おじいさんのランプ (ポプラポケット文庫 352-2)

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  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591088616

感想・レビュー・書評

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  • まだ読んでない話が入っていたので、借りてきた。「ごんごろ鐘」と「川」「嘘」を初めて読む。

    村の「ごんごろ鐘」を、とうとうお国のために献納することになった。これは、もうじき国民六年になろうという「ぼく」の日記のようなかたちで書かれている。「ごんごろ鐘」の思い出は数限りない。尼寺の鐘楼の下は、村の子どもたまり場で、毎日そこで遊び、夕方には庵主さんがついてもいいとおっしゃるのを待って、撞木をうばいあって鐘をついた。

    「ごんごろ鐘」がいよいよ出征する日、年寄りも壮年も子どもも、それぞれに別れを惜しみ、ぼくらは見送るつもりで鐘についていった。その翌日、「ごんごろ鐘」の出征の日を一日まちがえたおじいさんがやってきた。お別れができなかったことをおじいさんは残念がった。ぼくたちは、全員一致して、おじいさんを町までつれていって、「ごんごろ鐘」に会わせてあげることにした。おじいさんと町まで行き、そしてまたおじいさんを家まで送るのは大変だったけれど、誰も文句を言わなかった。

    ラジオのニュースで、きょうもわが荒鷲が敵の飛行場を猛爆して多大の戦果をおさめたと言っている。ぼくの眼には、爆撃機の腹からばらばらと落ちてゆく黒い爆弾のすがたがうつる。
    ▼「ごんごろ鐘もあの爆弾になるんだねえ。あの古ぼけた鐘が、むくりむくりとした、ぴかぴかひかった、新しい爆弾になるんだね。」
    とぼくがいうと、休暇で帰ってきている兄さんが、
    「うん、そうだ。なんでもそうだよ。古いものはむくりむくりと新しいものに生まれかわって、はじめて活動するのだ。」
    といった。(p.39)

    「ごんごろ鐘」は、最後に海蔵さんが日露戦争に出征していく場面を描く「牛をつないだ椿の木」にも似て、戦争というものが、するりと書かれている。

    「川」と「嘘」は久助君や兵太郎君の話。思春期のちょっと手前、10~11歳頃の子どもの心、友達とのことで、こうすれば、ああすればと思い、自分のしたことを省みて、それが言えずにくるしみ、いっそ誰かに話してしまえば楽になるのではと思う、そんなゆれる心が書かれている。

    「手ぶくろを買いに」「うた時計」「おじいさんのランプ」「牛をつないだ椿の木」「貧乏な少年の話」を、またまた読んで、いいなあと思う。南吉の童話には、人の生きる姿、生きているとゆれ動く心もようが書かれていて、まだ読んでないのを、読みたいと思う。

    (3/9了)

  • おじいさんが、孫が倉庫から出して来たランプを見て、思い出を語る。
    貧しかったおじいさんはランプを売り始め、少しずつお金を蓄えていくが、文明開化と共に、ランプではなく、電気が使えるようになる。そこで、おじいさんは商売を諦め、木に火の灯ったランプを下げて石で割って商売納めをする。

    時代が移り変わっていく寂しさや、自然淘汰されていく様子が今だからこそわかるかな、って。
    でも、おじいさんはランプ屋のあとは本屋をやるが、ランプ屋をやめるときの様子が潔いな、と思った。

  • 4月6日読了。iPhoneの青空文庫リーダーにて。文明開化の頃、ランプの明りに憧れて商売を始め成功を手にした巳之助だが、やがて電気が普及するようになり・・・。ランプの明りに魅せられ無我夢中で働いた少年がやがて新しい時代に取り残されそうになり足掻き、そんな自分に決別する、その話を老人となってから孫に語り聞かせるという話なのだが、このほっこりとしていて苦い味わいは大人になってから読んでこそ噛み締められるものだな。新見南吉と言えば教科書でお馴染み「ごんぎつね」が有名だが、藤子不二雄のようなストーリーテラーであったのだな。

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著者プロフィール

1913年、愛知県知多郡半田町(現・半田市)に生まれる。中学時代から童話を書き始め、『赤い鳥』『チチノキ』などに投稿。東京外国語学校在学中に病を得、20代後半の5年間は安城高等女学校(現・県立安城高等学校)で教師をしながら創作活動を続けた。1943年、29歳の生涯を終える。代表作に「ごんぎつね」「おじいさんのランプ」「手袋を買いに」「でんでんむしの悲しみ」を始めとして、多くの童話・小説・詩などの作品を残す。

「2019年 『子どものすきな神さま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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