- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582857009
感想・レビュー・書評
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熊本大学での講演が中心で、そのため非常に読みやすい。もし講演を実際に聴いていたら、一生懸命メモをとっただろう。実は、まるで学生のように、本に線を引いて、簡単なレジメを作ってしまった。なんというか「お勉強心」が刺激される。
「近代」の両義性についての著者の考えが、かみ砕いて語られている。「近代化とは何か」というテーマは、決して議論されつくしたわけではないとあらためて感じた。自分がいかに無意識に、通説的な歴史観の枠組み内でものを考えているかということを痛感する。
アカデミズムとは距離を置いてきた著者ならではの、射程の長い考察で、もっと突っ込んだ話を聞きたくなる。もう八十歳をこえられたそうだが、「進行中の仕事が一つ、これから書きたいと思う大きなテーマが二つ」あるとのこと。うーん、すごい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
数回にかけて行われた講演録がもとになっている。いずれの章も「近代」をテーマにしているが、自由・平等・産業など、近代を肯定的に論じるだけでなく、中世・近世からの連続性への指摘や、共同体・暴力など、近代が生みだした負の側面など、近代という時代のパラドックスがバランスよく語られている様は読んでいてとても面白かった。筆者が大佛次郎賞を受賞したタイミングだったため、大佛次郎作品についても数多く言及されているが、こちらもその作品を読みたいと思うほど面白かった。
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著者の五つの講演をもとにした文章を収録しています。
日本における近代的な国民国家の成立は、中国の女性革命家である秋瑾を讃嘆させました。しかしこのことは、近代以前の民衆がそのなかに根を下ろしていたはずの、イリイチ的にいえばコンヴィヴィアルな活動が、国民国家という枠組みのもとで再編成されたということを意味しています。著者は、近代につきまとうこのような二面性の双方を見わたして、現代を生きるわれわれが直面している問題の輪郭をえがき出そうと試みています。
また本書には、著者のフランス革命にかんする考察と、大佛次郎にかんする考察が含まれています。著者が大佛次郎賞を受賞したことを契機として、『ドレフュス事件』や『ブゥランジェ将軍の悲劇』などの大佛の作品を読みなおし、フランスの第三共和政についての関心を呼び起こされたことが、これらの講演につながっています。そこで著者は、フランス革命の暴力性に目を向け、近代の病巣の根深さを指摘しています。
いずれも講演で語られた内容がもとになっているので非常に読みやすく、著者の問題意識の所在が明確に示されているように感じました。 -
近代、特に西洋発の哲学や倫理を相対化するのにはちょうど良い。当たり前と考えていたものを一回突き放してみると、世界は広がる。
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平凡社新書
渡辺京二 「近代の呪い」
近代を批判的に捉えた講演集。とても面白い見方だった。学校教育では こういう歴史の見方を伝えれば、歴史好きが増えるのに。
近代化=西洋化というシンプルな定義づけにはじまり、近代化により民衆社会の自主性が解体され、知識人が民衆を国民に改造したという論調。明治維新を見ると、その通りだと思う
近代化により、国民国家単位で争うシステム(インターステイトメントシステム)と 世界の人工化(地球は人間の便益のために存在)の呪いが 国民にかけられているとのこと
近代の呪いを解くための、著者の主張は、国家との関係より 他者との生活上の関係を重要とし、経済成長がなければ この世は闇になるという感覚から自由になる道を模索することというもの
民衆社会の自主性
自分たちの生活領域こそ実体であり、下積みの民衆の理念〜自分たちで成り立たせる世界
知識人は、民衆を国民とするために改造する。過去を一切否定して、新しい人間にもとづく新しい社会を作ろうとする知識人の思い上がり
近代 がもたらした衣食住の豊かさが、インターステイトメントシステムと世界の人工化という呪いに転化した
世界経済がグローバル化するにつれて、自分が属する国民国家の地位が自分の生活に直結する〜グローバリズムは 国民国家を強化する
世界の人工化の根底には、地球は人間の便益のために存在するという感覚がある〜世界の人工化とは世界の無意味化でもある
経済成長がなければこの世は闇になるという感覚から自由になる道を模索する〜市場によって生活が振り回されない経済システムを構築する
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『逝きし世の面影』で外国人の手記を通して幕末から明治の日本を鮮やかに抽出した渡辺だが、私は信用ならぬ感触を懐(いだ)いていた。その後、石牟礼道子に心酔した渡辺は身の回りの世話までするようになった事実を知った。対談にも目を通した。『苦海浄土 わが水俣病』(講談社、1969年)は紛(まが)うことなき傑作だが、実はノンフィクションを装った文学作品である。第1回大宅壮一ノンフィクション賞を辞退したのは石牟礼の良心が疼(うず)いたためか。水俣の運動はやがて市民色を強めていった。彼女は『週刊金曜日』の創刊時にも参画している。
https://sessendo.blogspot.com/2020/11/blog-post_38.html -
いちばんおもしろかったのは、第三話「フランス革命再考」。教科書の歴史でしか知らなかったフランス革命のイメージが変わった。
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渡辺京二さんが、熊本大学で講演されたものが新書となった作品である。
第1話 近代と国民国家――自立的民衆世界が消えた
第2話 西洋化としての近代――岡倉天心は正しかったか
第3話――フランス革命再考――近代の幕はあがったのか
第4話――近代のふたつの呪い――近代とは何だったのか
つけたり
大佛次郎のふたつの魂
私の大佛次郎/『ドレフェス事件』
『ブゥラウンジェ将軍の悲劇』/『パナマ事件』から
『パリ燃ゆ』へ
パリ・コミューン――民衆の共同世界という夢/保守
の情念の目覚め
進歩と伝統が共存する魂/大佛次郎作品の今日的意義
でした。
近代・近代化・フランス革命等々、今まで読んできたステレオタイプ的な情報蓄積がいかにスーパフィッシャルなものであったのか痛感させらた。
私の尊敬する佐伯啓思の言う「パースペクティブ」、自分自身の「視角と展望」をますます磨くためにも、先人の残してくれた「情報」をもっともっと深読みしなくてはと思いました。
大佛次郎さんが歳を重ねることにより考え方に変化が生じたと渡辺さんは指摘していたが、ひょいとウィトゲンシュタインの哲学のことを思い出しました(笑)。 -
非常におもしろかった。高校時代本書の内容に沿った授業を
受けていることが出来たらきっともっと歴史好きになったと
思う。