- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620326658
作品紹介・あらすじ
究極のステイホーム文学集、誕生!
『絶望名言』『絶望図書館』の名ガイドがおくる、「部屋から出られない人々」のためのアンソロジー。
感想・レビュー・書評
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13年間のひきこもり経験のある著者の選ぶ「部屋から出られない人のための」アンソロジー。私はひきこもるタイプではないけど、今までにない視点で物語を読むことができて、とっても満足です。
引き篭もり止めたら、こんな楽しいことがあるよ、というような物語は12のうちひとつもありません。引き篭もるとこんな新しい発見があるよ、という話がほとんどです。ひきこもり部外者には、ひきこもりたちの声にならない声の代弁を聴いた気になります。朔太郎やカフカや星新一やポーや萩尾望都が、代弁をやってくれている。
私としては、岡山在住の日本民話の会会長立石憲利さんが採取した「鬼退治に行かない桃太郎」がお気に入り。完全岡山弁で、みんな意味わからんところもあるじゃろうけど、とっても身近じゃった。
萩尾望都の「スローダウン」(1985.1発表)。一度読んだはずなのに、ひきこもり漫画として紹介されると、おゝそういう見方もあるのか!と発見。その見方から見ても物凄く秀逸な作品なんだとビックリしました。五感全ての感覚を遮断した部屋で暫く過ごさせる実験。それをやると、「現実感覚」が変化していく、と頭木さんは言います。そういう時にふっと現れた「人の手」が特別なものになるという。頭木さんは、「どうしてあの感覚がわかるのか」「天才恐るべし」と書いています。「一度きりの大泉の話」を読んだ今、なんとなくわかる気がするのです。
「小説を読んで、心に残るフレーズがひとつでもあれば、それはもう読む価値はあった」と頭木さんはいいます。大きく肯首します。アンソロジーというものは、それを手助けする格好の方法だろう、と思います。頭木さんが多くのアンソロジーを編んでいるのはそういうことなのでしょう。
本書は、ひきこもりの方も読めるように、本と電子版同時発行だそうです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自らも13年間ひきこもりだったという頭木弘樹さんが編集したひきこもりがテーマの世界初かもしれないアンソロジー。
全部面白かったです。
萩原朔太郎の『死なない蛸』は水族館の水槽の中で誰からも存在を忘れ去られた蛸を描いた散文詩。
そして頭木さんといったら忘れちゃならないカフカのひきこもりに関する名言集。カフカ自身はひきこもり状態にはならなかったようだが、ひきこもりチックな願望が見て取れる。
岡山県の方言が珍しい’鬼退治に行かない’『桃太郎』。『桃太郎』はいろんなバージョンがあるらしい。
星新一の『凍った時間』。高度なサイボーグであるムント。自分の姿が嫌で人々の視線を避け、ひきこもっていたがーーー。さすがのキレ。
ポーの『赤い死の仮面』。疫病に侵された世界から逃げるように城に閉じこもった城主と千の人々。ケレン味がある。
SFコメディの梶尾真治『フランケンシュタインの方程式』。宇宙船の中、酸素は一人分。乗員は二名。
再度登場の萩原朔太郎のエッセイ『病床生活からの一発見』。朔太郎版・病気になってから気づいたこと。
大正時代のニートが主人公の『屋根裏の法学士』宇野浩二。
日本でも人気の韓国作家ハン・ガン『私の女の実』。これはこのアンソロジーが初訳だそう。訳者は斎藤真理子さん。妻の体に表れた緑の痣。その痣はどんどん大きくなりーーー。
安部公房が褒めていたというロバート・シェクリイの『静かな水のほとりで』。宇宙の果てのある男とロボットと‘マーサ’の話。
萩尾望都の漫画『スロー・ダウン』。青年は実験に参加している。何もない部屋でずっと過ごすという実験をーーー。
番外編にひきこもらなかったせいでひどいめにあう話。これは『雨月物語』から一編。
ラストはあとがきと作品解説。
頭木さんの選書センスに参りました。
各作品前の頭木さんの前口上も上手く、その作品にスウッっと入って行ける。
ひきこもったことのある方には共感を、そうでないかたには発見を届けてくれる、かもしれない。-
5552さん、お久しぶりです!
そして、『アバウト・ア・ボーイ』へのコメント有難うございます。
ホント、心温まる作品ですよね♪
ウィルがマ...5552さん、お久しぶりです!
そして、『アバウト・ア・ボーイ』へのコメント有難うございます。
ホント、心温まる作品ですよね♪
ウィルがマーカスと舞台で歌っている姿に涙が出ました。歳を取ると涙もろくなって困ります。
それから 情報、有難うございます。
ニコラス・ホルト、検索してみますね!2021/04/10
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5552さんのレビューから読みたくて。頭木さんの優しい言葉に引き寄せられ味見をしてるような気分になるアンソロジー。梶尾真治、ロバート・シェクリイが面白くてもっと知りたくなった。宇野浩二が乱歩の屋根裏につながるというあとがきも楽しい。
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111108さん、はじめまして
レビューに私のハンドルネームがあって、ドキリとしました。
読んでくださり嬉しいです。(私が作った本じ...111108さん、はじめまして
レビューに私のハンドルネームがあって、ドキリとしました。
読んでくださり嬉しいです。(私が作った本じゃありませんが)
アンソロジーってお得感ありますよね。
頭木さん編著の前2作『絶望図書館』と『トラウマ文学館』も、機会がありましたらどうぞ!2021/04/12 -
5552さん、はじめまして。そしてコメントありがとうございます!
5552さんのレビューに心動かされて読んだので勝手にハンドルネームのせち...5552さん、はじめまして。そしてコメントありがとうございます!
5552さんのレビューに心動かされて読んだので勝手にハンドルネームのせちゃいました。
アンソロジーは食わず嫌い無くすのにいいですよね。頭木さんの2冊、ぜひこれから読みたいです。2021/04/13
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私は、高校中退後に何年か引きこもり状態でいたことがあり、その時は本当に最悪だった。
人間不信に加え、大学で何か学びたいわけでもなく、かといって、やりたい仕事もなく、ただ推理ものやファンタジー小説を読んでいただけの日々に、これも生きているということになるのだろうかと、思ったものだ。
そんな事があったもので、もしその時に本書を読んでいれば、果たしてどうなっていたのかということに興味を持ち、本書を読んでみたわけなのだが、まず惹き付けられたのは、カフカの「ひきこもり名言集」と、宇野浩二の「屋根裏の法学士」だった。
ただ、カフカは正直ざっくりし過ぎた表現が響かなかったが、宇野浩二は良かった(両者の共通点は、ひきこもりに正しいも間違いもないということ。まあ本人の責任は伴うが)。
読んでいて、思わず想像してしまう、そのダラダラ感と太々しさ。けれども、おそらくそれは彼自身の虚構と精一杯の見栄であり、本音は切ないものも秘めていたのだろうなと感じさせる、その心情に胸が締め付けられて、大正7年当時に書かれたというのも、とても励みになった。
また、萩原朔太郎の作品が二点収録されていたことも印象的で、「死なない蛸」は、彼自身、周りから謂れのない距離を置かれていたことに対する、存在価値の普遍性を吐露したように感じさせ、「病床生活からの一発見」は、正岡子規の無味平坦な歌への理解にも共感したが、それ以上に、侮辱された一婦人の為に腹を立て、悲しくなって泣いたエピソードに彼の優しい人柄を感じさせ、昔読んだ、鯨統一郎の「月に吠えろ!」を思い出した。
そして、星新一の「凍った時間」は、ムントの無表情な表情の奥に垣間見える、心と涙に胸を打たれ、見た目だけで判断される悲しみは、まるで障害者に対するそれのようにも思われ、梶尾真治の「フランケンシュタインの方程式」は、一転してコントを観ているような面白さが印象深いが、所々のブラックな味付けで軽い内容にはしておらず、ポーの「赤い死の仮面」(品川亮の新訳)は、自分の事だけ考えていると、こうした報いを受けるといった教訓ものっぽく見えたのが、ポーの作品にしては意外に感じられた。
それから、ハン・ガンの「私の女の実」は、『ここではないどこかへ』ということの、夢と現実の辛さを思い起こさせる一方で、一欠片の自由も感じさせた、私にはとても沁みる内容で、このアンソロジーの為に初訳してくださった、斎藤真理子さんには感謝しないといけない。
最後に、まさかここで初読みできるとは思わなかった、萩尾望都の漫画、「スロー・ダウン」。
そこには極限状況に置かれた者しか分からないような、確かな真実の在処を教えてくれた気もしたが、それとは別に、ここでの『手』の存在には、おそらく当時の私にとっても、誰かに差し伸べて欲しかったと思わずにはいられなかった、確かな真実の訪れのようにも感じられた。 -
ひきこもりのアンソロジー。
ひきこもりを否定することはない。
なんらかの事情があるのだから…。
出たくなければ出なくてもいいじゃないか、と思うほうである。
自分もいつ、突然に引きこもるかもしれないわけで。
それは、わからない。
ひきこもらずに一生を終えるかもしれないし…。
どうなるかはわからない。
たとえば、萩原朔太郎の「死なない蛸」は、存在しないものと思われると悲しいが、魂はある。
たしかにそこに居る、自分がわかってれば良いじゃないかと思わせる。
想像以上のかなり上をいくのが、ハン・ガンの「私の実」である。植物で活きた心地になるならばそれを完成形というのだろうか。
萩尾望都の「スロー・ダウン」は、感覚遮断実験を描いているが、特に手の感覚の凄さをあらわしている。
誰かの手に触れることですべての機能が目覚めるかのような…。
意識しなくとも握るという感覚は、ずっと残るのだろうか。
とても不思議な感覚で読み終えた。 -
【収録作品】ひきこもっている間に忘れられる-散文詩 「死なない蛸」 萩原 朔太郎/ひきこもり願望-ドイツ文学「ひきこもり名言集」 フランツ・カフカ(Kafka,Franz) 選訳/頭木 弘樹 /鬼退治に行かない桃太郎- 昔話「桃太郎 岡山県新見市」 編著/立石 憲利/差別によるひきこもり-ショートショート「凍った時間」 星 新一/感染を避けるためのひきこもり-アメリカ文学「赤い死の仮面 The Masque of the Red Death」 エドガー・アラン・ポー(Poe,Edgar Allan) 新訳/品川 亮/ひきこもりによる物の見え方・感じ方の変化-エッセイ 「病床生活からの一発見」 萩原 朔太郎/部屋から出られない苦しみ-日本SF小説「フランケンシュタインの方程式」 梶尾 真治/ニートのつぶやき-大正文学「屋根裏の法学士」 宇野 浩二/ひきこもりと植物-韓国文学「私の女の実 내 여자의 열매 」 ハン ガン (韓 江) 初訳/斎藤 真理子/究極の孤独-アメリカSF小説「静かな水のほとりで Beside Still Waters」 ロバート・シェクリイ (Sheckley,Robert) 新訳/品川 亮/ひきこもり実験の結果-漫画「スロー・ダウン」 萩尾 望都/番外編「ひきこもらなかったせいで、ひどいめにあう話」 頭木 弘樹
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12編のアンソロジー。しかも、内容は、ひきこもり。
館長(編者)のいうことには、自身の引きこもり生活、コロナによる生活の変化など、そういった好む好まざるに関わらず、狭い世界に閉じこもる生活を否定も肯定もせず、その中で起きる心の変化を自分に引き寄せて読んで欲しい、とのこと。
私自身はスポットライトの当たる場に出たこともあるし、良くも悪くも目立つらしい(友人、同期曰く)。
しかし、内向的な性格で、趣味といえば、読書(漫画や雑誌含む)、美術鑑賞で、1人でいる時間が至福。
だからコロナで外に出られないことの何がそんなに苦痛なのかよくわからなかった。
なんだったら今まで、「友達多くてスポーツ大好き」みたいなのがいいみたいな風潮に違和感を覚え、なんでそいつらばっか持て囃されるんだ畜生めざまみろと、隠キャまっしぐらだった。
さて、本書では萩尾望都「スロー・ダウン」、エドガー・アラン・ポーの「赤い死の仮面」、星新一の「凍った時間」シュクリィの「静かな水のほとりで」ハン・ガン「私の女の実」が印象に残る。
最初の三つは言わずもがなの面白さ。
ポーの物語は、迫り来る死の恐怖を描いており、これぞ、といった感じ。
感染症の恐怖というのは、人類が恐れる数少ない恐怖、しかし逃れる術がない恐怖。
まさに、今にふさわしい。
ハン・ガンは、韓国の作家。
韓国文学はこれまで児童書数冊しか読んでこなかったので、新しい世界だ。
「静かな水のほとりで」は、藤子・F・不二雄の短編を思い起こさせる、物悲しい物語だ。 -
ロバート・シェクリイの名があったので手に取ったが、「人間の手のまだ触れない」で読んでいた作品だった。
編集者の頭木弘樹氏の解説で、このコロナ禍、「絶望図書館」の次はこの「閉じこもり図書館」です、とあり、閉じ込められた状態、の作品を氏の観点で集めたのだった。氏自身、大学生の時に難病になり寝たきりになったとある。氏の小説観は、まずは自分にひきよせて読むこと、自分にとってどういう風に読めるか、そこが肝心なのだという。
「凍った時間」星新一 (「ちぐはぐな部品」所収)
工場で事故にあい、脳以外は機械になったムント。ロボットは全部が機械だが、ムントのようなのはサイボーグなのだという。顔はプラスチック、声も合成、人々の好奇の目に耐えられず地下で暮らしている。ある日電話も不通、TVも映らなくなり地上に出ると、革命軍が反乱を起こし、人々は一定時間気を失っている。目にさらされなくなったムントは久しぶりに外の空気を吸うが・・ 最初から最後まで悲しい空気、っていうのは星新一にはめずらしい。
「フランケンシュタインの方程式」梶尾真治 (「地球はプレイン・ヨーグルト」所収)
二人乗り宇宙船で火星へ荷物を運んでいるが、酸素ボンベが故障し、1人分の空気しかなくなった。そこでとった方法とは・・
二人の会話で、自分達の状態を古典SFの「冷たい方程式」のケースだとあり、ほかに「解けない方程式」、「たぬきの方程式」、「破砕の方程式」もあるんですよ、というのが出てくる。「破砕の方程式」は読んでいた。ここがちょっとおもしろかった。
「スロー・ダウン」萩尾望都 (「半神」所収)
何十年振りかで読む萩尾望都。ひとりで密閉空間にいる、という実験をしている青年。
「静かな水のほとりで」ロバート・シェクリイ(アメージング1953.11月号 「人間の手のまだ触れない」に収録されていた。)
閉じこもりというと、すぐ回りに人がいるのに自分ひとりだけ狭い空間に、というのを想像するが、これは、ある星に男とロボットだけ、男はロボットに会話を教え、長い年月を暮らす。宇宙空間の、この星に1人なのだ。
ほかにポー「赤い死の仮面」、宇野浩二「屋根裏の法学士」(「中学世界」大正7年10月)など
2021.2.5発行 図書館
「冷たい方程式」トム・ゴドウィン(アスタウンディング1954 )
「解けない方程式」石原藤夫(SFM1968年4月号掲載、『画像文明』(ハヤカワ文庫)に収録)
「たぬきの方程式」(筒井康隆 SFM1970年2月号掲載、『国境線は遠かった』(ハヤカワ文庫/集英社文庫)に収録)
「破砕の方程式」アーサー・C・クラーク (1949年Thrilling Wonder Stories誌に掲載、SFM1977年3月号『前哨』(ハヤカワ文庫)、『太陽系オデッセイ』(新潮文庫)に収録。前者の訳題は『破断の限界』、後者の訳題は『ひずみの限界』、1994年映画版『スペース・トラップ』公開)
頭木さんのブログ
https://ameblo.jp/kafka-kashiragi/ -
頭木弘樹さん編の短編集。切り口がさえていて、とてもおもしろく読んだ。
ウロボロスを超えた?萩原朔太郎「死なない蛸」怖。
カフカ「ひきこもり名言集」ここまでひきこもりで、結婚を考える恋人がいたっていうのがある意味すごいよ、カフカ。
三年寝太郎のような「桃太郎」立石憲利 こんなバージョンあるんだねえ。おもしろい。
星新一「凍った時間」は初めて読んだ。それとも忘れてたのか? 世界を救ったのにせつない。
ポーの「赤い死の仮面」は、コロナの状況下で読むと、慄然となる。翻訳も抜群の冴え。
梶尾真治「フランケンシュタインの方程式」は、「冷たい方程式」の笑える悲惨版。
宇野浩二「屋根裏の法学士」はまさにひきこもりニートの話でたいへん身につまされる。
ハン・ガン「私の女の実」植物になる話って、ほかにも読んだことある気がするけど、そのなかでも異常に生々しい。
シェクリイ「静かな水のほとりで」小惑星でロボットと「ふたり」淡々と日々を送る人の話。ロボットに少しずつ言葉をおしえて、少しずつ会話が成立していき、でもやがて人は老い、ロボットも老朽化し……。しんとした美しさがしみて涙した。これがいちばん好きだったかな。
萩尾望都「スロー・ダウン」感覚遮断実験の話。すべての感覚を遮断したとき人はどうなるのかという話をとてもリアルに。
上田秋成「吉備津の釜」これも読んだことがあるような気がするけど思いだせない。こわー。髪だけってのが生々しくておそろしい。
巻末の頭木さんの解説もよいです。