ゆゆのつづき

著者 :
  • 理論社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652203408

作品紹介・あらすじ

杉村由々は五十代の翻訳家だ。小学生の時に習ったピアノのソナチネを予期せず徹夜明けに弾き、由々は小学五年の夏休み最初の日をまるで昨日のことにように思い出してしまった……。自分が一番自分らしかったあの日を。
11歳の少女の1日が、46年後、思ってもみない魔法をかけたーー。

感想・レビュー・書評

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  • 由々、57歳。
    一人息子も巣立ち夫とは程よい距離感を保ち、翻訳の仕事もマイペースに続けている。
    何事も順調に進む彼女が、11歳の頃の自分"ゆゆ"と向き合うことから始まる物語。

    人生も半ばを過ぎ、特に不自由なことはないけれど、ふと立ち止まり過去の自分と対峙する。
    訳もなく不安になったり物足りない気持ちに駆られたり。
    遠い日の記憶の中に迷い混み、いつの間にか絡め取られたり。
    控え目で節度をもったモデラートの人生を歩んできた由々にとって、ざわざわした気持ちを持たせる一時は、自分らしさを取り戻せた瞬間。
    人生は楽しいことばかりではない。
    失敗したり傷ついたりしたことも、その時は辛くても長い目で見れば、そこにしかない良さに気づかされることもある。
    そんな清々しい気持ちになれた物語だった。

    高楼さんの作品は『十一月の扉』以来。
    今回は大人の女性に向けてエールを貰えた物語。読めて良かった。

    • やまさん
      mofuさん
      おはようございます。
      いつも、いいね!有難う御座います。
      本のタイトルに惹かれました。
      いいレビューですね。
      「そこ...
      mofuさん
      おはようございます。
      いつも、いいね!有難う御座います。
      本のタイトルに惹かれました。
      いいレビューですね。
      「そこにしかない良さに気づかされることもある」と言うくだりはそうだなと思います。
      やま
      2020/01/11
    • mofuさん
      やまさん、おはようございます。
      こちらこそ、いつもいいね!をありがとうございます。

      私もこの作品のタイトルに惹かれて手にとりました。
      素敵...
      やまさん、おはようございます。
      こちらこそ、いつもいいね!をありがとうございます。

      私もこの作品のタイトルに惹かれて手にとりました。
      素敵な文章がたくさんあって、読んで良かった、と思えた作品です(*^^*)
      2020/01/11
  • ふとした瞬間に、過去に引き戻され、その時の記憶や感情が蘇ってしまうことはあるなぁ。
    子供らしくなかった私。周りの大人たちの評価にいつしか合わせるように振る舞っていた。本当に欲しいものを子供らしく口にできなくて、深く後悔したことを、いまだに思い出すことがある。

    期待して妄想し、その通りにならなくて失望し、うまく感情を表現することもできず。
    時には周りに当たり散らし。
    いつしか、期待なんかしなければ楽だ、という生き方をしてきた。
    だから、
    主人公の心の動きは、よくわかる。
    私と同年代だということもあるし、こんな年になっても、完結してない思いって、あるんだよね。うまく整理出来ないけど。

  • 心に溢れてくるもので胸がいっぱい、素敵なことが起こると信じていた『いちばんわたしらしいわたし』と思えた11歳のゆゆ。
    失望することをおそれ心の内を沈める大人になった57歳の由々。
    忘れていたあの夏の日と今が繋がることで、11歳のゆゆが今の由々の中につづいている、今の『私らしい私』に気づいていく。
    その夏、ゆゆも由々もどちらも痛みを伴う経験をしながら、忘れられない時を過ごした。2つの夏を繋ぐ魔法。
    その魔法のかけ方がなんとも素敵だ。
    ピアノの旋律、朝の空気の匂い、黄の花のワンピース、本…世界の描き方がしっとりと美しい。
    高楼方子さんの絵本や児童文学で描く子どもや少女は等身大で愛らしい。初の文芸作品だという『ゆゆのつづき』では、高楼さんの描いてきた少女の愛らしさを内に秘めた大人の女性に出逢えた。

  •  静かで地味だけれど、すべての文が宝石のように大切に思われる。残りのページが少なくなっていくのが惜しい気持ちになった。
     11歳のゆゆと46年後の57歳の由々がつながっていく。黄色の小花のワンピース、「たつひこ」という名の青年、『十五少年漂流記』、「あおいゆたか」という写真家…それらの一致は、偶然ではなく、あの日の続きだったのか。あの日の出来事を完結させるための仕掛けだったのか。

    • やまさん
      neginohanaさん
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      やま
      neginohanaさん
      おはようございます。
      きょうは、快晴です。
      やま
      2019/11/17
  • 文学、音楽、坂道、木、空、ワンピース…偶然という奇跡が何層にも重なる紛うことないファンタジーなのだが、その偶然は早かったり遅かったり間が悪かったりで、ゆゆの人生は決してドラマチックにならない。それでも、突然訪れる美しい瞬間をうっかり信じてしまう不思議な読後感がある。
    「楽しいことだらけだった日にはない良さ」に寄り添うゆゆに共感してしまうなあ。

  • 主人公、由々が子ども時代の"ゆゆ"を回想しながら物語が進みます。「お気に入りのお洋服を着た日にはなんだか素敵なことが待っているかもしれない...」というワクワクした気持ちは誰しも経験したことがあるかもしれません。

    "ゆゆ"もその一人。11歳の夏休み最初の日に、一期一会だけれども一生のなかで印象に残る人たちと出会うことになります。50代を迎えた由々ですが、その記憶は決して色褪せることなどなく、その後の物語の潤滑油のような役割を果たします。時がたち、黄の花のワンピースを着た由々の心にはある出会いをきっかけに若い頃、懸命に蓋してきた思いが解き放たれ、やがて11歳の"ゆゆ"を受け入れるのでした。

    夏×海の雰囲気が好きなので、このような世界観を味わえる本に出会えて嬉しいです。主人公の仕事が翻訳ということもあって、外国の物語が登場します。夏の空は青く澄み渡り、海の向こうから時折外国の風が混じった穏やかな風が吹いている、そんな世界へ連れていってくれたようです。物語の中にはたくさんの音楽が流れています。主人公がピアノを嗜んでいたからか、由々の心情をメロディで表している描写もありました。
    作中の喫茶店で流れていた「ランパルが演奏するヘンデルのフルート・ソナタ」、「ディアベリのソナチネ」、「軽快なテレマンの協奏曲」などを流し、由々の心情に寄り添いながら読み終えました。しかし偶然が偶然を呼ぶというもので、やはりちょっと展開に現実離れがありましたが、フィクションなので仕方ないでしょう。
    とても穏やかで優しい物語です。

  • 児童書でよく読んでいる高楼方子さんの本。
    「大人の女性たちに読んでほしい」というオビの推薦文もあり読みましたが、ちょっと期待が高すぎた印象。

    黄の花のワンピース
    ディアベリのソナチネ
    十五少年漂流記
    ジェラールフィリップ

    高楼方子さんらしい、夢のあるほわっとしたお話ではありました。


  •  高楼方子さんの作品を何作か読んでいるので、児童文学のつもりで読み進めていたが、途中で違うことに気が付いて驚いた。
     翻訳の仕事を続け、五十代半ばになった由々。ふとしたきっかけで小学5年の夏休みの日のことを思い出すのだ。お気に入りの「黄の花のワンピース」、仲良くなれると思っていたのに拒絶された「れい子ちゃん」、悲しみを抱え、さまよい歩き続けた街並み、同じ本で理解しあえた大学生の「タツヒコさん」。長い間忘れていただけで、納得できず、消化しきれなかった思いがあふれ出す。
     高楼方子さんの情感あふれる描写が好きだ。自分ではなかなか言い表せないが「そうそう」と理解できる細やかな心情の表現などがすごいと感じる。

  • 少女の頃の憧れがぎゅっと詰まった作品。
    それだけじゃなく、憧れの先に出会う失望も。

    ほんとうの事というのは未来によって形を変えてゆくものなのだろう。

    ピアノの旋律、知らない小道、東欧の村の写真展、瀟洒な一軒家、夏の日差し、すみれ色の夕暮れ…
    読んでいると、すーっと風が通り抜けていくような心地になる。

    ゆゆの"あの夏の日"のつづきは40年以上経ってやっと訪れる、その距離感もよかった。
    この年月を経たからこそ、れい子ちゃんからの手紙も、由々の翻訳という職業を通して、すとんと収まるべきところに収まったのだと思う。

    4ミリ同盟とこの作品しか読んだことがなかったけれど、高楼方子さん好きだなあ。
    他の作品も読みたいです。

  • 息子は独立し夫と二人暮らしの由々(ゆゆ)
    翻訳にたずさわり二十余年がたつが、及び腰のまま仕事をしている

    ある夏の朝、徹夜明けの仕事場で懐かしいピアノ曲を弾いたのをきっかけに、46年前、11歳の〈ゆゆ〉だったのときの思い出がよみがえる

    特別の〈黄の花のワンピース〉を着て、うきうきして友だちに会いに行った夏休みのはじめの日

    いいことも悪いこともあった日に出会った大学生〈タツヒコさん〉の記憶

    由々は喫茶店で知り合った青年〈龍彦〉に〈タツヒコさん〉を重ねて思う

    そして迎えた夏の終わり

    《あの遠い夏、わたしはたしかに、未熟で愚かで、けれどいちばん自分らしい自分だった。》

    ヴェルヌの『十五少年漂流記』をモチーフに、ディアべりのソナチネが遠く近くに奏でられる佳品

    《大人の女性たちに読んでほしい。美しく切ない物語》──帯の紹介文より

    長年にわたり子どもの本を書いてきた高楼方子(たかどのほうこ)初の文芸作品、2019年10月刊

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高楼方子の作品

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