海を臨む病院に勤める医師、佐々木正平の元に子宮ガンを患った未知子が入院して来る。未知子は正平が高校時代に思い焦がれた初恋の人だった。
佐々木正平はいい加減で、不真面目で、真っ直ぐな医師である。
看護婦の尻を触り、居酒屋に愛人を持ち、援助交際までしている。
そんな正平の元に、高校時代の憧れ、未知子が患者として入院して来る。
“思い出してくれましたか、僕のこと”
学園のマドンナであった未知子は、地味で目立たなかったササ菌こと佐々木正平のことなど覚えていなかった。
大人の恋愛。最期の初恋と呼ぶべきかもしれない。
ゆっくりと時間は流れ、正平はゆっくりと初恋をやり直していく。
今ではストーカーと称されるかもしれない高校時代の正平の行動は純粋以外の何ものでもない。
対して未知子はササ菌としての正平を思い出してはいるが、特別な感情など持っていない。結婚もしている。パリでの大恋愛の末にだ。
到底叶わない。
マドンナはマドンナで、ササ菌はササ菌。
それでも異常なまでに純粋さを保っている正平に次第に惹かれていく未知子。
作中の会話劇は滑稽で、どこか艶かしい。
鳥の死骸が仲間たちに啄ばまれるように、正平も未知子に食べられたいと言い、未知子も食べちゃうと言う。
残ったもののために捧げる命。究極の愛は自然の摂理。
去っていくものの後から始まるものがある。
残ったものを拾い、進むものがある。
何も求めず、ただ去っていくのみ。
年をとった男はただ身を捧げ、女はただただ少女に戻る。
病院という舞台で繰り広げられ、命をテーマにしてはいるが、どこまでも純粋で古風な恋愛文学。悲劇ではあるが、悲しくはならなかった。
馬場当、その他の著書
・復讐するは我にあり(脚本)
・豆腐屋の女房
・素敵な今晩わ(原作/脚本)
などなど。