ある結婚の肖像: ヴィタ・サックヴィル=ウェストの告白 (20世紀メモリアル)
- 平凡社 (1992年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582373233
作品紹介・あらすじ
妻はレズビアン、夫はホモセクシュアル。英国貴族社会を背景にくり広げられる華やかなロマンスと愛の逃避行。V.ウルフ『オーランドー』のモデルの情熱の生涯。
感想・レビュー・書評
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ヴィダはあくまで20世紀前半に生きた女性でしかなかった。
ヴァイオレットは21世紀に生きるべき女性だった。
だから二人はうまくいかなかったんだろう。
ヴィダ・サックヴィル・ウェストは生前多くの作品を発表したが、最も優れた作品は彼女の結婚生活と庭だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ヴィタ・サックヴィル=ウェストというと、今はおそらく何よりもヴァージニア・ウルフの同性の愛人、または「『オーランドー』のモデル」として著名なのだろう。
だが本書においては、かの高名な作家は後半ちらりと姿を見せるほんの脇役にすぎない。恋愛騒動についてはヴァイオレット・トレフューシス(「あの」コーンウォール公爵夫人の大伯母)とのそれが大半を占めるし、何よりこの特異な、だが紛れもなく幸福だった結婚生活のもう一人の当事者たる、夫ハロルド・ニコルソンの存在がある。
そんな次第で本書は、知る人ぞ知る女性の、知られざる実像を描いたものだと言えるだろう。
とかく誤解を受けやすいその「肖像」を示すのに、死後発見された本人の手記+実子による補筆という構成は、考えうる最上の形であろう。出版には非難も多々あったというが、人間性に関する得がたい資料となっている。
訳者あとがきでも注意が喚起されているが、本書にあるのは中産階級的倫理観がはびこる現代とは、まったく別の世界である(読んでいて、わが国の旧華族たちの回想録を思い出した)。
それらが描き出すありあまる富も、厳然たる階級意識が支配する秩序立った社会も、今やうたかたの夢となった。なれば本書は現代のおとぎばなしとして読まれるべきで、その「浮世離れ」ぶりをただ純粋に愉しむものだ。
己の尺度で眦吊り上げて騒ぎたてる無粋な輩は、そもこういった書物に手を伸ばすべきではないと思うのだが、どうだろうか。
2011/9/2〜9/4読了