名もなき王国

著者 :
  • ポプラ社
3.02
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591159309

作品紹介・あらすじ

ロマンティック。つまり小説的。
――いとうせいこう

美しく作りこんだ物語を倒壊させ
見事に読者の足をすくう
――金原瑞人

眩惑的な構成で読者を踏み迷わせる大作
――千街晶之

物語の豊饒な海に生まれた 
一顆(いっか)のバロック真珠
――皆川博子

三人の小説家は、語り、騙る――。
俊英が放つ圧倒的傑作!


「あの時以来、僕は伯母の『王国』の住人でありつづけているのです」
売れない小説家の私が若手作家の集まりで出会った、聡明な青年・澤田瞬。
彼の伯母が、敬愛する幻想小説家・沢渡晶だと知った私は、
瞬の数奇な人生と、伯母が隠遁していた古い屋敷を巡る
不可思議な物語に魅了されていく。
なぜ、この物語は語られるのか。
謎が明かされるラスト8ページで、世界は一変する。
深い感動が胸を打つ、至高の“愛”の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公である“私”と、若手作家の集まりで知り合い意気投合した澤田瞬、彼の伯母で故人の沢渡晶の3人の作家が登場するメタフィクション。沢渡晶の作品や澤田瞬が語った話を私が小説化した作品などが次々に提示され、どれが現実なのか混沌としてくる。作者の狙いもまさにそこにあるようで、私と澤田が虚構と現実について応酬する場面もある。いろいろなことを思いながら読み進めたが、ラストで明かされる真相にはぶっ飛んだ。

  • なんてーか…一般の方から見る幻想小説ってジャンル、やっぱ特殊なんだな…と

  • 一言でいうと”嫌い”だ。

    読み終わった後の第一声が「めちゃくちゃ疲れた…」だった。

    心にもっと余裕があれば好意的に読めたのだろうか。

    イノセンス然りエンドレスエイト然り、精神論やらで延々と終わりのない現実と虚構の話をされると、どうも物語が前進しているように感じられず、それが私は苦手みたいだ。

    読んでいる最中、章ごとの関連性を見出そうとしたりしていたが、話が飛び飛びで読みづらいなと思っていた。それもそのはずである。

    著者自身も、序章にて
    なお本書を読み終えた人々の一部が私を病んでいるとみなすかもしれないことは承知している

    と述べているように、こういう意見がくるだろうことは予想していた。最後まで読み切ってようやくその意味を理解した。

    その意味を知って思い返すと、作中にその兆候がところどころ見受けられた。最初は誤字かと思ったがそうではなかった。

    ただ、ここまで物語を作り込んで、最後にそれを容赦なく倒壊させるその度胸はすごいと思った。

    また、巻末の
    初出 ー 少年果 螺旋の恋 その他は書き下ろしです。
    を見たとき、元は別々の作品であったものを、それぞれに関連があるように見せるようにまとめあげ一つの作品にしていたことを知り、著者の話をまとめるための腕力をとても強く感じた。

    それとも初めから”名もなき王国”のためにこの2つの短編は作られたのだろうか?

  • 【感想】
    ・最近よく見かけるようになった(昔から多いかな?)「現実」と「非現実」の境界があいまいに溶けていく作品のひとつ。
    ・書くことの意味と魅力を捜しつつ書くことの虚しさ描くというようなメタっぽい風味はカモフラージュで、じつはメタではなく、存在のあやふやさを利用して存在を確かなものにしようとあがく物語。
    ・強いてジャンル分けすれば純文学でしょうか。実はミステリという面も(多くの作品にミステリ要素はあるものだけど)。犯人は誰だ!? 動機は何だ!? 作品全体が犯行。なので我慢してでも最後まで読まないと姿がつかめない。
    ・アニメ「Sonny Boy」とどことなく近いテイストを感じる。
    ・文学系同人誌を読んでるような気分になった。未熟というのではなく、奇妙な熱量を感じて。
    ・第三章から読みやすくなった。第五章の「掌編集」は好みに合った。

    【一行目】
     これは物語という病に憑かれた人間たちの物語である。

    ▼簡単なメモ

    【藍花/あいか】「私」の妻。積極的で表情がコロコロ変わるタイプ。
    【生き様】《彼の優秀な頭脳と稚拙な生き様を思い出して悼んだ。》p.357
    【異常】《正常さを証明するという試み自体が異常の印なのだ。》p.450
    【簡潔】《文章においては、人生と同様、簡潔であることは常に善である。》p.304
    【劫】瞬の双子の兄。十六歳で亡くなった。急性心不全。
    【澤田瞬/さわだ・しゅん】「私」の友人で三十代の作家。元編集者で店の内装をはがしたりする仕事をしていた。
    【沢渡晶/さわたり・あきら】澤田瞬の伯母で、十数年前に六十一歳で亡くなった作家。幻想小説系だったようだ。イメージ的には尾崎翠の感じかなと思っていたがだいぶ違うということだった。
    【沢渡晶の屋敷】老朽化して廃墟じみていた。近所の子どもたちは自由に出入りしていた。
    【死】《私が消えたとしても世界は何も失いはしないということだった。》p.369
    【詩歌】《そもそも詩歌などはある種の楽器と同じで、どんな音色を引き出すかは、読み手のスキルにかかっているのだ。》p.318
    【存在】《わたしは存在しない。いま、このダークブルーのインク――明け方の空の色――で綴られている文字のつらなりの外には。》p.301
    【松本実花/まつもと・みか】美爽の友人。編集者。
    【美爽/みさ】瞬の妻。のめり込みすぎてアンバランスになってしまうタイプ。
    【物語】《物語は麻薬である。私は物語を服用することでまだ正気を保っている。》p.401
    【私】四十九歳の作家。売れない。

  • 久々の挫折 
    文体がいやなのか、内容がいやなのか? 両方かな・・・ 
    メタフィクションSFの皮をかぶった私小説としか読み取れませんでした。 
    特に『ひかりの舟』ムカムカした 
    掌編集の「螺旋の恋」まで頑張りましたがダメ、放り出しました。 

  • 捨て置かれた大きな病院の廃墟に住まう小説家、沢渡晶を中心として散らばる短編たちとして読んでいる間はとても素晴らしくて、それぞれの作品の緩やかな繋がりが、それに楽しみを足してくれる。
    賛否両論あると思うけど、私は最後の種明かしで一気に白けてしまった。小説なんてのは所詮現実におけるエンターテイメントです、って、ここに来るまで読み進めながら感じていたものを全否定された感じで、怒りすら湧く。もし、最初からそれが目的でここまで延々読者を連れ回しているのだとしたら、星は1つに変更したい!!

    もしこのラストを知ってて読み始めてたら「文章うまいなー、複雑な構成のメタフィクション小説だなー、へー」という感想しか湧かなかったと思う。
    しかしそれと同時に、ラストが違ったらすごい傑作だったんじゃないか、という思いも捨て切れず、主人公(作者なのかもしれない)が、沢渡晶、ひいては小説そのものがもつ力への恐れ(畏怖?)みたいなものに打ち勝てなかったから、この小説のラストはああなるしかなかったのかと思ったりもする。

    作者の意図も分からないし、読者としては書かれたものを読むしかないので的外れかもしれないけど、もっと自信持ってラストまで書いてよ!!と思ってしまった。

  • 少しづつずれていろいろな反復が繰り返される、を小説でやる。読み返すとごっちゃになる感じがゆらゆらする。最後は宮沢賢治の現代版みたいで、これについて、ゲームのある時代だなあと思った理由は今のところ分からない。

  • 「序」で示されるように、著者・瞬・晶という作家3人による物語が数編収められている。それぞれが独立した物語でありながらも、どこかでリンクしているようでもあり、はかないような、理解しがたいようなストーリーもあって、読み進めるには普段より時間がかかってしまった。
    最後の一編は悪夢のようだったけれど、不思議な勢いがあって面白かった。結末は賛否両論だろうが、あれがないと全体が締まらないと思う。
    文体は他の有名な作家に影響されたのかなという感じもしたけれど、複数の書き手を想定していることもあって、それぞれが個性的で良い。

  • なるほどね。入れ子みたいな、鏡の部屋みたいな感じの話なのかと思わせておいて、そう来るのね。なるほど。ちょっと最初の方、物語に入るのに時間がかかったけど入った世界は嫌いじゃない感じだった。

  • 小説家である「私」がまとめた私小説であり、作中作もあり、と思っていたらそうとばかりも言えなくて、一冊まとめてなるほど王国か、という理解でいいのだろうか。確かに支配されたような、支配されてこそ楽しめるような。
    しかし現実とか世界とかを突き詰める議論は面倒くさくて、人それぞれ好きに捉えればよくないかと思ってしまう。
    作品同士が繋がったり侵食し合ったりしているところは好きだなと思った。

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著者プロフィール

1969年生まれ。東京大学総合文化研究科言語情報科学博士課程修了。博士(学術)。
2005年より5年間、中国・広東省および福建省で日本文学を教える。2011年7月、初の小説作品としてダークファンタジー『黒揚羽の夏』(ポプラ文庫ピュアフル)を刊行。

「2011年 『私自身であろうとする衝動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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