ベストセラーで読み解く現代アメリカ

著者 :
  • 亜紀書房
4.18
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本棚登録 : 271
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750516264

作品紹介・あらすじ

ベストセラーを見れば、現在のアメリカがわかる!

トランプはアメリカで何を引き起こしているのか。
とんでもないお金持ちがいる国で過酷な競争を生き抜くにはどうしたらいいのか。
LGBTQなどのセクシュアリティやジェンダーをどう考えるのか。
アメリカで受け容れられている日本の書籍は何なのか。

——現在のアメリカ人が何に関心を寄せているのかを、アメリカのベストセラーから読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • レビュー本なのに物語のように惹き込まれた。「こんなレビューを書けるようになりたい」と思わせた。

    人気レビュアーで翻訳家の著者が、2010年代のアメリカでベストセラーになった書籍を丁寧にレビュー。レビューの文章は「ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト」の連載コラムから引用したもので、本書の刊行年(2020年)に合わせて補足事項も掲載されている。

    トランプ元大統領をメインとした政治問題・大国で孤立するマイノリティーたち・ジェンダー・恋愛など、扱うトピックが幅広い。中には普段興味を示さない問題が含まれているにも拘らず、著者の手にかかればどの本も読みたくなって(あるいは気になって)しまう。

    それもそのはず。彼女は年間200冊以上の本を読む読書家で、周囲のアメリカ人や世界中のビジネスパーソンからお勧めの本を聞かれるほど、選書において厚い信頼を置かれている。(勧めた本が娘さんから波及し、学校中でブームになったのは偉大な功績だと思っている)
    だから今回、当然のように積読リストが膨れ上がってしまった。恨むどころか感謝しかない。

    米国内における日本のベストセラーへの反応を知る章も、わりと良い見地を得られた気がする。
    登場人物の心情を「察する」「憶測する」ことの多い日本の小説は短く、一方それらを事細かに描写するアメリカの小説は倍のボリュームになるという話は何だかしっくりきた。それであちらのハードカバーは鈍器並みの重量なのか、邦訳版も2段組のものが出てくるのか…と。

    「本の内容だけでなく、ベストセラーという現象の背後にある社会情勢を考えることが重要なのだ」

    文章に惹き込まれるということは、文章が読みやすいということ。
    著者の書く文章は時に主観を挟みつつも、基本的には客観的。さらに本旨や結論を冒頭に持ってくるなど、終始テキパキしている。それゆえ、本の魅力が待ったなしに脳へ送られてくるわけだ。

    『ドナルド・トランプの危険な兆候』(2018年)はトランプ元大統領の精神状態を精神科医が分析しており、彼に抱いていた言語化できないような違和感を解き明かしてくれそう。
    『パチンコ』(2017年)は過去に読んだ作品だが、只々悲しみと申し訳なさが心の中で交錯して終わっていた。「啓発的で、しかも読んでいて楽しいと(日本の読者に)感じてもらえれば幸いだ」という『パチンコ』作者の話にもう一度読み直そうと思い始めている。
    『結婚という物語』(2019年)は結婚観だけでなく人種問題にも切り込んでいるようで、今一番読んでみたい作品かも。「現地のブッククラブ/読書会に適してそうな作品」だと著者も話しており、確かにワインを交えると盛り上がるだろうなーと読後その場で談笑する自分を妄想してみる。

    こうしてマークした本(まだまだあります)を振り返ると、その時著者が話した内容も同時に思い返される。やっぱり名レビュアーだ。積読リストには、もちろん彼女の著書も加えている。

  • 面白くてすぐ読み終わってしまった!

    最近アメリカの本読みすぎという気持ちも持ちつつ読み始めたけど、やっぱりダイバーシティに関心がある者として、アメリカ社会で何が起きているかは関心を持ってしまう。

    著者はアメリカ在住、夫婦で会社を共同経営する傍ら、年間200冊本を読みレビューを発信している。彼女のレビューは日本の出版界でも参考にされているらしい。自身も翻訳を行うし、よく本の著者に会いに行っているし、 行動力がすごいなと思った。
    また、ベストセラーを並べてこれだけアメリカ社会を浮かび上がらせることができるのはアメリカの出版/読書文化が盛んであることの証左かなとも思いその点も興味深かった。

    「自国の不都合な歴史をこれほどオープンに語ることができる国は、世界でもまだ稀だろう」93p

    ベストセラーを追うという読み方をしていないので私には全然わからないのだけど、日本のベストセラーのレビューを並べて日本社会の紹介をするような本って成り立つのかな?

    【追記】
    ダイバーシティに興味あって…と書いたけど、付箋貼ったところを見返したら資本主義の行く末にも自分興味もっているんだなと認識した。

    ・アメリカでも衰退産業と成長産業があり、それが地域的に結びつき、没落する地域、そこに住む未来に希望を見いだせない白人層がいる(それがトランプの支持基盤になった。)
    ・富が一極集中することで富豪が政治を裏で操るという実態がある(自分の思想を宣伝、自分の思想に反対する人物の排除、を通して。)極端な思想を持つ人物が巨額な富を手に入れると危険だな。(しかし、反政府主義の富豪が反エスタブリッシュメントの雰囲気を醸成したがために予想外にトランプというモンスターを生み出してしまった、ということらしい)
    ・テクノロジーに仕事を奪われる未来を危惧する起業家たち

    積読してる「シンニホン」とか「テクノロジーの世界経済史」とか、あとalternativeとしてのdegrowthとか、やっぱり読んでみよ。

  • アメリカの今がわかる、アメリカでベストセラーになった本の紹介。著者渡辺由香里さんの「洋書ブログ」はいつも見ていて、すごく参考にしている(わたしが読む洋書はほとんどこのブログで見つけたやつかも)。

    おもしろそうで読みたくなる本がたくさんあったけれど、その本そのものを読まなくても、紹介文を読んでいるだけでもアメリカのことがわかる気がする。やっぱり著者がアメリカ人の夫を持ち、長くアメリカで生活して、日常でも仕事でもアメリカ人とかかわっているからっていうこともあるんだろうなあ、と。ただ本が好きっていうだけとは違うかも。

    紹介されている本はノンフィクションも多くて、わたしが自分から読む本はフィクションにかたよりがちだけど、もっとノンフィクションもいろいろ読んでみたいと思った。

  • ◯「(中略)私の感覚では、こちらのほうが真実に感じる。私には、自分が信じたいものを信じる権利がある」と決めたら、それが「真実」なのだ。これが現代アメリカ人の特徴だ。(106p)

    ◯自分を取り囲む世界の奥行きが変わり、これまで識別できなかった色が見えてくる。それが、上質のフィクションを読むことの恩恵だ。(114p)

    ◯家で家事や育児に専念したくても、男性はなかなかそれを選ぶことができない。男性に対してもステレオタイプの重圧があると、本書は指摘している。(205p)

    ★アメリカのベストセラー本のレビューとともに、なぜその本が注目を集めたのか、社会的背景を知ることができる。

    ★掲載されているレビューは2015年〜2019年頃のもので、この時期に誕生したトランプ元大統領の話題が多い。いかにインパクトが大きかったかがわかる。

    ★自由で開かれた国の印象があるアメリカだが、性とジェンダーなどの問題に対して保守的な人も多く、人種差別、移民、経済格差など社会的な問題も多いことがわかる。

  • 面白かった
    まだ翻訳されていないものを含め、様々なジャンルのアメリカのベストセラーをその背景込みで分かりやすく端的に説明してくれている

  • これは面白かった。そしてアメリカ、病んでるな。。

  • 現代を映す鏡としてアメリカ最新文学やノンフィクションを日本人読者に向けて紹介してくれる、かなりの良書。

    次々に読みたい本をメモった。
    なかなか時代状況も鑑みて文学を解説してくれる方が稀有なので、定期的にこの紹介をしてほしい。

  • 次に読みたい本を探す参照

  • 基本的に、私は「本についての本」にはあんまり興味をそそられず、また、本好きの人がいかに自分が本が好きかとか、年に何百冊も本を読んでいるとか語るのを聞く時も、どちらかというと「あーはいはい良かったね」と全力で聞き流す人ですが、このベストセラー指南書は大変におもしろかった!
    活字を通して見る誰かの人生がいかに彩りに富んでいるかを改めて再認識させられる本だった。
    まあ、あと、いつも思うことだけれど、アメリカってのはすごいな、「ペンは剣よりも強し」がまったく絵空事ではなく、実際にペンを使って本気で戦っている人がいくらでも出てくる国だ、と思った。
    アメリカをそうならしめているのはやっぱり自己肯定や問題意識を高める教育のたまもの(学校だけじゃなくて親とか)なのかなぁ。あるいは、それだけの強さが求められる厳しい国だということなのかしら。

    しかし著者の守備範囲の広さには驚く。
    ノンフィクション、それもフェミニズムが多めな傾向はあるけれど、政治経済だけじゃなくてYA向けのファンタジーから "こんまり" の片づけ本まで網羅してある。
    そして、ただ本に書いてあることだけじゃなくて、著者が日ごろアンテナを張って得た生の関連情報や著者の所感も織り込まれていて、タイトルどおり、「現代アメリカ」の姿が確かに見えてくるという感じ。
    その情報のバランスが素晴らしくて、大統領の弾劾シナリオについて書かれているとかいう「The case for impeachment」なんて、もう読まなくても、この本の案内で十分かもーなんて思ってしまった。(できればトランプには、その弾劾のシナリオのとおりに最初にして今のところ唯一の「罷免された大統領」という名誉ある称号をぜひ得てほしいと思う。…その本はたぶん読まないけど)

    一番印象に残ったのは、民主党の大統領選で名乗りを挙げていたというアンドリュー・ヤングと「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」についての章。
    この本を読むまでヤングという人も、UBIについても、まったく知らなかった。
    ヤングが、「UBIこそが我々の将来である」と思った理由について、この本がかいつまんで説明してくれているのだが、それを読んで、私も興奮気味に「確かにそれだ!!!」と本気で同意した。書評しかまだ読んでいないのに。(笑)

    斬新かつ先見性がありすぎて、日本でこのUBIについて持ち出しても、絶対「夢みたいなこと言うな」とものすごい反対意見にさらされそうで、とても話せないと思ったけれど、でも、今のAIの進化のスピードを考えると、じきに馬鹿げた話ではなく、むしろ地に足のついた考え方になりそうな気がすると思った。かなり感銘を受けた。(何度も言うが、書評しか読んでいないのに・・・笑)

    というわけで、このヤングという人にとても興味を持った。
    ついでに言うなら、民主党の候補者の中でひときわ異彩を放っていた(というより、イケメン過ぎてひとりキラキラ輝いていた)ブーテジェッジの自伝も読みたいと思った。
    彼が候補選から脱落した途端、かの地の次の大統領選に興味を失ってしまった私であるが・・・思っていた以上に素晴らしい人のようで、普通、ただの候補者の自伝なんて絶対に読もうとは思わないだろうけど、この本のおかげで読みたくなった。

  • 大好きな著者の一人渡辺由佳里さんの新刊。
    アメリカで話題になった本のブックレビューとして素晴らしいのは勿論、
    その本が話題となった背景にある歴史や文化、現代社会の問題点を丁寧に解説してくれていて、
    差別、貧困、国際問題、など混沌とした社会で物事を(できるだけ)正しく判断するためのコンパスのような役割を果たしてくれる本だと思った。

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著者プロフィール

エッセイスト、翻訳者、洋書レビュアー。1995年よりアメリカ在住。
自身でブログ「洋書ファンクラブ」を主幹。年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信している。
2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。翻訳書には、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(糸井重里監修、日本経済新聞出版)、スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。著書に『新・ジャンル別 洋書ベスト500プラス』(コスモピア)、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『アメリカはいつも夢見ている』(KKベストセラーズ)など、多数がある。

「2023年 『男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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