「地下鉄サリン事件」自衛隊戦記: 出動部隊指揮官の戦闘記録 (光人社ノンフィクション文庫 878)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769828785

作品紹介・あらすじ

1995年3月20日、東京を襲った未知の恐怖。死者12人、重軽傷者5,500人以上を数えた化学兵器テロの現場へ「災害派遣」を命ぜられた連隊長の長い長い一日。猛毒のサリンの潜む地下鉄構内に部下を送り込まねばならなかった指揮官の苦悩、そして最前線の隊員たちの恐怖と苦闘を初めて明かす生々しい証言。

感想・レビュー・書評

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  • 私自身消防吏員であり、業務と直結するため内容が理解できた。
    率直に感じたことは、自衛隊は消防よりも専門性が高いということ。当然だが、官僚が防衛大学であるという国の教育システムであり、国と地方自治体の差であると考えられる。国単位であれば単純に隊員数が多いため専門部隊を編成でき、日々専門知識を養え、実働訓練ができるが、自治体は規模がその市町村により大小様々であり、専門的に取り組める市町村と、マンパワーや財政不足でそれができない市町村があり、むしろその方が大多数を占める。ただ消防はファーストレスポンダーであるため、自衛隊よりさきに現場に到着し、要救助者の救出活動を行わなければならない。また、さらに汚染を広げるようなことがあってはならないため、消防こそ専門知識、すなわち専門部隊が必要である。なので、各都道府県の消防組織が東京消防庁のような規模の組織にするため、一刻も早く消防広域化の推進が期待される。

  • 地下鉄サリン事件で災害派遣された32連隊の連隊長が、部下らの証言も併せてまとめた非公式記録とも言うべきもの。

  • 1995年3月20日。通勤ラッシュの営団地下鉄(現・東京メトロ)の複数の
    路線で未曽有の事件が起きた。

    麻原彰晃率いる宗教団体・オウム真理教による地下鉄サリン事件は、
    史上初の神経ガスによる無差別テロは、世界にも大きな衝撃をもって
    報道された。

    この事件の際に駅構内・車両の除染作業に派遣されたのが自衛隊な
    のだが、本書は山手線の内側に唯一駐屯する陸上自衛隊第32連隊で
    隊員の指揮を執ったのが本書の著者である。

    著者自身は市ヶ谷の指揮所にいたので現場には出ていないので、現場
    での出来事に関しては実際に除染作業に当たった隊員たちの証言で構
    成されている。

    当時のことは今も覚えている。特に事件発生の少し前まで利用していた
    築地駅周辺が野戦病院のようになっていた上空からの映像は忘れられ
    ない。務めていた事務所を辞めてフリーランスの編集者になっていなけれ
    ば、もしかしたら私も…と思ったのだもの。

    誰も日本国内で神経ガスによるテロが起きるなんて思ってなかったよね。
    それでも事件発生直後から「サリンではないか」と見方が一部で出ていた。
    けれど、正確な情報はどこも掴んでいなかった。

    それは自衛隊も一緒だ。情報が混乱するなかで隊員たちを集め、装備を
    整え、自らの命の危険さえあるのに現場に駆け付ける。

    サリンが撒かれた車両からサリンが入ったパックを取り除いた営団地下鉄
    の職員さんが犠牲者になったように、現場に出動した自衛隊員・警察官・
    消防庁職員が残留サリンの犠牲になる可能性も高かったんだよね。

    ただ、本書は指揮官であり現場の状況をテレビ画面を通じてしか見ていな
    い人の報告書の形式なので緊迫感には欠けるかな。部下たちの命を第一
    に考えていることには共感したけれど。

    興味深かったのはパトカーに先導された自衛隊車両が緊急走行に慣れて
    おらずに迷子になりそうになったこととか、事件後に市谷駐屯地でカナリア
    が飼われていたこと。

    カナリアを購入するのに自衛隊幹部が「どの予算から出せばいいのか」と
    頭を悩ませていたらしい。結局は「消耗品」になったようだけれど。

    地下鉄サリン事件後、オウム真理教の上九一色村の施設に警察の一斉
    捜索が入ったのだが、その際に自衛隊が計画していた作戦の内容が掲載
    されている。実行には移されず「幻の作戦」になったのだが、実行されなく
    て本当に良かったと思うわ。

    オウム真理教によるこの事件では今でも後遺症を抱えている人たちが多く
    いる。なのに、オウム真理教から名を変えた教団の生き残りたちの集団は、
    現在でも事件を知らない若い世代を勧誘しているんだよな。

    喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃないけれど、オウム真理教による一連の
    事件も風化させてはいけないと思うわ。

  • 自衛隊の活躍はもっと注目されるようアピールすべきと思った。

  • 地下鉄サリン事件当日の自衛隊指揮官の活動報告。
    当日の現場資料としてはとても興味深く読めました。
    だがしかし。(^^;
    ちょっとねぇ、気持ちがわからないでもないけれど、とても自慢げなのです。
    なんというか、被害者関係者が読んだら、そんな明るい筆致で書かなくても良いだろう?と思いそうなくらいに。
    報告書ベースなのでしょうから、こういう書き方になったという背景はわかりますが、それこそよく言われるように、被害者感情に考慮する部分がもう少しあっても良かったんじゃないかな。(^^;

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著者プロフィール

福山隆 ふくやまたかし
一九四七年長崎県生まれ。防衛大学卒業後、陸上自衛隊幹部候補生として入隊。九〇年外務省に出向、大韓民国駐在武官として朝鮮半島情勢のインテリジェンスに関わる。九三年、連隊長として地下鉄サリン事件の除染作戦を指揮。陸将補、西部方面総監部幕僚長、陸将を歴任し、二〇〇五年退官。ハーバード大学アジア上級客員研究員を経て、現在、広洋産業株式会社顧問。

「2022年 『ロシア・中国・北朝鮮が攻めてくる日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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