ポータブル文学小史

  • 平凡社
3.75
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本棚登録 : 93
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582834451

作品紹介・あらすじ

スターンの小説に由来する秘密結社シャンディ。作品は軽量でトランクに収まり、高度な狂気を持ち合わせ、独身者の機械として機能する-特異な三条件をクリアし、謎の結社に集ったモダニストたちの奇妙な生態。

感想・レビュー・書評

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  • カタルーニャ地方(スペイン語もスペイン本国も嫌い)出身とのことで、なんかギスギスというかパンチ効いたというか、要するに「たまげたい気持ち」を求めて手にとってみたが、ふんわり南米系でした。ポータブル(アタッシュケース的な)な文学史について書かれてるような、そうでもないような。あとがきにも記載されていますが、翻訳向きの作品ではない、とのことで。読みやすくはない、共感するのが難しい本だそうです。でもなんかなー、「木のぼり男爵」とかよりは好きかなー。

  • 11/28 読了。
    「ポータブル文学」という新たなジャンルを掲げて立ち上がった秘密結社シャンディの波乱万丈活劇。に見せかけたシュルレアリスム周辺の面白エピソード集。みたいな小説?
    ジョルジュ・ペレックの「美術愛好家の陳列室」を思い出した。

  • デュシャン、ベンヤミン、オキーフ、セリーヌ、ニーチェら芸術家から架空の人物まで大勢が登場し、あちこち移動しての大騒ぎ。虚実が入り交じった、それこそ「軽い」語り口で一気に読ませてしまう。『バートルビーと仲間たち』と同じ系譜に連なる作品だが、ここでも「ポータブル」というメンタリティに共感できるかどうかで評価は分かれるかも。ところで、私は『バートルビーと仲間たち』の方が好きです。

  • 2000年に出版された『バートルビーと仲間たち』で、わが国でも知られるようになったエンリーケ・ビラ=マタス。彼がヨーロッパで人気を得るきっかけを作ったのが、『ポータブル文学小史』である。

    1924年、マルセル・デュシャンを中心にヴァルター・ベンヤミンやヴァレリー・ラルボー、スコット・フィッツジェラルド、ジョージア・オキーフといった錚々たる顔ぶれが、ローレンス・スターンの小説『トリストラム・シャンディ』に由来する秘密結社「シャンディ」を発足させる。その誕生から解散までの経緯を語るというのが、この奇妙な小説の概要である。

    結社への入会条件は三つ。その一つは高度な狂気の持ち主であること、二つ目は作品が軽くてトランクに楽に収まること、最後に独身者の機械として機能すること、この三つである。ミニチュア化した自分の全作品のレプリカを詰めた『トランクの中の箱』という作品がデュシャンにある。彼は「人生をあまり重いものにしてはいけない。しなければならない仕事をたくさん抱え込んだり、妻や子供、別荘、車などといったお荷物で人生を重いものにしてはいけない」と考えていた。

    さらに、典型的なシャンディとなるのに備えているのが望ましい条件として、革命の精神、極端なセクシュアリティ、壮大な意図の欠如、疲れを知らない遊牧生活、分身のイメージとの緊張に満ちた共存、黒人の世界に対する親近感、傲慢な態度をとる技術の錬磨などがあるとされている。

    ストーリーらしいストーリーなどはない。ポールタティフ(ポータブル)から連想されたアフリカのニジェール川河口の町ポルタクティフで開かれた最初の会合に続いて、ウィーン、プラハ、トリエステ、セビーリャと舞台が変わるたびにトリスタン・ツァラやサルバドール・ダリ、アレイスター・クロウリーといったいわくつきの人物が代わる代わる登場して巻き起こす事件やシャンディたちの洒落のめした奇行、常軌を逸した乱痴気騒ぎといったエピソードですべてが埋めつくされている。

    プラハではカフカのオドラデクやらゴーレムが登場し、ウィーンではスコット・フィッツジェラルドが「僕は本当に招待されたんだ」と、聞いたことのある科白を呟く。分かる人には分かる作家たちのエピソードがいかにもそれらしく用意されているので、一見文学好きの読者に向けた上質の知的エンターテインメントに見える。ところが、全くの作り話に見えるこの作品、デュシャン本人から結社の話を聞いた作家が、資料蒐集と聞き取りを通じて、それぞれの逸話をパッチワーク・キルトよろしく纏め上げたもので、表面はいかにも各人各様の意匠に溢れていても、その裏側は綿密な考証に裏打ちされている。「文学小史」の題名に嘘はないのだ。

    2000年に発表した『バートルビーと仲間たち』では、有名無名を問わず、文学的意識が強すぎるあまり書けなくなった作家や、私生活を隠し通す作家、あるいは全く作品を残さなかった作家といったビラ=マタスいわく「否定の文学」に属する作家を集中的に採りあげている。二つの作品に共通するのは、一見すると奇矯と感じられるような作家の生き方の中に、既存の文学的世界に安住している作家にはない、自己の創作に対する真摯な態度を見ていることだろう。

    もう一つ、作品の中に多数の作家たちを登場させることだ。オリジナルなものなどなく、すべてはすでに書かれてしまっているというオブセッションの現れのようにも見えるが、ボルヘスがそうであったようにこの作家もまた典型的なビブリオマニアなのだろう。博覧強記にも思える、忘れ去られた作家や知られざる作家への言及がそのことを証明している。

    いまひとつは、おそらくビラ=マタス本人の性向でもある作品の蔭に自分を隠してしまいたいという欲望が仄見えていることである。ヴァルザーやフェルナンド・ペソアへの度重なる言及は、自己の文学のあるべき姿をそこに鈎かけているからだろう。それかあらぬか、作品の掉尾を飾るのは次のような文章である。

    「歴史はひとつの世界であり、だからこそ人は本の中に入っていけるのだ。最後のシャンディは、自分の本は散歩できるもうひとつの空間だと考えている。そんな彼が人から見つめられたときにとる衝動的な行為とは、うつむき、片隅を見つめ、顔を伏せてメモ帳をのぞき込む、あるいはもっといいのは自分の本でポータブルな壁を作り、その後ろに隠れることなのだ。」

    作品さえあれば、作家などは消滅してもいい。もし、存在が許されるとしたら、できるだけ軽量でかさばらず、持ち運びがきくような存在でありたい。人間として生きる重さや煩わしさから遠く離れて、ひたすら文学の迷路をさまよい歩く、それが望み。そんな人にうってつけの作家がエンリーケ・ビラ=マタスだ。『ポータブル文学小史』がお気に召したら、ぜひ『バートルビーと仲間たち』も、読んでみられることをお薦めする。

  • 「バートルビーと仲間たち」のエンリケ・ビラ=マタス。

  •  いわゆる文学史の掌編のようなものを想像して手に取ると、まるでお手上げ。けれどもほんの少し、この本の高度な狂気と波長を合わせることができさえすれば、無限の魅力が広がる。

     登場するのは、マルセル・デュシャン、ジャック・リゴー、パウル・クレー、ジョージア・オキーフら二十世紀前半の前衛主義運動のスターたちだ。陽気で気紛れで冗談好きな彼らは、シャンディという秘密結社につどう。独身の身軽さをつらぬき、無責任な子供のように振る舞い、既成の重苦しい芸術を破壊し、たとえば軽くてトランクに楽に収まるような、新たな価値観の創造を目指した。そんな彼らの生きざまを著者は「ポータブル」と呼ぶ。

     突拍子のない逸話ぞろいでフィクションかと思いきや、引用文の出典が明記されている。野心家たちのエネルギーの結束から拡散までは、文字どおり、「文学小史」なのだ。

    (週刊朝日 2011/3/11 西條博子)

  • 不思議なタイトルで手に取りました。黄みがかったピンクの装丁がきれいで、厚みもなくてすっきりした本。

    ポータブルを愛する秘密結社、シャンディのお話…とはいうものの、「ポータブルって?しかもシャンディって?」と、わからん設定だらけ!ニーチェにヴァレーズ、デュシャン…もう、登場人物に詳しくないし!と、ぽかんとしながら読み進めました。

    それでも、慣れてくると、20世紀前半を生きた作家・アーティストがポータブルというつながりを持ちながら、ヨーロッパのあちこちを飛び回る様子がじんわりと面白くなってきます。同時代に脚光を浴びた著名人のオールスターキャストで物語が動く様子は、「ウルトラ兄弟総出演」「歴代仮面ライダー総出演」の映画のようでもあり、ファンタジックなところはクラフト・エヴィング商會の作品のようでもあるし。浅学なので、書かれたエピソードのどこまでが史実かフィクションかわからないのが悲しいところですが、「どれも当たらずとも遠からずだろう」と割り切って楽しみました。個人的には、「オドラデクの迷路」と「バンホフ・ズー」の章が好きかな。

    もうただ、著者の博覧強記(というか文学オタク)っぷりが発揮されていて、じんわり濃ゆいお味の一冊。訳者の木村栄一さんが解説で正直に「この作品はあまり一般的といえず、…」とカミングアウトしてらっしゃるとおり、変化球的な作品ではあるんですが、文学のお遊びがしっかり味わえる本だと思います。で、この☆の数。

  • Historia abreviada de la literatura portátil (Anagrama, 1985)

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著者プロフィール

1948年バルセロナ生まれ。1985年『ポータブル文学小史』がヨーロッパ諸国で翻訳され、2000年『バートルビーと仲間たち』、次いで2003年『パリに終わりはこない』で世界的に評価される。

「2017年 『パリに終わりはこない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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