疫病の世界史(上)――黒死病・ナポレオン戦争・顕微鏡

  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750352671

作品紹介・あらすじ

疫病は人間社会の実像を映し出す鏡だ。それは個々の生を揺るがし、宗教への懐疑や哲学の刷新を促してきた。上巻ではペスト、天然痘、コレラなどの流行の実態と、ある「英雄」の見込み違いが招いた惨事、そして細菌の発見がもたらした劇的な転機を描く。

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     https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/467403

  • ・ウイルスvs微生物
    微生物は微小な生物を差す一般的な言葉で、ペスト菌などの最近と天然痘ウイルスなどのウイルスの両方が含まれる。最近は単細胞生物であり、疑問の寄りなく生命体である。DNAがあり、その情報を読み取って複製に必要なタンパク質を作るために不可欠な細胞の仕組みをすべて備えている。ウイルスは最近とは全く違うものだが、最近の1/10~1/500の大きさしかなく、フィルターを通過し、宿主に規制する美声粒子である微生物をさして使うことにする。ウイルスの存在は簡にして要を得た科学実験によって1903年までに確実になったが、実際に観察されたのは電子顕微鏡が発明された1930年代、そして生物学的な機能が理解されたのはDNA研究で革命的な発見がなされた1950年代のことである。ウイルスは生物の要素を極限まで剥ぎ取った残りの要素で構成されている。タンパク質の殻に包まれた遺伝物質でしかない。ウイルスは生きた細胞ではなく、運動機能を持たない細胞粒子である。体は外から攻撃されて病気になるのではなく、体内に親友した規制病原体に中から攻撃される。感染症は極めて強く、歴史に重大な影響を及ぼした病気のいくつか、たとえば天然痘、麻疹、破傷風、黄熱、ポリオ、HIV/エイズ などはウイルス性疾患である。

    【各疾病の感染経路】
    ・ペスト:蚤の吸血(ペスト菌の侵入)※蚤はネズミによって拡散→検疫の強化がなされた
    ・天然痘:飛沫感染(罹患者の吐く咳やくしゃみで飛び散った飛沫を近くにいる人が吸い込んで感染する)・垂直感染・無生物媒介物(患者の身の回りのものがウイルスを運ぶ)によって天然痘ウイルスに感染する ※牛痘から作られたワクチンが交差免疫を与えるため、人類史上初の根絶を果たしたウイルスになった
    ・黄熱:ネッタイシマカによる吸血(アフリカ生まれの奴隷は免疫を持っていたが、ヨーロッパ生まれも者は免疫を持たない)
    ・赤痢・腸チフス・コレラ:糞口経路(排泄物に汚染された食物と水を摂取する)
    ※コレラ蔓延の原因は産業化の初期につきものの無秩序で無計画な都市化、急激な人口増、給水設備が不十分かつ不衛生な 過密な貧民街、劣悪な住環境、粗末な食事、汚物の存在、下水設備の欠如
    ・発疹チフス:コロモジラミの吸血→痒くて掻いたあとの傷跡が糞に汚染

    【各疾病が取り上げられた作品】
    ・ペスト:『デカメロン』『ペスト』(デフォー)
    ・天然痘:『トム・ジョーンズ』『ジョセフ・アンドルーズ』『ヘンリ・エズモンド』『荒涼館』
    ・コレラ:『コレラ時代の愛』『マストロ・丼・ジェズアルド』『ベニスに死す』
    ・結核:『魔の山』
    ・センメルヴェイス・イグナーツ・フェレプ:産褥熱の発見
    ・パスツール:接触伝染。微小動物・最近・病気の特有性・ワクチン(二度なし現象)
    ・コッホ:コッホの4原則・顕微鏡検査技術の向上(細菌の固定化)
    ・リスター:外科手術における消毒の徹底

    p.263 健康と長寿は科学によってもたらされたわけではなく、栄養・賃金・衛生設備の改善といった、もっと単純な要素で決定された。

    p.,279 水道設備を全国の地下に敷設する
    この計画にはウィリアム・ハーヴィーの発見した血管樹冠の仕組みが反映されていた。事実、チャドウィックは世に知れた自分の改革を「動静脈システム」と読んでいる。システムを血液循環にたとえれば説明しやすく、また生活に不可欠なものであることも伝えやすかった。新しく敷設される送水管ー動脈にあたるーが、イギリスのどの町や市にもきれいな水ー健康を左右する第一係数ーを豊富に運び、次に毛細血管に当たる給水管が各家庭に水を送れば、家庭では2つのことが実現される。家庭に水を引く第一の木手k時は、水を用意に手に入れられるようにすることだった。それまで共同の井戸から組んだ水をバケツで運んでいたときには行き届かなかった掃除屋入浴が楽にできるようになる。チャドウィックから国民への贈り物は、水道水と水洗トイレだった。水洗トイレの期限については諸説あるが、1852年にジョージ・ジェニングズが特許を取得した水洗トイレはチャドウィックのシステムに導入され、トマス・クラッパーという立派な名前で発売された。第二日目的は、汚水を家庭から外に排出させることで達成された。溢れた屋外トイレと汚物溜めを取り払い、通りにゴミを捨てる習慣もなくしたのである。水が滞りなく流れていれば、汚物はチャドウィックが解剖学で例えたシステムの静脈ー排水口と排水管ーを通って運び去られていくだろう。血管と同じで、淀む事は無い。有機物が腐敗して毒を発散させることもなくなる。水は絶え間なく過程と街に流れ込み、通化市、流出していく。排水管と下水間の形状を卵形にするといった近代技術によって水は効率的に流れ、道間は自然に洗浄されて詰まる心配は無い。人間の生理機能と同じように、このシステムにも汚物の最終処理場があった。人間の排出した汚水は、田園地帯に設けられた下水の落ち口まで滞りなく流れていく。それを農民が買い取って肥料にすれば、対面石あたりの作物収穫量が増える。他方、 有毒物質が空気中に発散させされても、田畑が吹き抜ける風に吹き飛ばされてしまうので害はない。不衛生環境説によれば、このような空気の流れがあれば有機物は人間の健康を脅かすことなく最終的に分解される。下水用利用した農業は、やがて水道網の設置と維持にかかる莫大な費用の1部を埋め合わせ、増加し続ける都市住民に食料を供給するだろう。

    p.327 細菌病原説は、医学の歴史において間違いなく徹底的な進歩だった。病気の性質の新しい理解、顕微鏡検査法の発達、公衆衛生対策としての予防接種、そして要求される清潔さに見合う日常生活の改善を促したのである。だが、細菌説は2つの点で弊害もあったと言えるだろう。1つは、公衆衛生が病気の社会的要因貧困、栄養、教育、賃金、住宅に注目した「水平な」計画から、特定の微生物を対象にした間口の狭い「垂直な」運動に変わったことだ。このような垂直な取り組みでは、特定の病原体とそれを引き起こす病気を撲滅すると言う、ネガティブな目標ばかりが注目され、社会全体の健康と福祉が増進すると言うポジティブな目標が見過ごされる恐れがある。すでに公衆衛生運動は社会医学に背を向け、不潔さとの戦いに職場環境や賃金の問題は含まれなくなった。細菌説の出現は、微生物だけを対象にしたごく限定的な目標に集中する口実になった。細菌説の結果として表に現れたもう一つの問題は、倫理的ジレンマである。医学の歴史で初めて、研究室での研究に膨大な数の実験対象が実用になった。パスツールは研究を進めるために、ウサギ、マウス、モルモット、 牛、犬、鶏に微生物を摂取する必要があった。特にゴッホの4原則は、健康な動物に病原性と知性のある微生物を摂取することを要求した。倫理的な基準のない時代には、実験動物に不必要な苦痛を制限なく強いることもしばしばだった。さらに人間が実験動物としての利用される場合もあった。医学研究が厳しい管理と規制の対象になったのは、ナチスによる「医学目的の」実験人体実験やタスキーギー梅毒実験などの事件が起こってからである。さらに20世紀後半を見ると、病気そのものの理解が複雑になったことが挙げられる。 感染症と慢性疾患は長い間別々の分類に属するものと考えられていたが、長年の発見によって、2つの区別は思ったほどはっきりしていないことがわかってきた。多くの「慢性」疾患は、細菌感染がもとで引き起こされる。このことが初めて判明したのは消化性潰瘍で、この発見は病気の理解と治療の方法を大きく転換させた。現在、例えば各種のがんや1型糖尿病、あるいはアルツハイマー病といった他の慢性疾患についても、これに似た人があるかどうかの調査が進められている。これらの病気の微生物が引き金になっていると判明する日が来るかもしれない。最近節はその創始者が予想しなかったところでふたたびが病理学に光を当てている。

  • ふむ

  • 「ワクチン接種は激しい論争を巻き起こした。国家による侵害だと考える自由論者、神の定めた秩序に反すると訴える宗教観、科学と科学が及ぼすかもしれない危険への何とは無しの不安が波のように押し寄せ、反対論は絶頂に達した。」
    『疫病の世界史 上』p.159。
    天然痘ワクチンに対する反応の描写。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055640

  • こんなニッチな話題にフォーカスした
    世界史っていうのは、なかなかでした。
    時代時代に色々な疫病がはやっていたとはいえ
    色々な進歩があれど
    世界の状況により、
    蔓延状況が見えるというのはなかなかだった
    気がする。

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著者プロフィール

イェール大学歴史・医学史名誉教授。1975年にオックスフォード大学で博士号を取得。専門はイタリア史、ヨーロッパ社会・政治史、医学史。著書にThe Fascist Revolution in Tuscany, 1919-1922 (1989)、Naples in the Time of Cholera, 1884-1911 (1995) など。とくに2006年の著作The Conquest of Malaria: Italy, 1900-1962 は高い評価を得て、イェール大学マクミラン国際地域研究センターからグスタフ・ラニス賞を、アメリカ歴史学会からヘレン&ハワード・R・マッラーロ賞を、アメリカ医学史学会からウェルチ・メダルを贈られた。

「2021年 『疫病の世界史(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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