豊臣秀頼 (歴史文化ライブラリー 387)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642057875

感想・レビュー・書評

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  • ちょっとせつないな。

  • 天下人の血筋を誇りながら、父秀吉の死後、その凡庸な性格が豊臣家を自滅させたとされてきた秀頼。この徳川中心史観を払拭し、出生をめぐる疑惑、豊臣公儀の創出、関ヶ原合戦、二条城での家康との会見、大坂の陣など、波瀾の生涯から浮かび上がる新たな秀頼像を鮮やかに描く。彼が着々と歩んだ、秀吉の後継者としての政治家・天下人への道筋を探る。(2014年刊)
    ・なぜ豊臣秀頼なのか―プロローグ
    ・誕生から元服まで
    ・父の死と関ヶ原合戦
    ・消えない秀頼の存在
    ・秀頼と家康の攻防―最終戦
    ・秀頼の最期―エピローグ
    ・あとがき
    ・豊臣秀頼関係系図

    今年読んだ本のなかでも、とても面白かった本。まあ面白いにもいろいろあるのだが。
    内容を手放しで絶賛することは出来ないが、勉強になり刺激を受けた。あとがきとプロローグが秀頼愛に満ちているので、心配になったが本編は許容範囲内さすがにプロの仕事であった。
    著者は、秀頼や茶々に対するイメージが陰湿で悪意に満ちているのは、徳川中心史観によるものだとする。これは目からウロコであった。確かに、旧主家を滅ぼした徳川家が、自らの行為を正当化しようとしたのは否めない。知らず知らずのうちに滅ぼされても仕方がないという先入観を持って見ていたことに気がつかされた。
    秀頼が秀吉の実子であったかという疑惑は、従来からあったが、著者は史料を駆使し、秀頼が実子であった事を状況証拠により証明している。複数の正妻論も面白い。
    公家社会では嫡出子と庶出子とでは官位を始めとして格差が設けられたとし、秀吉が我が子を庶出子という弱い立場に置いておくかと疑問を呈している。確かに藤原道長の場合も、官位に格差が認められるが、嫡子が庶出子一人の場合も公家社会において不利益を被るのであろうか。気になるところではある。
    兄鶴松が夭折したことにより、秀頼は茶々に直接育てられることとなり、親子の深い情愛で結ばれるようになる。この点、後世の悲劇の萌芽を感じさせられた。
    秀次事件について、父方の血脈集団が壊滅したという見方は新鮮であった。聚楽城の破却は、秀吉を中心とする秩序を回復するために必要な行為であったとする。後年、徳川氏が豊臣大坂城を跡形もなくした事にも通じる見方である。
    伊達政宗を陸奥米沢の大名としているのはいただけない。この時点では岩出山に移されており米沢を領していない。細かいミスではあるが、残念な点である。
    秀吉没後の家康の動向について、大坂騒擾事件は、あまり良質ではない史料も用いているが、単に話の枕として用いているのか、史料批判したうえで用いているのか解りづらい部分もあった。(関原軍記備考に登場する酒井忠次は慶長元年に死去している)
    秀頼暗愚説にも疑念を呈している。書礼礼の話なども面白い。二条城での対面で、危機感を持った家康が、豊臣家を滅ぼす決意をしたという逸話があるが、本書を読んでいると、あるいはそうかもと思わされる。

    本書は、通説を見直すような野心的な部分も少なからずある。ゆえにもう少し丁寧な記述が欲しかった気がする。とはいえ今後、豊臣政権を考えるうえでは必読の1冊と言える。

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著者プロフィール

1961年福岡県に生まれる。1993年九州大学大学院文学研究科博士課程中退。国文学研究資料館・史料館助手、東京都立大学助教授、九州産業大学教授等を経て、現在、九州大学基幹教育院教授。博士(文学) ※2022年5月現在
【主要著書】『酒井忠清』(吉川弘文館、2000年)、『春日局』(ミネルヴァ書房、2017年)、『近世武家社会の奥向構造』(吉川弘文館、2018年)、『女と男の大奥』(吉川弘文館、2021年)

「2022年 『大奥を創った女たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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