- Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591121443
作品紹介・あらすじ
盟友の娘の婚礼に出席した池田は、人生の花盛りを知らずに夭折した姪・柚子を思うと無念でならない。しかし、生前の柚子には叔父に隠し通したある秘密があった(久生十蘭『春雪』)。辛く惨めなお屋敷勤めを「明日こそ!」飛び出してやろう、と夢見る住み込みの家庭教師オルガ(チャペック『城の人々』)。医学士ソロドフニコフは、突如、見習士官ゴロロボフに科学的には解決できない難問を投げかけられ、思索に耽る(アルツィバーシェフ『死』)。手の届かぬ場所へ、願いを捧げ続ける人々の物語。
感想・レビュー・書評
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百年文庫「祈」。収録作品は久生十蘭「春雪」、カレル・チャペック「城の人々」、アルツィバーシェフ「死」。
百年文庫は今回初めて読んだが、収録作品の多様さが気に入った。時代も人種もバラバラ、「祈り」がテーマだが、その形も様々だ。「春雪」は戦争の中での愛の話。「城の人々」は寄る辺ない立場の少女の叫び。
アルツィバーシェフ「死」がこの中では一番好きだ。死について考えたとき、誰もが陥る袋小路に光を照らしてくれる。20世紀初頭のロシアで、死についてこういう答えが出ていたんだと思うだけで、救われたような気持ちになった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
浸礼がもとで命を落とした姪の柚子を無念に思う主人公が知った『春雪』。
視線を合わせただけで恋に落ちた捕虜の男性と結婚をするために浸礼を受けたと知り、柚子は幸福の中で亡くなったと分かったことは主人公には救いでしょう。
戦時中の許されない愛を貫いた若い二人の姿が久生十蘭の巧みな文章で書かれていました。
『城の人々』の若い家庭教師の娘の懊悩が読んでいて悲しくなります。去ることを決めたところに届く母からの便り。
家族のために縛り付けられる不幸に胸が痛くなります。
『死』は誰しもが一度はあれこれと考えることなのだろうと思う。
実行してしまったゴロロボフ、彼の死の理由を生前に聞き、その遺体を見たソロドフニコフが雨上がりの洗われた朝日の世界に戻る様子に生きる意味を感じさせれられました。 -
久生十蘭は突飛な設定を真実らしく語るスタイルが素晴らしい。チャペックもアルツィバーエフもなかなか秀作。47/100
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「春雪」
なんと奥ゆかしい恋愛なのだろう。
今では考えられない。
視線を合わせるだけで思いを伝えあい、結婚まで決めてしまう。
なんてロマンチックなんだろう。
結婚のために浸礼をうけ、それが原因で亡くなるだなんて、まるであの世で結ばれるための儀式のようだ。
今更、誰が異を唱えることが出来ようか。
生きている者たちは、その心を全面的に受け入れることしか、できない。
「城の人々」
残酷な話だ。
自分に合わない人たちに囲まれた仕事。
辞めたくて仕方ないだろう。
それでも、家の都合に縛られて、抜け出すことができない。
共感できる人は多いのではないか。
悲しい。
「死」
ゴロロボフのいうことは、そりゃそうなのよ。
ちょっと般若心経と通ずるところがある。
でも、それをふまえた上で、もう一段階、生物としての真理に気づきたい。
そこに生きる価値や意味が潜んでいる気がする。
ゴロロボフが死んだ翌朝、ソロドフニコフはそこに触れたのかもしれない。
「祈」、納得。 -
どなたも初めて。
この中だと久生十蘭のがまぁわかりやすい話かな。
チャペックは「ロボット」という語を生み出したり、園芸愛好家や犬好きにも有名なエッセイなどなどで有名なあのカレル・チャペックなのだけれども、この話はなんだかなー。
家庭教師の若い娘の妄想がひどい感じがする……
上手くリライトすればエッセンスはいけるか……?
アルツィバーシェフの作品は翻訳が森鷗外。
主人公が医者だからかしらね。
このシリーズでちょくちょく森鷗外訳読んでる気がする。
装画 / 安井 寿磨子
装幀・題字 / 緒方 修一
底本 / 『久生十蘭全集II』(三一書房)、『苦悩に満ちた物語 チャペック小説選集第2巻』(成文社)、『鷗外全集 第7巻』(岩波書店) -
久生十蘭『春雪』
チャペック『城の人々』
アルツィバーシェフ『死』 -
・九生十蘭「春雪」○
敗戦が決定的になったころ、町工場で未完成の飛行機をただひたすら潰す仕事をしてたというのが面白い。
兄の末っ子・柚子は青春を戦中にすごし、人生のただ苦い部分だけを舐めて死んでしまった。柚子をあずかっていた池田は結婚式の席でそう回想するが…。
・チャペック「白の人々」○
へこむ話だ。田舎から城の家庭教師として招かれたオルガ、しかし子供は愚図だし親は意地悪だし、もう帰ろうと決意した矢先に父の訃報。
まさしくホラー。
・アルツィバーシェフ「死」×
森鴎外訳。これもういかにもロシア人。
死に関するくそおもしろくもない禅問答がひたすらつづく。 -
祈るというのは、自分なり他人のための行動で、そうすることで一番救われるのは自分。
けれど救いの裏に絶望なんかも見せられたりして、人間は生きにくいなと本を読みながら感じる。
春雪が儚くて美しい。