世界まちかど地政学 90カ国弾丸旅行記

著者 :
  • 毎日新聞出版
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本棚登録 : 291
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620324999

作品紹介・あらすじ

世界の面白い街の経済を地理と歴史で読み解く!
経済の現実から、日本の未来のヒントを探す旅

世界90カ国を踏破した「行動するエコノミスト」である著者がライフワークとする「世界ぶっつけ本番の旅行記」。
行ってみて初めて分かる現実とは、テレビやネットに載らない世界経済の意外な姿だった。

・低賃金のイメージが強いアイルランドは、実はイギリスの1・5倍も豊かである!
・カリーニングラードなど第二次大戦後からロシアが占拠する軍事拠点があるため、北方領土の返還交渉は望みなし?!
・軍隊を持たないパナマが独立を維持できる理由とはなにか?
・空気の薄いラパスでは、富裕層ほど空気の濃い低い土地に住む?!

土地土地の魅力あふれる「街」の成り立ち(歴史)と条件(地理)、そして日本との比較を通して、世界経済の今と未来を読み解く!

感想・レビュー・書評

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  • 偏差値の高い、でも肩肘張らない旅行記!
    旅好き仲間の先輩からお勧めいただき、読了。

    最近めっきり一人旅には行かなくなってしまったのですが、ダレかねない一人旅には特に、テーマがあるとハリが出ます。
    事前に本を読んで、政治的・歴史的な背景について少し深めの学習をして現地に行くと、街の風景も少し深めの「匠の目線」で見られるようになるのです。
    本著の場合は、基本的に「予習なし」で現地に向かっているのですが、元々幅広い著書を持つ著者だからこその深い知識のバックグラウンドと結びついて、「この場所は北方領土と同じ」といった的確なアナロジーでのコメントができるものだと思います。

    本著の行き先は、フツーの旅人が行かないエリアを集めているあたりで既に面白い訳ですが、台湾や韓国のような馴染み深いエリアであっても、目の付け所が違う印象。文体には出てこないですが、よほどのバイタリティがないとこんな旅はできない。同じ旅人として尊敬します。
    巻末には地政学的な観点からの自著解説が載っており、これは短いながらも考えさせられる文章でした。抽象的な学術論ではなくて、現実に根差した「だから日本はこうなる」が説得力のある論でした。

    細かいトコで、中国語の発音は、特に台湾は現地発音となんか違うルビが振ってありましたが、漢語の表記はこうなんだというのを後で調べて理解しました。

    旅好きとして、旅のレベルを一段上げられそうな一冊です。

  • 藻谷さんが講演会のついでに、とか時間が空いたから、あるいは計画的になど色々な事情や理由によって自腹で現地にいって歩いて体感した旅行記です。誰かのためじゃなく、自分が見たい知りたいから行くというこの姿勢に圧倒されます。
    ちなみにこの本は毎日新聞社のネット「経済プレミア」に寄稿した掲載分を単行本化したものだそうです(残念ながら2021.8.30が最終稿)。
    旅行記といってもいわゆる観光地じゃない、ちょっと日本からは行きづらそうな所ばかりです。ビザや現地の交通機関などもかなり詳細に調べてから現地へ旅立ち(一種の鉄オタさんみたいな感じでしょうか)、そのあたりの紹介も楽しいです。
    現地の紹介はどれも楽しく、地理の全くわからない私は家にある世界地図片手に読みましたが、マニアックすぎて(私の持っている地図がショボいという話もある)地名が検索できないところも沢山ありました。
    中程に藻谷さんへのインタビューがあります。そこに地理は歴史の微分、歴史は地理の積分とありました。
    以下抜粋「歴史を勉強していない人が外国に行って書くことは、建物がこんなにきれいとかご飯がこんなにおいしい(あるいはまずい)とか。どうしてこのような建築物がたっているのか、どうしてこのよう料理が生まれたのかという歴史的な経緯にまったく触れていない文章は、読んでいて全く面白くないのです。」
    ・・・・なるほど、なんかめちゃ納得です。
    最終章の自著解説もはぁとため息がでるくらい説得力というか勉強になるというか。地政学に少し興味がでてきてランドバワーだとシーパワーだの一帯一路など知り始めた私ですが、なんというか一人の識者の話を鵜呑みにするのではなく色んな方の話や事実を知った上で納得するというのが庶民のワタシには大切なのだと学びました。
    藻谷さんは地政学を「歴史に照らし、ある地理的条件の場所ではどういう人間活動のパターンが繰り返される傾向にあるのかを発見する学問である」と書かれています。また今の時代はハードパワー(軍事力)よりソフトパワー(経済力など)の方がよほど重要な地政学上の要素になっているので他国に進出するのにハードパワーを行使するなど下の下の超低パフォーマンスだと。
    紀行先の国だけではなく我が国日本や日本人を含めて痛烈な批判や憂慮なども書かれているけど素直に反省したくなるような愛あるものであり次作もきっと読むぞと心に違いました。
    図書館でふと目にして手に取りましたが大当たり。

  • 「航空機の乗り継ぎ時間を利用して、成田山だけを弾丸観光し日本を理解するような覚悟」という、筆者の全力な姿勢が好きです。行先も日本人が普通観光で訪れないような、非常にマイナーで複雑な歴史を持つ地域ばかりであり、旅行超上級者ならではのチョイスです。高校の世界史の授業で何となく地名は知っているけれど、実際にどのような都市なのか一切イメージできないところが紹介されています。有名どころばかりを歩いて世界を知って満足する人生は勿体無いです。コロナ禍で満足して旅に行けない時期だからこそ、改めて地理歴史を学んで知的好奇心を高め、コロナ後に自分流の旅で世界観を広めることができるよう、準備しておきたいと思いました。

  • 「二時間だけ入国して成田山新勝寺に立ち寄った外国人が、それだけの経験から日本を語る」というような覚悟と気合

    人は知識だけで頭でっかちになりがち。
    それを強く理解させてくれる旅行ノンフィクション。

    旅は「地理」と「歴史」の味わい方で、大きく跳ねる。
    というよりも、地理と歴史を感じれなければ、薄い時間と経験だけに。

    人類の歴史そのものが、国境を複雑怪奇にしている。
    歴史の闇が、いまだに各地で残りまくっている。

    人が見ただけで解ったフリをするのが理解できた気がする。
    ちゃんと国境を知れば知るほど、解決出来ない問題が心に入って来るからだ。

    旅をする時に用意や準備をしていく。

    だけど。
    行きたいとこ・知りたいことを、ただなぞるだけの旅だけの、何と多いコトか。

    行き当たりばったりがイイとは言わないけど、感動や思い出に残る旅の時間にするヒントが、たくさん隠されていて、面白かった!

    「世界は行かなきゃわからない」

  • アゼルバイジャンやケーニヒスベルクといった歴史の交差点のような場所に訪れる。
    狙っている土地も面白いのだけどそれ以上に単なる感想ではなくて観察を抽象化し、他所との共通項や、重ならない点の考察になっているところが面白い。個人的にいわゆる観光地よりも歴史的に人物の行き交う場所という所に興味があるのでいつか追体験してみたいものだ。
    地政学と言うと戦争の話になりがちなところに違和感を持っていたがその違和感の理由を解き明かしてくれた。

  • ベルファスト 20世紀初頭 タイタニック造船
    造船や航空機産業の拠点

    暗記勉強ばかりしていた日本の知識人に不足しているのは、知識というテキスト情報ではなく、類推を通じて情報の縱橫に串を指し、全体の構造を把握する訓練です

    歴史は繰り返すと言うのは、まったく同じことが繰り返されるということではなく、同じ構造がくり返し再現されるということです。過去の出来事から構造を理解すれば、未来の出来事も予測できるわけです

    文化は辺境に残ると言われる

    台湾新幹線 2時間弱 5500 ビジネス 8100
    新幹線なら10,000 15,000
    NY-DC 3時間以上かかって二等でも3万

    日本人が、日本の優れた新幹線システムと力めば利組むほど外国人は買わないだろう。言えば言うほど、あのマメでクソ真面目な日本人でしか運用できないシステムと聞こえてしまう、というのである。その点中国で広汎に定時運行しているシステムと聞けば、自分たちにも使えるかもしれないという印象を与えやすい

    商売は客の側から考えなくてもは、売れるものも売れなくなることは自覚しておいていいだろう

    日本人は人口集積は産業集積の結果だと、思い違いをし、仕事があるからと称して高いに集まりたがる。そうではなくて21世紀の地球では、人口集積は個人の消費の結果としても形成されるものなのだ

    ヘロドトスがいったとおり、地理と歴史は表裏一体なのだ

    パナマ運河の競争相手 米国に4本、カナダに1本ある大陸横断鉄道

    地政学 歴史に照らし、ある地理条件の場所ではどういう人間活動のパターンが繰り返さえる傾向にあるかを発見する学問です
    アナロジー類推を用いて、表層的な事象に縦横に駆使を指し、背後にある構造を把握するのです
    歴史は繰り返すというのは、まったく同じことが繰り返されるということではなく、同じ構造がくり返し再現されるということです。過去の出来事から類推し、地政学的な構造を理解することで、今起きていることがより本質的に理解できますし、未来の出来事も予測できます

    日本の地政学的位置 良くも悪くも(多くの場合には圧倒的に良い意味で)他の世界から放置されやすい場所です

    核の傘論ろは、米国が原爆を落とした現在を正当化するために無理に作っている議論、現実主義的な考え方の対局にあるイデオロギーだと言う面が多分にあります。

    戦争が得でなくなった今の時代に戦争をするのは、経済的にな損得で行動しない人たち 3種類 1 宗教的熱狂で動く人 2 多民族混沌の場所において、自民族以外の暴力的な追い出しを目指す民族主義者 3 自己の権力の維持強化のために経済的な損も辞さずに紛争を仕掛ける権力者

    ちなみに日本はその中国(+香港)から3兆円の経常収支黒字を稼いだ勝者の上にたつ勝者

  • 面白いコンセプトだと思う。短い滞在期間でその国を論じるという割り切り方がすごい。しかも、馴染みの国ばかりで、興味深くもある。一方で、それだけ短い滞在期間であるならば、実際にはいかなくても本書を書けたのではないかという気がしないでもない。読み手の好みが大きく分かれる本だと思う。

  • 政投銀の著者の世界紀行。カリーニングラード、英国、カフカス、スリランカ、東亜三国、南北米州と世界を周っている。筆者が実際に体感したことから考察が展開されているが、その場に行かないと正しいかわからないので何とも言えない。洞察が鋭いことは分かる。本文は視点が一歩引いており、現地においてもマクロな視点を捨てていないところはやはり政投銀なのかと感じる。気になったのは、本文に通底するリベラリズム(国際政治)的価値観。地政学を類似から地理学的な構造を明らかにすることと規定しているのに異論はないが、国際経済の相互依存が絶対に戦争を引き起こすことはないと固く信じているようだ。経済力(ソフトパワー)一辺倒ではなく軍事均衡とバランスを持った見方も大事と思うのだが。まあ安全保障の分野の人ではないのでそこは話半分に。カリーニングラード:独の北方領土
    英国:4地方のBrexit,Irelandとの葛藤
    カフカス:民族と資源の混沌
    スリランカ:インドと中華の狭間で
    東亜三国:鉄道の規格の話
    南北米州:QOL街づくり、リチウム、パナマ
    旅の極意:定点観測、犬棒、現地人と交流、アナロジー
     2022/1/20

  • ただ旅をするだけじゃもったいない、その土地の空気を感じ、歴史を調べ歩くことで何倍にも濃厚な時間になると実感。もう一度世界史を学び直しながらまた読みたいかも。

  • 著者が毎日新聞インターネット版に連載している「藻谷浩介の世界『来た・見た・考えた』」の中から選んだ記事をまとめた本の第一弾。
    本書で登場するのはカリーニングラード(ロシア飛び地)、イギリス(特にアイルランドと北アイルランド)、旧ソ連コーカサス3カ国(アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニア)、スリランカとミャンマー、パナマとボリビア、台湾・韓国・中国の高速鉄道比較など。
    地理を高校で選択していたら「興味が沸くけれども、自分が行くとなるとハードル高いなぁ」、という国々がズラリ。興味深い記述を抜粋します。
    「ロシアにとってカリーニングラードと比較して重要性のかなり低い北方領土で日本に譲歩してしまうと、ドイツやポーランドとの複雑な利害関係の絡むカリーニングラードの返還問題に飛び火する恐れが出てくるから、ロシアがカリーニングラードより先に北方領土の返還に応じるはずがない」、
    「スリランカに多額の貸し付けをして経済的に抑えようとする中国の外交を批難する見方があるが、隣国インドからの脅威から自国を守るために中国の存在を利用するやり方は、日本が中国からの脅威から自国を守るためにアメリカに基地を提供している構図と同じ」、「台湾が高速鉄道建設の際に日本の新幹線技術を導入し、韓国がフランスの新幹線技術を導入したのは日本に対する感情論によるものではなく、台湾の鉄道が狭軌であったため、標準軌の高速鉄道が相互乗り入れしない日本の新幹線技術との親和性が高く、すべて標準機の鉄道網だった韓国では相互乗り入れ方式のフランスの技術との親和性が高かったから」などなど、です。
    藻谷氏のインタビュー記事も掲載されており、その中で最も腑に落ちたのは「地理は未来に続く歴史の現時点での断面であり、歴史はその時代時代の地理が積み重なっているという点で、”地理は歴史の微分、歴史は地理の積分”と考えられる」、「暗記勉強ばかりしてきた日本の知識人に不足しているのは、類推を通じて情報に横串をさすことだ。過去の出来事からその構造を理解すれば、未来の出来事も予測できる」という部分でした。
    地図帳を片手に読んでいると、「なるほど!」と思える部分が次々と出てきます。地理好きな人、是非読んでみてください。

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著者プロフィール

1964年、山口県生まれ。㈱日本総合研究所調査部主席研究員。1988年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行 (現、㈱日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年度より現職。政府関係の公職多数。主な著書に『実測!ニッポンの地域力』(日本経済新聞出版社)、『デフレの正体』(角川oneテーマ21)。

「2012年 『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藻谷浩介の作品

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