プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン

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  • 学芸出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784761527099

作品紹介・あらすじ

プレイスメイキングとは、街路、公園、水辺等の不自由な公共空間を市民が自由に使いこなせる居場所に変える、アクティビティ・ファーストの都市デザイン。空間の活用ニーズの発見、実効力のあるチームアップ、設計と運営のデザインスキーム、試行の成果を定着させるしくみ等、誰でも街にコミットできる手法を実践例から解説。

感想・レビュー・書評

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  • 街の中に豊かな暮らしの風景を創出するための取り組みである「プレイスメイキング」について、どのように進めていけばよいのかを具体的な事例の紹介も交えて解説した本。

    特に焦点を置いているのが、公園や道路、ビルや団地のオープンスペースといった公共空間を活用して、賑わいや交流の場を生み出すという取り組みである。

    昔であれば辻や河原や寺社の境内といった場所に自然発生的に生まれていたコミュニティの場が徐々に減少していって久しい。それは、これらの空間が徐々にそれぞれ別の管理主体によって明確に管理されるようになり、管理の効率化や厳格化、単一目的化などが進められたことに因る部分が大きいという。

    しかし、公共空間自体は決して消えてしまったわけではなく、いまも都市の中に存在している。それらを活用し、単なる空間(スペース)から居場所(プレイス)に変えていくための手法が、プレイスメイキングであるという。

    このような取組みは日本だけではなく、欧米諸国でも取り組まれており、筆者も本書の第1章でウィリアム・ホワイトやヤン・ゲール、PPS(Project for Public Spaces)らの著作や取組みを取り上げながら、その系譜を紹介している。

    後段で紹介されているデトロイトの取り組みなども含めて感じたのは、欧米ではプレイスメイキングの取り組みは人種差別や経済格差、それらを背景とした生存権に対する危機を解決するための取り組みとして位置づけられているという側面が大きいということである。

    また、そのための取り組みが住民組織、行政、専門家の協働によって進められており、都市計画や地域再生に関する政策レベルに組み込んでいく動きも着実に進んできているという点である。

    この面において、1970年代から深刻な都市問題に直面していた欧米の諸都市は、課題先進国であったが故に、取り組みの進度も先行しているように感じた。

    本書の中核になるのは、筆者が提唱するプレイスメイキングのためのレシピである。これは、10のフェーズと10のメソッドからなっており、それぞれプレイスメイキングはどのような手順で進めていけばよいかと、プレイスメイキングを進めるうえで役に立つ手法やヒントを分かりやすく整理したものである。

    10のフェーズは、プレイスメイキングで目指す成果に辿り着くためのプロセスのデザインである。

    自治体が主導する都市計画と異なるのは、長期ビジョンや永続的な組織づくりからスタートするのではなく、まず小さくとも具体的なプロジェクトからスタートするということである。また、専用の場所を新たに作るのではなく、地域の中で使える場所を探すこと、最初から完全なものを目指すのではなく、「簡単に、素早く、安く」できることから段階的に進めること、といった点も重要である。

    これらは、ソフトウェア開発の手法であるアジャイルとも通じる側面があると思う。

    一方で、最初に取組みのミッション(なぜやるか)を明確にすること、地域の中のステークホルダーを中心に地道に声をかけ、プロジェクト・チームをつくること、明確な指標を作り調査を通じて試行の結果を検証することなどが大切であるという点も、しっかりと強調されている。また、最終的には常態化され、長期的なビジョンに位置づけられるところまで視野に入れることも重要である。

    プレイスメイキングは、一過性のイベントではなく、あくまで地域の中に居場所をつくりそれを定着させていくまちづくりの活動であるということが、よく分かった。

    筆者の提唱するレシピのもう一つの要素である10のメソッドは、取り組みを進めるうえでヒントになる手法やアイデアである。

    地域の中にある公共空間を診断するためのチェックシートや、空間の使われ方を構想するためのストーリーシートなど、実際の取り組みを進めるうえで助けになるツールが、紹介されている。

    本書の後半では、国内外の先進事例と、筆者自身が深くかかわってきた豊田市や小田原市での取り組みが紹介されている。それぞれの事例紹介の中で、10のフェーズと10のメソッドをもとに説明がなされているため、レシピの内容が改めてよく分かった。

    これらのレシピは、自らが取り組みを実践する際にも使えるが、他の事例を分析、研究する時にも使えるものだと感じた。

    やはり印象に残ったのは、筆者自身が関わっている豊田市と小田原市の取り組みの説明だった。特に豊田市の取り組みは、公共空間を遊び場として試行的に使ってみるところから、駅前広場の改修と連動した長期的な管理体制づくりまで、プレイスメイキングの取り組みが段階的かつ発展的に取り組まれてきた様子が、非常によく分かった。

    また、それぞれの段階で徐々に関係する組織が増えていき、また効果の検証とそのフィードバックが次につながっていくという循環もみられているという点でも、非常に理想的な活動が行われてきたのではないかと感じた。

    プレイスメイキングという取り組みは、行政や企業ではなく住民でも少人数で始めることができる。また、開発・整備が中心の都市づくりから転換し、いまある空間資源を有効活用して住民のニーズに応えていくためのアプローチでもある。

    こういった取り組みは、これまでの都市づくりの中では欠けていた要素であるし、大型の公共投資を伴わなくても実行できるという面でもこれからの時代にあった手法であると思う。今後、より実践が積み重ねられていくことを期待したい。

  • プレイスメイキングのステップがよくわかる良著であった。

    場の概念等の学術的な部分というよりは、より実践的な進め方に力点が置かれた本である。

    自らが進める際にも、10のステップとmethodを意識し、どの段階にあるかを確認していきたい。
    このようにまとめていただくと、共通言語として話がしやふく助かる。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/566458

  • プレイスメイキングの実践方法と、その参考事例がまとまった良著。

  • 2021.12.05 プレイスメーキングという言葉は知っていたが内容がよくわからなかった。これをよんで理解することができた。エリマネとプレイスメーキングのスタンスの違いもよくわかった。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001149099

  • スペースからプレイスにするためのチームづくり。
    遊休公共空間の活用方法。

    ・楽しむ自発性が自分ごとにつながる。まきこみ方。

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著者プロフィール

有限会社ハートビートプラン。1984年埼玉県所沢市生まれ。2009年工学院大学大学院修士課程修了。商業系企画・デザイン会社勤務を経て、2015年同大学院博士課程修了。博士(工学)。2014年〜小田原Laboratory.代表、一般社団法人国土政策研究会公共空間の「質」研究部会ディレクター。2015年〜工学院大学客員研究員。2015〜2016年株式会社アーバン・ハウス都市建築研究所研究員。2016年より現職、特定認定NPO法人日本都市計画家協会理事。専門は都市デザイン、プレイスメイキング。現在は、大阪・東京を拠点にプレイスメイキングに関する研究、実践に取り組んでいる。

「2019年 『プレイスメイキング』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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