Life Changing:ヒトが生命進化を加速する

  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759820737

作品紹介・あらすじ

私たち人間が,ほかの生物の進化速度を増大させているというショッキングな事実を,ユーモアを交えながら,さまざまな事例を取り上げて紹介しています.未来に向けてこれからどう行動すべきか考えさせられます.絶滅に瀕する生物たちを救う活動もとても興味深く,前向きな気持ちにさせてくれます.

感想・レビュー・書評

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  • ものすごく面白かった(興味深かった)。人間が直接に間接にどんだけ生き物のDNAをいじったり影響を与えたか、そのエビデンスと考察。基本、怖く、そして非常にギルティに感じる。
    2006年にグリズリーとシロクマのハイブリッド(ピズリーベア)が発見されて、ものすごい物議を醸し、その後にぼちぼちとエビデンスがでてきて、今でもそこそこ話題です。アークテックエリアの流氷の上で子育てし、生きるシロクマ(ポーラーベア)だが、近年の地球温暖化で北極の氷が解け、このままでは近い未来には夏(繁殖期)に北極の氷は全てなくなると予想されている。が、シロクマが南下するには体毛などが暖かいところに適していないので、そこで、本能的に適したDNAを持つグリズリーと交配し、遺伝子をとりこんでいるんでは、というような話。逆にグリズリーのほうは温暖化で北限がさらに北上しているので、生息区域が被ってきているというのも原因の一つであろうかと思う。北極圏の交雑種は氷山の一角だと考えられていて、研究者によると、北極圏と亜北極圏のさまざまな海生哺乳類の間で、少なくとも34パターンの交雑がすでに起きていると言及されている。
     そんな感じで、人間が地球に与えた影響で、野生の生物たちが生き残りをかけて、遺伝子の取り込みをおこないはじめたのでは、というような話がたくさんでてくる。そして、直接的に遺伝子を弄って新種を生み出してもいるので、そちらのほうの説明にも多く割かれている。
    2004年に発表された、人懐っこい動物の選択交配がなぜ家畜化症候群の出現につながるかを説明する理論を提唱したが、神経堤とよばれる細胞の一群が鍵を握っていると考えられている。ペリャーエフのキツネの実験が紹介されていて、とてもわかりやすかった。脊椎動物の胚発生の途中で、神経堤の細胞は体のあちこちの部位に移動、そこで様々な種類の細胞や組織を形成する。耳、歯、色素産生などの他、副腎(闘争、逃走反応を司る)などとの繋がりも知られているらしい。理論の趣旨は、何世代にもわたって、従順さを選択してきた結果、神経堤になにかが起き、耳がきちんと形成されないため、垂れ耳になり、鼻面が伸びきらず、尾も伸びずに巻いた。色素産生細胞が成熟しなかったためまだら模様が生じる。副腎の発達が不十分で恐怖反応が薄れ、肉体的にも精神的にも不完全な発達の動物が誕生した。というような仮説。肉体的精神的に不完全な発達、というと子供、幼体ということで、これは愛玩動物としては有利な利点。
    そういえば、この本書を読んだ直後に、ヒューマニエンスというテレビ番組で、まさにここらへんのことが紹介されていて、タイミングの良さに驚いた。
     2018年にニュースになった、ニッカーズというホルスタインの話。オーロックスサイズに育って、食肉処理場の機械にフィットしなかったために、生き延びたとも言える個体。本当に凄まじく大きい。
     脱絶滅のためのクローン。CRISPRの活用についてもさっくりとわかりやすく書かれている。
    現在、哺乳類の25%、鳥類の14%、両生類の40%が絶滅の危機にあり、過去250年の間に失われた植物は600種にのぼる。つい今月にハシジロキツツキが絶滅と認定されたし、カタリーナパプフィッシュ、クリスマスアブラコウモリ、ブランブルケイメロミスなどもいなくなった。毎日30〜150の生物が絶滅していると言われている。もちろん、未調査だったり正式に”発見”されないままに絶滅するものもいる。
     DDTや殺虫剤に耐性のある蚊や、汚染に強いトムコッド、ピザやピーナツを消化できるように進化したセントラルパークのシロアシマウス、崩れやすい斜面や砂質の崖でなく、橋や高架、路側の排水溝に築巣するようになり交通事故を防ぐように翼を短く進化させたサンショクツバメ、ビルの壁面を登れるように進化したトカゲ、
     人間であることに非常に憂鬱になるが、知らねばならぬと感じる書籍であった。

  • 家畜化からゲノム編集まで。ともかく人間は迷惑なもののようだ。そうだよねえ、私が意識のある50年ですらこれほどに環境を改変しているのだから。

  • ダーウィンは適者生存による進化は長い時間をかけてゆっくり起きると考えていたが、人間が介在する場合、進化/変化は数十年という単位で急激に起きる。遺伝子操作という究極のツールを手にした今はなおのこと。300ページを超える厚い本が、具体的な事例と考察に埋め尽くされている。例えば犬、たとえば家畜。遺伝子操作をほどこされたサーモンや観賞魚、マラリアを媒介する蚊を不妊化した蚊を放虫することで撲滅しようとする試み、サンゴやカカポ(飛べないオウム)を保護しようとする試み。おなかいっぱいになるくらい。

    知らないこともたくさんあって、面白いのだが、著者のスタンスが今ひとつはっきりしない。いきなり地球に優しい系の話が始まって面食らったりする。著者は人間が他の生き物の進化/変化に手をだすことをどう考えているのだろう? 工業的畜産を動物福祉の観点から、あるいはエネルギー効率の面から見直そうとする動きがあるのは承知しているが、ニワトリやウシ、ブタなどの家畜を広い放牧場に解放してやれば解決するほど無邪気な話でもないと思うのだが。

  • 本書の冒頭から「遺伝子改変されたオオカミすなわち犬」が出てくるが、家畜化された=選択交配で遺伝子改変された、という視点は当たり前のようでハッとする事実だと思う。人間が形質を選り好み家畜を増やしていくことで遺伝的多様性が失われていくのは明白なのに、そんな事は考えたことがなかった。
    野生動物よりはるかに多くの家畜がいて、それの飼料のための農地がたくさんあって自然破壊している…どうしようもなく持続不可能で危機的な状況であるが、本書ではテクノロジーによる課題解決を目指す前向きな話もたくさん出ててきて、それぞれが面白く、考えさせられた。
    ただ「再野生化」の取り組みについてはあまり良い話とは思わなかった。自然は複雑系であり、キーとなる中枢種をポンと入れただけで自然が回復していく、というのはさすがに都合の良い部分しか見ていないと思う。とはいえ、これらの取り組みをしっかりと評価して皆で自然について考えていくことが大事かと思った。ため、本書は広く周りにも勧めていきたい。

  • <目次>
    第1章  おなかを見せたオオカミ
    第2章  戦略的ウシと黄金のヌー
    第3章  スーパーサーモンとスパイダー·ゴート
    第4章  ゲーム·オブ·クローンズ
    第5章  不妊のハエと自殺するフクロギツネ
    第6章  ニワトリの時代 
    第7章  シーモンキーとピズリーベア
    第8章  ダーウィンのガ
    第9章  サンゴは回復する
    第10章  愛の島 
    第11章  ブタと紫の皇帝
    第12章  新しい方舟

    <内容>
    予想以上に我々人類は、自然を改変していったことを知った。遺伝子組み換えの話なのかと思っていたが、いわゆる品種改良や自然を破壊した結果、そこにいた生物が、生き残るために自主的に?品種が変わった話など、目からうろこの話が多い。また最後の方では、自然を回復させつつ、そこにもともといた種を放牧し、そこから自然も回復させようという試みの話まで出てきて、人類の叡智もすごいと思うとともに、「種の保存」や「種の改変」は、どこが悪なのかもわからなくなってきた。

  • How Humans are Altering Life on Earth
    https://www.kagakudojin.co.jp/book/b584616.html

  • もし現代版のノアの箱舟があって点呼をとったら、「鶏、鶏、鶏、鶏、鶏、鶏、牛」となるほど、いまの地球の生命バランスは歪になっている。
    地球上には220億羽の鶏がいて、人類全員に配っても、ひとり3羽ももらえる計算だ。
    毎年何億もの骨が埋め立られ、鳥インフルでは何千万羽の鶏が殺処分されている。
    死骸が化石化し未来の地質学者が発掘すれば、間違いなく"人新世"ではなく"鶏新世"だと呼ぶだろう。
    1万年前、世界の陸生哺乳類の99.9%は野生動物が占めていたが、いまでは96%が人と家畜で構成されていて、野生動物はほんの僅かだ。

    現代人の登場以来、家畜化や選択交配、遺伝子組み換え、クローン化、害虫の根絶などで、生物の進化にとてつもない影響を及ぼしてきた。
    「わたしたちは下り坂の瀬戸際に立っているのではなく、すでに山の中腹まで転がり落ちてきたのだ」という著者の危機感は多くの読者が共感を寄せるところ。

    ただ、訳者あとがきにもある通り、読んでてなんだかなと違和感を感じる部分が多い。
    訳者は外来種に寛容な論述が気に障ったようだが、この他にも「行動は時に大きなコストをともなうが、行動しないコストの方がそれ以上に大きい」と、とにかくイケイケなのだ。

    クローン技術により、絶滅したマンモスを蘇らせようとしても、生まれてくるのはオリジナルと同一ではなく、近縁種に過ぎない。
    ならどんな意味があるのかという反論には、「自然環境を崩壊させつつある人類には、自らが引き起こした損害を補填する倫理的義務を負っている」と返す。
    「神の領分を侵している」という批判にも、森林破壊や地球汚染ですでに神の領分を侵していると居直る。
    「遺伝子編集した家畜を異なる状況で利用することについては、わたしは柔軟に考えるつもりだ」
    「遺伝子編集は家畜の健康増進に役立つ可能性を秘めている」

    これまでたくさんの種を絶滅に追いやってきたが、どれも意図しない自覚なき殲滅で、計画的な大量殺戮ではなかった。
    マラリア撲滅のため特定の蚊をこの世から消し去っても、誰も悲しまないし、生態系の崩壊も起こらないなら、意図して絶滅に追いやって何が悪い。
    外来種駆除のため、自殺するよう仕向ける遺伝子ドライブは、毒や罠を仕掛けるより人道的な方法だ。
    個体は通常通り生きられ、繁殖だけ阻害される。
    確実だし、何よりコスパがいい。
    まだ研究段階で、「近い将来に自殺するフクロギツネが披露される」状態ではない。
    なんか怖いですけど...。

    赤いカナリア、薬を生むニワトリ、蛍光熱帯魚、スパイダー・ゴートなどなど。
    「形質転換動物が新素材や新薬を創出し、病気の治療法をもたらすのなら、そんなに悪しざまにいうべきものなのだろうか? 数万年前に最初の家畜を飼いはじめて以来、ヒトはずっと彼らのゲノムを改変してきた。CRISPR遺伝子編集が確立されたいま、従来の人為淘汰と自然淘汰の垣根を超えて考えるべきときがやってきた。わたしたちが、30億年を超える地球生命史のなかに、一度たりとも似たものさえいなかったような、まったく新しい生物を創造する力を手にしている」

    「ブタの臓器を人体に入れるという発想を、反射的に拒絶したくなる気持ちはわかる。だが、これを自然に反すると思うなら、通常の臓器移植も同じだ」

    「手つかずの野生動物に遺伝子操作を施すというアイデアにまだ抵抗があるという人も、考えてみてほしい」。
    人類は何万年も前から、意図的であろうがなかろうが、野生動物の遺伝子操作を行ってきたし、"手つかずの"種なんて存在しない。
    もう全ての地球上の生命には、何らかの形でヒトの痕跡が残されているんだから、もっとポジティブに考えましょうよ、と。
    うーん、そんな風には考えられないなぁ。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000054083

  • セントラルパークのネズミはピザを消化する能力を進化させ、プエルトリコのアノールトカゲは指の接着力を強化して、ビルの壁面に棲みつくそうだ。生き物は逞しいなあという話を期待して読んだところが、ヒトが生き物をそう進化させたんだよね?と返されてあれれーとなってしまった。カナリアもニワトリもヒトが進化させた。あれれー。知っているのに進化させたとは思ってなかった。という目ウロコ。

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著者プロフィール

ヘレン・ピルチャー(Helen Pilcher)
ロンドンの精神医学研究所で細胞生物学の博士号を取得。英国王立協会の「社会における科学」プログラムを運営。その後、サイエンスライターとなり、定期的に学校やフェスティバルで科学に関する講演を行っている。これまでの著書に『Life Changing:ヒトが生命進化を加速する』(化学同人)、『Bring Back the King: The New Science of De-extinction』『Mind Maps Biology』などがある。Nature、New Scientist、Science Focusにも寄稿している。

「2023年 『イラストでわかるやさしい生物学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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