救いの森

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413329

作品紹介・あらすじ

いじめや虐待、誘拐など命の危険を感じた時に起動させると、児童救命士がかけつける「ライフバンド」。児童保護救済法が成立し、義務教育期間の子どもにその着用が義務づけられた。ある日、新米児童救命士の長谷川は「ライフバンド」の検査で小学校に出向き、そこでわざと警告音を鳴らす少年と出会う……。
明日の未来を支える子どもを守るため、僕たちはあきらめない。生きづらい現代に希望を照らす、感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 児童救命士たちの活躍を描く連作短編集ですが一編の長編小説にもなっています。
    児童救命士とはライフバンドによる児童からの救急要請に応じてかけつけて対応する架空の仕事です。

    新人の救命士長谷川創一は江戸川児童保護署の「救命部」の新藤敦士37歳の元に配属されます。

    第一章 語らない少年
    ライフバンドによって4年生の須藤誠が助けを求めてきます。調べていくうちに誠の家庭内のとある秘密が発覚します。

    第二章 ギトモサイア
    東三条美月8歳から救助要請があります。美月は「ただ迷子になっただけ」と言いますが、美月も事情を抱えていました。

    第三章 リピーター
    12歳の椎名涼太はライフバンド使用のリピーターであることが確認されます。同級生の川越孝之助にいじめられていたといいますが「二人の仲が良い」と証言する同級生もいて様子がおかしいのですが真相は。

    第四章 希望の音
    長谷川の上司である新藤が暴力をふるっているフェイク写真がカヅキという男子高校生によってネットにアップされていました。
    カヅキを手先に使っていたのはカヅキの同級生の柳原麗華だとわかります。
    そして新藤と長谷川は新藤に恨みを持つ麗華に監禁されてしまいます。
    そして長谷川の方にナイフを持って近づいてくるのは4年生の時に助けた須藤誠です。誠は「本当は母がひどい目にあって二人を恨んでいた」といいますが…。誠は本当に二人を殺すつもりなのか…。

    読んでいて最後はこれはちょっと詰め込みすぎではないかと言う気がしました。登場人物がそれほど長くはない物語の中でみんな特別な過去を持っています。
    言いたくても言えない理由のある子どもたち。
    そして新藤や長谷川にまでつらい過去がありました。
    新藤の育ての母のキヨの営む「救いの森」という食堂の存在と、涼太が「将来は児童救命士になりたい」と言っていたのが救いだったと思いました。
    新藤の「ガキの頃、人に助けてもらった経験のある者は、成長してから今度は自分が誰かを助けたいと思うようになる」と言ったのも印象的でした。

  • この作品では、児童保護救済法が成立したことにより各地域に児童保護所が設置され、児童救命士が配置されるようになった世界が描かれている…。小学生から中学生のすべての子供達に「ライフバンド」の着用が義務づけられ、いじめや誘拐、虐待など身の危険を感じたときに「ライフバンド」を起動されると児童救命士がかけつけ、様々な問題を抱えた子供達の命を守るために奔走するというストーリー。

    主人公である新人の児童救命士の長谷川創一も、そのパートナーで先輩児童救命士の新堂敦士も子供達の命を救いたい熱い想いを持って、子供達に寄り添いながらともに悩む…。

    この作品の児童保護救済法…リアルに今必要なんじゃないかなって思いました。コロナ禍になり、子供達は行き場をなくして自殺に追い込まれるということも悲しいけどあります。作中に「…苦しんでいる人を救いたいと思う者がひとりでもいれば、そこは『救いの森』になる…。この世界が森だらけになればいいのに…」ってあります。私は、その『救いの森』になれるといいなって感じました。

  • 小林由香さんの状況設定は毎回斬新で、ストーリーテーラーとしての存在感がある。今回の設定は、国家が中学生以下の子どもの腕にライフバンドの装着を推奨し、虐待、いじめ、危険を察知した時、バンドのスイッチを押すことで児童救命士(児童保護救済法)が出動し、子どもの命を守る。全4話の中で、家庭環境による子どもの苦悩を見抜くことはとても大変で、児童救命士が命がけで子どもを助ける決意に心を打たれた。大人が子どもの心を開くためには、対等な立場をとることが必要で、いつの時代でも子どもにとっての「救いの森」を考えるべきだ。⑤

  • 児童保護救済法が成立、子供がいじめや虐待など自分に危機を感じた時に起動し、児童救命士がかけつけるという「ライフバンド」、その着用が義務付けられた。新米児童救命士・長谷川、ペアを組む新堂は子供をSOSを聴く。4編。
    子供の声が聴こえてくる、悲しい声、つらい声。身勝手な大人に振り回される子供、大人は救命士のように一人の人間として聴取らねばならぬね。強い大人ではなく痛みを理解してくれる大人に心を開くとか、付箋を貼ったページはいくつかあり、心のメモがたくさんできました。ライフバンドは無しにしても、4編とも現実でもあり得そうなこと、なぜそんなことになってしまったのか、生きていていてほしいという強い思い、描かれています。自分も子供だったのに子供の頃の感情を忘れてしまう。子供の気持ちにより向き合えたらと思わずにはいられなかった。
    キヨさんのような人、温かくも厳しくもある人、もっといてほしいね。

  • ライフバンド、児童救命士による「救い」を描いた一冊。

    児童救命士の鋭い観察眼、そして子供もまた鋭い観察眼を持ち、子供たちなりに必死に解決策を考えている姿に何度もハッとさせられる。
    叫びをあげた子供の目の奥には必ず真実が隠されている。そしてその真実を隠そうとする理由、その理由に隠された心を救う…架空の職業とはいえ、絶対に失敗しないマニュアルは存在しない、なのに失敗は許されない、そんな児童救命士なるものの使命がリアリティを持って心に響いてきた。

    ツラさだけでなく人の温かさも感じられたこの作品。

    誰かの存在、帰れる、心を休める場所のあることの大切さ。それがあれば何かを踏み出すきっかけになる。

    子供の心はもちろん、大人の心だって…人の心を救うのは
    人、救えるのは人。そんなことを改めて考えさせられた。

  • かつて子ども側だった視点からしとしても、自分も誰かを救いたいと手を差し伸べる側の視点からしても、両者ともに救われた。

    例えライブバンドがある世界でも、
    子どもにとっては親が精神的にも社会的にも絶対的な存在であることは変わらなくて、
    だからこそ、ライブバンドからの通報を受けて彼らと話し合いの場を設けたとしても、彼らから発せられる言葉は100%彼らの本心からの言葉ではない可能性を十分に理解しておく必要があるのだと感じた。
    きっと、私たちの生きる世界もそうだと思う。
    私も、かつて大人に出したSOSは家庭というフィルターを通した言葉だった。
    そのうち、自分のことだけしか考えないで本音を言えたのはほんの数パーセントだったと思う。

    私は、そんな人たちの本音を掬い取れる大人でありたい。
    新堂のような鋭い感性は無いかもしれないけど、長谷川のように向き合おう姿勢と信念は持ち続けたい。
    歩み寄れるのには時間がかかるかもしれないけれど、どんなに時間がかかったとしても私は絶対にその手を離したくない。

  • 前作では「復讐法」、今作では「児童保護救済法」。架空の法律ではあるが、現在の児童虐待の数の多さなどを考えると、とても架空の話とは思えない内容。
    児童保護救済法により、児童救命士なる職業が出来、今作はその児童救命士になったばかりの新人・長谷川を中心に描かれる。
    中学までの子供たちの腕には「ライフバンド」の着用が義務付けられ、緊急の事態が発生した場合には、ライフバンドの起動により、児童救命士が駆けつける。
    子供たちがライフバンドを使う理由は様々。しかしライフバンドを起動しても、子供たちの本当の心の声は簡単に引き出せない。そんなことの繰り返しに悩む長谷川。その長谷川を一見突き放すかのような指導係の新堂だが、物語の後半になるに従い、長谷川の成長と新堂の本当の姿が明かされ、ラストの章では思わず涙が溢れる。
    前作同様、実際には「児童保護救済法」の成立は難しいと思われる。しかし、既存の法律でも長谷川のように虐待児童に寄り添える心を持つ大人が増えていけば、少しでも救われる児童が増えるのではないだろうか?
    自分の立場でも、何が出来るのか、考えさせられる内容だった。

  • 児童保護救済法が成立した世界の話。
    深刻ないじめや虐待を受けている子どもが自らSOSを発することができる「ライフバンド」。
    6~15歳の児童はライフバンドを装着するよう義務付けられ、SOSの発信を受けて出勤するのが児童保護署の児童救命士だ。

    本当にこんなものがあったら、救われる命があるのだろうな。
    苦しんでいる子どもたちに向き合い、大人になるまで生きていてくれることを願う児童救命士。特に新堂には引き込まれる。

    「ガキの頃、人に助けてもらった経験のある者は、成長してから今度は自分が誰かを助けたいと思うようになる」新堂のこの言葉を読んで、改めて、自分も小さな何かでも出来ることをしたいと思った。

  • 児童救命士はライフバンドによる子どものSOSに対して駆けつけ、子どもを救う、そんな制度が制定された。これは小説内の設定であるが、子どもが声をあげられずに、またはその声に十分に対応できずに起こってしまう悲惨な現実を見ると、良くも悪くも小説内の設定に違和感を覚えず入り込めてしまう。
    主人公の長谷川含む児童救命士は、本気で子どもを守ろうとしている。
    守るという言葉は簡単に使われるが、何から守るか、それを考えるのはとても大切に思う。
    命なのか、人権なのか、子どもの感情なのか。命を守ろうとすることが、子どもの望みと反していたら、その時どうすべきか。人権を守るために親との隔離が必要と判断したのに、子どもがそれにより心に大きなトラウマを残してしまったらどうするのか。
    それらに対する本当の正解はないのかもしれないが、本書の児童救命士たちは、その中でも信念を持って業務に当たる。
    一見問題のあるように見える先輩児童救命士である新堂は、その信念を表す言葉を作中でいくつも示す。
    「まずは今まで身に付けた常識を全て取り払え。自分の考えが常に正しいと思うな。それができなければこの仕事は続かない」
    「本気で誰かを救済したいなら、自分自身も傷つく覚悟が必要だ。救えなかったとき、己も絶望の底無し沼に引きずり込まれるからだ。それほど人を救うということは難しい」
    「俺たちの仕事は真っ当な正義を振りかざしていても勝てない。勝てなければ、子どもの命は救えない。どんなに傷ついても、なによりも大人になるまで生きていてくれることが大切なんだ」

    これらの信念は、今様々な子どもと関わる専門職の大人たちにも必要なことだろう。
    自分の胸にも響いた。今、様々な仕事では分業制が取られる。
    学校にいる間は教員が、学童では指導員が、もし虐待が起これば児童相談所の職員が、犯罪行為があれば警察が、具合が悪くなれば医者が、それぞれの場面で、自分の役割の中で子どもと誠心誠意向き合う。しかし、その限られた範囲の中で、果たしてどれだけ子どもの人生全てに向き合えるだろうか。
    分業制や、感情移入をしすぎないこと(客観的視点を大切に、利用者と同じ立ち位置に立ちすぎない)は確かに大切だと思う。
    けど、それらの大切さやメリットを踏まえた上で、とことん子どもと向き合う姿勢や信念も必要だと強く感じた。

  • 【大人になるまで生きていてくれる事が大切なんだと思う】


    あぁー。
    これはヤバい。
    ずっと鼻ズルズルさせながら読みました。
    久しぶりに泣きながら本を読んだ。


    子供を守る児童救命士。
    四章からなる物語。


    児童救命士と言う仕事が本当に出来ればいいのにと思った。

    子供が安心して暮らせる世界になればいいと思う。

    子供が親を選べる世界が来ればいいと思う。





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著者プロフィール

1976年長野県生まれ。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。2016年、同作で単行本デビュー。他の著書に『罪人が祈るとき』『救いの森』がある。

「2020年 『イノセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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