高宗・閔妃:然らば致し方なし (ミネルヴァ日本評伝選)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623050352

作品紹介・あらすじ

高宗(一八五二〜一九一九)李氏朝鮮第二十六代国王、大韓帝国初代皇帝(在位一八六四〜一九〇七)。閔妃(びんひ/ミンビ、一八五一〜一八九五)明成皇后。清国との朝貢体制の下、限られた国際関係しか持てなかった韓国は、西欧列強や新興国日本に対していかに対処しようとしたか。相次ぐクーデタ、大規模な内乱、日清・日露戦争、そして日韓併合。歴史の流れに翻弄された国王夫妻の軌跡を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 朝鮮半島の近代史を見ることは、日本ではタブー視されているのでしょうか。例えば日露戦争史に比較して日清戦争史は余り語られないし、日露戦争史でも導火線となった朝鮮半島よりも、主戦場となった満州の方が主に語られます。本書は日本の植民地化に至る朝鮮半島近代史を、最後の皇帝高宗の視線から描いたもの。どちらに偏ることもなく、平明に語られていると思います。高宗はリーダーの器ではなかったが、中国に模倣した王政下では、制度上は独裁も可能な強い権力を持っていた。一方で何度も身命の危機に晒されたことで、その視線は国の発展よりも個人レベルの安全に落ちていったと感じる。恐らく儒教的な強い善意からスタートした政治家だけに、最後に自らの政治を振り返って、どう感じたのだろうか。

  • カメレオン的にその寄る所を変え、表情が見えづらい高宗の評伝。帝王学を学んだ訳でもなく、幼くして即位しても実父の権勢の下にあり、閣僚や周辺国に翻弄されながらも67歳迄その意を表し続けた。面従腹背、朝令暮改の心理も伺える。専制帝国としてのロシア、立憲君主国としての日本に対し、立ち向かうこともできない、動乱の時代の弱小国の中心で、1人の人間としての人生と、君主としてのその思いはどうだっただろうか。

  •  過去に読んだこの時代の本でも本書でも、高宗には親政当初等の若干の例外を除き「国を思う国王らしさ」というより主体性の薄さ、小物感を感じる。本書でも繰り返し、高宗が重視していたのは(国自体というより)王宮の警備、自らと自らの家族の安全、自らの権力の維持・獲得(それは先述の安全に直結する)、気に入りの子供の成長、と語られている。そんな高宗の死が三・一運動を引き起こしたのは皮肉でもある。
     しかし、だからこそ40年以上も、名目上とは言えこの時代に国の「要」で居続けられたのだろう。だからか、評伝なのに偉人伝ではなく通史を読んでいるような気になる。 
     尤も、無理からぬことかもしれない。1870年代以降、親政当初に大院君の影響を排した新しい政策を始めてもうまく行かず、クーデターを起こされる。1880年代、清から自立しようとロシアに接近すると袁世凱に怒られる。1890年代、日本の影響下の内閣から権力を取り戻そうとすると妻を殺されロシア公使館に避難することになる。独立協会を弾圧してからの数年間だけは安定するが、日露戦争の中で中立を貫徹できず保護国化される。そして最後はハーグ密使事件を詰められ伊藤博文に退位を迫られる、という人生である。副題の「然らば致し方なし」という言葉に、それまでの生き方が現れていると感じる。
     そこそこ出世したがあくまで雇われの身、家族との幸せを望む一方で派閥争いとリストラの恐怖に怯えて保身に汲々とし、しかし最後は仕事上の責任を問われ退職させられる、でも名誉顧問職と手当をあてがわれ表立って不満は言っていない、という実に等身大の人間像すら浮かんでくる。
     なお、高宗ではなく開化派の朴珪寿だが、小国たる朝鮮が生き残るには他国と結ぶしかない、という筆者の他の著作にある「小国」意識に本書でも言及されている。
     清との関係では、本書では一方的に押さえられるようであり、「属国自主」のせめぎ合いという感じではないが、これは描き方の違いだろう。

  • [ 内容 ]
    高宗(一八五二~一九一九)李氏朝鮮第二十六代国王、大韓帝国初代皇帝(在位一八六四~一九〇七)。
    閔妃(びんひ/ミンビ、一八五一~一八九五)明成皇后。
    清国との朝貢体制の下、限られた国際関係しか持てなかった韓国は、西欧列強や新興国日本に対していかに対処しようとしたか。
    相次ぐクーデタ、大規模な内乱、日清・日露戦争、そして日韓併合。
    歴史の流れに翻弄された国王夫妻の軌跡を描く。

    [ 目次 ]
    プロローグ 生家との訣別
    第1章 生家と養家―朝鮮王族に生まれて
    第2章 大院君執政期とその帰結―制度的裏づけなきリーダーシップ
    第3章 高宗の親政、そして挫折―若き国王による失敗
    第4章 壬午軍乱―養家と生家の激突
    第5章 甲申政変と清国との葛藤―勢力均衡政策の開始
    第6章 日清戦争への道―列強と臣下との対立
    第7章 乙未事変―閔妃の死
    第8章 露館播遷と大韓帝国―高宗の孤独な覇権
    第9章 破局―日露戦争
    第10章 韓国の保護国化と高宗の退位―然らば致し方なし
    エピローグ 退位後の高宗

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    [ 参考となる書評 ]

  • 個人的には今年最後に今年最高の一冊だった。意志薄弱とか奥さんの尻に敷かれたひ弱な王様とか韓国でも何かと評価の低い高宗の一生を中心に、実父で狸な大院君や、猛女と言っても差し支えないだろう閔妃についても深く掘り下げつつ、開国前夜から韓国併合までの複雑な時代を詳しく描いている。1冊でまとめたような通史だとたいていこの時期の出来事についての因果関係、人物の動機などがよく描かれていず、それぞれがどういう脈絡でつながっているのか往々にして唐突で戸惑うが、本書は上記3者+の置かれている状況、そこで彼らが何を最重要と考え、それを達成するために斯く斯く行動した結果しかじかのようなことになって、次にこう繋がるということが、あらいざらい事細かく積み重ねられつつ、歴史の大きな文脈を押さえているため納得しながら読める。高宗はやはり王様というより小市民の器で国を正しい方向に導いたと言えないが、最後のページになると、本人に余る場所に突然置かれてしまった人が何はともあれ終えた人生について神妙な気持ちに一瞬なる。また、そう単純な話ではないけれど、著者は現在についても念頭に入れながら書いていそうな部分もありそういうところも興味深かった。全ての人に超お薦め。

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著者プロフィール

神戸大学大学院国際協力研究科教授

「2022年 『誤解しないための日韓関係講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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