つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?
- インターシフト (2009年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784772695169
感想・レビュー・書評
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性格は遺伝するのか?
知性は遺伝するのか?
同性愛など性的嗜好の場合は?
記憶はどんな仕組みで実現するのか?
何かを感じている時、脳内ではどのような動きがあるのか?
等、脳に関する様々な疑問をお持ちの方も多いかと思います。
本書はこの脳に関する解説本であり、著者が脳の可塑性の研究の世界的第一人者と言う事もあり、中々充実した内容が載っています。
全9章からなり、それぞれ以下の様な内容
・脳は昔の仕組みを捨てず、その上に新しい機能を追加するという非効率な仕組みを持っている
本書の表現を借りれば、T型フォードに部品を追加して新しい機能を持たせた(しかもT型フォードの部品は一切捨てず)様なものとの事。
・ニューロンとそれらを結ぶシナプスの働き方などの解説
・脳は巨大で複雑なシステムを持っているので遺伝子情報だけで創り上げるのは不可能。
従って、20歳くらいになるまで周囲の環境の影響を受けてシナプスが結ばれるなど、成長して行く
・上記の理由により、個人の知性や性格に対して氏と育ちの双方が影響を与える。
・感覚器官から得た情報は、既に感情とミックスされ処理されたもの。
感情がミックスされていない「純粋な知覚」などは存在しない
・脳は誕生後も成長しているので、男女の脳に違いが生まれるのはホルモンの所為だけでなく成長環境も影響しているのかも知れない。
・性的嗜好と遺伝の関係
・睡眠と学習効果の関係
・夢に意味はあるのか?
等が載っていました。
特に、夢に関する著者の推測
夢の70%はネガティブな感情を伴うもの。
夢にネガティブな内容が多い理由は、脳は寝ている時に記憶の定着を行うが、ネガティブな感情を抱いた時に人間の記憶が定着しやすいから。
は興味深い内容でした。
また、男女の結婚に関しても
女性は他の動物のメスとは違って妊娠可能な状態であることを示す外部シグナルを持たない
これは、妊娠可能な状態であることを男性に示すと、そうでない状態の場合、男性を引き止めることができないから。
男性を引き止めたい理由は、誕生後も脳が未完成な我が子の子育てに男性の協力がほしいから。
との推測も載ってあり、若干根拠に乏しい推測かとは思いましたが、これも中々興味深い内容でした。
尚、本書終盤にはそれまで著者が解説・主張してきた事をまとめたフロー図的な解説図も載ってあり、それにより今、人間が持っている人間性がどのように獲得されたのかに関する著者の考えを知ることが出来ます。
最終章の9章で、脳をルーブ・ゴールドバーグマシンに例え、インテリジェントデザイン論へ反論している本書。
良くある「氏か育ちか」議論や性格と遺伝の関係(有名な所では血液型性格診断)、知性と遺伝の関係などに関する議論において、冷静な視点を提供してくれる本と言えるでしょう。
2章のニューロンとシナプスの解説は(その後の理解を順調にする為にも)丁寧に読む必要がありますが、基本的に門外漢にも理解しやすく書かれており、脳に関する確かな知識が欲しければ、真っ先に読むべきおすすめな書籍ではないでしょうか。
原著が2006年に書かれたということもあり、内容に最新の研究結果は反映されてはいませんが、それでも本書を読破するだけで脳に関する知識が急増すること間違いなしです。
脳に興味をお持ちであれば、是非一読を。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最近、読んだ池谷さんも絶賛しているという本。
脳って進化の過程でつぎはぎで作られてきた器官なので、いろいろと非効率なところがあるんだよね、というのが邦題タイトルの意味。
原題は、"The Accidental Mind: How Brain Evolution Has Given Us Love, Memory, Dreams, and God"というもので、書籍の構成までかなりストレートに表現したものになっています。確かに、記憶やセックス、睡眠などと脳の機能の関係が語られていますが、このあたりのことは時間が経つとさらに詳しくわかるようになるんでは印象を持ちました。宗教やインテリジェントデザインに最後の2章が割かれていますが、日本人だとたぶんこういう終わり方はしないですね。宗教に関する感覚の違いなんでしょうね。