火星ダ-ク・バラ-ド (ハルキ文庫 う 5-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 424
感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758433723

感想・レビュー・書評

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  • 真相究明に命を賭けるハードボイルド丸出しのタフガイ刑事水島と、その水島を一途に想う少女アデリーンの関係性もリーディングの原動力たり得るが、この二人にアデリーンの父、グレアムを加えた三角関係が織りなすドラマが本作の真骨頂。で、この三人がそれぞれ他のキャラクターとも別の三角を形成しつつ、鎖のように絡み合っていくので、仮令ギリギリの局面であっても誰がどんな行動をとるのか判らないハラハラ感も生まれる。

    そして、特筆すべきは、第四章「黒衣の天使」でグレアムの過去を遡っていく場面。ここで、グレアムが地球と火星の中間に位置する宇宙ステーションで生まれ育ったことが判明し、その後の人格形成に大きく関係していくことが提示される。生まれも育ちも地球の水島、火星で生まれ育ったアデリーン…。 三者三様の【重力】に対する感覚や考え方の違いが物語に独自性を与えていることに、この場面を以て気づかされる。それはとりもなおさず、「舞台が火星でなくては成立しない物語」という一番大切な部分にも繋がっている。
    内面語りは水島にもアデリーンにもあるが、この両者はピュアな方向に収斂させていくためか、深く深く掘り下げられてはいるが、ステレオタイプの域を脱していない(言葉は悪いが…いい意味と捉えてもらいたい)。グレアムに関しては、第五章「焦熱の塔」でもさらに突っ込んだ内面発掘が再開されるが、これもまた大きな鍵を握っている。

    …いやしかし、ナンダカンダ云っても面白かった!ハラハラドキドキ、怒り憎しみ、悲しみ、そして涙と、笑いこそないが、それ以外の感情を総動員して楽しませていただいた。

  • 1月4日読了。

  • 疾走感と緊迫感に溢れたハードボイルド「いやぼーん」SFです。

    文庫化でかなり書き直しているにしても、このレベルで新人賞に応募されたら、ほかの応募者は涙目になります。

    プログレッシブはエンパスかと思ったけど、どちらかというとZガンダムのエル・ピー・プルみたいな人工的に作られたニュータイプに近いか。

    前日譚ともいえる『小鳥の墓』(「魚舟・獣舟」所収)も是非ともお読みください。こちらも傑作です。

  •  当時、主人公の水島と同年齢である自分の読後第一印象は「切ないなぁ・・・」。

     エピローグでの水島の茹で具合が、ガッチガチに頑なで不器用で破滅志向で「バードボイルドも休み休みにしたら?」と思うほどの結末だ。
     読者には希望が残されているが、タイトル宜しく暗く困難な未来を横たえたまま物語は途切れる。
     ハッピーエンドではなく、感傷的な色合いを残してアデリーンと水島は地球と火星に引き離されたまま。

     しかし、いち読者の自分にとっては「ただの幕間」にしか感じなかった。

     それは、ハードボイルド宜しく水島は往生際が悪く、舞台から退場する気配は無く、むしろヤル気満々で自分の世界に帰って行くように感じたからだ。

     寝不足かまわず読み耽る・・・この夏にふさわしいSF小説だった。

  • ダークバラードというタイトルが示す通り、どことなく重く物悲しい内容でした。バラード(譚詩)というよりはエレジー(哀歌)に近いかもしれません。
    火星を舞台にした話だと、萩尾望都のスターレッドに近い印象でしょうか。

    序盤は刑事である水島を中心に、終盤はヒロイン(?)のアデリーンを中心に物語が進んで行きます。個人的な好みでは序盤の方が好きなんですが、少女のひたむきな熱意で動く終盤のほうが物語的な面白いかもしれません。

    SFでありヒロイックファンタジーでありながら、現実的な視点が常に含まれる割り切れない物語でした。
    18禁というわけではないですが、未成年向けの小説ではないかもしれません。世の中って単純には二分は出来ないんだなぁってのが知識としてではなく感覚として理解できるような年齢になった人向けの内容だと思います。

    読後感はクリムゾンの迷宮に近いものを覚えました。問題は解決はしたけど、一抹の寂しさ(感傷)だけが残りました。みたいな。
    多分水島は、アデリーンとはもう会わないんだろうなぁ。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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