幻影の明治: 名もなき人びとの肖像 (870) (平凡社ライブラリー わ 2-2)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582768701

感想・レビュー・書評

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  • <速報>日本近代史家の渡辺京二さん死去、92歳|熊本日日新聞社
    https://kumanichi.com/articles/897949

    渡辺京二「幻影の明治」書評 風太郎の「明治もの」はなぜ面白いか|好書好日
    https://book.asahi.com/article/11615308

    幻影の明治 - 平凡社
    https://www.heibonsha.co.jp/book/b372202.html

  • 逝きし世の面影、江戸という幻景と同じ流れかと思ったがやや違った。

    批判的な司馬遼太郎論、反乱を起こした士族の本音など、正史とされる近代史に埋もれてしまった"もう一方の歴史"を紡ぎ出していくのは流石だ。

  • 詩の定義とは何だろう。
    手元の辞書には、「自然や人事について起こる感動などを圧縮した形で表現した文学。……」新選国語辞典、とある。
    そして、よく悩んだのが長恨歌だ。
    これは、お話ではないの? と、はじめは悩んだ。詩って、何だろう。まあ、定義にこだわる必要はないんだと思い直しもしたけれど。
    それでも「詩的な」という表現は、なにやら、美しいものがあることを想起させられる。
    的確で、簡潔でいて、美しく感じる文章、それを「詩」だと思う。

    本書の中の、「鑑三に試問されて」を読んでいて、まさに、これは詩ではなかろうか、という思いにとらわれた。

    一杯の粥によって始まる朝の穏やかな浄福に浸されるとき、人は、俗世における野心や利害からつかの間超越しているのだ。欲念や憎悪や孤独からふっと解き放たれているのだ。街角でさして来る斜光を浴びて一瞬世界が変貌したり、空を圧する密雲の切れ目に一筋塗られたコバルトを見出したりするとき、現世を超越していま在るという思いは偽りではない。義しいか義しくないかも最早問題ではない。……以下略


    このように表現している渡辺京二の内部には、詩の世界が広がっていなければ、評論を詩にすることはできない。端正な文体は、時に、評論や叙述で在ることを忘れさせ、詩に触れさせる。
    丹念な職人の手仕事が、鍛錬されたスポーツマンの競技姿が芸術であるのと同様に、端正な文体もまた、詩という芸術になるのだろう。
    山田風太郎の作品のあらすじを述べる中で、作中人物が強姦を働くような描写でも、下品にならないのはさすがだと思った。ただし、氏は女性が好きなんだろうなあ、というのは、全体を通してよく伝わってきたけれども。

    さて、詩かどうかは印象の問題と芸術性の問題であって、内容は、明治についての評論集である。
    浅学なわたしには、明治という時代が明確でない。通常の学校教育の範囲すら危うい。先年放送されていた「西郷どん」で時代の雰囲気を感じる程度でしかなく、その後の日本の近代化の軌跡となれば、さらに不明瞭だ。

    そんなわけで、内容をどうこういえるはずもなく、そうか、とうなずくよりほかないわたしだから、内容とは別に面白いと感じたことを書きたい。
    歴史学者の磯田氏は、司馬遼太郎を歴史小説の書き手として高く評価し、そうした書き手が増えていくことを願っている文章を以前読んだが、渡辺氏は、「第三章 旅順の城は落ちずとも」で、司馬遼太郎の歴史認識に大きく疑問を呈している。これまた、司馬遼太郎の多くも未読のわたしには「歴史認識」などという大それたものはないのだから、二人の立場を面白く思うのみだけれども。

    歴史というのは、勝者が自由に改ざんできる歴史書と、どの立場か難しいジャーナリズムと、エンターテーメント性の高い小説やドラマ(映画)、今ではマンガなどで、人々の中に作り上げられるイメージの総体が大半だろうと思う。
    そうした中で、氏が見つめたいのは、その合間に行き交う人々、夜空であれば、光る星々の間にある黒い隈に隠れた、地球まで光の届かない無数の星々なのだろう。
    見えていないけれど、存在する星々は、自ら光り輝かなくとも、詩のような言葉を添えられて、つかの間、わたしたちに姿を垣間見せてくれる。

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著者プロフィール

1930年、京都市生まれ。
日本近代史家。2022年12月25日逝去。
主な著書『北一輝』(毎日出版文化賞、朝日新聞社)、『評伝宮崎滔天』(書肆心水)、『神風連とその時代』『なぜいま人類史か』『日本近世の起源』(以上、洋泉社)、『逝きし世の面影』(和辻哲郎文化賞、平凡社)、『新編・荒野に立つ虹』『近代をどう超えるか』『もうひとつのこの世―石牟礼道子の宇宙』『預言の哀しみ―石牟礼道子の宇宙Ⅱ』『死民と日常―私の水俣病闘争』『万象の訪れ―わが思索』『幻のえにし―渡辺京二発言集』『肩書のない人生―渡辺京二発言集2』『〈新装版〉黒船前夜―ロシア・アイヌ・日本の三国志』(大佛次郎賞) 『渡辺京二×武田修志・博幸往復書簡集1998~2022』(以上、弦書房)、『維新の夢』『民衆という幻像』(以上、ちくま学芸文庫)、『細部にやどる夢―私と西洋文学』(石風社)、『幻影の明治―名もなき人びとの肖像』(平凡社)、『バテレンの世紀』(読売文学賞、新潮社)、『原発とジャングル』(晶文社)、『夢ひらく彼方へ ファンタジーの周辺』上・下(亜紀書房)など。

「2024年 『小さきものの近代 〔第2巻〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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