明日なき今日 眩く視界のなかで

著者 :
  • 毎日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620318011

感想・レビュー・書評

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  • 未明に読んだ。辺見庸の作品はどれもそうだが、何度も胸を衝くような読書体験だった。
    午前5時。本を置いて、私の喫煙場所である増築スペースで一服する。あたりは暗い。森閑としている。いや、1時間前より暗いくらいだ。夜明け前が一番暗いとものの本で読んだが、実際、闇が濃くなっているように思った。
    たばこをふかしながら、星空を見上げ、訝しむ。このまま夜が明けなかったらどうしよう、という不安が、頭をよぎる。7時を過ぎて闇夜のままだと、一体どうなるだろうと想像してみる。
    初め、人々は往来へ出て、ひそひそと囁き合うだろう。やがてNHKあたりが、番組を変更して夜が明けない今日について特集し、民放も追随する。戸外がざわついてくる。絶叫も聴こえる。犬の遠吠えがそこに交じる。
    それでも恐らく多くの人は、私も含めて職場へ赴き、テレビを横目に精励するだろう。
    オウム真理教のサリン事件の時だって、構内で倒れた人を放って多くの人は会社へ急いだというし、阪神大震災の時だって街が倒壊しているというのに返却期限の来たビデオを返しにレンタルビデオ店へ向かった人がいたという。
    習慣とは、我々が想像しているよりも、はるかに強靭なものだ。
    やがて数日もすると、闇夜が日常になる。笑いさざめき、会社の愚痴を言い、「がんばろー」という唱和に自分の声を重ねる。「アラスカあたりでは夜が明けたらしい」というデマが飛び交う一方で、「闇夜は努力で超克できる」と喝破する本も出版され、それなりに売れるだろう。「闇夜はビジネスチャンス」というテーマのセミナーも盛況になるだろう。闇夜でさえ、商品化され、消費され尽くすのだ。
    そのうち誰も、闇について、語らなくなる。
    辺見庸のいう滅亡とは、実のところ、そのようにして訪れるのではないか。夜はまだ明けない。

著者プロフィール

小説家、ジャーナリスト、詩人。元共同通信記者。宮城県石巻市出身。宮城県石巻高等学校を卒業後、早稲田大学第二文学部社会専修へ進学。同学を卒業後、共同通信社に入社し、北京、ハノイなどで特派員を務めた。北京特派員として派遣されていた1979年には『近代化を進める中国に関する報道』で新聞協会賞を受賞。1991年、外信部次長を務めながら書き上げた『自動起床装置』を発表し第105回芥川賞を受賞。

「2022年 『女声合唱とピアノのための 風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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