- Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
- / ISBN・EAN: 9784775401163
作品紹介・あらすじ
あなたの「いま・ここ」がゆらぐ-奇怪な、けれど妙に切ない9つの物語。
感想・レビュー・書評
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作品紹介・あらすじ
あなたの「いま・ここ」がゆらぐ―奇怪な、けれど妙に切ない9つの物語。
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柴田元幸氏編・翻訳による全9編からなる短編集。収録されているのは以下の通り。
・「地下室の査察」エリック・マコーマック
・「Do You Love Me?」ピーター・ケアリー
・「どこへ行くの、どこ行ってたの?」ジョイス・キャロル・オーツ
・「失われた物語の墓」ウィリアム・T・ヴォルマン
・「見えないショッピング・モール」ケン・カルファス
・「魔法」レベッカ・ブラウン
・「雪人間」スティーヴン・ミルハウザー
・「下層土」ニコルソン・ベイカー
・「ザ・ホルトラク」ケリー・リンク
このうち、「地下室の査察」「どこへ行くの、どこ行ってたの?」「魔法」「雪人間」は既にそれぞれの作家の短編集で読んでいたので再読ということになる。再読とはいえ、どれも面白く、特に「どこへ行くの、どこ行ってたの?」のジワジワと迫って来る不穏な空気や、「雪人間」の少年たちの純粋な視線がお気に入り。エリック・マコーマックも「地下室の査察」が収録されている短編集を読んで大ファンとなり、翻訳されている作品は全て読んだ。レベッカ・ブラウンもこの「魔法」以上に面白い作品が数多くある。
今回初読だった作品もそれなりに面白かった。「Do You Love Me?」の最後の「私のこと、愛してるかい?」という母親の言葉は切実でもあり不気味でもある。「失われた物語の墓」はエドガー・アラン・ポーへのオマージュみたいな作品。「見えないショッピング・モール」はイタロ・カルヴィーノの「見えない都市」のパロディ。但し僕はイタロ・カルヴィーノは好きな作家なのだけれど、この「見えない都市」は「あまり面白くないじゃん」と感想に書いてしまうような不遜な読者でもある(汗)。
今回、「あれ?」と思ったのが、「下層土」のニコルソン・ベイカーと「ザ・ホルトラク」のケリー・リンク。ニコルソン・ベイカーは何冊か読んだことがあるのだけれど、その時はあまりピンとこなかった。ところがこの「下層土」が結構面白かった。なんでもスティーヴン・キングにバカにされたニコルソンが怒って「だったらスティーヴンみたいなホラーを書いてやる!」ということで書かれた作品らしいのだけれど、怖い、というよりもチラっとバカバカしい感じがし、そこがまた僕にとって面白さの要素の一つだった。何となく映画「キラー・トマト」を想起した。
ケリー・リンクも以前短編集を読んだことがあるのだけれど、やはりその時はピンとこなかった。確かその短編集にもゾンビが日常的に表れていたように記憶しているし、本作「ザ・ホルトラク」にもゾンビが登場するのだけれど、一つ一つの文節が単発でドスドスっと刺さってきて、それがいつの間にか全体を形成しているような感じ。僕にとって独特の世界観が描かれていて、その世界に馴染んだら抜け出せなくなっちゃった、ってな感じ。
全体としては、各作家の簡単な紹介本みたいな印象を持った。勿論これ1冊で各作家の全てが分かるわけではないけれど、「ほうほう、じゃあちょっとこの人の他の作品、読んでみようかな」といった最初の一歩的な役割はあると思う。僕にとって今回はニコルソン・ベイカーとケリー・リンクをもう一度読み直してみようかな、という気にさせてくれた1冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ピーター・ケアリーの「Do You Love Me?」も怖かったけど、
(愛されない存在は消えてしまう…っての。消えたくないから「私のこと好き?」って聞くの…あまりにも皮肉…)
エリック・マコーマックの「地下堂の査察」が思いっきり幻想的で暗くてぶっちぎりで不穏で救いがなくて好きだったな… -
一応読むには読んだがといったところ。ほぼギブアップ。
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翻訳家柴田元幸編訳による現代アメリカ幻想短篇小説アンソロジーである。アンソロジーのいいところは、今まで読んだこともない作家の味見ができるところにある。一方で問題点は、ハマる作品もあれば、そうでもない作品も集められていることだ。おそらく編者は意図的にそうしていると思われる。中に一作でも好みの作品が見つかれば、そこからまた芋づる式にその作家の作品を読んでいけばいい。全九篇。以下に収録作と著者名を記す。
地下堂の査察 エリック・マコーマック
“Do You Love Me?” ピーター・ケアリー
どこへ行くの、どこ行ってたの? ジョイス・キャロル・オーツ
失われた物語たちの墓 ウィリアム・T・ヴォルマン
見えないショッピング・モール ケン・カルファス
魔法 レベッカ・ブラウン
雪人間 スティーヴン・ミルハウザー
下層土 ニコルソン・ベイカー
ザ・ホルトラク ケリー・リンク
ひとくちに幻想小説といってもその幅は広い。巻頭に置かれた「地下堂の査察」は人が幻想小説と聞いてすぐに思い出す類のものではない。非常にミニマムな規模のディストピア小説。フィヨルドのそばの側面がぼろぼろ崩れかけた渓谷の端に作った入植地。そこに設けられた、「地下堂」という名の牢に閉じ込められた六人の「居住者」を月に一度査察して報告書を提出する男の物語。真実を隠して耳に快い言葉に替えていても地下堂は「牢」、居住者は「囚人」だ。暗い時代、権力によって一方的に管理される側の恐怖と絶望を描く。
“Do You Love Me?”は、SFタッチで描く近未来の世界。今その国では、国勢調査のために地図製作者が克明な地図を作っている。ところが、その地図に欠落が生じていることが判明する。消えているのだ。影響は都市にまで及ぶ。人々の目の前でビルが消えてゆく。父の説くところによれば、それらは必要がないから消えるのだ。では、人もそうなのか?タイトルの意味はそこにある。
ジョイス・キャロル・オーツは読んだことがある。この作品はボブ・ディランに捧げられた現代の若者の物語。自分の容姿に自信のある少女が主人公。勉強がよくできる姉は母とバーベキューパーティーに出かけている。留守番をしているコニーのところへ男がやってくる。昨夜店で目があった男だ。執拗に誘い掛ける男に不安が募るコニー。いかにも現代的な主題に見えるが、これはシンデレラ・ストーリーの暗黒バージョン。毒のある世界を描いてみせる独特の持ち味が魅力的だ。
「失われた物語たちの墓」はE・A・ポオの作品を網羅して、彼の晩年の生活を描くという意欲的な試み。「早過ぎる埋葬」というポオが固執した妄想を主題にした一篇。おそらくは文体模倣も行っているにちがいない。訳者はすでに訳された翻訳文体を駆使してそれを忠実になぞっているのだろうが、どの部分がそれなのかポオはほぼ全作品を読んでいるのだが、よくわからないのが残念だ。
「見えないショッピング・モール」はイタロ・カルヴィーノの名作『見えない都市』のパスティーシュ。帝国中を旅してまわったマルコ・ポーロが目にした様々な都市の様子をフビライ・汗(ハン)に語るというスタイルで綴られたカルヴィーノの文体を徹底的に模倣しながら、都市をショッピング・モールに替えているところが見ものだ。カルヴィーノの『見えない都市』との読み比べをお勧めしたい。
「魔法」は、支配、被支配の関係を描いた一篇。鎖帷子に面頬付きの兜で全身を覆った女王様と呼ばれる女に荒野で拾われた私は、お城の一室に囲われて女王様の訪れを待つだけの暮らしに満足していた。しかし、見られるだけで相手を見ることができない関係に不満を感じた私は女王様を怒らせてしまう。城を追われた私は人の助けもあって元の居場所に帰ることができた。これは幻想小説に仮装された虐待の物語である。
「雪人間」のどこが幻想小説なのだろう、という疑問もでるかもしれない。ある雪の日の町の様子を少年の目で見たストーリーは、これといった怪奇現象は登場しない。ただ、ミルハウザーの手にかかると、雪だるまが雪人間に変貌する。どこまでもリアルさを追求し、雪像を作る町の人々は、ついにはありえないハイパー・リアルな雪景色を現出してしまう。言葉だけでその異世界を創り上げるミルハウザーの至芸を堪能したい。
「下層土」の作者ニコルソン・ベイカーは、けっこうお気に入りだった。些末なことを後生大事に延々と語り続けるマニアックな手法は一度ハマると病みつきになる。ところが、あるとき御大スティーヴン・キングに面白くないとけなされ、見返してやろうと思って書いた恐怖小説がこれだ、という。ミスター・ポテトヘッドというジャガイモに目鼻を付けて顔にする子どもの遊びを素材に古典的な怪談を描き上げる実力はなかなかのものだ。
「ザ・ホルトラク」は、ゾンビと世界を共有する人間の物語。エリックとバトゥがやっている終夜営業のコンビニが舞台。そこは人間だけでなくゾンビも訪れるコンビニだ。「ホルトラク」とはトルコ語で「幽霊」のこと。車に犬を乗せてやってくるチャーリーのことをエリックは気に入っているが、チャーリーはバトゥからトルコ語を習っている。バトゥはエリックの恋を応援しているのだが、エリックは仲よく話す二人が気になる。何気ない日常生活がゾンビや犬の幽霊と同じ次元で成り立っている違和感が不思議な印象を残す。 -
最後の一編が殊の外おもしろかった。どこまでも幻想的な本ですね。
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とりわけ面白いと思われるアメリカ幻想小説の短編集とのこと。私にはDo You Love Me? が一番入り込みやすくて悲しくて恐ろしいと思った。あとは地下鉄の査察、魔女かなぁ。ただ、唸るようなストーリーで面白いな!という感想がわかなかったなぁ…
岸本佐知子さんの変愛小説集みたいなのを期待してたけど違った。 -
粒よりの短編集。「地下堂の査察」、「"Do You Love Me?"」、「見えないショッピングモール」、「ザ・ホルトラク」がよかった。「地下堂の査察」は別の訳者の「隠し部屋を査察して」も読んでみたい。
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「どこにもない国」読んだ。柴田元幸選アンソロジー http://www.shohakusha.com/detail.php?id=a4775401165 … しっくりこないと思いよく確かめたら幻想怪奇小説集だった。嫌いではないけどハッピーな話のほうが断然好き。幸福感溢れる怪奇小説なんてないもんな、既に字面が人格崩壊をおこしている(つづく
陰鬱な作品群に唯一スティーブンミルハウザーが明るい愁いを差し込む。「ある晴れた朝にぼくは目を覚まし」なんていう平易極まりない書き出しなのに醸し出される叙情の甘美で濃いことよ。こんな作家だっけ?ニコルソンベイカーはグロテスクだけど雰囲気はどたばたコメディ。アニメになりそう(おわり