ミシンと日本の近代―― 消費者の創出

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622077701

作品紹介・あらすじ

ミシンという具体的なモノを通すと、社会・技術・文化の変遷はどう見えるか。日本の家庭に入った第一号ミシンは、ジョン万次郎の母親へのみやげもの。そして1920年頃になると、アメリカのシンガー社がグローバル企業として進出、無敵の存在になる。割賦制度も確立。ただし和装から洋装への変化は戦争で決定的になった。一方、シンガーが後退すると、国産ミシンの隆盛、フェミニズムの台頭、繁盛する洋裁学校、既製服の時代がくる。1960年代まで、消費者側から見た、画期的な歴史。

感想・レビュー・書評

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  • ミシンと衣服を通して、戦前、戦後の日本の社会を描いたもの。

    ミシンという家庭製品が販売されるために、割賦販売、セールスマン、コマーシャルなどの手法がアメリカから摩擦を伴いつつ入ってきた戦前と日本メーカーの追撃を受けた様子は面白い。
    本質はグローバルな近代化であり、それが多少ナショナリズムで色つけされているのか。労使紛争や販売競争の中でナショナリズムが強調されるのは、やはりそんなものかと納得。

    戦後の洋装がモンペの需要があってのこととは知らなかった。
    太平洋戦争のインパクトは近代化の促進だったのかと思わざるを得ない。
    日本化を謳いつつ、戦争遂行の為、近代化を推進するとは頭と足が違う方向向いていては勝てるわけもない。

    一側面からも本質を描けるという良書

  • ミシンは工業製品であり、消費財であり、生活に密着した家庭用品であり、内職という生産を支える生産設備でもある。

    そのため、ミシンを通じて近代日本の産業史、労働史、生活史、文化史、ジェンダー史など、様々な分野を横断した立体的な歴史を描き出しすことができる。

    一つの場所や人物、モノを通じて歴史や社会を描くことで、グローバルな政治・経済とローカルな文化・生活が絡み合いながら織りなしていく社会のあり方をよりリアルに知ることができることがあるが、この本もそのことに成功している。

    ミシンが初めて日本に入ってきたのは明治初期であるが、そこから20世紀の変わり目ころにかけて、シンガー社による公告宣伝、販売体制が構築された。

    これは、科学的な目標管理と報奨制度をベースとしたいわゆる近代的なセールスマンの集団と、使用法(洋裁技術)を教えることで新たな文化、生活習慣を含めたミシンの普及を担う女教師と呼ばれる広告宣伝部隊が組み合わされた体制だった。

    ミシンの普及は、所得水準の向上と比例して普及率が上がるといったシンプルな推移をなぞるわけではなく、そういった意味で各国によって異なったプロセスと結果をもたらした。シンガー社は当時の様々なグローバル企業のなかでも特に世界中で一貫した販売体制を貫いた企業であるが、そうであるがゆえに、各国で様々な反応を呼び起こした。

    日本では、第二次世界大戦までは洋装の普及がなかなか進まず、和裁と洋裁という言葉があるように、洋装の裁縫とは異なった技術、仕上がりを求められる和装中心の時代には、ミシンの普及にも一定の制約があった。

    一方で、高額な耐久消費財の購入契約に女性が自ら署名することができ、また内職という手段を通じて金銭的所得を得ることで一定の自立や生活の安全保障を求める動きが広まったという特徴もあった。

    また、販売にあたっては割賦販売方式が活用され、一般の市民が耐久消費財を購入するという新たな消費活動に対応した考え方(ミシンを使って裁縫をすることで生活費が削減され、購入費用が償却できるといったもの)を、広めるということも試みられている。

    このように、シンガー社の方法はある程度の成功や可能性を収めた側面もある一方、1920年代から30年代にかけて、販売員との激しい労働争議を経験するなど、グローバル企業と地域社会との軋轢は、当然のことながら存在した。

    一つの商品の普及プロセスが社会と相互作用をすることによって、様々な変化が生まれてくる様子が非常に興味深かった。

    特に、20世紀に入り産業化、工業化が進む社会において、グローバルには家庭における「良妻賢母」となることが女性の一つの理想像として称揚されたが、日本ではそれが主婦、とりわけ「専業主婦」というものにアレンジされ、定着したという点は面白かった。

    これは、親子、夫婦といった家庭内での関係性だけでなく、家事における家計管理や内職による経済活動など、より広いマネジメント能力と一定の生産力をもった存在として、位置付けられている。

    それゆえに、日本では戦時中においても女性の戦時生産体制への組み込み度合いは諸外国と比べて低く、戦後も女性の就業率やいわゆるM字カーブの底が低い状態が継続した。そして、日本の女性が1日のなかで裁縫(私用と内職を含む)にかける時間は長い状態が1970年頃までは続いたようである。

    このように、ミシンは20世紀の初めから戦後20年が経過するころまでの女性をめぐる社会や家庭の変化に寄り添っており、ミシンの販売数の増加と退潮の歴史を傍らで見ながらこの歴史を振り返ることで、一人ひとりの女性の生活史とグローバルな社会・経済の変化のあいだの繋がりが見えてくる。

    一方で、産業史の面からは、戦中・戦後のシンガーの退潮と日本のミシンメーカーの伸長の過程も興味深かった。

    明治から大正期にかけてミシンの代名詞とまで言える地位を占めていたシンガーであるが、大戦中の輸入の輸入の落ち込みを経て、戦後もその地位は復活をすることはなく、むしろ蛇の目やブラザー、三菱といった日本のメーカーが市場占有率を伸ばしていった。

    日本のメーカーも、その製品の設計・デザインはもとより、販売体制に至るまでシンガーのものから多くを学び、それを取り入れていった。その意味で、日本のメーカーは、シンガーが切り開き、敷設していった路線の上に事業を展開していったといえる。

    一方、歩合で働いていた販売員の雇用や給与に対する保障を強化して「日本型雇用」の原型となるものを生み出し、優秀な販売員を囲い込んでいった。販売体制の面でも、販売だけでなくアフターサービスも含む一貫した関係性を消費者と築くというやり方に、販売体制を進化をさせていった。

    さらに大きかったのは生産の現地化であり、国内で生産をすることでシンガーよりもより低価格で同様の品質のもとを提供することで、ミシンの市場規模とその中での占有率を拡大していった。

    これは、家庭用電化製品などその他の多くの製品でもその後みられたことであり、ここでもミシンを通じて日本の戦後の経済の発展の一つの祖型をみることができる。

    経済、産業から文化に至るまで、様々な側面でのグローバル化は20世紀に入って急速に拡大したが、その実際の定着の仕方は、世界の各地域によってそれぞれ異なってきた。この本はそのことを実際の生活や仕事の場面にまで分け入って解き明かしてくれている。

    現在もまた、グローバル化に向けた戦略やその脅威について多くのことが語られているが、その実際の帰結を考えるときに、グローバルなものとローカルなものの相互作用の複雑さを念頭に置きながら、立体的に考えいくことがとても大切であるということを教えてくれる本だった。

  • シンガー・システムは、単なるセールスウーマンではなく、使い方を教え、新たな女性の自活の姿でもあった。
    それが消費をも促した。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784622077701

  • 帯文(裏表紙):”一つの「モノ」に即して、消費者の側から経済・社会・文化を語る画期的な歴史”

    目次:日本語版への序文、はじめに、序論、第1部 日本におけるシンガー;第1章 明治期のミシン,……他、第2部 近代性を縫う戦時と平和時;第5章 銃後の兵器,……他、結論、補遺 時間利用調査についての覚え書、訳者あとがき、原注、図表一覧、主要参考文献、索引

  • 2013年10月に実施した学生選書企画で学生の皆さんによって選ばれ購入した本です。
    通常の配架場所: 開架図書(3階)
    請求記号: 582.1//G67

    【選書理由・おすすめコメント】
    もともと服飾に興味があり、自分もミシンを使うことから、タイトルにひかれた。内容もミシンが日本に入って来た歴史だけではなく、ミシンによって女性の意識の変化までミシンを通した経済・社会・文化を知ることのできる一冊だと感じた為。
    (社会経済システム学科 3年)

  • シンガー社による日本市場開拓の要素が大きいが、日本の特に女性が洋装を受容して行く過程が読み取れて、興味深い。
    シンガーの販売戦略は興味深い。

  • 経済史としても文化史としても予想以上のおもしろさだった。ミシンを通して、日本の近代の資本主義への道筋とか、西洋化対日本らしさとか、女性の暮らしぶりとか、近代の服飾史とか、、、とにかくミシンというわりと小さな、ありふれた機械からこんなにさまざまなことが見られるとは驚き。逆に、生活に密着した製品だからこそ、こんなにいろんなことが絡んでるとも言えるか。現代を考える上でも重要な視点を多々含んでいる。読んでたら新しいミシンが欲しくなっちゃったw

  • 1 明治期のミシン
    2 アメリカ式販売法
    3 近代的生活を販売し消費する
    4 ヤンキー資本主義に抵抗する
    5 銃後の兵器(ウォー・マシーン)
    6 機械製の不死鳥
    7 ドレスメーカーの国

  • ミシンは3Dプリンターに似ていると思って本書を購入。ミシンが導入された当時の社会の様子、変化を見れば現在の状況のヒントになるのではと。

    自宅での和裁洋裁により作成された衣服を販売することで収入を得たり、ミシンの使い方教室というニュービジネスを始めたり、使用例の教本を出版したり、良くできた商品の型紙の写しを販売したりと、これは現在でもかたちを変えてビジネスになっている。生産者が多様化し、消費者も多様化している。アメリカでのミシンは「文明の機器」「最新の文化的生活」の象徴であったが、日本に輸入された際、この価値観が「裁縫を上手にこなす良妻賢母」「勤労・節約・婦人の貢献」に変化して受容されたことも興味深い。

    原書のサブタイトルは fabricating consumers であり、「消費者を創造する」と「創造する消費者」の二重の意味と言える。

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