文明化の過程 上 新装版 (叢書・ウニベルシタス 75)

  • 法政大学出版局
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784588099052

作品紹介・あらすじ

第1回アドルノ賞受賞 食事作法や礼儀・振舞の変遷を綿密にあとづけ,自己抑制の深化・拡大を社会構造との連関のうちに展望。文明化の長大な波動をとらえる。

感想・レビュー・書評

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  • 彼の1つ下の世代にあたる歴史家たちが創始したアナール学派の著作のなかでもしばしば古典として言及されることになる歴史学/社会学の書。礼節・礼儀・洗練・文明化といった時代ごとの概念で示された規範、それを作り上げ、再生産し、再解釈し、より複雑化させていった人びとの「ものの見方」を分析する作品。

    こういう本を通勤電車内で読むのはおもしろい。なんとなれば、電車内というのは、常に更新され続ける「マナー」なるものをその空間を同じくする人びとが遵守したり逸脱したりする、現代における「社交」的な要素の凝縮された場のひとつと考えうるから。

    電車内での化粧はそれを眺める側にとって何を意味するのか? ながら歩きする老若男女の背中はそれを眺めるものに何を想起させるのか? しばしば内輪の世間話に興じてひとの昇降を妨げて省みない人びとを見て何を思うのか?

    それは「精神的欠陥」を思い起こさせる「病的」多動性かもしれないし、ひとびとが覆い隠しているものをあえて暴いてしまう「浅はかさ」とか、周囲のひとの動きに目を配ることのできない「人間的欠陥」、「都会人」が身につけていてしかるべき「自明のルール」を実践できないしそのことに気づくことさえできない「田舎者」への嫌悪かもしれない。・・・読みながらそうしたことを取り留めもなく考えてしまった。

  • 一応文化研究者でありながら,なかなか読む機会がなかった本書。翻訳が出たのがけっこう以前であるせいで,古書では入手しにくくなり,版を重ねると定価が高くなり,上下巻あわせるとけっこうな値段になるし,読書にも時間がかかるしということで,敬遠していた。しかし,本書の議論を土台とした論文の翻訳をしていて,なんとか上巻だけでも読んでおこうと思い,Amazonで中古品を購入した。すると,毎ページのように細かい字で書き込みがしてあり,それを消すのだけでけっこう苦労する。
    ちなみに,ドイツ語の原著は吐瀉の大学教授資格論文であり,1939年に出版されているが,翻訳されたのは1969年に出版された第二版。第二版は60ページにもわたる序論が追加されている。その序論がなかなか興味深い。私が本書に関心を持っていたのは,第一部の「文明」と「文化」概念の考察である。西川長夫『国境の越え方』でも考察されているが,この2つの概念はヨーロッパの歴史のなかでも比較的新しく,しかも文明がフランス,文化がドイツの国民国家形成と深く関連しているというもの。そんな,内容は歴史的なものなのだが,この序論ではあくまでもこの研究は社会学研究だと著者は規定している。しかも,タルコット・パーソンズの昨日主義的な社会学研究をしつこいくらいに批判しているのだ。よほど当時の社会学ではパーソンズの影響が大きかったということだろうか。そして,パーソンズ流の静態的な社会観に対して,本書は動態的な社会のあり方を歴史的に解明するという研究の位置づけになる。これがなかなか新鮮。そういえば,一時期は社会学の著作に刺激をいっぱい受けていた時期があったが,最近は社会学の本は読んでいないなあ。
    さて,ちなみに原著は上下巻というよりは1巻,2巻と大分内容も異なっているようだ。ともかく,上巻の目次を示しておこう。

    序論
    序言
    第一部 「文明化」と「文化」という概念の社会発生について
     第一章 ドイツにおける「文化」と「文明化」の対立の社会発生について
     第二章 フランスにおける「文明化」の概念の社会発生について
    第二部 人間の風俗の独特の変化としての「文明化」について
     第一章 「礼儀」という概念の歴史について
     第二章 中世の社交形式について
     第三章 ルネッサンスにおける人間の振舞いの変化の問題
     第四章 食事における振舞いについて
     第五章 生理的欲求に対する考え方の変遷
     第六章 洟をかむことについて
     第七章 つばを吐くことについて
     第八章 寝室における作法について
     第九章 男女関係についての考え方の変遷
     第十章 攻撃欲の変遷について
     第十一章 騎士の生活

    結局,第一部だけで知りたいことは知れた。先ほど書いたが,とある論文を翻訳するなかで,フランスの階級社会と政治制度のあり方とドイツのそれとが違ったせいで,同じ国民国家としてであっても性格の違う国づくりがなされ,場合によっては両国が対立することが理解できた。
    第二部は各章のタイトルをみるだけで大体の内容は想像できると思います。要は,わたしたちも当たり前として身につけている社会生活におけるマナーがいつ頃どこで,どのような価値観の変化で生まれたのかということが丁寧に記述されています。ちなみに,文明化というのは文明と同義で,civilisationのことですが,ここで礼儀と訳されているのはフランス語でciviliteのことで,17世紀あたりに「礼節coutoisie」に置き換わったといいます。この語は宮廷と関係しますね。ともかく,こうしたマナーというものの出発点は宮廷や貴族などの上流階級にあるということです。そして,知識人がそれを大衆化する役割を果たすわけですが,その一人がエラスムスであり,私は名前しか知らなかったこの人物の1530年の著作『少年礼儀作法論』がかなり詳しく紹介されます。
    はなをかむ,という時のはなを漢字で「洟」と書くことも初めて知ったし,第二部は読み物としても楽しめる内容でした。ただ,けっこう読むのに時間がかかった。

  • 卒論の為に読んでいます。中近世欧州(とりわけドイツ)の上流階層の生活、作法、社交関係を具体的に知ることが出来ます。変なマナーとかあって面白いです。

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著者プロフィール

(Norbert Elias)
1897年、ブレスラウ生まれのユダヤ系ドイツ人社会学者。地元のギムナジウムを経てブレスラウ大学に入学、医学や哲学を学ぶ。第一次世界大戦では通信兵として従軍したのち、ハイデルベルク大学でリッケルト、ヤスパースらに哲学を学び、アルフレート・ウェーバー、カール・マンハイムの下で社会学の研究に従事する。その後、フランクフルト大学に移り、マンハイムの助手として働くが、ナチスに追われフランスやイギリスに亡命。1954年、57歳でレスター大学社会学部の専任教員に任命される。レスター大学を退職した後にガーナ大学社会学部教授として招聘される。レスター大学では数多くの有能な若手社会学者を指導し、社会学、心理学、歴史学などの該博な知識に裏打ちされた独自の社会理論を構築する。日本語訳に『文明化の過程』『宮廷社会』『死にゆく者の孤独』『参加と距離化』『モーツァルト』『社会学とは何か』『スポーツと文明化』(共著)『時間について』『ドイツ人論』『諸個人の社会』『定着者と部外者』(共著)『シンボルの理論』(以上、小局刊)があり、その他にも英語とドイツ語で書かれた数多くの論文がある。1977年、第1回アドルノ賞を受賞。ドイツ、フランス、オランダの大学からも名誉博士号や勲章が授与されている。1990年、オランダで93年の生涯を終えた。

「2017年 『エリアス回想録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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