野蛮から生存の開発論:越境する援助のデザイン

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623076772

作品紹介・あらすじ

「開発」とは野蛮を文明に移行させる手段なのだろうか。また世界のよりよい方向性を定める行為なのだろうか。本書は、開発の技術を俯瞰し、方向性が大きく変化する歴史の転換点を思想史的に見つめ、日本から「国際開発」を世界へと発信する意味を模索する。そのうえで、歴史的見地から開発が人間にとって持つ意味を学問として位置付ける壮大な試みである。

感想・レビュー・書評

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  • • 国家の主導する開発がスムーズに進まない理由の一つは、人々が必要としていない開発をもち込まれたときである。意に沿わない開発を前に、人々は抵抗したり、協力を拒んだりする。それが徴兵や徴税といった、生活全般への縛りに拡張していくとき、人々の抵抗はもっと大規模にそして多くの場合、水面下で展開する。こうした開発を受け止める側の人々は何の記録も書き残さない場合がほとんどなので開発の歴史は仕掛ける側の都合で上書きされてきた。(11-12)
    • <開発研究はどこを見るべきか>
    問題の本質は貧しいとされる人々を「貧しくない人々や領域」と接続する方法である。細分化を好む学問は分析カテゴリー相互の「つなぎ」を見極めるのが苦手である。政治学や経済学といった個別科学に任せきるのではなく、開発研究という固有の分野が必要なのは、まさに人間がおかれている複雑な状況を一体的に捉える必要性からである。「開発」がその語義通り、封を開いていく (develop) 行為であるとすれば、潜在性の顕在化という原点に戻って貧困問題を問い直さなくてはならない。その最初の出発点は、無いものではなく、そこに在るものを見極めるところにある。(69)
    • 事例研究の価値は少数のサンプルから仮説を発想することだけにあるのではない。他の方法を有機的に組み合わせることで、「一般的な理論」のもつ妥当性を具体的条件の下で検証し、出来事の展開メカニズムを記述して、そこから広く有用な類型を導出することができる。以下は、事例研究の弱点となりうる信頼性を高めるための具体的なアドバイスである。
    ①他の事例とのメタ統合、量的データとの統合を工夫し、大状況と関連づける
    ②データ獲得の方法、一般化の手続きを透明にする
    ③リサーチ・クエスチョンと事例の関係を明確にする(86-7)
    • 事例研究の強みは、様々な角度から包括的に出来事の展開過程を捉えられるところにある。プロセスに関する情報は、特定の変化を引き起こそうと開発介入を立案する人にとっても有用である。(90)
    • <「想定外」はなぜ繰り返されるのか>
    あからさまな批判にさらされないまでも、技術協力が地域の人々に受け入れられないという「静かな批判」を受けるプロジェクトも数多い。(135)
    • エベレット・ロジャーズ(Everett Rogers: 1931-2004)の事例分析:普及学(135)
    • 人類学者ジェームズ・スコット(James Scott: 1936- ) 『国家の眼差し』の見方を採用すれば、開発の失敗は政策に問題があるから生じるわけではなく、そもそもの解決策が的はずれなのである。そうだとすれば、「問題」が解決から想定を超えて逃げていってしまうのは当然だ。開発の対象とされる人々は、迷惑な開発から逃れようと精一杯の努力をするからである。開発という現場を当事者としてではなく、よそ者として眺める私たちの問題は、直接関係のない両者があたかも互いを求めているかのように捉えてしまうところにある。(138)
    • (想定外に対する)効果的な学習を阻む「意図の読み間違い」についての3つの論点(146-7)
    ①本来は重層的な相互作用から生み出される意図を、それが住民であれ政府の役人であれ、現場の行為者にすべて還元してしまう誤り
    ②意図の過大評価と作用の過小評価
     原因と結果は直線的な回路でつながっているのではなく、反動、フィードバック、反復、強化といったダイナミックな相互作用を通じて関係をもつ。
    ③「想定外」を読み解くうえで、副次的作用と媒介的作用を区別しない誤り
     組織が学習するかどうかは、事実の正確さや妥当性よりも、利害関係の分布、意図と結果との空間的・時間的・制度的距離に依存している。学ばないことで得をしている人々に学ばせようとするのは、労力の無駄でもある。

  • 途上国への関わり方として、開発援助というルートが、一般的になってしまうことにやや違和感があり、少し勉強しておきたいと思って読む。どのような心構えで、知的な武装で望めばよいのか。

  • 論文集だが読みやすく、読み手に様々な問いの余韻を残してくれる本。開発のみならず国際協力全般に関わる人間の必読書であるように思った。今後も読み返すであろう一冊。

  • 開発/援助に関心がある方々は筑波大学にも多いのではないでしょうか。そんな方々にぜひ手に取っていただきたいのが本書になります。

    まず、「生活の質をどう評価するか(第1章)」「貧しい人々は何をもっているのか(第2章)」「たった一つの村を調べて何になるのか(第3章)」といった問い掛けを糸口に、開発/援助を考える視点について解説されています。その上で、「分業は何を生み出すのか(第4章)」「『想定外』はなぜ繰り返されるのか(第5章)」「緊急物資はなぜ届かないのか(第6章)」「豊かな資源は呪いか(第7章)」といった、開発/援助をめぐる実践的な問題に議論が展開していきます。そして最終部では、「戦後日本は、なぜ援助に乗り出したのか(第8章)」「日本に援助庁がないのはなぜか(第9章)」「『日本モデル』はなぜ打ち出されなかったのか(第10章)」という問いの下、日本の政府開発援助(ODA)について歴史的に検討されています。

    平易な文章で丁寧に書かれているので、開発/援助研究の教科書的文献としても読めるかと思います。それでいて、著者独自の切り口や新たな成果も随所に散りばめられており、専門的な研究書としても興味深く読める書物になっています。ぜひ一度手に取って、中身を確かめてみてください。

    (ラーニング・アドバイザー/国際 OYAMA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?bibid=1709631

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著者プロフィール

東京大学東洋文化研究所教授

「2021年 『開発協力のつくられ方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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