- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594074722
感想・レビュー・書評
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あまりにも有名な殺人鬼<切り裂きジャック>について書かれた本をぼくはこれまで読んだことがない。特に読まなかったことの理由はない。ほとんどの作品を読んでいるはずのパトリシア・コーンウェルが『切り裂きジャック』を書いた時にもなぜか食指が動かなかった。
ほとんどの作品を読んでいるこの作家スティーヴン・ハンターの本書にしても買ってすぐに手に取ったわけではない。半年以上経った頃になってようやく、それもどちらかと言えば気が向かぬままに手に取った。
古いロンドンの街を脅かした切り裂きジャックが有名な連続殺人鬼の代表格のような存在として知られながら、ついに逮捕されることなく未解決に終わっているという中途半端な伝説的事実。
それに近代という古臭い時代、ロンドンの石畳とガス灯の街路を馬車が歩くそんな時代にまで遡って結局は解決もしなかった事件を、作家の想像力で仕立てたり、調査した事実関係を並べられたりしても読むに値する物語ができるとはとても考えられなかったのだ。
しかしハンターには実績がある。ケネディ暗殺を独自の視点から描いた『第三の銃弾』、ロシアに実在した女スナイパーを題材にした『スナイパーの誇り』と、歴史を物語らせる最近のハンターの文学的手腕に対する信頼がある。なので、他の作家であれば手に取ることがなかっただろうこの切り裂きジャックテーマに挑んだ作家の手腕を改めて見てみようじゃないか、という気持ちになれたのだ。
そしてその手腕は裏切られることがなかった。切り裂きジャックの事件はなぜ未解決だったのか? 半年に満たない短期間に五人もの連続殺人を犯した切り裂きジャックはなぜ犯行を唐突にやめたのか? その二つの疑問に挑むハンターの想像力は『第三の銃弾』でケネディを暗殺しなければならなかった男の内面をモノローグで描いたと同様に、本書でも切り裂きジャックの日記を鬼気迫る武器として用いている。
さらに売春婦の手紙、雑誌記者の手記と三つの形式で物語を紡いでゆく。事実に基づくことから、シャーロック・ホームズと同時代であることも含めて、ロンドンの闇の回廊に蠢く殺人鬼と、推理する側の好奇心と、スプラッター映画のような過酷な殺害シーンとを。
数ある伏線とひねり抜いたストーリーにあっと驚く主要登場人物の正体など、遊び感覚を備えながら語る、語らせる、そんな技巧とツイストに満ちた上物ミステリーに仕上がっているのである。円熟のハンターはあの名作『真夜中のデッドリミット』からこっちずっと読者の心をとらえて離さないままなのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何故にスティーブンハンターが切り裂きジャック?つい先日、シェリーディクスンカーの切り裂きジャックを題材にしたタイムトラベルものを読んだばかりなので
事件にはちょっと詳しくなったところ。凄惨な事件ですが現在まで未解決であることでイギリスでは有名みたいですね。
小説での描写や実際の犯人の遣り口から現代ならDNA鑑定であっという間に捕まってしまいそう。
また1880年代ってシャーロックホームズと同時代なんですね。小説の中にも「緋色の研究」が発表されたばかりとの記述があります。
混沌としたヴィクトリア朝時代、ロンドンの下町の世相が良く判る、風俗小説として読んでも面白いです。
スカートを捲っただけで路上で出来ちゃう、西欧の娼婦って凄いですね。
小説の主人公には高名な実在の小説家(戯曲家?)を配し、一応犯人を追いつめて自滅させていますが、実在の人物なのかモデルがいるのか、その辺は詳しくないので
面白みには欠けます。欧米の作家なら、一度は扱ってみたい題材なのでしょうか、昔の事件を描くよりも、ボブザネイラーを活躍させてくれよ!と思う今日この頃です。 -
これまで、切り裂きジャックの犯人像に迫る作品を何冊か読んでいるが、これだけ明解に犯人像を示した作品は無かったのではないだろうか。やはり、信頼すべき作家スティーヴン・ハンターだけのことはある。もっとも犯人像はスティーヴン・ハンターの創作なのだが。意外な犯人像と、ただでは済まないストーリー展開。なかなか面白い。
連続娼婦殺人事件の犯人、切り裂きジャックの正体に新聞記者のジェブが音声学者のデア教授と共に迫る。
これまでの切り裂きジャック事件を扱った作品はさんざん証拠や事実を並べ、事件をこねくり回した挙げ句に犯人像は不明確で、フラストレーションが溜まる作品が多かったが、見事にスティーヴン・ハンターがこのフラストレーションを晴らしてくれた。