i(アイ)

著者 :
  • ポプラ社
3.62
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本棚登録 : 6203
感想 : 629
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591153093

感想・レビュー・書評

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  • 自分とは誰で、どのようなルーツを持っているのか、そして日本で、世界で今何が起こっているのかについてよく考えさせられました。
    淡々と書かれていますが、毎日世界のどこかでなんらかの悲劇が起こっていて、それをなかったことにはできない。
    簡単に感想を述べるのもちょっと躊躇われるくらい、情報量が多い一冊でした。本当に考えさせられます。

  • 西加奈子さん、書きたいことがはっきりしているし、題材の選び方やエピソードの編み込み方が本当に上手。凄いなあと思う。
    でもこの作品はあまり楽しめなかった。もう少しもやもやとしていて、想像力を働かせることができる小説の方が好き。
    無駄なくかっちりと作り込まれている小説は読んでいて息苦しさを感じるので、あまり好みではない。
    美しいラストシーンや表紙の絵はいいなと思った。

    #アイ #西加奈子 #読書 #読書記録 #小説

  •  読み終わってもしばらく感想文が手につかなかった。生きていく上で大切に心に残しておきたいことがたくさん書かれている本だと感じて、簡単な言葉で感想を書いて終わりにしてはいけないような気がした。でも時間をおいたところで立派な感想文は書けそうにないので、思いつくがままに書いてみる。
     シリアで生まれ、日本人の母親とアメリカ人の父親に養子として受け入れられ、ニューヨークの裕福な家庭で育てられたアイ。自分が生まれた国の惨状をニュースなどで知りながら、恵まれた家庭で何一つ不自由なく家庭で育っていることに、罪悪感を持ちながら生きている。一つ目のキーワードは、「裕福である故の罪悪感」。
     自分は「選ばれた」側にいるという意識がアイを苦しめる。戦争が続きたくさんの人が今なお苦しみ続けているシリアという国に生まれながら、養子として「選ばれ」、豊かな暮らしをしている。なぜ選ばれたのか。なぜ自分でない誰かではなく自分だったのか。ここで二つ目のキーワード、「選ばれた存在」。
     高校に入学して初めての数学の授業で教師が言った言葉、「アイは存在しません」。虚数のことだが、アイは自分の存在を否定されたような気持ちになる。大学に入って数学を専攻し、虚数についても研究を進める。教授から「アイは存在する」と断言され、自分でもそうだと確信しながらもなお、「アイは存在しません」は単なる言葉の範疇を超えて呪文のようにアイにまとわりつき続ける。
     大人になり、不妊治療の末に妊娠したとき、アイは初めて心から「自分は存在している。存在していいんだ」と確信する。育ての親と血の繋がりがなく、生みの親を知らないアイは、この時点では、血縁関係にこそ自分の存在根拠を見出しいた。しかし流産を経て、その確信は揺らぐ。ここからアイは、血縁関係以外で自分の存在を根拠づけるものを探すフェーズに入る。三つ目のキーワード、「自分の存在の根拠」。
     アイの高校からの親友ミナはレズビアンだ。アメリカで生活をしていて、数年来のパートナーがいるが、あるとき男性と初めて関係をもって妊娠してしまう(その男性はアイの高校時代の初恋の相手だった)。アイの流産を知らずに中絶すると話すミナに怒り狂うアイ。しかしミナの妊娠/中絶と、アイの不妊/流産との間に何ら因果関係はない。アイはそれを理解しつつも、ミナに対する怒りと絶望の感情を収めることができない。LGBT、不妊、中絶の可否、因果関係が認められない事柄に対する怒りなど、ここでのキーワードはたくさんあるけれど、総じて「現代の女性(生物学的)の生き方の多様性」「自由だからこその苦しみ」を感じた。
     どのキーワードについても、答えはない。いくら考えたところで正解はなく、おそらく自分なりの方針のようなものを導き出すことが精一杯だろう。それでもきっと考え続けなくてはならないテーマなのだと思うし、考え続ける努力を放棄した途端、あっという間に世界から置き去りにされてしまうような気がする。
     小説ではあるけれど、高校のときに初めて読んだ倫理の教科書のようなずっしりとした衝撃があった。
     欲を言えば、自分自身のアイデンティティについて今よりもっと真剣に切実に考えを巡らさざるを得なかった大学生くらいの頃に、この本と出会いたかった。

    • シマウマシマシマさん
      iがきっかけで他の本のレビューも読ませていただいていて、どれも要点のまとめが的確で感動してます、、、!
      iがきっかけで他の本のレビューも読ませていただいていて、どれも要点のまとめが的確で感動してます、、、!
      2021/12/12
    • Chisaさん
      そそそそんな、とんでもないことでございます、、、でも、ちっちさんのお褒めの言葉とっても嬉しいです。ありがとうございます。今後とも頑張ってまい...
      そそそそんな、とんでもないことでございます、、、でも、ちっちさんのお褒めの言葉とっても嬉しいです。ありがとうございます。今後とも頑張ってまいります!
      2021/12/12
  • 刺さった言葉がたくさん。
    今まで読んだ西加奈子さんのどの作品よりも好きだと思った。
    そして、西加奈子さんの小説を読んで抱いていた印象とは全く違った、今回は。

  • 最初の一文!!『この世にアイは存在しません』から始まってわたしの頭の中は混乱!読み進めるのに必死だったけど、結末が…。

  • みんなどうしてあんなに大声で「NO!」と、そして「YES!」と言えるのだろう?どうして自分の意見をあんなにもきちんと持っていられるのだろう?アイに取ってカラフルな学校は、カラフルな分だけ生きがたかった。P27

    自分が帰国子女ということもあり、アイの気持ちが痛いほどに伝わってきた。社会の授業中に突然始まったディベートは「オバマかマケインか」という内容で次々に手があがるなか、「どうか当てられませんように」と祈るような気持ちで縮こまっていたのを思いだす。必ずしも意見を持っているわけじゃないのに、意見のない人には人権がないんだろうか。

    「日本では『みんな同じ』だった」P29

    しかし、アイは日本に来てまた、「みんな同じ」環境にも苦しめられる。強い意見を持つか、まったく持たないか、どちらかしか許されないのだろうか。

    物語のなかで、アイは苦しみ続ける。世界中で人々が死ぬ事件が起こるたびに、「どうして自分は選ばれなかったのだろう」「選ばれた人と自分とにどんな違いがあるのだろう」と。

    アイは弔うように死んだ人の数をノートに書き続ける。でも、ふとした瞬間にそれを忘れてしまう自分に気付く。

    「言語を同じくしない、知らない誰かの苦しみよりも、今現在自分が肥え太り続けていることの方が苦しかったし、文化を同じくしない、知らない誰かの死よりも、今現在自分が抱えている悩みの方が切実だった」P109

    「アフリカの子どもたちのことを考えてみなよ」

    ごはんを残すたびにそう言われていたのを思い出す。

    誰もが心のなかに「アフリカの子どもたち」を持っていて、ほんのりとした罪悪感を抱きながら生きている。

    この本は、そんな呪縛からそっと解き放ってくれる。幸せになっても良いのだと教えてくれる。

  • 自分の知識の無さを痛感した

  • 「シリアの養子の話」ぐらいの前情報しかなかった。あと、若林や又吉、いわゆる読書芸人が推してる作家だということぐらいしか。
    作中に誰一人として自分に似た境遇の登場人物はいない。戦争や震災をフックにしながら、恵まれた環境に罪悪感を覚えるアイの感情は想像できないでもないけど、理解できない感じ。ニューヨーク、シリア、東京、LGBT、デモ、IS、パーティーの花…まあ、こんな世界もあるんだろう。
    アイとiをかけた作者自身が数学科出身なのかな。
    平野啓一郎ほど表現が難解でなく、東野圭吾みたいに軽薄でなく、江國香織みたいにエロに走らず、湊かなえよりは広い世界観で文章は読みやすいんだけど、何をどう感じれば良いのかわからなかった。
    女性が読んだらひしひしと感じることが多いのかな。
    どうなんだろう。

  • たくさんの愛と哀しみの中で、あやふやだった自分を心から愛せるようになる、聡明でまっすぐな女性の話。

  • 苦しんではいけない 苦しんでいない と世間的には思われるような恵まれた環境の人でも苦しんでいいし、悩んでいい、悲惨な環境の方々に対して自分は恵まれているんだと悔しい想いだけでなく、悲しんだり、見たことはなくても生きてほしいという願いをしてもいい。あらゆる人への愛や優しさを感じる作品でした。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

西加奈子の作品

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