ヨーロッパ精神の危機: 1680-1715 (叢書・ウニベルシタス 84)
- 法政大学出版局 (1973年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (749ページ)
- / ISBN・EAN: 9784588000843
作品紹介・あらすじ
第9回クローデル賞受賞 争闘と不安にみちた18世紀思想の形成過程を俯瞰し,思想・芸術はもとより民衆生活の局面を展望して転換期における精神のドラマを描く。
感想・レビュー・書評
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17世紀末から1715年ごろにかけての西欧圏の思想動向を「ヨーロッパ精神の危機」と規定し、その中で生じた様々な思想を俯瞰する研究。全体は四部構成である。第一部「心理の激変」では、ヨーロッパ外部についての情報の爆発的流入、古代近代論争、思想の中心地の移動、ナントの勅令の廃止といった大きな出来事が扱われ、最後に、伝統的信仰に対する攻撃を繰り広げたピエール・ベールの活動が論じられる。第二部「伝統的な信仰を倒せ」では、こうしたベールの活動とも関連しつつ、聖書記述に対する態度の変化が詳しく扱われる。とりわけ、聖書を文献批判の対象として扱うリシャール・シモン、こうした動向に対して伝統的な信仰を擁護したボシュエ、そのボシュエと交渉してプロテスタントとカトリックの統合を図ったライプニッツの活動が取り上げられる。第三部「再建の試み」では、こうした潮流の中で生じてきた価値観の動揺が、経験論、理神論、自然法学、宗教から独立した道徳、幸福観の変化、科学信仰といった新たな価値観に取って代わられていく動向が紹介される。そうした新たな価値観が登場するなかで、「オネットム」という人間の理想像から「ブルジョワ」、「フィロゾーフ」といった理想像が登場してくる様子も描かれている。第四部「想像的・感性的価値」では、それまでの科学や哲学の動向を中心とした記述にかわって、文芸領域における動向が論じられている。その中で、敬虔主義や静寂主義など、新たな信仰のあり方の登場も扱われている。年数的にはほぼ30年ぐらいの期間を扱っているが、その中で思想動向全体を扱っており、テーマは多岐にわたっている。それだけに、今日でも示唆に富んでいる研究であると思われる。
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