小川プロダクション『三里塚の夏』を観る――映画から読み解く成田闘争 (DVDブック)

  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313142

作品紹介・あらすじ

世界的ドキュメンタリスト・小川紳介らが三里塚の農民に寄り添いながら写し撮ったドキュメンタリー映画『日本解放戦線 三里塚の夏』。この傑作は、現在もなお戦後日本の光と影をあざやかに浮びあがらせる。「三里塚闘争」を通じて、いまも続く「地方」対「中央」の非対称な関係を見つめ直す。

感想・レビュー・書評

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  • 三里塚での成田闘争について記した「ぼくの村の話」へのレビューから繋がってお借りした一冊で、DVD付きの豪華版。ページをめくると、小川伸介監督の撮り方や意図、この映画の表現についての解説を交えながら、当時の現地の様子や状況などが記されている。この時代の記録、小川氏が三里塚に至るまでの経緯などが整理され、最後に採録リスト、と続くドキュメンタリー。いきなり映像だけ見るとちょっと分かりにくいが、台詞や各シーンの解説を読みながらだとどんな状況で記録されたものなのかが分かる。
    よくこれだけの記録を残したものだ、と思う。

    最初は農業を営む人々のシンプルで当然の想い、自分たちの生業と築いてきたものを守りたい、という気持ちから出てきた行動だったのだ。
    それが、さまざまな世情や政況、いろいろな思惑によって形ややり方が変貌していく。その過程や経緯の全容がこうしてまとめられてもなお、「じゃあどうすれば良かったのか?」という答えは出ないままだ。

    過ちを認めるまでに何十年もかかる「国」や「政府」というシステムは、今も同じことを各地で繰り返し続けている。私欲と利権の争いに明け暮れる“お上”VS民衆、という構図は、今も昔も変わることがないようだ。

  • 40年位前に見た映画でしたが、今見るとまた新鮮です。
    小川紳介さんの映画は”圧殺の森”や"現認報告”などと"三里塚シリーズ”は映像の新鮮さと、権力に対抗する側からの視点とで引き付けられ、写真を撮る時の絵の作り方や心構えの様なものを勉強させられました。
    今回はDVDブックとしてカメラマンの大津さんが実際に映画を見ながらのお話が載っていたり、シナリオが載っていたりと、ビデオを見ながら読む事でより理解が深まりました。
    映画の撮影時期が反対同盟が実力闘争に入って行く時で学生労働者の戦いを見ながら、実力闘争に入る同盟内部での葛藤などと撮影して行く中で徐々に同盟と一体化する撮影班、権力の行使する力を見た時に自然と対抗しなければ自分自身の存在の価値が無くなってくるような感覚、同時代に見た時とは違った見え方がしたりあらためて見ると空港反対闘争のいまも続く戦いの原点を感じます。
    中心の為に犠牲になる周辺、そこに住む人達の犠牲、結局は原発問題や沖縄の問題などと同じ構図なのを感じます。
    でも40年以上経ってもまだ戦い続ける農民がいて未だに完全な形にならない空港や、30年に戦い続けて原発を作らせない祝島の人達など、生活の中に根付く戦いの力強さをあらためて感じます。

  • 小川紳介監督のドキュメンタリー作品「三里塚の夏」をDVDブックで初めて発売したもの。

    以下、ドキュメンタリーの感想。

    68年製作ということで、三里塚の記録としてはかなり初期のものと言える。
    三里塚闘争は、自分たちが開拓して生活の糧にしていた土地が(成田空港建設のために)強制的に国家によって奪われていくことに反対したもので、基本的には反対する農民の主張が100:0ぐらいの比率で正しいw 
    「自分たちの土地を奪うな」というそれが基本なので、主張がとてもシンプル。
    農民のみなさんは、別に大きな政治的思想に基いて抵抗をはじめたわけではないし、特別に国家権力を敵視しているわけでもないので、発する言葉が素朴で、それゆえの説得力がある。

    ただ、先頭に立って闘っているのはどちらかというと権力との対峙に慣れた学生たちではあり、また抵抗自体も非暴力的な側面が強い。それが抵抗の過程で、農民たちの意識も変容していき、自衛のために最低限の武器を持つ必要がある、という認識が浮上してくる様子がおさめられている。
    反対運動側の話し合いで出ていて面白かったのが、「武器をもたずにやっていても武器を持ってるとか因縁つけられて逮捕されるんだから、武器を持ったって同じだ」という意見w 
    穏やかに抵抗してるのに有無をいわさず弾圧されたら、そりゃ怒りもわくし、抵抗の仕方が変わってくるのも当然だろう。

    ところで、機動隊はたかが農民相手におびただしい数が動員されているのだけど、それでも現在の機動隊よりも装備はゆるいし(とはいえジェラルミン盾などはごついが)、あんまりしっかり訓練されてるようにも見えないし、どこか人間味がある。農民に文句言われて、たどたどしく弁明してる様子とかも。
    いま、デモとか参加しても警察なんか人間に見えないもん。人型ロボットみたいな。それと比較すると、素朴なところはある。

    ちなみにドキュメンタリーとしては白黒だし、言葉聞き取りづらいところちょくちょくあるしで、少し観るのがきつかった、というのは正直な感想。ていうか、観た時すごい眠かったせいでもあるんだけどw

    しかし、地味なシーンは多いものの魅せるものはある、と思う。

    おそらくサブになると思われる書籍の方では、この映画の撮影背景などを、当時のカメラマンなどが座談形式で語ったり、三里塚闘争とはいかなる運動なのかを、この映画の関係者が語っている。
    様々なアクター・ファクターが絡むこの運動の複雑な様子を、ここに載っている文章のみで包括的に理解することは難しいが、その運動の一つの側面を理解するための手がかりにはなるだろう。

    可能であれば、この小川紳介が撮った三里塚についての、他の作品も商品化してほしいと思う。

  • 小川紳介・小川プロダクションの傑作ドキュメンタリー『日本解放戦線 三里塚の
    夏』の世界初DVD化。これだけでも大変な快挙だと思いますが、さらに本書では、
    撮影当時のカメラマンである大津幸四郎氏をむかえ、映画のシークエンスを詳細に解
    説。『三里塚の夏』および「三里塚闘争」の歴史的位置づけをめぐる各種論考も収録
    した、盛りだくさんの内容です。こんなに豪華でいいのかしら。

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著者プロフィール

一九五〇年東京都生まれ。ブックデザイナー。杉浦康平氏のアシスタントを一二年間つとめ、一九八五年に独立。映画や写真の批評も手がけつつ、デザイン批評誌『d/SIGN』を戸田ツトムとともに責任編集(二〇〇一─一一年)。神戸芸術工科大学客員教授。著書に『画面の誕生』(みすす書房)、『ページと力』『重力のデザイン』(ともに青土社)、『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』(誠文堂新光社)、共編著に『知恵蔵裁判全記録』(太田出版)、『デザインの種』(大月書店)、『絶対平面都市』(月曜社)など。

「2020年 『ドキュメンタリー作家 王兵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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