短篇集〈2〉永遠の命 (E.M.フォースター著作集 6)

  • みすず書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045762

作品紹介・あらすじ

「永遠の命」「あのときの船」など、同性愛をテーマにした珠玉の短篇集。本邦初訳。

感想・レビュー・書評

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  • 「オベリスク」とにかく巧い。レモン新書なんて可愛い名の短編選集にも、意外やSFものまで入ってて大興奮。いきなり長編のハワーズ・エンドなんて読めないよ、というむきにもぜひ。フォースターってどれを読んでも自分には当たりなので、かえって何か書こうと思っても書けないのが悩み。

  • すごく良かった。どの作品も面白かった。著者はゲイだったんですね。他の作品も読んでみよう。

    「アンセル」田舎の従兄の庭師をするアンセルとは十四のとき知り合った。当時あまり彼と遊びすぎ勉強を疎かにしないか心配され離された。二十三になった今、エドワードは運動競技では落伍者だが論文の世界で自分の地位を見出している。執拗に招かれ久々に訪れた田舎でもどっさり論文の為の本を持ってきた。しかし道すがら馬車から本の入ったその箱を谷底に落としてしまい論文が書けなくなってしまい絶望する。「だがアンセルがぼくを横取りし、ぼくは今未来を考えている時間がない」。
    結局最初の心配が数年後成就する下剋上系ホモ
    「エンペドクレス館」婚約者家族と旅行でシチリア島に来たハロルド。不眠から友人に禁止されていた自分を他人のふりをする方法でやっと少し眠った。しかしそれを話すと婚約者の父母は不安視し、ハロルドももうしないと約束する。婚約者だけは想像的だと感心する。エンペドクレス館に泊まることにした一行。ハロルドと婚約者は崩れたドリス式神殿へ見学へ行く。そこで一時寝入ったハロルドは、自分が以前ここに住んでいたことに気づく。婚約者は感動し自分もであると同調するがハロルドは困惑し否定する。それを侮辱ととった婚約者は彼を拒絶する。絶望した彼は翌朝狂っていた。偉大に、幸せに。
    本当の幸せとは? 狂人だろうと愛する「ぼく」の言聞かせに考える。
    「紫色の封筒」生命溢れる叔父の邸で殺生は禁止されていることが不満なハワードはその土地が彼に譲られることを危ぶまれている。成人祝いに謎の婦人から口が楕円形の銃を贈られる。毎朝彼の部屋の鏡に謎の単語が書き付けられ犯人探しをすることに。叔父からは夢遊病の疑いがかけられる。或夜、叔父が彼の部屋にきて鏡に書こうとしているのを見る。互いに殺し合おうとし彼は叔父にく銃を発砲する。そこで一人で目覚める。自分が夢遊病であると自覚し外で一晩明かし帰ると叔父が死んでいた。「紫色の封筒」を心配して亡くなった叔父、しかし結局祖母が望んだようにその土地はハワードのものになった。
    「スマートで見場がよくて、まったく役立たず」な「楕円形の銃」は叔父で、謎の婦人は祖母、なのかな?
    「助力者」レディ・アンスティの出版物にヘンダソン氏はジョヴァンニ・ダ・エンポリの新しい理論を盗作された。レディ・アンスティは売れっ子となった。苦しみ彼はリナルディ教授の元を訪れることにする。その間妻は掃除をする中でヘンダソン氏の理論を発見し、出版社に連絡を付けていた。帰ってきた彼は「事実は間違いだった」と確認してきたと言う。
    滑稽もの
    「岩」命を助けられたがその代償に相場の金を払わないことを決めた彼女の夫。〈金に換算は不可能だ。だからぼくは報酬を出さない〉〈それが唯一可能な報酬でしょう〉〈でもあの人たちにはわからないでしょう〉〈そのうちわかってもらえるだろう〉そして彼は自分の持ち物は全て売り払い貧しい人に与え、救われた漁村へ行き救助者たちに施しを乞うた。恐ろしい苦しみを受けたのち、彼は受け入れられた。しかし彼女はいう「私が理解しなかったならば、あの人は今ここにいたかもしれない」
    高潔な行為と代償。
    「永遠の命」宣教不可能と思われた未開な土地の酋長ヴィソバイが、若き宣教師ポール・ピンメイにより改宗した。或る一夜に起こった感動的なことだが、ピンメイにとっては恐ろしいことだった。ヴィソバイ、改めバルナバと名乗る彼が率いる種族を改宗させた功績と共にその地で十年間宣教活動を命じられるピンメイ。ピンメイの意見を聞き、キリストに教会に背く行為を時に唆しながらもピンメイに許されなかったことを守り続けたバルナバは、ピンメイがその地で定められた宣教期間十年のそのときに病身となる。十年という年月が過ぎていた。バルナバは死にかけていた。「私はあなたを許し、許さない。どちらも同じだ。私は善良で私は邪悪で私は清く私は汚く、私はこれで私はあれで、私はバルナバ私はヴィソバイ。いったいどういう違いがあるのです?‥‥」「私たちはこの世では過ちを犯したが、次の世ではそういうことはないでしょう」「神の掟を守りさえすれば」「もう一度互いがわかる」「真実の愛が」「死後の世界」「永遠の命」が待っている。十年の長き宣教師に仕えた。「だがお前は永遠に俺に仕えるだろう」最後の力で宣教師の胸に短剣を突き刺し、彼は再び王となり死ぬ。
    「ウラコット博士」機能性疾患のクレサントはキノコ狩をしていた男に、地主でありウラコット博士にかかっていることを話した。身綺麗にして男はクレサントの部屋へ訪れてウラコットを馘にするように言う。そして戸棚へ匿わせる。このような興奮はクレサントによくない。発作を起こし使用人に戸棚を開けさせたが誰もいなかった。病気は彼は幻だという。クレサントは死かもしれないが彼は存在していると思う。彼の声が聞こえ、彼が病気を眠らせたという。彼は自分と来るように説得する。ウラコット博士が到着したときには遅かった。
    擬人化した死、ウラコットを恨む青年との甘美なラスト!
    「アーサー・スナッチフォールド」白髪交じりのコンウェイはドナルドソンの田舎の邸に招かれ、庭でカナリア色のシャツを着た牛乳配達人を気にいり、一度きりの関係をもつ。見つかったら懲役七年だが「きみとぼくがかまわないなら、ほかのだれに関係があるのだろう?」とコンウェイはいう。金を渡すとそんなためにやったんじゃないと言われるが、受け取って貰う。数週間後、この為に彼が逮捕されたと知る。ぼくとじいちゃんがかまわなきゃ、ほかの誰に何の関係があるんだーーと怒鳴り心証を害したという。そして初めて彼の名を知る。
    「オベリスク」小柄なアーネストと結婚したヒルダはハンサムな男と旅行する夢にひそかに憧れていた。オベリスクを見にいくか迷っている道すがら二人の水兵に話しかけられた夫妻は、ヒルダは彼女好みの知的でハンサムなスタノップ、アーネストはチビと呼ばれる陽気ででかいな一人とそれぞれ話しているうちに距離があいた。スタノップは灌木の茂みに連れて行き、彼女は夫を裏切る。時間が経っていたのでオベリスクで行き違ったことにする。オベリスクへ行った、見た、そこであなたを探したとヒルダは主張し、アーネストもそうしたと言う。チビは茶化すように下品なことを言い、有耶無耶のまま水兵と夫妻は別れる。バスの停留所でオベリスクが先週倒れて亡くなっていたことを知る。夫もオベリスクを見なかったなら道草を食っていたはずで
    自身の浮気のつもりがまさかの夫NTR
    「どうでもいいじゃないですかーーある教訓」ポッチバキア国の大統領の失墜を願う警察の長が大統領愛人別荘に盗聴を仕掛けそこで愛人と青年と妻とが「皆さんが偉い人びとの私生活に寄せられる関心に応えて、われわれはここに、われわれ三人が共和国大統領と性交をおこない、これからもおこなうものであることを皆さんにお知らせする次第です」と声明する。
    人の性癖なんぞどうでもいいじゃないですか
    「古典の別室」で展示物の破損が見つかった。別室をないがしろにしていた館長は独り残って調べる。裸像に文句を言っていると館長に向かって倒れてきた。石棺に飛び込み十字を切ると展示品は静かになった。家へ帰ると息子がいない。古典の別室へ行くと息子の声が聞こえた。あの像と絡み合っている。石棺で十字を切ると再び展示品は静かになった。館長が職を辞した事情が人びとの記憶から薄れてから坊やが兄にされるままになっている像はレスリングのレッスンと題された。
    「首輪」永遠の処女として崇められる姉に付き添いマルシャンは姉の処女が守られた本当の理由を知っている。彼が代わりに犯され首輪を貰ったのだ。嵐で燃える公会堂へちかづく姉へ危険を告げるが姉は耳を貸さず、公会堂へ雷が落ちた。司祭、信仰深い人びとが去り、マルシャンはその後の面倒を見て、両親の老後を保証し妹たちも彼を崇拝しましたとさ
    「あのときの船」ライオネルは乗船した船で欲しいものは必ず手に入れるココナッツと同じ客室となった。一度ライオネルが性的な接触に怒って以来は何もされなかったが他人との寝起きは悩ませた。そして深入りした。ある日錠が外されたままになっていたことを発見し、ライオネルはそれを指摘しなかったココナッツがチップを撒くと言うが理解できない。落ち着く為デッキに行くとそこにいた大佐に同室の異人は捕まると告げられる。ライオネルはココナッツにデッキで寝ることにすると告げるが、ココナッツはキスを乞い彼に噛み付く。ライオネルは甘美な復讐の行為で「自分が決着をつけたことを知ったとき、彼は悲しみも後悔も感じなかった。それはずっとたどってきた下降線の一部で、死とは無関係だった」海に飛び込み自殺する。
    白人という人種や性別に拘ってしまう悲しい人種。それにしてもライオネルとココナッツの絡みが会話が甘美で溜息がでます
    「料理三皿とデザート」フォースターがああ書いた時点でこのオチは気づくべきだった!笑

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