凍花 (双葉文庫)

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  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575515602

作品紹介・あらすじ

三姉妹の長女・百合が次女を殺した。才色兼備で仕事も順調だったはずの百合はなぜ凶行に及んだのか?残された三女の柚香はその動機を探るが、やがて姉が自分の知らない別の顔を持っていたことを知る。それは、にわかには信じがたいものだった。-完全黙秘を続ける百合。戸惑う柚香。何かを守ろうとする父親。何かを隠そうとする母親。ある家族をめぐる慟哭のミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 三姉妹の長女が次女を殺害してしまうミステリー。ストーリーは三女の目線から描かれていく。

    長女の内面(思考)と外面(行動言動)のバランスの悩みが生きずらさになっている。
    そのバランスの中心にあるものは感情で、その思考/感情/行動/言動のバランスの不安定さがそう思わせる。

    デメリットに感じる部分ではあるだろうが、自分には逆に魅力に感じる部分でもある。
    ひとつひとつ自分を見つめていて、その時の感情をしっかりと刻めている。
    取るべき行動はもっとベターなものがあったり、もっとメリットがあるものもあったろうが、そんなのは結果論であり誰も知らない事。
    そこに躓き、苦しむ姿は長女の人間らしい魅力かとも感じた。

    タイトルが秀逸で「凍花」
    最初なんのことか解らず手に取った作品だが、読み終わってみればこれ程しっくりくるタイトルはないのかもと感じた。
    場面場面で時間も空間も嘘も真実も凍るような花の姉妹の過去現在未来。
    これは上手い表現だなと感じた。

    長女と三女の新たに交いだした姉妹の姿に望みを託したい。凍ってしまっていた物や凍らされた物、凍らしてしまった物は徐々に溶かし取り戻していってほしいと願う。
    ただ永遠に凍らせてしまった事実だけはどうすればいいのかわからない。
    ただ向き合い受け入れ、個人ではなく家族として補うことでその中心にある個人の孤独感や悲壮感は緩和される事はできる気がする。そうしてほしいと願う。

  • 三姉妹の長女が次女を殺した。

    …にしては、全体的にサラリとした感じ。ドロドロを期待していたのだが…

    動機は何?出できた日記を読み進めるうちに変化する感情。
    感情の変化は理解できるところもあり、首を傾げるところもある。母親が理解できず、そうじゃないだろ!とツッコミを入れる。

    ただの姉妹喧嘩で済んだはずが、こうなるとはね…
    でも、ほぼこうはならない。

    解説より「人は自分の信じたいように信じる」
    皆がそうなら、それでいいよと思う。二面性なんて誰にでもあるでしょ?表裏一体だよ。当たり前すぎ。
    大事な人ならきっとわかってくれる。
    裏切られたも幻想。自分が信じたいように信じてるだけ。読みが甘かったわ…で済ますしかない。

  • 近所でも評判の仲の良い3姉妹の長女が次女を殺害してしまう。納得できない3女は独自調査を始める。すると長女が残していた日記が見つかる。そこには想像していない事が書かれていた。解説にある『凍った花は美しいが少し触れただけで粉々に砕けてしまう。だからといって眺めているだけでは花は永遠に孤独だ。氷は溶かさればならない内側と外側の両方から少しずつ』人間の多面性と孤独について考えさせられた作品です。

  • 人は人を本当の意味で、どこまで理解できるのだろうか。

  • 才色兼備で誰からも憧れられる存在の長女・百合。
    その百合が次女を殺害してしまうという物語。
    三女の柚香がその理由を探る中、長女が書き綴っていた日記を見つけるのですが、その日記には衝撃的な文章が綴られていたのです。

    あー、なんか分かるなー。
    だって私も、長女なんだもんなー。でもだからって妹を殺したりはしないけどね。

    だけどやっぱり、百合の気持ちにどうしても感情移入してしまうんですよね。

    でも他の立場の方が読めば(例えば次女や三女の方)、また違った目線で読めて、違った感想になるんだろうな。きっと。

  • 家庭の悲劇から気持ちよく再生する物語だと思っていた。

    評判になるほど美しい三姉妹で、姉の百合は長女らしくいわば優等生である。才能を生かしてデザイン会社に勤めて、少し責任のある仕事を与えられるようになっている。

    そんな姉が次の姉の梨花をアイロンで殴って殺してしまった。

    末娘の柚香は訳がわからない。そこに百合の日記が出てくる。

    端正で、やさしく非の打ち所の無いような姉がなぜこんな日記を書いていたのか。

    日記には、生々しい本音が綴られていて、家族のことは憎悪もあらわで、おぞましい渾名で書き込んでいる。
    それが14年にわたって続いて、犯行後、日記帳は重ねて物置に積んであった。

    柚香は驚き、百合の本性に触れてしまうと、家族の顔までが歪んで見える。
    今までの生活は何だったのだろう。

    と言う事件の発端から残った家族のそれぞれが、日記を読むにしたがって、今までの時間(特に百合の)を振り返ることになる。

    どこの家庭でも何かと問題はある。それが小さいか大きいかは別として、何事も無い穏やかな家庭はすくないのではないだろうか。
    絆と言ったり家族愛と言って、それなりにバランスが取れているようでも、また世間体と言うものもあってそちら向きの顔もある。
    家庭の中に入ると、変わりないように見える日々は血のつながりだけで成り立っているような(と思い込んでいる)輪がある。本能的な親子の愛情がある。それが個人の心の奥にある真実を見えなくする。
    家族であっても姉妹であっても、わかると言うのは傲慢で、家族だからと言って支配できるものでもなければ、自由放埓な生活が許されるものでもない、こういう煩わしい(家族と言うもには決まってある)人間のルールや縛りが家族独特の血のつながりなのだろうが、甘えてはいけない。そういう縛りがあってこそ、理解や愛情が他人とは違う濃さがよりどころなのだ。善し悪しとは別にして個人にかえれば、かえって煩わしいものかもしれないとしても。

    中には百合のように、外の世界とうまく付き合っていけないものがある。百合のようなケースは、そう珍しいとは思わない。ただ自分と折りあうことができないことがゆり自身の問題で、はき違えたプライドになやんでいることが見えないだけに家族は安心している。しかし、子供のことが何も解らないほどに安心できるものだろうか。気がついたからこそ母親は日記を書くように言ったのだが。イジメに気づいて転校もさせている。しかし
    この辺りの書き方は甘いと思う。

    j妹を殺したいと言う衝動に自分をなくしてしまうほど悩みの根が深いものだあったなら、母は別として家族のだれも気がつかなかった、百合のほころびが見えなかったというのはおかしい。

    現実に起きている様々な事件は、誰も異変に気づかないほど暗くて、根が深いものだろう。さまざまなストレスにさらされている今、想像を超える闇を抱えた人が衝動的にこう言った事件を起こす。そういう現在の社会を通してみれば、百合のような重たい心を抱えながら暮らしている方がいるということは理解しやすい。理解はできても助けることは難しい。作者もむつかしい問題だったのだろう。

    この、実に暗いテーマは時代性を抜きにしたら、あまり面白いとは言えない。
    異常に醜悪な、それも家族に対して、救いようの無いほどの悪口暴言が吐き出されている日記を読んで、ただ、励まし。理解している振りをしている。情けない母親も書き足りない。母親が鬱なら、父親はどうなのかと考えてしまう。
    子供に対する愛情はどう現していいのか解らないことが多い。子供はかわいい。でも子供は子どもの世界を生きている。それをどれだけ理解できるだろうか。それでも気づかないはずはない
    子供は成長とともに、親との関係が変化していくことがわかってくる。親には親の生活があり、子供は新しい社会の中で生きていくことを学んで行く。
    それが家庭や心の中に溜めこんで、適応できない繭を作った中にこもってしまうと、弱い羽は伸びることが出来ない。
    解ることや理解するために、親は時には自分を捨てなくてはならないこともある。教育は自己の確立、自立という。
    子供がいつまでも親に手助けされるを辱(親不孝)とする。家族はどこまでも、できるならば血族という暖かい本能を分かちあっていくのがいい。
    智恵と言うのはいつ成熟するのだろう。試練を経て学ぶよりないのだろうか、どんな厳しい試練でも。
    暖かい家族がいながらでも、人間ってなんて厄介なものだろう。小説は極端であってもいい、稀な出来事で成り立っているが、やはり現実を離れてはいけない。
    百合の犯罪の根が見えると、家族は何か安堵した風になる。こんな深い傷を受けた家族はどう再生していくのだろう。そこが軽い。
    百合の無残な日常を知りながらなすすべもなく放置し、妹たちは気がつかない。そんな家族が、大き過ぎる罪を背負った百合を見たあと、残った家族は団結し理解しただけで、形ある日常、自分を取り返すことが出来るのだろうか。出来るわけがないと思うが、なにか明るいのも不思議だ。

    作風と言いながら、余りに醜悪な百合の内面と、それを許すような終焉。終結は少し理解するのが辛い。

    百合の内面とのギャップが興味深く、印象的な作品だと思えるかもしれないが、もう少し厚みと登場人物に対する愛情を期待したい作品だった。

  • 「最強の三姉妹」のつもりだったのに、長女・百合はなぜ次女・梨花を殺してしまったのか?
    三女・柚香はその謎を追い、百合を理解するために、百合の本当の姿を探し始める。
    「お姉さんてどんな人?」
    父親でもいい、母親でもかまわない。
    身近にいる家族の誰かについて聞かれたとき、どんなふうに答えるだろうか。
    父親としての顔しか知らない自分にきっと気づくに違いない。
    会社で働く社会人としての顔、親しい友人たちと過ごす中年のおじさんとしての顔、対外的に示す家長としての顔。
    どれも慣れ親しんでいる父親としての顔とは違っていることだろう。
    いつでも自分を守ってくれる存在。
    自慢の姉であり、ずっと一緒に暮らしてきた誰よりも身近にいた存在。
    それでも、本当の百合がどんな人間であったのか柚香にはわかっていなかった。
    人は誰でも見たいものしか見ない。
    柚香は自分が望んでいた姉・百合という虚像を見続けていただけだ。
    百合自身がそう仕向けてきたところもあるだろうけれど。
    完璧な人間なんているはずがない。
    どこかで力を抜き、どこかで息抜きをしなければ神経がまいってしまう。
    百合にとっては家庭はその場所ではなかった。
    妹たちに向かって自分をさらけ出すことが出来なかったから。
    家族の中で一番百合を理解していたのは母親だろう。
    異常に高いプライド。相対する繊細で脆い精神。コミュニケーション力がまったくない不器用さ。
    要領のよさで幼い頃からピンチを脱してきた柚香には、どんなときでも動じない百合の姿は姉としては理想的に見えただろう。
    その裏で百合がどんな思いを抱えていたのか、想像することもしない。
    柚香の自分中心な身勝手さが際立つ序盤。
    徐々に真実に近づきながらも目を背けようとする中盤。
    そして、百合の本当の姿にたどり着く終盤。
    柚香の心理的な変化は、そのままどこか怖ろしいものを垣間見ているような居心地の悪さを突きつけてくる。
    どんなに身近にいる人でも、本当にその人を理解することは難しい。
    これほどの犠牲を払う前にどうにかならなかったのか…とも思う。
    でも、梨花の犠牲があったからこそ見えてきたものがあるとも思う。
    人というものの恐ろしさと不気味さと、哀れさと悲しさがドッと襲ってくるような物語だった。
    人に脅え卑屈になりながらも、高いプライドゆえに日記の中でしか自分と向き合えなかった百合。
    彼女の残した日記には血を吐くような叫びが押し込められている。
    それはそのまま、誰にでもある意味通じるものがあるのかもしれない。

  • 人間はなんて不器用な存在なんだろう。自分の中にもある記憶が揺さぶられるような不思議な痛みを感じながらも憑かれたように一気に読んでしまった。読んでいてつらくなりますが間違いなく出会えてよかったと感じました。怖い物語であると同時に慈しみに溢れているという解説もよかった。どれほど話し合っても想像しても自分は自分でしかいられない。だから話し合いたいしわかりたいし努力したい。

  • 思い出の品、楽しかった記憶、考えていることは違うのに、同じ感情を共有していると思っていた妹は愕然とする。

    「あの姉妹が、あんな事件を起こすなんて信じられない」
    扉を閉めてしまえば、そこの家がどんな家なのかなんて他人になんて分かるわけないのに。
    妹でさえ、事件が起きるまで姉は、私たちを大事にしている、私たちは『三人揃えば、最強の三姉妹』だと思っていたのだから。

    姉の日記を読む妹と同じように、読む手が止まらない。姉のもう一つの顔か!?と思ったが、そうじゃない。
    人の感情は常にひとつじゃなくてグラデーションなんだよなと気づく。嫉妬していても、羨ましかったり、ムカついていても、大切に思っていたり。

    姉の孤独。
    友人関係、職場、家族、男性との関係がうまくまわらない、葛藤の日々。
    彼女は前を向こうとしていたのに。
    歯車が狂う。

    妹は、姉の事を完璧な女性だと思っていた。
    妹の成長物語でもある。

    235ページ-3~12
    相手を知ることの意味。

  • 色々突っ込みどころはあれど、終盤まではページを捲る手が止まらないほど面白かった。
    ただ、最後が残念だった。

    小説の帯に書いてあった『感動』というよりは、末っ子の妹の残酷さに戦慄した。

    本気でそう思って姉に手紙を書いたとしたら、恐ろしいほどの憎悪だ。
    まさに、長女が内心抱いていた気持ちとドンピシャで。
    純粋な悪なのだと感じた。

    それとも、妹までもおかしくなったのか?

    それなら秀逸ミステリーだと思う。

    そうでなく、家族の再生を狙っているとしたら、これほどの嫌味はないな、ということに作者は気づかずに書いていることになる。

    だから、やはり、性悪だったのは末っ子だったのだ。
    というところに着地した。

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著者プロフィール

一九六四年大分県生まれ。横浜市立大学文理学部卒業。二〇〇八年、「千の花になって」(文庫化にあたり『踏んでもいい女』に改題)で第九回小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。姉妹の確執を描いた第二作『凍花』がベストセラーに。他の著作に『幻霙』『日本一の女』『40歳の言いわけ』がある。

「2017年 『五十坂家の百年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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