- Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
- / ISBN・EAN: 9784763008015
感想・レビュー・書評
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松田優作演じる朝倉に心奪われていた若き日に「ハードボイルドってーのは生き方なんだよ小僧!」と平手打ちを喰らわせてきたのが誰あろうこの丸健親分。
でもその頃は全く歯が立たない…と言うかその違和感に歯牙にもかけなかったとしたほうが正直だろう。
で今回再生復活版を読んでみたわけだがするとどうだろう、情景豊かな独特の文章も心地よくスーっと物語に入ることが出来るではないか!
会社も乗っ取らずカウンタックにも乗ることのない片田舎の小役人の中年男の心情が我が身とオーバーラップし胸にジンジン響く。
寄る年波と言ってしまうのは簡単、でもそれでも「安定、退屈、単調な日常をぶち破れ!」とアジる親分の熱い心に触れるのはこれからなんだと思わせられた覚醒の一冊、名作である詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
海ノ口町という寂れた田舎町を舞台にした物語。何かが起こるわけではないのだが、何も起こらない=先が無いというゾワゾワとした不安感が全編通して伝わってくる。達観してはいるが、あくまてその認識は土地に縛られたものだということを暗示しているのは非常に面白い部分ではあった。
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淡々とした文章だが読む人の生き方に揺さぶりをかけてくる恐ろしい作品。結婚をし可もなく不可もなく仕事に励み一つの土地に住み続ける人生が果たして本当に幸せなのか。1人の流れ者の登場で中年男性の人生観が混乱の嵐に巻き込まれる。
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文章は読み難く、エネルギーを消費する。
節を連ねて連ねて最後に引っくるめて打ち消したり、消化するのに結構なバッファーが必要で、ながら読みには向かない。
その割に、要約すると、原稿用紙1枚でもまとめられそうな気がする。
そんな、希釈された文章の中に、自分に無い物に惹かれる43歳の中年の葛藤が、身動きの取れないはずの案山子とさすらいの男によって浮き彫りになる様は、滑稽なまでに絶妙。 -
海沿いの小さな町に流れ着いた祖父が築いた町一番の豪邸に暮らす43歳の男。役場の苦情処理係として町のあらゆることに精通している。父が交互に植えたイチョウとカエデの鮮やかさだけがこの町の彩りだ。町を出て行きたいと思いながら、それができない。閉塞状況のこの町こそ男そのものだ。怠惰な田舎町なのに男の頭のなかは緊迫している。日常と非日常がからみあう刃物のような作品。