保しているのでしょう?それが最大の謎です・笑
      とまぁ、雑談はさておいて、この本を楽しまれたようで嬉しいです。
      (断言)されている行で、思わずにっこりしてしまいました。
      稲垣さんの文章は簡潔乍ら説得力にあふれてますから、確かにそう思いますよ。
      そしてこういった本が真の教養に結びつくと、私も考えます。
      植物の視点から歴史を俯瞰するなど、専門家でもない限り出来ません。
      引き続き稲垣さんの著書を機会を捉えては読むつもりです。
      また興味深い本がありましたら教えてくださいね。
      2019/07/24
    • kazzu008さん
      nejidonさん、こんにちは。
      コメント、ありがとうございます!
      読書時間の確保ですか・・・読書人にとっては永遠の課題ですね(笑)
      ...
      nejidonさん、こんにちは。
      コメント、ありがとうございます!
      読書時間の確保ですか・・・読書人にとっては永遠の課題ですね(笑)
      僕の場合は、平日は通勤時間と就寝前が読書時間ですが、休日でかなり読書時間がとれるので、そこで稼いでいる感じです。

      稲垣先生の本は本当に面白いですね。植物の話だけでなく、歴史や他の生物などへの造詣も深く、本当に読者を飽きさせないです。ぜひ、他の本も読んでみたいです。

      それと今日レビューされていた『魔法の糸―こころが豊かになる世界の寓話・説話・逸話100選』も面白そうですね。「第二の聖書」だなんて興味津々です。ぜひ、機会を見て読んでみたいです。これからも興味深い本のご紹介よろしくお願いします!
      2019/07/24
  • コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ。
    どの植物にもドラマがある。

    植物が文明をつくり、富をつくり、人びとの暮らしを変え、戦争の原因になっていく。
    タイトル通り、世界が動き、どんどんと変わっていくのがおもしろい。

    世界史だけでなく、植物学や栄養学など、さまざまな情報が盛り込まれ、たのしい雑学本。

  • おもしろいなあ。
    すべてがつながっている。

    ①単子葉植物はスピードを重視するために
    生まれてきた。
    双子葉植物の進化版といえる。
    その中でも、イネ科が一番すごい。
    理由
    生長点が地面すれすれ。
    だから、先を食べられても大丈夫。
    稲はほどんど炭水化物。
    光合成→炭水化物→種子→エネルギー
    という、シンプルなライフスタイル。
    無駄がない。
    種子=食料=財産=富 
    そして富が生まれた。
    こんな稲を主食にもってきた日本人でよかった。

    ②里芋のあとに稲作が伝来する。
    それまでは里芋。
    だいたいにして、面倒な農業など、やらなくても
    いい地域はやらない。
    自然豊かで果実や魚が豊富なら農業は必要ない。
    縄文時代の東日本は稲作をしなくても豊かだった。
    そうすると、農業はやらない。
    だから、農業は東海地方の西部まで。
    結果、豊かでない地域では
    農業=安定した食料=重労働
    となる。

    ③ヨーロッパは家畜の肉が貴重な食料。
    しかしながら、家畜にやる餌が冬はない。
    そうなると、殺すしかない。
    殺して、その肉を食いつないで、どうやって冬を
    越すかが課題になる。
    殺すと腐る。腐らないように、
    乾燥させるか、塩づけにするか・・まずい。
    香辛料があればおいしい!
    だからコショウがほしい。
    コショウがあればおいしい。
    コショウは南インド原産
    価値が生まれる。
    コショウは熱帯地域、モンスーンアジアでできる。
    それは、暑いので病原菌や害虫が多い。
    身をまもるために辛味成分を・・
    ああ、つながっている。
    なんでコショウが貴重品だったのかなぞだったけど
    そういうことね。

  • トウモロコシは怪物なんだという記載が一番頭に残っている。
    人の歴史はつくづく植物に、動物に振り回されて作られているのだなと思う。それは工業時代になり、石油というものがそこに名を連ねても、社会における動植物、特に主食となる作物を含む植物群の扱いは変わらず、彼らに一喜一憂され続けるのはこれからも変わらないだろう。
    彼らは人を利用して広がっていると言うのも、あながち間違っていないと感じられるほど、我々は植物に翻弄されるのだ。

  • 世界史の流れを植物に注目して辿っていく。1章ごとにひとつの植物をあげ、それにまつわる話が説明される。全14章で、下記の植物が登場する。

    第1章 コムギ
    第2章 イネ
    第3章 コショウ
    第4章 トウガラシ
    第5章 ジャガイモ
    第6章 トマト
    第7章 ワタ
    第8章 チャ
    第9章 サトウキビ
    第10章 ダイズ
    第11章 タマネギ
    第12章 チューリップ
    第13章 トウモロコシ
    第14章 サクラ

    学生時代の授業を別の視点で復習しているようで、懐かしく面白かった。
    ある植物の、ある特性がなかっただけで、今現在の世界の状況は全く違ったものになっていたかもしれない。そもそも、人類の繁栄はなかったのかもしれない。歴史は単に植物だけの話ではないけれど、現在というのは色んな偶然が積み重なって、やっとのことで成り立っている危ういものだという気になってくる。

    人類誕生や文明の発展に絡めた「コムギ」と「イネ」、大航海時代の「コショウ」、そして日本人の精神性に絡めた「サクラ」が特に興味を引いた(世界史と銘打っているのにサクラが選ばれている違和感はあるけれど)。

    桜は散り際が美しい。ぱっと咲いてぱっと散る。本書の第14章では、そんな桜の姿と日本人の精神性について触れられている。古くは鎌倉時代、『平家物語』では桜の儚い美しさが記されている。諸行無常、死の美学、わびさびの精神。そういったものの裏に、実は桜の花の特性があったようだ。

    この勢いで、次は『銃・病原菌・鉄』を読んでみたくなった。こちらも、壮大な人類の歴史を感じることができそうだ。

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著者プロフィール

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ):1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する記述や講演を行っている。著書に、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』(ちくま文庫)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』『ナマケモノは、なぜ怠けるのか』(ちくまプリマー新書)、『たたかう植物』(ちくま新書)など多数。

「2023年 『身近な植物の賢い生きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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