DVにさらされる子どもたち 新訳版ー親としての加害者が家族機能に及ぼす影響

  • 金剛出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772418706

作品紹介・あらすじ

DV被害という厳しい現実から、被害者である母親のみならず子どもたちの安全と回復を優先するために、DVの背景にある社会的・文化的概念や加害者である父親の行動……相手に植えつける恐怖と、虐待的な心理プロセスが家族の人間関係に及ぼす影響を見きわめ、適切に対処するための指針を提示する。

また留意する点として、一度できあがった人間関係の力学は、母子が加害者と別居しても簡単に消えることはなく、親権や面接交渉権、養育費をめぐる加害者の訴訟行為において存続するケースを挙げている。したがって専門家、そして子どもの支援にかかわる人々は、被害者である母親に負わせてしまいがちな別居前後に被る母子の心の傷と、回復を図るための適切な方法について理解することが必要になる。

さらに本書の最大の特徴は、専門家がDVを生き延びた被害女性に対して、見下した態度や忍耐力の欠如は禁物であることと敬意をもって接することの重要性を主張していることだ。被害者である母親を家族の安全と安心の実現を図るチームの一員として位置づけることは、結果としてDVにさらされた子どもへの支援につながる。

感想・レビュー・書評

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  • ▼本書の最大の特徴は、専門家がDVを生き延びた被害女性に対して、見下した態度や忍耐力の欠如は禁物であることと敬意をもって接することの重要性を主張していることだ。
    ▼さらに被害者である母親を家族の安全と安心の実現を図るチームの一員として位置づけることは、結果としてDVにさらされた子どもへの支援につながると言う。
    ………本書カバーそでより


    本書のタイトルはDVにさらされる子どもたちであるが、筆者の伝えたい正確なところとしては、「加害者」にさらされる子どもたち、また親としての加害者が家族機能に及ぼす影響について、さらに言うなら、DV被害者(主に母子)へのケアや、DV加害者への対応の仕方などがあげられる。
    豊富に事例を取り上げながら、加害者にはどのような特徴があるのか、また加害者はどのような手法を用いて家族を分断させるのか、それによってどのような影響を子どもに与えるのかなどを取り上げている。
    (特に子どもについては、男の子だと加害者である父親に同化し母親、ひいては女性を見下し蔑ろにしてもいい存在であると認識し大人になってからDVを起こしやすくなる・女の子は女性はみんな暴行されるものだという認識を持ちDVの被害者になりやすい)
    本書の事例や本書内で問題提起されている制度等がアメリカのものであることを考慮しても、日本にも十分通用し、専門家やDVに関わる人にはもちろん、DVについて詳しく知りたい一般の方にもおすすめ。

    特に加害者の特徴…パートナーに対する支配の強制、家庭内で自分が最優先で優遇されるべきだという特権意識、自己中心的、被害者に対して自分の方が優れた人間だと思い込む優越感、独占欲、愛情と虐待の混同、子どもを利用したり態度を変容させたりするなどをすることで被害者の心理操作をする、発言と行動の矛盾、虐待に関する責任転嫁、否認、事実を軽くみせる、暴力を振るった理由を被害女性のせいにする…などは、(私の読んできた少ない事例の中だけでみても)日本の事例にも当てはまり、参考になると思った。
    また、「加害者」の定義についても、最初の方で述べられている。

    驚いたことに、日本では親権は大体女性に渡るものだが(それがいいとするかは別にして)、アメリカでは、特にDV加害者と被害者では、子どもを養育した実績がない場合でも加害者である父親にほとんど親権が渡ってしまうそうだ。筆者はこの件についても、批判を述べている。
    また離婚し別居したのちにDVが悪化し、加害者が被害女性や子どもを殺害したり、虐待(性的虐待も含め)が加速する、子どもが加害者に攫われるケースも多いとのこと。
    殺害までいかなくても、加害者は不定期に突然子どもとの面会の機会を求め(被害女性が子どものために面会を拒否した場合、親権について被害女性の方が不利になってしまうためなかなか拒否することができない)、その際母親を侮辱することを言ったり、セラピーを受けないよう促したり、規則的な生活を遅ることを妨害して、母親と子どもの家庭を壊そうとする。
    同居中から離婚後に至るまで、子どもを武器にして被害女性である母親を支配しようとする側面がある。
    加害者によって母子の関係性を壊されなければ、母子関係やきょうだい関係を回復することもできるとし、そのための具体策を筆者はあげている。

    とにかくDVについて知るのにとてもいい本であると思う。そして、筆者が言うように、DVについて(特に日本での場合について)、また離婚した家庭における子どもへの影響についてももっと知りたいと思ったので、別の書籍もあたりたい。
    下の方に、参考までに本書の目次と印象に残ったキーワードを書く。(本書には親切にも多数の参考文献や索引が書かれている)
    わかりにくいレビューですまない。

    完全に余談だが、DV加害者の心理操作の手口を読みながら、あのおぞましい北九州監禁殺害事件を思い出した。あの事件は赤の他人がとある一家に入り込んで、暴力や家族間の密告を用いた洗脳の末起こった事件だが、ネットや書籍で読んだそのときのマインド・コントロールの手口と、本書に書かれているDV加害者による家族分断を図るマインド・コントロールの手口が似ていてゾッとしたのだ。(北九州の事件とは関係ないが)本書でも述べられているように、重度の身体的暴力がなくても、屈辱的な心理的暴力を巧みに利用して、自分に有利な立場でいようとする、そのためには被害者母子の人格をいたぶることを省みない加害者が多い。そしてプロの調査官が騙されるほど人当たりがいいのも特徴だ。逆にDVによってトラウマを植えつけられた女性はそれによる情緒不安定を糾弾されるのだが…DVを軽くみてはならない。

    目次
    第一章 ドメスティック・バイオレンスの加害者とは?
    第二章 「力」を行使する親ー加害者の子どもへのかかわり方
    第三章 衝撃波ー加害者が家族に及ぼす影響
    第四章 近親姦を犯すDV加害者
    第五章 回復を阻害するもの
    第六章 親としての加害者をめぐる誤解ー広く普及しているアセスメント理論への批判
    第七章 回復への支援ー加害者が子どもに与えるリスクの評価と面会プランの設定
    第八章 変化は本物か?ー親としての加害者の変化を評価し促進する
    第九章 親としての加害者のあり方についてー専門家の対応を改善する


    印象に残ったワード(独断と偏見による)
    ・家族の機能不全 ・外傷性の絆 ・加害者への同一化 ・嫌悪感情の植えつけ ・片方の親への嫌悪感情の植えつけ症候群 ・グルーミング ・ジェンダー・バイアス ・心理操作 ・性的境界 ・特権意識 ・バタード・ウーマン症候群 ・マインド・コントロール ・役割逆転 

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著者プロフィール

DV加害者専門カウンセラー、臨床スーパーバイザー、監護権評定者、子ども虐待調査官などを歴任。米国マサチューセッツ州にて1000人を超える加害者のケースに関わる。他にもDVがある家庭に育った10代男子のためのグループ活動を行なったり、女性の人権問題などでも精力的に活動。主な訳書に『DVにさらされる子どもたち――加害者としての親が家族機能に及ぼす影響』(金剛出版、2004年)、『DV・虐待にさらされた子どものトラウマを癒す――お母さんと支援者のためのガイド』(明石書店、2006年)

「2008年 『DV・虐待 加害者の実体を知る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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