NPO新時代

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  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750328799

作品紹介・あらすじ

NPO法制定から10年。多くのNPOは経済的な困難を抱えながらも、自立をもとめて模索を続けている。では、NPOはどうすれば真の社会変革の担い手となりうるのか? この10年を総括し、寄付、ボランティア、アドボカシーの3つの観点から提言する。

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  • 公共政策の研究者であり、実際の国の機関等でも委員を務める、
    いわば公共政策の学問と現場の両方を知る著者による
    NPOの現状を見つめ、どうあるべきかを提言している一冊。

    データをもとに、NPOの財政状況などを概観し、そこに
    どういう問題があるかを明らかにする。

    また、ドラッカーの「非営利組織は市民生活を向上させる役割と
    関わる人々を目覚めさせ市民性を養う役割がある」という
    フレーズを軸にして、
    とりわけ一般的にはあまり意識されていない後者の視点、
    すなわち市民性創造について、何が重要かを問うている。

    デビッド・コーテンの「NGOの4つの世代とその戦略」に関する
    引用と、ホームレス支援団体などの例に基づく説明がわかりやすい。
    NGOには4つの世代があり、
    第一世代:救援と福祉
    第二世代:地域共同体の開発
    第三世代:持続可能なシステム開発
    第四世代:民衆の運動
    となっていて、
    要するに、ただ単に対処法的な「施し」に終始していても
    真に問題解決に至ることはなく、
    結局どこに問題があるのかを見定めたうえで、より進んだ世代の
    取り組みが必要であり、それを担い実現する人材の躍動こそが
    社会変革なのじゃないか、っていう話である。
    これは納得する。
    確かに、救貧活動だけでは、それは当事者の「やりたいだけ」だと
    言わざるを得ないこともあろう。

    途上国支援や、日本の東日本大震災の被災地支援にも結局当てはまる
    話で、「生き延びる」段階の支えが必要なことは絶対だが、
    そこから活動の次元を高めないことには、問題は横たわり続けるままで、
    それを支え続けるだけの人的、財や物の資源が充分出し続けられるわけがない。

    また著者は「活動の価値」をどう定義づけて、評価を出していくかについても
    具体的に述べている。
    評価には「測定の行為」と「判断の行為」が存在し、
    客観的数値指標で測定することと、主観的に判断を下すことの違いを
    理解したうえで、最終的なゴールである「社会変革」にどう辿りつくかという
    ところから、それらを適切に組み合わせつつ運用することの意味を
    明らかにしている。
    これも、なるほどである。

    とかく私自身のNPO観というのは、恐縮ながら
    「世のためにがんばっている人が大多数だろうが、
     どうにもうさんくさい人や組織もあるんだよなぁ」
    というものだったが、
    それは、だいたい本書の著者の説明で理由が見えてきた。

    何を公益・ミッションに掲げ、そこにどういう計画で到達しようとし、
    財務や組織・人的マネジメントを現実に行って、その成果を社会に
    伝えていくか、という点が
    分かりやすく伝わってこない組織が多いような気がしていたからである。

    で、著者が危機感を抱くように、実際にそうなんだろう。

    企業ならば、理念は「世のため人のため」でもなんでもいいのだが、
    現実には会計を明白に行い、キャッシュが詰まったら倒産するという
    明確なゲームオーバーが用意されている。
    だから逆に言うと、そこをかっちり締めるようにするのは
    持続的企業の最低限の条件であり、
    あとはまぁ、独自のアプローチで市場の開拓と維持を進めることに
    なるわけである。

    NPOの場合、理念先行になった結果、マネジメントと評価、および
    その開示(株式会社がIRとして外部に出すような)がザルになっていて
    いわばゾンビのようなNPOだとか、あるいは邪な活動目的の
    NPOなども排除できないような構図があることは否めない。

    そういった意味では、認定NPO制度や、寄付の優遇税制などは
    かなり重要であろう。
    理念と、実行、管理のバランスを取り、世に伝えていくNPOが
    優遇され、競争で生き残っていくことをサポートするのは、
    至極まっとうである。

    組織構成員の無償の「すり減り」によって維持されているような
    NPOはさっさと退場して、
    そのリソースを、もっと「社会変革」に邁進し、市民性創造に
    寄与しているNPOに振り分けることができれば、
    それこそが、本当に社会変革のスタートなんじゃないかと
    ぼんやり思ったりする。

    それに至るには、経済的・感情的インセンティブを生み出す
    制度が必須であろう。

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著者プロフィール

国際公共政策博士(大阪大学)。専門は非営利組織論と評価論。(独)大学評価・学位授与機構准教授。東京大学工学系研究科客員助教授、国際協力銀行評価室参事役などを経て、現職。財務省財政制度審議会委員、総務省政策評価・独立行政法人評価委員、公益法人制度改革有識者委員など。言論NPO理事、エクセレントNPOをめざそう市民会議理事。
著書に『NPO新時代――市民性創造のために』(明石書店、2008年)、『NPOが自立する日――行政の下請け化に未来はない』(日本評論社、2006年)、『NPOと社会をつなぐ――NPOを変える評価とインターメディアリ』(東京大学出版会、2005年)ほか。訳書にP.F.ドラッカー、G. J. スターン編著『非営利組織の成果重視マネジメント――NPO・行政・公益法人のための「自己評価手法」』(ダイヤモンド社、2000年)ほか。

「2011年 『市民社会政策論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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