コンビニたそがれ堂 (ポプラ文庫ピュアフル)

著者 :
  • ポプラ社
3.64
  • (210)
  • (326)
  • (366)
  • (82)
  • (13)
本棚登録 : 3423
感想 : 399
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591114162

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『ここはね、なんでも売ってる不思議なコンビニなんだよ。このコンビニにくる人は、なにか大切な探しものがある人なんだ。大事なものを探していて、それを心の底からほしいと思っている人だけが、この、たそがれ堂にたどり着くのさ』

    いつでも開いていて、なんでも置いてあって、そして誰でも気軽に利用できる街中のお店、コンビニエンス・ストア。日本初のコンビニはどこか?と諸説入り乱れて話題になるくらいの歴史をすでに持ち、全国津々浦々まで行き渡り、この国にしっかりと根を張ったコンビニ。恐らく誰にでも”行きつけ”のお店がある、日々の生活の導線の中に組み込まれ、もはやなくてはならないもの、それがコンビニだと思います。そして、村山早紀さんの作品に当たり前のように登場するのが『風早(かぜはや)の街』。そんな街にもコンビニはもれなく存在します。『見慣れない朱色に光る看板には「たそがれ堂」の文字と 稲穂の紋』があるというそのお店。『この世で売っている すべてのものが並んでいて』、『この世に売っていないはずのものまでがなんでもそろっている』というそのお店。そんなすぐにでも行ってみたくなる夢のようなお店は、実は『行ってみたくても、行けなかったのです』という不思議な存在でもありました。この作品はそんなコンビニに縁あって訪れることのできた人々が『大事な探しもの』とめぐり合う物語です。

    『この本の元本は、子どもの本、児童書です』と語る村山さん。単行本化を機に『ここぞとばかりに、あちこち描写とか増やしてます』というその作品は、児童文学の作家でいらっしゃる村山さんが『心まで描写できる喜び。改行できる喜び』を感じながら『大人の読者さん向け仕様』として刊行されました。そんな大人のための優しい物語、大人にこそ滲み入る物語に、涙もろい私は、じんわりと涙してしまいました…。元が児童書ということもあって、恐らく多くの方は途中でそれぞれの短編の結末が予想できると思います。この世には、全く予想できなかった結末に驚き思わず涙する作品があります。一方で、途中でこうなるんじゃないか、こうなるんじゃないか、と予想させつつ、その予想通りに結末する作品もあります。この作品はそんな後者です。派手な涙は出ませんが、身体の内面からじんわりと湧き上がってくる涙、それはとてもあたたかいものだと知りました。

    そんなこの作品は五つの短編から構成されています。元々は児童書ということで、大人向けになったとはいえ、全体のページ数も少ない中に熱いものがじわじわとこみ上げてくる要素が満載です。共通するのは冒頭でご紹介したコンビニ『たそがれ堂』がキーになる物語、いや、『たそがれ堂』がキーを与える物語です。とにかく短いので深く作品紹介に入りすぎると一気にネタバレになってしまうために、紹介がなかなかに難しいこの作品ですが、雰囲気を感じていただくために一編目の〈コンビニたそがれ堂〉をいつものさてさて流でご紹介したいと思います。

    『秋のその夕方、アスファルトの道をけとばすようにしながら、歩いていました』というのは主人公の雄太。『胸の奥が苦しくて重たくて、なにかを壊してしまいたいような、自分を殴りつけてやりたいような、そんな気分』で歩く雄太は突如『コンビニエンス・ストアにでくわし』ました。『夕暮れの赤い空の下、ぽつんとそこに』あったという『稲穂のマークの看板』のそのお店。『最近できたのかな?…いや、それにしては、なんか古くねえか?』と思いつつ『ドアをくぐ』る雄太。『いらっしゃい。どうした少年、元気がないな』と『レジのお兄さんに声をかけられま』す。『長い髪は銀色で、目は光る金色』というお兄さん。『おいおい。そんなにひくなよ。雄太くん。取って食いやしないからさ』といきなり名前を言われ、『…おい、兄ちゃん。おれの名前、なんで知ってるんだよ?』と聞く雄太。『そりゃ知ってるさ。だってきみは、この界隈の有名人だからね。街でうわさの、正義のヒーローじゃないか』と言うお兄さんに『自分の耳を疑』う雄太は『おれはただの小学生だぞ?』と不思議がります。しかし『気がつくと、店にいるほかのお客さんたちがみんな、雄太のほうを見たり、振り返ったりしている』という光景。思わず『雄太はあとずさりして、店を出よう』とします。そんな時、『雑誌のコーナーに、お気に入りの猫の雑誌を発見』した雄太。『うわ、これ、大きな本屋さんにもめったにない』と驚き『超マイナーな雑誌なのに、どうして近所のコンビニなんかにあるわけ?』と思わず声を上げます。それに対して『そりゃあ、このたそがれ堂が、お客さんのほしいものは必ずある、不思議に便利なコンビニだからさ』と上機嫌で語るお兄さん。『動物が大好きでした。とくに猫が。夢は獣医になることです』、そんな雄太は、『去年の冬』、『河原で年老いた猫をいじめていた中学生に、それをやめさせようと飛びかかって』いった時のことを思い出しました。『最初の日は、ほとんど寝ないで猫を見守』った雄太。元気になったあと河原に放すと『猫は何度もお礼を言うように、雄太を振り返りながら、川の周囲に広がる草の波の中に、消えて』いったというその時の記憶。そんな雄太は雨が降る中捨てられていたもう一匹の子猫のこと、そして『かわいそうと泣いていた』ひとりの女の子のことも思い出します。そして、そんな女の子との思い出が奇跡に変わっていく、そんな物語が展開していきます…というこの作品。『たそがれ堂』についての導入部を兼ねながら、その不思議な世界、優しくあたたかな感情に満たされた世界の魅力を存分に味わわせてくれた作品でした。

    『風早の街の 駅前商店街のはずれに
    夕暮れどきに行くと
    古い路地の 赤い鳥居が並んでいるあたりで
    不思議なコンビニを 見つけることがある』

    と続いていく冒頭文だけですっかりその世界に魅了されるこの作品は、『まるで「狐につままれた」みたいだ』という雄太の感想そのままの世界が広がります。これぞファンタジーといういわば夢物語ですが、その根底に流れるストーリー自体は決して特異なものではありません。『たそがれ堂』というファンタジー世界から一歩出た外の世界は『夕暮れの街を行く人々は、ある人は急ぎ足で、ある人はゆったりとして。ひとりの人もいれば、子どもの手を引く人もいて。笑顔の人も。口をむすんだ人も』という、あなたの暮らす街でも普通に見られる光景です。そんな日常の光景を見ても何か思うことはないのかもしれません。でも、そんな人々は『そのそれぞれが、同じ時の中を、同じ街の同じ場所で交差しながら、それぞれの思いを抱いて、生きて』います。かつての何かしらの後悔の念に苛まれている人もいるでしょう。遠い過去に忘れ物をしてきてしまった、そんな風に感じて生きている人もいるでしょう。そして、何かに悩み何かしら前に進むためのきっかけが欲しい、そんな風に感じながらも決断を下せないでいる、そんな人もいるでしょう。『たそがれ堂』は行ってみたくても誰もが行ける場所ではありません。一方で選ばれた特別な人だけしか行けない場所でもありません。『夕暮れの街を行く人々』の中から今日も誰かが、引き寄せられるように辿り着く場所、『たそがれ堂』。『大事な探しものがある人がくる店』。そんなお店は、辿り着いた人たちにとって、『心の奥で、自分の人生が、まるで線路が切り替わったように、行き先を変えた』と、心のどこかに引っかかっていたことに、過去の自分に区切りをつけ、次の未来へと向かってゆくためのきっかけを与えてくれる場所でもありました。

    もし、私自身が『古い路地の 赤い鳥居が並んでいるあたりで 不思議なコンビニを 見つけることが』あったなら、そんなコンビニに行くことができたなら。そんなお店の棚の上に私は何を見つけることになるのだろう。何が私を待っているのだろう。そんなことをふと考えてしまう読書。なつかしさとせつなさに包まれる読書。そして読後に包まれる、人の優しさとあたたかさを感じる読後感。

    今の世に、こんなにも素朴な愛に満ち溢れた物語があるんだ、と、ある種の驚きを感じた傑作でした。

  •  前から気になっていた一冊。元気がない時、疲れた時にお勧め。

     たそがれ堂に訪れる人々のお話が5つ。短編なので、一つの物語があっという間に読める。優しすぎる文体にほっとでき、癒された。

     たそがれ堂の場所、店外&店内の雰囲気、店員さんがもつ柔らかい雰囲気、大好きになった。シリーズになっているので、ぼちぼち読み進めて心を浄化させてもらおう。そう思うと、楽しみが増えて嬉しくなった。

     「手をつないで」のお話が一番好き。女の子と母親の物語。パパさんが女の子にママの境遇を話してあげている場面にほろりとした。たそがれ堂も手を貸してくれた。色々あったけれど、親子の絆が深くなって安心し、泣けた。

  • 元々児童書なのもあり、とても綺麗な言葉が多く心を打たれる言葉が多かった
    手をつないで を読んだ時は、涙を堪えるのに必死でした

    桜子さんの声の話も素敵だった

    是非子供にも読んでもらいたい
    全部が心温まる話です
    たくさんの人にお勧めしたい本です!

  • 「コンビニたそがれ堂」シリーズ1作目。
    このシリーズ、大好きです。
    温かくて、優しくて。
    生きてくのも悪くないなぁなんて。ちょっと大げさだけど、思ったりもします。

    このシリーズ、元々母に勧められて手にした本。
    読んでると、今は亡き母を思い出して非常に厄介です。(余計に涙腺刺激されてしまって(笑))
    私も将来必ず子供に勧めようかと思っています。

    まぁとにかく幸せな気持ちにしてくれます。
    わたしにとって、とても大切な1冊です。

  • ちょうど桜の季節に読んだのもあって、桜の声」が一番印象的だった。

    あとがきに共感。作者の考え方が好きだと思った。

  • 大事な探し物がある人だけが訪れることができる不思議なコンビニ。まちなかにこんな受け止めてくれる場所があったらいいなぁ。どのお話もじんわりとくる。中でもあんずのお話が一番好き。動物やモノ、自然にも想いはあると気づかせてくれる。忙と忘、心を亡くすような日々の中で優しさと安らぎをくれる本。

  • シリーズ第四弾発売を機に再読。何回読んでも心が温まります。
    本作は「コンビニたそがれ堂」、「手をつないで」、「桜の声」、「あんず」、「あるテレビの物語」の5編からなる短編集。
    なかでも猫好き少年の雄太君の物語の「コンビニたそがれ堂」、子猫の物語の「あんず」が特に大好きです。

    大事な探しものが私にもできたときに「コンビニたそがれ堂」で長い銀色の髪で金色の目のお兄さんに出会えるといいな、思います。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      早川司寿乃の表紙イラストに惹かれて購入したら、当り!でした。
      ジンワリと心に沁みる話ですよね。。。最新刊「空の童話」は、未購入。早く買って読...
      早川司寿乃の表紙イラストに惹かれて購入したら、当り!でした。
      ジンワリと心に沁みる話ですよね。。。最新刊「空の童話」は、未購入。早く買って読まなきゃ、、、
      2013/01/31
  • 心が軽くなる温かい読後感。元児童書(に加筆した)だけあって、難しい言い回しや表現が少なくて読みやすいです。それでいてスッと入ってくる優しい言葉の数々。大好きです。

  • なくしてしまった何かをみつけさせてくれる作品。
    人と人だけでなく、人と動物、人と物などいろんな絆が描かれてます。
    あんずの話がすごく好き。
    続編もぜひ読んでみたいです

  • 最初通勤電車で読んでいたが、泣きそうだったので家で読むことにした。
    案の定【あんず】で泣く。
    元は児童書だそうで、難しい言葉もなく読みやすかった。
    過去似たような経験がある人はぐっと来るのでは。

著者プロフィール

1963年長崎県生まれ。『ちいさいえりちゃん』で毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞。著書に『シェーラ姫の冒険』(童心社)、『コンビニたそがれ堂』『百貨の魔法』(以上、ポプラ社)、『アカネヒメ物語』『花咲家の人々』『竜宮ホテル』(以上、徳間書店)、『桜風堂ものがたり』『星をつなぐ手』『かなりや荘浪漫』(以上、PHP研究所)、げみ氏との共著に『春の旅人』『トロイメライ』(以上、立東舎)、エッセイ『心にいつも猫をかかえて』(エクスナレッジ)などがある。

「2022年 『魔女たちは眠りを守る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村山早紀の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有川 浩
有川 浩
有川 浩
有川 浩
伊坂 幸太郎
有川 浩
夏川 草介
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×