- Amazon.co.jp ・本 (53ページ)
- / ISBN・EAN: 9784751527535
作品紹介・あらすじ
ずっと聞いてみたかった祖父の秘密。それは、祖父の若かりし日のできごと。そして、だれにも話せなかったほど、つらく衝撃的なできごと・・・。
感想・レビュー・書評
-
初めてのマイケル・モーパーゴの作品。
淡々とした文章と、お話によくマッチしたややスモーキーなカラーの挿絵。
短時間で読み終える53ページのお話だが、じわっとくる後味だ。
読み終えて考える。
祖父の妻(つまり、語り手である僕の祖母)アニーは、実は私ではないのか、今も考えている。
幼い頃からマイケルの家には祖父についてのタブーがある。
母親の言うとおりにしなくてはいけないのに、マイケルはどうしても見てしまう。
祖父の、片耳がないことや上唇がまくれ上がっているところ。
そして両手の指の数がとても足りないことなどを。
怖い存在だけど、マイケルは祖父について知りたいと願っている。
どうしてそんな「モンスター」のようになったのかを。
成長したある夏の日、思いがけずその機会が来て「祖父が誰にも話せなかったこと」が語られていく。
中ほどのこの描写は、かなり辛い。
長い年月たったひとりで抱えてきた複雑な思いを、ここだけ海の色をダークな色彩に変えて表現している。
悲しみ、痛恨、怒り、様々な感情が湧きおこる。
九死に一生を得て帰還した祖父を待っていたもの、それは変わり果てた夫の容貌を正視できない妻・アニーだった。
戦争によって変わってしまった祖父の人生。
しかし、自分を正視してくれる孫・マイケルとの出会いによってようやく折り合いをつけ、未来を託す終盤へと向かっていく。
許しあい受け入れあわなければ、人はいつまでも後悔するだけの存在だ。
潜入観念に囚われず、まっすぐに自分の眼で見つめたマイケル。
大切なのはそれだけなのに、大人は(私は)善人のふりをして口を閉ざし目をそらす。
自分のしていることほど見えないものだと、あらためて教わる。
起きたことだけを書くのが絵本だが、心の中にまで踏み込む内容だ。
その辺りが大人に読まれる理由かもしれない。
もう少しマイケルモーパーゴを追いかけてみよう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦争で顔や手にダメージを受け、モンスターのような風貌になってしまった祖父。幼い頃、無口で気難しい祖父が我が家に泊まりに来るときは空気がピリつき、祖父の娘である母からは「ジロジロ見ないように」などたくさんの注文が付いた。
祖父の住むシリー諸島にひとりで行けるようになってから、そんな祖父を少しずつ理解できるようになってきたマイケル。自然の中、ゆっくりと心を通わせる2人の姿が微笑ましい。ある日、祖父はマイケルに、誰にも話せなかった若かりし日のことについて語り始める。乗っていた船が魚雷を受けて沈没し、大火傷を負ったこと。変わり果てた姿になり、妻のアニーの元へ帰ったこと。その後、きしんでゆく家族関係。
淡々と語られる祖父の過去を知り…決して誰も悪くはないのに、心がうまく通い合わずもつれていくのは何とも辛いものだった。優しさからの気遣いは、時に人を傷つける。愛してくれていることを感じても、心の底に抱えているわだかまりに気付いてしまう。意外にも祖父が嬉しかったのが、幼いマイケルの、不作法とも捉えられそうな素直な行いだったとは。どうしても親と子の関係は愛憎表裏一体なところがあるけれど、祖父と孫の関係性はワンクッション置いているからこそ、うまく気持ちを結ぶことが出来るのかもしれない。
そして、そんな静かで優しいストーリーに寄り添った挿画もまた素晴らしい。シンプルだけど、鮮やかなオレンジとブルーの対比が美しく印象的だった。
己の英語力が衰えているにもかかわらず、ちょっと、原書で読んでみたいなという気持ちにさせられました。 -
短い話だけど、とても広がりがある。
孫と祖父の関係、恐怖を感じていた祖父と2人で過ごすことで、次第に見えてくる、過去の悲劇。
自分の命を救った人との永遠の断絶
救われてしまった、生き残りとしての罪の意識
失われて変わってしまった自分の体
皆からいたわられ特別視されることのディスコミュニケーション
悲惨な経験の中で、人生が狂い始める
やけどの後を見てはいけないと言われながら見続けてしまう、孫の素直な目線に、祖父は静かに通じ合う。
そこがこの物語の感動する部分だと思う。 -
〝幼い頃、私はよく怖い夢を見た。今ではもう50年以上も昔の事になるけれど、怖い夢は忘れないものだ...ずっと聞いてみたかった祖父の秘密。それは、祖父の若かりし日の出来事...そして、誰にも話せなかったほど辛く、衝撃的な出来事...〟戦争によって変わってしまった一人の男の人生。辛い運命との折り合いをつけ、孫息子へ未来を託す祖父の姿が切々と描かれた、『世界で一番の贈りもの 』『モーツァルトはおことわり』のマイケル・モーパ-ゴによる、しみじみと胸を掴んで離さない感動の物語。
-
戦争の被害に遭ったのは、軍人だけではないこと。
痛みに苦しめられるのは、本人だけてはないこと。
苦しみや苦悩は長年の続くこともあること。
それは、どこかの誰かではなく、自分の身内に起きたかもしれないこと。
忘れてはならないこと。
目を背けたくなるような容姿の祖父と、孫の僕の物語。
温もりが心に残る児童文学。読めてよかった一冊。イラストもしっくり。 -
マイケルは母からお祖父ちゃんをじっと見ちゃいけない、と何度も何度も言われる。
私自身もやはり体の不自由な人や顔に大きな傷のある人などををジロジロ見てはいけない、という認識があり、それが労りであると信じていた。
しかし、これを読んで、近しい人であればあるほど、それは辛いことなのだと改めて思い知る。
祖父は戦争により生死を彷徨う体験の中、妻であるアニーに会うこと、故郷に帰るという希望と夢を抱いて生還を成し遂げる。しかし、現実は厳しくアニーには疎まれ、娘にも合わせてもらえない。
成長した娘は、そんな慈悲のない母が許せなくて、20年以上にわたって母とは口をきかない。
そんな思いやりのある優しい娘だけれど、祖父の顔からはいつも目をそらす。
祖父はそんな娘を見ていて、妻と娘の心情が同じであること、その原因がまぎれもなく自分自身であることを知っている。
祖父が亡くなった後、マイケルに宛てた手紙を見る。
目をそらさないマイケルに感謝し、妻と娘が和解する時が来たことを知らせる。
愛情というものの移ろいやすさ危うさという重いテーマの中で、マイケルが祖父と過ごす時間のなんと穏やかで思いやりに満ていることだろう。
夕焼けの空のもと散骨をする3人。祖父がマイケルに教えた幸運を運んでくるというカツオドリが舞っている。 -
あまり話しもしないのに、それに来るときの緊張。よく一人で夏休み、おじいちゃんのところへ行ったなあ。
まず第一に、島が気に入ったことが、いい。
仲良く、心地よくすごくいい関係になれて、ほっとしたし、おじいちゃんにとっても楽しい時間になってよかったな…。話さなくても、心地よい時間を過ごせるだなんて、最高のおじいちゃんと孫だ…っ。 -
原題はHalf a manで、祖父が自分自身を「ポンコツ」と言っているので、それがタイトルになっているのだと思う。日本語タイトルは、いかにも実話的。おまけに主人公の少年の名前がマイケルになっている。が、実話に基づいた話なのかどうかには全く触れられていないのでわからない。
モーパーゴは戦争、特に第一次世界大戦で犠牲となった子どもや兵士や動物をよく描く作家なので、これも同じテーマではあるのだが、もし実話に近い話なら、ちょっとこの作家が好きになる。まあ、作家だから全くの作り話かもしれないけど。
モーパーゴ入門用にいいかもしれない。短いし、絵もいい。
ところで、はじめの祖父がクリスマスにやってくるシーンで食事のテーブルの上に乗っている筒状のものが何なのかわかる方は教えてください。大人も子どもも一つずつおいてあり、マイケルのは開けてあります。折れているのかもしれないし、破れているのかもしれないけど、そういう使い方をするもの。お絞りみたいに見えるけど、違う。イギリスのクリスマスでは定番のグッズではないかと思うのだけど、行ったことがないのでわかりません。
すごく気になる。-
テーブルの上の筒状のものは、クリスマスクラッカーというイギリスのクリスマスの必需品だそうです。本当はみんなで輪になってお互いのクラッカーを引...テーブルの上の筒状のものは、クリスマスクラッカーというイギリスのクリスマスの必需品だそうです。本当はみんなで輪になってお互いのクラッカーを引っ張って楽しむようです。中には必ず簡単なおもちゃと紙の王冠が入っていて、大人も子供も王冠を被って楽しむそうです。
マイケル以外はクラッカーがそのままであるところにも、微妙な家族関係が表現されているのかもしれません。2019/03/16 -
2019/03/16
-