「昭和」を送る

著者 :
  • みすず書房
4.04
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本棚登録 : 156
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622077695

作品紹介・あらすじ

『日時計の影』以来4年半ぶりにおくる第8エッセイ集。巻頭に収める『みすず』誌の連載「臨床再訪」から「病棟深夜の長い叫び――ジル症候群」をはじめとした4篇、ユニークな論考「笑いの生物学を試みる」、「いじめ」や「3・11と震災」に関連したものなど多様な文章群から成る。なかでも本書の圧巻は1989年に発表されたままなかば伝説化されていた「ひととしての昭和天皇」を描いた表題作だろう。精神科医である著者は「天皇」をどう見たのか。話題必至の書になるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 100分de名著でご紹介。

  • 「「昭和」を送る」中井久夫著、みすず書房、2013.05.20
    328p ¥3,150 C0095 (2023.02.22読了)(2023.02.17借入)
    100分で名著「中井久夫スペシャル」で紹介された本です。図書館にあったので借りてきました。Ⅰは、精神科医としての仕事の話なのですが興味深く読めました。Ⅱは、昭和天皇についての考察です。
    色んなテーマで、随筆を書いています。どれも興味深く読めました。

    【目次】

    患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い
    病棟深夜の長い叫び―ジル症候群
    在宅緩和ケアに関与する
    あるタイプのめまいをコントロールする

    「昭和」を送る―ひととしての昭和天皇

    笑いの生物学を試みる
    「ことわけ」と「ことわり」―カテゴリー分類とその限界について
    思春期親密関係における暴力に思春期以前から始めて接近する
    戦争から、神戸から
    危急時のリーダーシップ寸感

    安克昌先生と私
    青木典太先生のこと
    土居健郎先生と私

    「生きた証」を求める
    株主優先でよいのか
    難事に現れるリーダー
    永遠の敵対国となるな
    ポール・ロスさんを偲ぶ
    政権交代に思う
     ほか

    いじめの政治学から
    心的外傷寸感
    臨床引退後の日々
    子どもの世界と大人の世界
    「ニイルス・リイネ」
     ほか
    あとがき
    初出一覧

    ●教育(28頁)
    教育は、ただ、ものを教わることだけでなく、権力体制の中に織り込まれ、その一部となることである。
    ●緊張持続の限界(64頁)
    四十九日に私は招かれた。お坊様はどうして四九日目ですかねと問われる。私は、たぶん、緊張持続の限界ではないですかねと答えた。四、五〇日目にはベテラン下士官が「どうでもなれ」と銃を捨てて敵弾に身をさらすこともあったという「戦闘消耗」のことを思い合わせたのである。自己激励の限界である。
    ●左右対称性の理由(73頁)
    脳はよくできていて、片側の神経細胞群に何らかの障害が発生した時にはただちに左右の大脳を繋ぐ神経繊維群を通して対称的な位置にある神経細胞群に情報を転送しておくという記事を読んだ時です。神経系は危機が進行しはじめたら、急いで情報のコピーを作っておく賢い奴なんですね。
    ●三大脅迫産業(198頁)
    医学は「三大脅迫産業に一つ」だという陰口があります。後の二つは「教育」と「宗教」なのですが、いずれも、言うことを聞かないと大変なことになりますよ、という点で、たしかに共通であります。
    ●日本の原爆製造(302頁)
    重要な記事で全然フォローがないのは、日本が原爆を製造してもよいかと米国に二度お伺いを立てたという記事で、ある社には大きく、別の社には小さく、いずれも一面に載ったが、その後、私の知るかぎり、誰もとりあげない。

    ☆関連図書(既読)
    「復興の道なかばで」中井久夫著、みすず書房、2011.05.10
    「心の傷を癒すということ」安克昌著、角川ソフィア文庫、2001.12.25
    「中井久夫スペシャル」斎藤環著、NHK出版、2022.12.01
    「「甘え」の構造」土居健郎著、弘文堂、1971.02.25
    「漱石文学における「甘え」の研究」土居健郎著、角川文庫、1972.09.30
    「表と裏」土居健郎著、弘文堂、1985.03.17
    「トラウマの心理学(NHK人間講座)」小西聖子著、日本放送出版協会、2000.10.01
    (「BOOK」データベースより)amazon
    過去の臨床経験を描いた4篇を筆頭に、ひととしての昭和天皇を描いた長大な表題作、いじめについて、臨床引退後の日々など39篇。久々におくる第8エッセイ集。
    (アマゾンより)
    『みすず』連載の「臨床再訪」から「病棟深夜の長い叫び――ジル症候群」「在宅緩和ケアに関与する」など4篇を筆頭に、逝去直後にひととしての昭和天皇を描いた長文の表題作、ユニークな論考「笑いの生物学を試みる」、その他、いじめについて、3・11後と震災について、臨床引退後の日々についてなど多様な文章39篇。
    『日時計の影』以来久々におくる、精神科医の第8エッセイ集。
    (2023年2月26日・記)

  • 10年前の本だが、著者の晩年に書かれた文章が収められている。表題作だけは、タイトルからわかるように昭和天皇逝去時のもので、すこし古い。

    中井久夫の著書はだいたい読んでいるのだが、本書は読みそびれていた。特に問題はない。中井の文章は体系的ではなく、つまみ食いのように読めるからだ。
    これは悪い意味ではなく、そもそも中井には体系的な文章を書く志向そのものがなかったように思われる。その結果、柔軟で自由な文章を残すことになったのでは。

    おそらく医者と名のつく人間たちのなかで、もっとも文章を書きたがるのが精神科医だと思うが、そのなかでも中井は名文家の誉れ高い。名言めいた一言もさらっと書ける。
    体系化を志向しないこととも繋がるが、この「さらっと」が良い。権威的でも居丈高でもなく、あまりいい表現ではないかもしれないが、どちらかといえば女性的のように思える。

    本書のテーマは多岐に渡る。表題作は先に書いたとおり、昭和天皇逝去に関する文章だが、ほかにも震災やいじめ、食生活にまでいろいろと書かれている。あとがきで老人ホームに入居していることが書かれているのは、すこし悲しくもなったが、著者本人も鬼籍に入ったいまとなっては、このあとがきも貴重なものである。

  • 鋭い洞察力が感じられる。但し、医師としての研究著述部分は一般人にとっては難解だった。

  • https://www.msz.co.jp/book/detail/07769/

    「昭和」を送る
    —— ひととしての昭和天皇
    (初出 「文化会議」1989.5)

  • ふむ

  • ?.
    薬についての話題をふくむエッセーを中心に。しかし、こうも度々と脳梗塞で苦しんでおられたとは。

    ?.
    表題作。日本の国粋思想の源流が南宋とは。しかし中国崇拝も20世紀までだろうか。
    昭和天皇崩御直後の文章。単行本に収録する「気力を失っていた」理由は注記に示されているが、いまになって収録した心境は?

    ?.
    精神医学そのものではないかもしれないが周辺分野的なネタ。笑い、カテゴリー分け、思春期、災害対応。

    ?.
    追悼文。若くして亡くなった精神科医も。

    ?.
    神戸新聞のコラムより。2011年まで書いていたのか。

    ?.
    雑文いろいろ

  • 昭和天皇のご逝去後に偲んで書いたエッセイ「昭和を送る」は天皇の人柄を書き著した爽やかなエッセイ。前年夏の「夏たけて堀のはちすの花みつつほとけのをしへおもふ朝かな」は世を去る心の準備の成熟がみられるとの表現は全く同感。そして仏!が登場することは新鮮な驚きだった。また晩年の土居健郎氏の印象を描いたエッセイも印象に残る。徴兵検査で「(戦争を)悪いことと思う」と答えたという剛毅さに極まり、自分には言える自信がないとの著者の言葉にこの方の等身大の人間性を見る思いがする。この方の祖父が1910年代に中国・青島におられたということにも親しみを感じる。

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著者プロフィール

中井久夫(なかい・ひさお)
1934年奈良県生まれ。2022年逝去。京都大学法学部から医学部に編入後卒業。神戸大学名誉教授。甲南大学名誉教授。公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構顧問。著書に『分裂病と人類』(東京大学出版会、1982)、『中井久夫著作集----精神医学の経験』(岩崎学術出版社、1984-1992)、『中井久夫コレクション』(筑摩書房、2009-2013)、『アリアドネからの糸』(みすず書房、1997)、『樹をみつめて』(みすず書房、2006)、『「昭和」を送る』(みすず書房、2013)など。訳詩集に『現代ギリシャ詩選』(みすず書房、1985)、『ヴァレリー、若きバルク/魅惑』(みすず書房、1995)、『いじめのある世界に生きる君たちへ』(中央公論新社、2016)、『中井久夫集 全11巻』(みすず書房、2017-19)

「2022年 『戦争と平和 ある観察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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