ペリリュー ―楽園のゲルニカ― 11 (ヤングアニマルコミックス)

著者 :
  • 白泉社
4.55
  • (41)
  • (19)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 236
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・マンガ (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592163657

作品紹介・あらすじ

2021年7月刊

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最初の3巻ほどで、もういいでしょ、と思ってしまう。戦争は人類が犯している最大の過ちであり、最も知られざる悲劇だ。だからその実態を描いたマンガはとっても貴重だけれども、1944年9月の米軍上陸から始まった南の前線基地ペリリュー島約一万人の兵士の殲滅譚は、11月の島の「玉砕」宣言辺りで描き切ったと思えた。でも見るとあと7巻もある。

    実際には、そこから2.5年間、1947年4月に残った日本兵34人が投降するまで、彼らの戦いは続いたのである。生存者への聞き取り、研究者との二人三脚、現地取材、映像資料などを通じて、史実にかなり忠実に(しかし主要登場人物は多分フィクション)で描かれたと思う。銃撃で吹っ飛ぶアタマ、腐ってゆく身体、食糧調達の様々な知恵、米軍に閉じ込められた男は2ヶ月同胞を食って命を繋ぐ、投降しようとした同胞を何人も殺す‥‥、その他様々な小物、自然などの描写をリアルに描く。全11巻でこそのリアルな戦争マンガだった。


    一方で登場人物は全て三頭身のデフォルメされた描写に徹した。これは正しいやり方だったと思う。現代の人間は、こんな極限の状態を長いこと見ていられない。私も、映画「野火」のような状態が24時間続いたら、精神に変調が生じてしまうかもしれない。

    最後の数巻は、主人公の田丸だけではなく、親友で頼もしい吉敷、残存兵たちをカリスマ的にまとめ上げた島田、常に自分の生命安全を優先させたのに最後の選択で帰れなかった小杉、最後まで自分の心情を口にしなかった片倉の、彼らの交差する運命と戦後の命の仕舞い方を描いていた。

    アニメ化されるらしい。
    片倉さんの「体験していなくても、(マンガを)描けるとお考えですか」という根本の問いを、武田さんは正面から受け止めているように思える。生き残った田丸さんにしても、孫に話し始めたのがこの作品の始まりということになっている。田丸さんは息子には一切話していなかった。何故なら、「自分が人を殺したという事を、それを、自分の子どもに伝えるのは、とても恐ろしいこと」だから。

    私の父は呉の海軍通信兵候補で戦争を終えているので、戦場に行ったことはない。上等兵に尻を叩かれた等の厳しい訓練生生活を、夕食時に得意げに何度も「同じこと」を喋っていた。「昔は大変だったけど、今の世界に生きることは幸せなんだよ」と不器用ながら伝えていたのだろう。今ホントに悔いが残るのは、叔父がシベリア抑留からの帰還兵だった。体験を一度も聴いたことがなかった。多分誰にも喋っていない。聞けるとしたら、親族の中では私しかいなかったのかもしれない。しかし、それももう10年前に叶わぬことになっている。

    こういうマンガは、ホントに貴重だ。
    今現在世界の片隅の「戦争」で、
    次の一瞬にも生命を落としている方がいる中で、
    ひとつの選択が、大きな過ちに繋がるこの世界で、
    こういうマンガはホントに貴重だと思う。

    「ヤングアニマル」2016-2021年連載。
    2022「このマンガがすごい!」オトコ編第9位。

  •  ボクなんかよりずっと若い武田一義さんが「ペリリュー」に出会う、「田丸1等兵」に出会うことがなければこの作品は生まれなかったのですよね。
     戦争を体験した人たちが残した、様々な「戦後文学」や「戦後マンガ」がありますが、戦争を知らない人が戦争を描く難しさは、実体験の人たちとは違う、本質的なというか、思想的なと困難とぶつかることだと思います。
     「戦争についてどう考えるのか?」という問いかけに、暢気に「はんたーい!」と一声で言える時代ではなくなりつつ世相の中で、「ペリリュ-」が描かれたことに、正直驚きました。
     「タマチャン」を読んでも思ったのですが、おそらく人柄の「あたたかさ」のようなものを反映しているのでしょうね、「声高な」という感じとは正反対の「しぶとい根っこ」のようなものが感じられて、当分この漫画家さんから目が離せないそんな作品でした。拍手!
     ブログにも感想を書きました。よろしければ覗いてみてください。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202109120000/

  • 日本の戦争を扱った漫画は精神的にツラくてそんなに読んだことはなかった(はだしのゲンぐらいか?)が、あまり苦しまずに最後まで一気に読めた。
    たぶんキャラクターが可愛く書かれているのがよかったのではないかと思う。
    ただし内容自体は戦争物なのでハードかつ残酷。
    当時の日本について強い非難も美化もしていない、フラットな感じがするところも読みやすい点かと思う。
    可愛い絵柄だがしっかりとリアリティが感じられる良い作品だった。

    解説もほどよく入っているので、戦争についてあまり知らない人でも読みやすくおススメ。

    こういった極限状態を生きた作品をみると、眠れないとか体重がちょっと増えたとか、子供がイヤイヤ期でしんどいとかっていう自分のストレスがあまり大したことない気がして、もうちょっと頑張る気になるところがいいと思う。

  • 完結巻となる11巻は、帰国してからの田丸の歩みを、孫との語らいの中で振り返るスタイル。70年あまりを経て今も活き続ける想いと、それが受け止められ引き継がれていく様に胸が熱くなります。「戦争」を僕らが実感することは今や難しいけれど、目を逸らしてはいけないことだと、改めて感じる作品でした。

    「話を聞けば、体験していなくても描けるとお考えですか?」このお話を、アニメでどう描きどう伝えるのかが気になります。

  • 貴重な作品だと思います。
    10年後はできない、今しかできないことをやる、と感じた、という趣旨を作者が述べられています。
    確かに、このようなテーマについて、商業ベースで成立させつつ、一次情報を踏まえて描くことは、どんどん困難になっていくでしょう。
    もはや最後かもしれません。

  • 戦争の事後談。
    今の僕には、戦争の悲惨さに耐えられない。この巻まで読まずには、いられない。
    この巻を読んで、「良かったな」という気持ちになるので、10巻まで読んだ人は
    11巻まで読むだろう。

    本当は読むのが辛かったのかもしれない。

  • ついに完走。コレがマンガになって本当に感謝。知らなかったことばかりで、今知ることができて本当に良かった。等身大の普通の人の戦争の話。絵柄がかわいいけれど、中身はひどく悲惨。死ぬ原因も戦うだけでなく、餓死、事故死、自死、病死、内ゲバで亡くなる…あまりにも理不尽すぎる。
    この巻は戦後70年を一気に。食料や服を取られたり、子どもに財布をすられたり、遺族を回っても、辛く当たられたりされても、怒らない田丸くん、良い人すぎる。いろんな人の戦後があって、いろんな人生があるということ。アニメ版も楽しみ。

    あとは、ふと思ったのが主人公たちは、若くて体力があったから生き残れたのかも…。

  • ★5つじゃ足りないのだけれど、感想を言葉にすると野暮なものにしかならない気がして、書き始められなかった。そんなすごい漫画の最終巻。


    戦争は悲惨だとか、してはいけないとか、わかっているけれど、わかっているのに、わかっているからこそ、戦争物といわれる漫画や小説を好んで読むのだけれど、ここまで読み終わってから言葉にできない気持ちがブワッと湧き上がることってあんまり経験がなくてどうしていいかわからない。

    以下、どうにもならないから羅列する言葉。若干のネタバレあり。注意。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    ・表紙、楽園だ。楽園だったのに。鎮魂の1冊。
    ・最初から「あ、吉敷くんじゃん」って思って、おじいちゃんになった田丸くんが彼を見て泣いたところで、もらい泣きした。吉敷くんはみつからなかったんだって、これだけでわからせるのすごい。
    ・功績係として田丸くんがしたこと、すごい。あんなになりたかった漫画家の道を失念するくらい大変だったんだ。
    ・片倉さん、怖い。たった数ページだけれど、「戦中」のいろんな漫画の場面がフラッシュバックするみたいだった。
    ・この漫画で一番刺さったのは、「高木」の「戦争中のことは何も思い出したくない あの頃の自分が嫌いだから」というセリフ。私、高木がすごく嫌いで。自分のことばっかり、本当に嫌なヤツだと思う。最低なことをたくさんした場面が出てくる。でも、高木本人が、それを悔いていたのかと、嫌悪していたのかと。目から鱗というか、こいつは「そういう奴」という人物設定だと思っていたから。

    ・最後の数ページ、静かに海に入った吉敷くんは、長い年月をかけて、遠い南の島から、田丸くんを迎えに来てくれたんだ。その音のない数ぺージの、なんて尊いことか。切ないことか。

  • 私はワニになりたい。

  • 終戦を迎えた後、年余にわたってそれを知るすべもなく、戦時中を送り続けた兵士たちを描いたのが本作の終盤。特にそこから受けた感銘が大。もう戦わなくていいのに、なぜその命は奪われる?っていう不条理が、これでもかと突きつけられる。この無常、繰り返したらアカンて。すぐに止めようぜ、戦争。

全26件中 1 - 10件を表示

武田一義の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×