幕末維新の政治と天皇

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (559ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642037778

作品紹介・あらすじ

近代日本国家はなぜ天皇を必要としたのか。条約勅許から王政復古へとつながる複雑な政治過程を、天皇と「公議」をキーワードに解き明かす。薩長同盟に新たな解釈を加えるなど、幕末維新史に根本的な書き換えを迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末維新の政治過程について、「天皇原理」と「公議原理」の相克と共存として描き出す一書。同時に強烈な物量作戦とでもいうべき分厚い実証で、これでもかと迫ってくる。その結果、一般的にもそうだと思われている歴史像の書き替えをいくつかしている点が印象に残る。たとえば、(1)孝明天皇を単なる攘夷狂信者として描かず、天皇家の存続を第一に求める現実的な部分もあったという説、(2)薩長同盟の成立を慶応2年1月ではなく慶応元年9月にみる説、(3)大政奉還から王政復古のクーデタまでの薩摩と慶喜の関係を、決定的対立とせず避戦・天皇公議政体論という点で一致をみていた説、など。膨大な史料の読み込みを求められる幕末維新の政治過程史において、丹念に史料を読んで新説を提示することは本当にすごいなと思う。僕にはできない。

    とはいえ。実証面はさておき、大枠では本書のありようについて疑義なしとしない。たとえば「天皇原理」と「公議原理」のその「原理」の内容について。本書では文字通り「天皇が政治的正当性をもつ原理」と「公議が政治的正当性をもつ原理」という意味でしかないが、本当にそれでよいのか。

    つまりふたつの存在は、幕末維新史のなかでは「すでに存在したもの」として、いわば固定的なイメージが与えられて、その内実についてはあまり問われていないのではないか。

    言い換えれば、「なぜ天皇が政治的正当性をもつのか」ということは問われない。本書が対象とする文久期から慶応4年初頭まで、天皇はつねに同質の「正当性」を持った「キャラ」とし(そて、その原理の強さの強弱は変わるが、質は同じものとして、描いてしまっていいのだろうか。

    より疑問なのは「公議原理」のほうで、「みんなで相談して決めようね」というのが「公議」だという現代的な感覚を幕末維新期の「公議」に投影してしまっているような印象を持つ。「公議」を形成するためには、話者の話術や言語がかかわってくるわけで、「話し合って決めよう」という今日では当たり前の感覚が通用しないことだってあるだろう。それを等閑に付して「公議」なるものを一般的に設定してしまって良いのだろうか、と思う。

    本書は、政治過程的には鳥羽伏見の戦いが勃発する前で終わっており、「なぜ鳥羽伏見の戦いになったのか」という筆者なりの見解を知ることはできなかった。そういう意味では、未完となった映画をみるようで、残念である。さらに、「日清戦争への道」から「幕末維新」へと研究を転じた筆者は、おそらくこのあとその間を埋めるべく1870~80年代の分析へと転じたのではないかと思うと、どのような民権運動像を描いたのか知り得ないのは、残念なような、ほっとしたような、変な気分である。

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