倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)

著者 :
  • 理論社
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感想 : 136
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652086155

感想・レビュー・書評

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  • なんと官能的で美しい文章なんだろう。
    官能的であるけれど、
    情緒があり慎み深い文体が品性を失わず、
    センチメンタルな少女たちの幻想譚に命を吹き込む。

    皆川さんを読んだのは初めてだったけど、
    発表当時で75歳を過ぎていたというから驚きだし、
    戦時中の詳細な暮らしぶりと
    お嬢様たちの違和感のない描き方は皆川さんが戦争経験者で
    本当のお嬢様だったからこそのリアルさなのかな。


    戦時中のミッションスクール。
    図書館で偶然見つけた
    チョコレート色の模造皮と孔雀模様のマーブル紙で飾られた美しいノートには
    『倒立する塔の殺人』というタイトルだけ記されてあった。
    少女たちの間では小説の回し書きが流行していて、
    ノートに出会った者は続きを書き継がなければならない。
    それぞれの物語を綴っていく少女たちだったが、
    やがてひとりの少女の不可思議な死をきっかけに
    物語は驚愕の結末を迎える…。


    主要キャラは5人。

    土管型のずんどう体型で庶民的な家に生まれたため、
    クラスで変わり者と見なされ
    異分子を略したあだ名のイブと呼ばれる少女、阿部欣子(あべ・きんこ)。

    華奢な体格で力はないが、成績優秀で可愛く
    誰からも好意を持たれている14才のお嬢様、三輪小枝(みわ・さえだ)。

    空襲時なぜかチャペルにいたことにより亡くなった
    ミッションスクールに通う小枝の憧れの先輩、20才の上月葎子(こうづき・りつこ)。

    絵を描くことが趣味で西洋人形のような顔立ちをした
    葎子のルームメイト、七尾杏子(ななお・きょうこ)。

    ミッションスクールの生徒で
    いつもだらしない格好をしてることから
    ジダラック(自堕落)のあだ名で呼ばれている設楽久仁子(しだら・くにこ)。


    三輪小枝の依頼を受け、三人の少女たちで回し書きされた小説『倒立する塔の殺人』に隠された、
    上月葎子の死の真相に迫る阿部欣子。

    夢見がちなミッションスクールの少女たちの中で
    ひとり現実的で地に足のついたベー様こと阿部欣子のキャラがいいですね。

    そしてある意味、我が道を行く、
    聡明で早熟なジダラックの
    凛としたスタンスに個人的には共感でした。

    女子寮を取り巻く
    鋭い棘で武装した蔓薔薇。
    銀紙に包まれたチョコレートの
    涙が出そうな甘い味。
    防空壕にこだまする少女たちが歌う「美しく青きドナウ」。
    壁に掛けられたエル・グレコの「十字架を抱くキリスト」。
    音楽室から聞こえてくるショパンのポロネーズ第四番。
    軽やかにステップを踏みダンス
    を踊る、憧れの御姉様たち。
    少女がそらんじるアルチュール・ランボーの「酔いどれ船」、
    同性を思慕し合う女学院特有のS(シスター)という奇妙な関係。
    死に往く男たちの悲愴感に恋をし、
    毒が溶けた物語を養分としなければ生きていけない、
    儚くて残酷な少女たち。

    思春期特有の危うさや脆さ、
    異端者に対する残酷さと
    少女たちの聖域とも言える閉鎖的世界の
    なんと官能的で甘美なことか。

    現実世界と少女たちが書く物語とが絶妙に交錯して、
    何が現実で何が虚構なのか分からなくなる構成は見事だし、
    この複雑な作りが物語をより耽美で幻想的なものにしています。
    そして戦時中という、いつ命を落とすかもしれない不穏な時期を物語に選んだことによって、
    より少女たちの儚さを鮮烈に浮かび上がらせるのです。

    今回この小説を読んで
    「思慕」と「憎しみ」は紙一重なのだろうとあらためて思いました。


    それにしてもジダラック、
    本当にいい子じゃないか!(笑)
    もう少し早くに優しくしてあげても良かったのに…。
    そしてベー様と小枝とジダラックの物語をまだまだ読んでいたかったなぁ~( >_<)


    小川洋子が描く官能美に酔いしれる
    『寡黙な死骸 みだらな弔い』『薬指の標本』、

    お嬢様学校の異端者だけが集う「読書クラブ」と
    少女たちがノートを書き綴るという設定が
    本作とも共通する
    桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』、

    聡明でいて残酷な少女たちの心理合戦が秀逸な
    友桐夏の『星を撃ち落とす』、

    少女たちの神隠し事件を追った
    ピーター・ウィアー監督の『ピクニック at ハンギング・ロック』、

    死に囚われた少女たちを幻想的に描いた
    ソフィア・コッポラのデビュー作『 ヴァージン・スーサイズ』など、
    少女たちの儚さや
    官能的な死の匂いを感じさせる映画や小説が好きなら、
    必ずハマる世界観の作品です。

    ビビビときたアナタは是非是非!
    (そして紹介してくれたkwosaさんに感謝!!)

    あっ、文庫版より、
    理論社のミステリーYA!シリーズ版の方が
    装帳やイラストがホント美しいのでオススメです。

    • 円軌道の外さん

      kwosaさん、お帰りなさ~い(笑)
      ここにもコメントありがとうございます!

      あはは(笑)
      レビューはだいたい読み終わってすぐ...

      kwosaさん、お帰りなさ~い(笑)
      ここにもコメントありがとうございます!

      あはは(笑)
      レビューはだいたい読み終わってすぐの状態で興奮して書いてるので、
      あとで冷静になって読み返すと
      恥ずかしいっスわ~( >_<)

      いや、皆川さん、ホンマスゴいっスね。
      kwosaさんの言うように
      世界観は好みでもあのお年だから会話とかちょっと古くさく感じたりして…
      なぁ~んて失礼ながら読む前は勝手に思ってたんですが(笑)
      まったくの杞憂だったし、
      古くさいどころか作者名言わなきゃ、若手作家が書いたのかと思うくらい新しくて瑞々しい感性を感じさせて、
      ホンマ嬉しいビックリでした(^^;)

      あっ、『開かせていただき光栄です』も
      かなりの傑作みたいですよね。

      しかし、『トマトゲーム』の帯の惹句めちゃ気になる書き方ですね(笑)
      文庫で出るんかな?

      あっ、この前図書館で服部まゆみの『この闇と光』探したんやけど、残念ながら貸し出し中やったんで
      せっかくやから文庫で買うかな~(笑)
      kwosaさんのその力の入ったオススメ具合やと
      絶対僕が気に入りそうな世界観やということやろし(笑)

      それにしてもkwosaさんの紹介にハズレはないし、
      皆川さんもホンマ感謝感謝っスよー(^^)
      ありがとうございました!



      2015/05/30
    • kwosaさん
      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫みたいですよ。
      しかも過去の単行本と文庫でそれぞれ未収録だった一編をすべて収めた完全版らしいです。
      読みた...
      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫みたいですよ。
      しかも過去の単行本と文庫でそれぞれ未収録だった一編をすべて収めた完全版らしいです。
      読みたいけどちょっと表紙が苦手なんですよねぇ。

      皆川博子さんには『聖女の島』って傑作もあるんですけど、これも人形系の表紙で家に置いとくのが怖いんですよ、僕。

      『聖女の島』表紙変えて復刊されないかな。
      素行不良の少女たちが軍艦島みたいな矯正施設で、監理する修道女たちとバトルを繰り広げるという凄い話を、あの格調高い文体でやってしまうんです。そして......
      ちょっと興味出てきません?
      2015/05/31
    • 円軌道の外さん

      kwosaさん、ここにもコメント返しありがとうございます!

      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫ですか!
      情報感謝感激です(^^)
      ...

      kwosaさん、ここにもコメント返しありがとうございます!

      『トマトゲーム』はハヤカワ文庫ですか!
      情報感謝感激です(^^)

      めちゃくちゃ気になってきましたよ~(笑)
      表紙が苦手って、もしやラノベ風味なんですかね~?
      僕も 『ビブリア古書堂の事件手帖』や
      森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』は読みたいんやけど、
      表紙のせいで、なかなかレジまで持っていけなかったなぁ~(笑)
      (本を普段読まない層にアピールするためか、最近やたらとラノベチックなイラストの表紙が目立つんやけど、本当の本好きはあの表紙のおかげで敬遠してしまうような気がします)

      なぁ~んて、書いたけど、
      違うんか~!(笑)
      人形系の表紙ですか~(^^;)
      つまり、幼い頃のトラウマか何かで気持ち悪いとか怖いってことなんですね。

      でも分かりますよ~(^^)
      気持ち悪い表紙と言えば、僕は80年代の角川文庫の横溝正史シリーズのおどろおどろしい表紙の絵柄が生理的にダメでした(汗)
      もう表紙に触れると呪われるから(笑)
      (勝手に思ってたんです)

      部屋で見かけたら常にビクビクしてました(笑)
      (中学時代同居してた叔父さんがよく読んでたのです笑)

      つか、 kwosaさん、
      あおり文上手いから(笑)
      『聖女の島』めちゃくちゃ読みたくなりましたよ!
      皆川版バトルロワイヤルみたいなんをイメージしたけど、
      ちょっと違うかな?(笑)
      壊れて落ちていく二人組みの設定もそうやけど、
      幽閉された力のない少女たちが戦う話も好きなんですよね~(笑)
      もう『次読むリスト』入りしたんで、
      近々探してみます!(^^)




      2015/06/11
  • 三浦しをんの『本屋さんで待ち合わせ』にて紹介されて、ずっと読んでみたかったこの本を、先日図書館でたまたま覗いたヤングコーナーで見つけて「ここにあったのか!」と早速借りてきました。
    実はちゃんと皆川博子さんの本を読むのは初めてで、勝手なイメージで小難しそうと思っていたし、読み始めると戦時中の話で驚いたが、もう物凄く引き込まれて一気に読んでしまった。戦時中のミッションスクールが舞台で、甘美な女子校の雰囲気と、真実と虚実の危うい感じがとても好みだった。
    皆川さん70代でこの作品…素晴らしい。

  • 皆川博子さんの特徴はなんといってもアカデミックで耽美幻想的な上質の文章、極上の酩酊を誘う退廃的な雰囲気、清濁併せ呑む世界観、美麗な登場人物……数え上げたらきりがないんですが、とにかく一度はまると抜け出せない、麻薬のような魅力があります。
    毒にも薬にもならない小説が多い中で、皆川博子の小説はどれも強烈な毒をもっている。
    感性があうひとにはたまらないんじゃないでしょうか。

    第二次世界大戦終戦直後、焼け野原と化した東京のミッションスクールのチャペルで、一人の女子生徒が変死を遂げた。
    その生徒の死には「倒立する塔の殺人」と題され、ミッションスクールの生徒間で回し書きされた小説が絡んでいるらしい。
    死んだ女生徒に憧れていた小枝は、異分子のイブとあだ名される同級生の力を借り、未完の小説の続編を模索するー……。
    シスターの頭文字をとりSと呼ばれる特殊な関係、友情。
    物資が欠乏し女学生であっても工場に駆り出された過酷な時代の中、語り手から語り手へと受け継がれる禁断のノートがもたらすのは災厄か、それとも……
    美術や文学の教養の深さに裏打ちされたアカデミックな会話、驕慢で清楚、可憐で邪悪な少女達の描写が素敵すぎる。
    「カラマーゾフの兄弟」が重要なキーワード……ってほどでもないですが、登場人物を繋ぎ合わせるキーアイテムとなってるので、カラマーゾフ既読の方にもぜひ読んでほしい。どの登場人物が好きかで性格がわかるという指摘にはぎくりとします。
    擬似姉妹愛をメインに据えたミッション・スクール物としても読めるのですが、ミステリ的なギミックも仕掛けられていて、ラストの二重の陥穽には「やられた!」と感嘆しました。
    恩田陸の「蛇行する川のほとり」とか好きな人は絶対ハマると思います。
    一冊のノートとともに語り手が受け継がれていく形式は桜庭一樹の「青年のための読書クラブ」と共通ですね。あわせて読んでみると楽しいかもしれません。
    ただ、難を言うなら、設楽さんが可哀相すぎる……聡明な子なのに、あの扱いは酷え……。
    ラストで自信たっぷりに将来の夢を語るところでは皆川さん本人がモデル?と勘ぐりましたが、どうなんでしょうね。

  • ・皆川博子は多種の作風を駆使する職人だが、
    今作は彼女の少女小説の代表になりそう。

    ・少女小説にあふれる優雅な悪意や毒が、皆川作品の中核でもあったのだ。
    うっとりしちゃうよ。

    ・昔日の少女小説の少女たちはおおむね知的。
    文学も音楽も絵画もたしなんでいる。
    果たしていまの少女たちは……?

    ・戦争中のミッションスクールというだけで、このどきどきはなんだろう。
    ゴシックハートがうずく。

    ・きらびやかな舞台背景(というより、語り手の視野)にだまされがちだが、
    作中人物たちは作者と同年代。
    戦争へのシニカルな思いなどは、作者のそれといえるのでは。

    ・ヤングアダルトのための本なのだが、大人が読んでも十分に面白い(そして難しい部分もある)。
    構成の複雑さ、トリックの複雑さ。

    ・名前がまことに美しい。
    そしてその美しい名前がトリックのひとつにもなっているのだから。
    阿部欣子(あべ きんこ)→異分子のイブ。ベー様。ヌーボー。逞しい。素朴。
    三輪小枝(みわ さえだ)→小柄。かわゆい。
    佐野季子(さの すえこ)→冒頭で死亡するが舞台の雰囲気を伝える。
    設楽久仁子(しだら くにこ)→上月への恋。嫌われ役。ジダラック。
    上月葎子(こうづき りつこ)→お姉さま。毒舌。
    七尾杏子(ななを きょうこ)→お姉さま。絵画熱。
    雫石郁(しずくいし かをる)→図書館司書。
    ゲビタコ→当時頻出した教師。実はアカ。

    ・表紙のセンスのすばらしさ。佳嶋。

    ・桜庭一樹原作・タカハシマコ作画「青年のための読書クラブ」、
    志村貴子「青い花」を彷彿。
    ただしこちらは毒っけが強い。

  • 戦時中のミッションスクールを舞台にした推理モノ。「倒立する塔の殺人」とタイトルのついたノートを友人や後輩に手渡ししてゆき、受け取った少女が自分の手記と物語を書き継いでゆくというスタイルを取っている。そのため事件の語り手・視点は複数にわたり、少女同士の愛憎が複雑に絡み合ってゆくので、パズルピースのように各人の証言をつなぎ合わせ、感情の流れの見取り図を作り、事件の全体像を作り上げてゆく面白さがある。出来上がった図は、作中に登場する世紀末の画家の絵(エゴン・シーレ、ムンク、ルドンなど)さながらに耽美で毒を含み、虚無と隣合わせの美しさ、儚さを持つ。
    戦時中の描写が妙に生々しくリアル感溢れていると思ったら作者は1930年生まれ、リアルにその時代を体験している世代だった。どうりで。だが、ということは現在は御年84であり、この作品は2007年11月に初版が出た時は77歳。それでいて(というかだからこそ?)この緻密な描写、綿密な構成、瑞々しいエロスとタナトスの対比。素晴らしい。

  •  女子校というのは、今も昔も耽美で閉鎖的で、そして妙な憧憬を集める不思議な空間だ。外から傍観している野次馬(わたしだ)は、ただただそこへ入っていけない恐れと垣間見たい欲望を、密かに持っているのが大半だろう。興味関心が無ければ、その辺の電柱と同じようなものだ。『倒立する塔の殺人』では、2つの女子校が出てくるが、一方は戦争の害を被って使えなくなる。だが、嫁入り前の女子でたくさんの急場の工場や空間は、形こそ違えど、女子校特有のいわく言い難い雰囲気を醸し出す。それは過去と現在、そして未来へと続いていくのだろう。
     ……と、珍しく生真面目に読んだ感想を書こうかと思ったが、導入だけで飽きてしまった。主張? ふうむ。強いて言えば、割と設楽久仁子さんと仲良くなれそうな気がするという位だ(わたしの周りの人にはああいうタイプが少なくない=多いので、慣れている。むしろ気が合うかもしれぬ)。だが、あれだけ女子が密集している空間で、除け者にされる設楽久仁子は、阿部欣子とはまた違った意味で物語のキーパーソンである。両者ともに、どこか女子校の生徒らしくない。阿部欣子にも勝手な親近感を得るので、わたしがどういう場所で育ってきたのか分かってしまいそうで、若干怖いのだが、女子校に溶け込めるかどうか、というのはその人の先天的性質によるのではないかと思う。どんなにカブトムシズが好きであろうと、エゲレスの水が合わぬ、というのと似ている(たとえが大雑把で申し訳ないが)。だから、この物語が問いているのは(勝手にそう思うだけだが)、人間適材適所があるのだ、というミステリーよ何処へな教訓だろう。
     阿部欣子は青果店の娘であったが、戦時中のどさくさに紛れて、平時であれば行けるはずのない都立高女へ進学し、最終的には元の家へ戻ろうとする。青果店の娘であり、ごく普通というか、庶民的に育った(と推測されるが、わたしは戦時中にはまだ生まれていなかったので尺度が合っていない気がする)ために、周囲のお育ちの良いお嬢様たちから奇妙に浮いている。おそらくは、所作や言動にお嬢様教育がなされていないからであろうと考えられる。小枝が足を不自由にしてしまった折に、井出総子が恩着せがましく断りを入れてから小枝の笊を運んでいくのに対し、何も言わず作業だから持っていく阿部欣子は、家を手伝ってきた癖のようなものが表れている。考えるというよりは、赴くままに動く、といった感じで自分の道を決められる凄みがある。
     三輪小枝は常に、自分の育ちにあらかた沿ったルートを辿っている。ただ、戦時中の作業はなにかと体質に合っていないのか、嘔吐したり足を捻ったりする。だが、終戦を迎え自然、英語を学び進めようとする進路をとる三輪小枝も、やはり生き方を決めてある。
     設楽久仁子は少し不思議である。育ちはお嬢様たちに追い付こうとするタイプなのだが、どうにも馴染めない。小説家になる、と宣言したにもかかわらず、司書雫石の死後、阿部欣子には目指すのを止めたと伝える。設楽久仁子は、周囲に影響されやすいというか、あれだけ嫌われているというのに、気を遣っていないように見せて、案外変な所で気を遣っているのだ。そのせいでふわふわとあちらへ行ったり、こちらへ行ったり、結局、どこへも行けない。自宅には生の空間があり、そこには馴染んでいるが、女学院に行くとそこには入れてもらえない上に、慕った上級生の死がある。そう考えると、彼女は実に生の人間らしい、迷う性質を備えていると捉えられよう。
     さて、ふざけているのか適当な事をべーべー書きおぼえに残しているのかよく分からなくなったが、なにはともあれ、ここまで読んでくださった方(がいるわけはないと思うが一応)、ありがとうございます。とんだ雑文でお目を汚した非礼、申し訳ございません。早急に『倒立する塔の殺人』本編を読んで、流麗でどこか甘い毒を放つ文章を味わいましょう。

  • 好みです。たしかに、甘美な毒でした。好きなキーワードと美しい文章にうっとり。三人の少女たちの場面が束の間の夢みたいで、とても素敵。胸がいっぱいで言葉が浮かばない。もう少し浸っていたいです。戦時中の苦しい時代のお話なのに。頭の中には綺麗な場面が残っています。

  • 表紙と雰囲気から、昔の綺麗な女学生たちが華やかに交流する乙女ティックな話だろうと思ったのがまるで違っていて、読みだして面食らった。
    あらすじもだけど、戦時中の生活感をリアルに感じられたのがすごく面白かった。
    魅力的とは云い難い人物として登場する子が最後に驚くべき聡明さを見せたりして、しびれたー!

  • 文庫版ではなく、理論社版を読んで欲しい。
    装丁が凝っていて素敵。

  • 今の児童はこんないいもの読んでるわけかい。うらやましい。

    戦中のミッションスクールで起こった不可解な友人の死をめぐる、「倒立する塔の殺人」という少女たちが書き回している小説。

    それぞれの手記や現実や小説や過去が何重もの入れ子構造になっていていい感じに酔えました。

    皆川博子さんの少女性は永遠ですね。

著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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