- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620107936
作品紹介・あらすじ
高架下商店街の人々と、謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうで、ささやかな秘密がからみ合う。『つむじ風食堂の夜』の著者によるあたたかく懐かしく新しい物語の始まり。
感想・レビュー・書評
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昭和な商店街と銭湯通い。
夕空の下、荒野で肉のかたまりを燻す女。
「未来の蛸」という名の、把手のない薬缶。
冷蔵庫の奥の奥で後光を光らせる蜜柑の缶詰め。
殴られたように迫力のある、母の殴り書き。
よく晴れた日に川辺で食べる厚切りベーコン。
クリームソーダが名物の老舗の喫茶店。
深夜遅く、ゆっくりと走りゆく幽霊列車…。
ひっきりなしに電車が行き交う、
さびれた高架下商店街の晴天通り。
古道具屋「むっつ」の店番、通称『はらぺこのB子』こと美子(よしこ)は、ある日たまたま行った銭湯で謎の女探偵と出会う。
平和な町に探偵が現れたことで商店街の面々が語り出す
平穏な日々の裏に隠されたそれぞれの秘密。
そして美子は定食屋で運命の恋に落ちる…。
とある町の、高架下商店街を舞台にした
じんわりあたたかい再生の物語。
腕のいい料理人は、どうしていつも同じように
「おいしい」と言わせることができるのだろう。
それは小説家も然り。
僕にとって吉田篤弘は安心・安定のブランドです。
今回は珍しく主人公が女性だけど、
相変わらずの心地よさと
詩的で寓話的な世界観。
読み終えた時、昔の友達に出会い、とても長い旅から帰ってきたような気持ちになりました。
主人公は
いつもお腹を空かせた肉食動物で
通称=はらぺこのB子(美子)、32歳。
( 古くて役に立たないものを扱う古道具屋「むっつ」の店番)
蓮っ葉な物言いでド近眼のとんぼ眼鏡をかけた、
美子の大学以来の友人の
通称=のっぽのサキ。
(輸入雑貨店経営)
酒と煙草で潰れた低い声で
瓶のコーラをらっぱ飲みする(笑)、
喫茶店ベーコンの店主で
ワイルドな『姉さん』こと、奈々さん。
店を美子に任せ
毎日気楽に寝て暮らしている、
「むっつ」の経営者、むつ子、62歳。
そして、美子が毎週水曜日にしか行かない『日の出湯』で出会った、
銭湯好きの女探偵。
以上の主要登場人物がみな、ホント愛すべき人たちで、
なんとな~くゆるゆると生きている美子の日常が淡々と描かれていきます。
それにしても、『古道具屋の娘×謎の女探偵』という設定だけで僕は十分に惹きつけられたのだけど、
それプラス『商店街』と『銭湯』という、
僕にとって魅力的過ぎる二大モチーフが物語を動かしていくのだから、
トッピング全部載せのスペシャルカレーを
思いがけずご馳走になった気分で(笑)、
終始ご機嫌な読書体験でした。
美子が店主の声に惹かれて通っている定食屋、『太郎食堂』。
もう二度と食べないと思いながら、毎度毎度頼んでしまう『アマノ・ピザ』。
ベーコンとコーヒーとパンさえあれば生きていけるという奈々さんの思いが店名となった『喫茶店ベーコン』。
にぎりめしの文字がおどる赤提灯が目印の食堂『やおき』。
などなど昭和テイストが色濃く残る高架下商店街がまた
いい味出してるのですよ(笑)
(客なんてほとんど来ないから
みんな半分道楽で店を開けている感じがいいし、ちまたにある『客が来ないのに何故か潰れない不思議な店』を思い出してしまいます笑)
中でも、二の腕にBaconの入れ墨を彫った『姉さん』が
荒野で仕入れてきた特製ベーコンを使ってワイルドに調理された
「荒野のベーコン醤油ライス」の描写の
メガトン級の破壊力には
誰もが抗えず読み終えたその足でベーコンを買いに走るくらい、
よだれタラタラになります(笑)
いつものような
『ここではない、どこか』な感覚や
異国情緒はあまり感じられないけど、
(今回はいろんな意味で、どこにでもある日本の下町に限定されたイメージです)
静かに降り注ぐ雨のようにやわらかな筆致と
研ぎ澄まされた言葉選びのセンスと
吉田作品の根底に流れる
いつかは消えてなくなるものへの
憧憬と鎮魂は
十二分に堪能できる作品です。
美子の周辺に何度も現れる女探偵の目的とは?
定食屋で憂いのある横顔に一目惚れした美子の恋の行方は?
雨降る夜にまったりと読みたい小説です。 -
大好きだなぁ。
幸せだなぁ。
なんでこんなに素直な気持ちになれるんだろう。
吉田篤弘さんの文章は不思議。
恵みの雨みたいだな、なんて思う。
ドラマチックな一生なんて要りません。
いや、憧れがないと言えば嘘になるかもしれない。
でもきっと居心地が悪いし、生きた心地がしないだろうと思う。
美子さんの過ごす毎日は、小さな自分の空間と気の合うご近所さんとささやかなお気に入りで構成されている。
晴れも曇りも雨もいいよねと言える天性の楽天があればいつでも気持ちは晴天。
ちょっとした秘密がいつか秘密じゃなくなる日が楽しみなそんな毎日。
ゆるやかに過ぎる時間の中で少しずつ変わっていく美子さんと一緒に、私も少しずつ変わっていく。
本当は毎日奇跡は起きているんだってことを信じさせてくれる。
嘘みたいに優しいけど嘘じゃない。
いつでも心の中にいてほしい物語。 -
この間(ま)が好き。
お正月にのんびり読むには最適本。
高架下の生活、電車の音、銭湯。
出てくる人みんな、いそうでいない。
ただぼんやりと進むようで、いたるところに伏線あり。
って、ミステリーではないんだけど(笑)
こんな気分でずっと過ごしたい、そんな世界。 -
不思議な事に
活字を読んでいる、という意識が自分にはまったく無い。
何かを眺めているような。
ただ、感じているだけのような…?
そして、手にしているのは
『本』ではなく
『箱』
開く(ひらく)というより、
開(あ)けました。
そんな感覚。
わくわくしますよー。
開けちゃいけないつづらを前に
(何がはいっているんだろう?)と、佇む瞬間や、
名前も知らないけど、恋する彼に関する『情報』が書かれた手紙をうけとった瞬間とか。
なにごともない、晴天の日だからこそ、
小さな『秘密』を心から楽しめる…。
日常をかるく揺らしてくれるよな柔らかくて温かな物語。-
わぁーっ!!
コレ気になってたんスよね〜(*^o^*)
それにしてもMOTOさんの独特な表現は
いつも面白くて想像力を刺激する...
わぁーっ!!
コレ気になってたんスよね〜(*^o^*)
それにしてもMOTOさんの独特な表現は
いつも面白くて想像力を刺激するし、
ハッとさせられるなぁ〜♪
『本』ではなく
『箱』を手にしているような感覚か〜
確かに目の前に箱があると
ワクワクして、
そして何が出てくるんだろうって
ドキドキしてきますよね(>_<)
あと出てくる内容によっては
背徳感を感じて
余計に虜になっちゃったり(笑)
ああーっ
なんかブレーキの壊れた
妄想特急が暴走してまいそうっスよ(汗)
2013/06/26 -
円軌道の外さんへ
わぁーっ!!
そんなに褒められると、めっちゃハズい~~^^;
(でも、うれすいっす。ありがとっ~^^♪)
実はビッ...円軌道の外さんへ
わぁーっ!!
そんなに褒められると、めっちゃハズい~~^^;
(でも、うれすいっす。ありがとっ~^^♪)
実はビックリ箱を作るのが好きなんです。^^;
さすがに箱を渡した時点で、すでに(またあれか)と、気付かれるようになりましたが、
(どんな仕掛けで驚かせてやろうかな?)
と、それ考えてる時が、めっちゃ至福の時なんです^^♪
多分、自分もその先が謎のモノ、に惹かれるからかな?
うん、
ドキドキしますよね~~
うんうん、
虜になる事もあるある♪
吉田さんの本の表紙は、ちょっとだけ開いてるような気がするんです。
開けたら舞う、紙ふぶきとかがはいりきらなくて!
イメージですよ、あくまでイメージね♪(笑
2013/06/28
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高架下の商店街で謎の道具屋を営む主人公。先日、吉田さんのエッセイで神戸が好きだという事を知ったので、もしかして神戸元町の高架下が舞台?と思い、以後それを思い浮かべながら読んだので舞台背景がすんなり自分の中に入ってきた。
空の見えない商店街で毎日を過ごし、行動範囲も大体屋根の下。でも、主人公にはしっかりと晴天が見えているんだろうと思えた。一見暗そうな高架下の話なのに、結構前向きで、爽やかな話だったように思う。吉田さんの本の中でもかなり好きな世界観だった。 -
あたたかい気持ちでいっぱいになった。
お話に漂う空気が、たまらなく好きです。
いま自分のいる場所とそこにいる人たちが、
好きだな、大切だなぁって気付くこと。
そう感じたとき、日常も自分も、少し、変わってゆく。
毎日が晴天ではないから、晴れたらいいねって言える。
雨の日も曇りの日も、過ごし方を考え楽しむ。
それもまた、良しって思える。
心持ちひとつで、いつだって、心は晴れているんだよね。
そして、出てくる食べもの・飲みものが今回もおいしそう....!
ベーコン醤油ライス、クリームソーダ。
ひさしぶりに銭湯にも行きたくなったのです。 -
女探偵?
いえいえ、吉田先生の本はミステリーには
カテゴライズいたしません。
情景を思い描いて、私もただただ、
高架橋の下でひっそりと電車の揺れに身をゆだねて居たいです。
これも、一字一句大事に読んだ本です。
手放せないので、ささやかでもない私の書架に残す一冊。 -
変わった小説だなあ。これが初発感想です。
出だしを読みつつ、寂れゆく高架下商店街の日常風景を描いた、のほほんとした小説かと思ったのですが、読んでみると少し違っていました。
のほほんとはしていたけれど、クライマックスやオチもきちんと (?)あり、読後にほのかな温かみが残る作品でした。
まず感心したのは高架下商店街の怪しげな雰囲気が感じられる絶妙な描写です。各店舗の猥雑さなどはもう目の前に浮かぶようで懐かしくさえありました。
登場人物もなかなかいい。ベーコンのママ、サキ、むつ子オーナー、そして元探偵の八重樫。
その個性的な面々が、かなり浮き世離れした主人公・よしこがゆるゆると自立に向かう手助けを(意識するしないに関わらず)するのにピッタリでした。
『なにごともなく、晴天。』
タイトルどおり、よしこの行く末にあるささやかな日常と幸せが見えるようです。 -
高架下の商店街で店を任されているB子と、商店街の面々。
日常の中にある「実は」というようなささやかな秘密。
でもそれは、決してなにごとでもない。
ふんわり優しいお話。
ささやかなB子の暮らしぶり、高架下商店街の人との関わりがとても好ましい。
慎ましく、どちらかと言うと貧相なもののようでも、上品で豊かで素敵だなと思いました。
銭湯で出会った元女探偵との秘密も、鼻の奥がツンとくるようなもので、なにごともないストーリーの中で、B子の今後に大きな影響をもたらすものだったなと思います。
著者の作品、かなり好みです。
他の本も是非読み続けたいと思います。