垂直の記憶 (ヤマケイ文庫)

著者 :
  • 山と渓谷社
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本棚登録 : 599
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635047210

感想・レビュー・書評

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  • 筆者の山野井泰史は有名な登山家(クライマー)だ。登山に親しみのない私がこの本を読もうと思ったきっかけは、沢木耕太郎の「凍」だ。「凍」は、山野井泰史と、その妻で同じく登山家である妙子を主人公としている。
    2002年秋、山野井夫妻は、ヒマラヤのギャチュン・カンと呼ばれる難峰に挑み、泰史が単独登頂に成功する。しかし、下降中、嵐につかまる。夫妻は奇跡的に生還するが、泰史は手足の指のうち10本を凍傷で失ってしまう。また、妙子も凍傷で傷つく。
    沢木耕太郎の「凍」を読んだのは、随分昔の話なので、細かいところは忘れているが、山野井夫妻を主人公とし、このギャチュン・カンからの奇跡の生還を題材にしたものだったと記憶している。
    本書で山野井泰史は、登山家としての自分自身の経験(実際の登頂・登攀の成功と失敗の経験を含め)を語っている。そのうちの第七章が、そのものずばり「生還」という題で、この時の奇跡の生還について自ら語っている。それは、本当に奇跡的なものだと感じる。沢木耕太郎の「凍」も、とても面白く読んだ記憶があるが、本人が語る生還物語は迫力に満ちていた。
    また、本書あとがきで、山野井泰史は、一種の「後日談」を語っている。
    10本の指を失くした山野井泰史であったが、山への想い断ちがたく、2004年以降、再び登頂・登攀に挑戦を始める。指を失う前のようなパフォーマンスを示すことは出来ないが、それでも、素晴らしい実績をあげている。
    登山経験がない、あるいは、あまり興味がない人にも面白く読める本だと思う。

  • やっぱりちょっとスゴすぎる。読みながら風が強まり、気温は下がり、酸素が薄くなる思いだった。最終章「生還」の後半はずっと鳥肌。まったく大げさでなく淡々と書いているのに、あまりにも恐ろしい状況がリアリティを伴って迫り、そこから生きて帰る信じられない精神力に胸を締め付けられる。こんな世界があって、こんな世界を自分と同じ人間が経験しているんだと。そして今もなお挑戦を続ける。奥さまも含めてまさに彼らこそが子どもたちや我々に夢を与えてくれ、尊敬に値する生き方をしている人だと思う。
    高所恐怖症の私は、なだらかな丘からの絶景をのんびり楽しむことにします。

  • 壮絶のひとこと。日本を代表する偉大なクライマーであり、数少ない真の冒険者。こんな人間が時代に一人くらいはいないと世の中つまらない。

  • 元々、山野井泰史氏のことは沢木耕太郎氏著『凍』でその存在を知ったが、沢木氏の描いた山野井氏とは別の凄さがこの本から伝わってくる。『凍』が緊張の本であったなら本書は「解」といえるかもしれない。凄まじい体験を圧倒的な生命力で包み込んでいる気がする。

    題名は『垂直の記憶』だが、彼が登攀するのは垂直ではなく90度以上のオーバーハングした岸壁である。単独登攀に拘り10本の手足の指を失ってもなお挑戦する彼の姿は、人間の生き甲斐とは何かを考えさせられる。山野井氏が度々語る、限界に挑戦して乗り越えたときに感じる「生きている実感」とは登山含め限界へ挑戦する者たちの本質を突いた言葉である。

  • 『凍』を読み、山野井夫妻の生き方に圧倒された勢いで、この本を手にしました。
    雪と氷と岩しかない山でなにが起こったのか。なぜそうまでして山に向かうのか。なぜソロ登攀なのか。なぜ酸素ボンベを背負わないのか。どんなに優れた小説家にも決して書けない、トップクライマーである著者しか知り得ない物語が詰まっていました。

    • ことぶきジローさん
      自分も沢木耕太郎の『凍』を読み、山野井夫妻の山に賭ける想いに胸を撃たれ、この本を読みました。同じヤマケイ文庫から出ている『ソロ 単独登攀者...
      自分も沢木耕太郎の『凍』を読み、山野井夫妻の山に賭ける想いに胸を撃たれ、この本を読みました。同じヤマケイ文庫から出ている『ソロ 単独登攀者 山野井泰史』も近々読もうと思います。
      2012/12/20
  • ブロード・ピーク、アマ・ダブラム、チョ・オユー、マカルー、K2など、ヒマラヤやカラコルムの名だたる嶺々への挑戦が語られているが、本書のハイライトはやはりギャチュン・カンだと感じた。沢木耕太郎の『凍』で描かれた凄絶なドラマ。

    紙幅の違いもあって『凍』より簡潔に話が進み、筆致は淡々としていて、話を盛るような感じも一切ない。そして何よりスポンサーに頼らず、普段は清貧に徹して登山だけに集中する生き方が潔い。

    文庫のあとがきには「最近は実力もないのに名前ばかりが先行しているようで、これで文庫として改めて出版されると、ますます恥ずかしさも倍増しそうです」と書かれている。世界的な登山家でありながら、どこまで謙虚なんだろう。

    ちなみにネットを検索してみると本人のブログがあった。更新は少ないながら、今年も一つの記事がアップされている。また本書が出版されたのが2004年3月、『凍』は2005年9月なので、沢木も当然本書も読んで『凍』を書いたと思われる。

  • (感想を書き忘れてたのに気づいたのでリアルタイムな感想ではないですが)クライマーの本を読むのは初めてでしたが、記録を元に脚色を極力抑えて人に伝えようとする姿勢、決意が伝わる文章で、とても静かでとても小さいけれども密度の濃い内容でした。こういう人が存在してるっていうのがわかるだけでも、めっけもんかなと思います。

  • 2018.8.20読了。
    一流の登山家でも何度か危険な目にあったりしてる。それでも登山をやめないのはもう凄すぎる。

  • 書くことはあまり好きではない作業とのことですが、このような記録を残していただきありがとうございます。
    挑戦を続ける方の、このような文章を読めることに感謝です。

  • クライマー山野井泰史の自伝。
    ここ1年ぐらいは登山や冒険のノンフィクション作品を読んできた中で手にとった本書。
    評価も高かったので自伝ならではの心理的な深い描写を期待したのだけど、どことなく淡々と書かれているのと、自己陶酔的なところが見えて期待とは違った。
    ただ、普通に読めた。

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