- Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591121832
作品紹介・あらすじ
河童が消息を絶った。「名探偵」がゆくえを追い、想いを寄せる女の河童は悲嘆に暮れる。暗愚にして真摯なる精神が夢みた「昇天」までの寓話(火野葦平『伝説』)。赤銅の雨が降る夜、終末への戦慄を覚えながらも享楽の宴をつづける人間の姿があった(ルゴーネス『火の雨』)。十六歳で亡くなった少女が、死者の透明な視線で生者の光景を語る、吉村昭『少女架刑』。危機を予感しながらも、無自覚な日常に退却してゆく精神の不隠さ。特異な設定のなかに、「人間的なるもの」の意味を問う。
感想・レビュー・書評
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少女架刑は再読だが、かなり際立っている母親の酷さが記憶からすっぽり抜けていて驚いた。それほど小説自体の設定が鮮烈だったということか。
ルゴーネスは古代人の筆によるかのような不思議な読後感が印象に残る。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「伝説」
理想を追い求めても、能力を超えようと努力しても、叶わない次元がある。
手を伸ばさぬ愚の河童が生き残る。
その言葉には、複雑な心が感じられる。
光線を登ろうとした自己過信に恥じ入り、失望し、文字通り消え入ってしまった、鈍重で、暗愚ではあるが、真摯で、傲岸で、怠惰な河童。
何かをやろうと奮起したのに、成しえず1度で折れてしまうあたりが、怠惰だな、と思う。
飛行の師が、よくいる悪いリーダーひのそのまんまで、面白かった。
「火の雨」
天変地異で、今までの生活が破壊される恐ろしさ。
ありえない、と自分の想定を超えるような事柄がおこり、人生がひっくり返されてしまう。
その恐ろしさを、焼き尽くす火の雨がしっかりと象徴していた。
「少女架刑」
死後もこのように意識が残るのは恐ろしいな、と思う。
母親の心が悲しい。
自業自得なのだが、もう戻ることもできない。
かといって、最初の結婚で幸せになれたわけでもない。存在の悲しさ、人生の苦しさ、悲哀を感じる。
安らげる場所はどこにあるのか。 -
火野葦平『伝説』
ルゴーネス『火の雨』
吉村 昭『少女架刑』