- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758444927
作品紹介・あらすじ
颶風の被害から建て替えられた「紅屋」は、お勝手も新しくなった上に、やすのための部屋も作られた。
そしてお勝手で働く新しい小僧として、とめ吉が加わった。
料理人としての立場に緊張しながら、やすは期待に胸を膨らませつつ、お小夜さまと清兵衛さまに工夫を凝らした料理を考える。
しかし順調に見えた「紅屋」に対する何者かの嫌がらせがとめ吉を襲う。
一方、江戸で知り合った山路一郎とやすとの関わりにも新たな進展が……。
大好評お勝手のあんシリーズ第六弾!
感想・レビュー・書評
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〈お勝手のあん〉シリーズ第六作。
颶風の被害で一時休業を余儀なくされた平旅籠〈紅屋〉が建て替わり、以前より使いやすく広く、奉公人たちが快適に過ごせる空間まで作られた。つくづく〈紅屋〉はホワイト企業だなと思う。もちろんその分仕事には厳しいのだが。
〈紅屋〉に戻ってきたやすには、新しい小僧・とめ吉という弟分が出来た。前の小僧・勘平とちがって素直で働き者の少年だ。
だがそのとめ吉が、以前からあった〈紅屋〉への嫌がらせの一環に巻き込まれてしまう。さらにはやすが尊敬する料理の師匠・政も近頃様子が違っている。
このシリーズは展開がゆっくりなので、やすの成長や心の動きがじっくり見られる一方で、気になることがなかなか分からないというもどかしさもある。
以前押し込みに入られたほどの〈紅屋〉への嫌がらせは一体誰が、何のために仕掛けたのか。
政は〈紅屋〉を出ていくつもりでやすや平蔵を鍛えているのか。
この二点については結局分からず仕舞いで次作へ持ち越しとなった。
とめ吉が良い子なだけに嫌がらせの件は心配だったが、
やすや周囲の人々のフォローもあって立ち直ることが出来て良かった。
やすは年頃になって仕事にも張りが出たせいか、久しぶりに会う人々からは大人びた、きれいになったと褒められている。さらには山路一郎(後の山路彰善)からも好意を持たれているが、恐れ多いことと受け取らない。
一方で河鍋暁斎の結婚の知らせには淋しく感じている。
それにしてもやすは篤姫、河鍋暁斎、土方歳三など、様々な有名人と交錯しているなと感心。
だが彼らに振り回されることなく自分の道を進むぶれないやすが良い。
逆に女中頭・しげの弟・千吉には迷いが生じてしまったようだ。やすも関わった千吉の悲恋の後、簪職人として成功しているかのように見えたのだが、その仕事に誇りを持てなくなった思いをやすに零す。
やすが誇りをもって奉公している、すばらしい職場だと思っている〈紅屋〉も、外からは妬みや憎悪の対象になっている。
だが他方ではやすが世話になった煮売りやのおいとや団子屋のおくまは元気に商売をしているし、おあつさま(篤姫)付の奥女中だった菊野は新たな決意に胸を躍らせている。
とめ吉もまた料理人としての小さな一歩を踏み出した。
お小夜もおちよも無事出産した。
喜怒哀楽、様々な物語が綴られた。
次作ではどんな物語が展開されるのか。やすにとって辛い別れがなければ良いが。そして〈紅屋〉がこれ以上酷いことにならなければ良いが。
※シリーズ作品一覧
全てレビュー登録済
①「お勝手のあん」
②「あんの青春 春を待つころ」
③「あんの青春 若葉の季」
④「あんのまごころ」
⑤「あんの夢」
⑥「あんの信じるもの」本作詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリーズ6作目。
台風で江戸が大きな影響を受けて、おやすの働く宿屋も改築となったが、大旦那の力により立派な宿屋に生まれ変わった。一方、おやすのもとに新しい10才の小僧が入り面倒を見ることになった。
以前も泥棒沙汰があったが、今回も宿屋の評判を妬むのか、悪い噂が広まったり、小僧にも被害が及んだりと重い展開。最後まで、悪い流れが続く。師匠である政さんの去就も不安となる。
天文方や土方歳三、篤姫など史実に残る人達との交流やその後の関係も色々とてんこ盛りで中々面白い。 -
女料理人を目指すおやすの物語第六弾。新しい小僧・とめ吉が働きだすが、何者かに襲われてしまう。ちよも小夜も無事出産を終えるが、ちよは我が子を養子に出し、一人実家に戻った。おちよ、頑張れ継母に負けるなと応援したくなる。
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料理が自慢の旅籠・紅屋でお勝手女中を務めるおやすの物語、第6弾。
子供を産む女たち。おちよ、お小夜。
おちよの子は親の顔を覚えぬうちに里子に出され、お小夜の子は大店の長男として何不自由なく育つことになる。
同い年の子達の運命の違いを、おやすは思う。
おやすにも、自分の子ではないが、新しく入った小僧のとめ吉の世話を任され、かけがえなく大切なものができた。
今までにない母性を見せるおやすに、ちょっとびっくりしたり、まぶしい気持ちになったり。
そのとめ吉が、紅屋に対する嫌がらせに巻き込まれて、おやすは心を痛める。
思わず疑ってしまう気持ちと、信じたい気持ちとの間で揺れ動くようなことがいくつも起きる。
おやすの悩み事も、段々と責任ある大人のものへと変わってきた気がする。
仕事に悩んだり、疑問を抱いたりする人たちも出てくる。
生まれた環境に縛られたくないと思ったり。
新しいものを見たいと思ったり。
今まで積み上げたものを捨てて、新しいことに踏み出すのはとても勇気のいることだ。
「人は飽きるのだ」と、おいとと菊野が奇しくも同じことを言った。
人生は水のように流れていくものなのかもしれない。
留(とど)まったら、淀んで腐るのだと思う。
紅屋でいつまでもお勝手女中を続けたいと願うおやすだが、彼女にも岐路が訪れる時が来るのだろうか。
前作から登場の、天文方の武家の子息・山路一郎(やまじ いちろう)がおやすに急接近?
色々なことに疑問を持ち、それを誰かに聞きただしたりして究明しないと気が済まないところが、以前紅屋にいた小僧の勘平を思い出させる。
おやすは、コツコツまじめ型の人間で、自分と同じタイプのとめ吉を可愛がり信頼する一方で、型破りな勘平や山路の考え方に惹かれたりもするのだった。
登場人物たちの、さまざまな今後が気になりつつも、次回へ続く。 -
生まれ変わった「紅屋」。
奉公人を大切にする大旦那様、その気持ちに応えようとする奉公人、そしてその関係も素敵。
自分の部屋を頂いたおやすの喜びがひしひしと伝わってくる。
本作を読み初めてすぐ、おやすが一回りも二回りも成長しているのを感じた。
勘ちゃんの代わりにやってきた小僧のとめ吉が可愛いくてたまらない。
ちよちゃん、お小夜ちゃん、菊野さん。江戸で出会った人たちとのご縁に改めて温かい気持ちになった。
嬉しいこともそうでないことも色々あるけど、ここからまた物事が大きく動きそうな予感。
本作も政さんの言葉が沁みるなぁ。
「時代小説」 × 「料理」 × 「人情」 × 「成長物語」
おもしろくて、心に響く言葉もたくさんあって、ずっと追いかけたいシリーズです。 -
お勝手のあんシリーズ第六弾。四季折々の日本料理が新鮮な材料と、食べる人を思う工夫で次々と生み出される。おやすは、料理人としても人としても確実に成長していく。新しく奉公人としてきたとめ吉を弟のように可愛がっていたのに、何者かの悪意が幼子を傷つける。悪意の正体が知りたくて、急いで読んだが、残念ながら、答えは次に持ち越し。ここまでは図書館で予約して待ったけど、もう、本屋さんで買おうかな。
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紅屋が新しくなりお安は戻ってくる。
台所は広くなり、奉公人のための内湯もある。
新しい小僧さんも加わり、順調に店は繁盛する。
そんな中、紅屋へのやっかみか、新しい小僧さんが酷い目に遭わされる。
お安は心痛めながらも小僧さんを料理人として育てていこうとする。
料理人としても成長しているお安が頼もしく思える。