- Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
- / ISBN・EAN: 9784779119545
作品紹介・あらすじ
「らいになって良かった」
17歳でふるさと津軽の家族と別離。療養先の群馬草津の施設で、多くの苦難が彼を襲う。ハンセン病(らい病)から派生した病魔は、
彼から手を奪い、光を奪い、声帯を冒し、皮膚の神経感覚を奪った。さらに療養所で出会った妻と娘を失い、絶望のどん底で青年時代を過ごした。
のちに59歳で詩作と出会い、ユーモアあふれる魂の叫びを詠い、多くの人々の心をつかんだ。運命的な人々とも出会った。
「てっちゃん」の愛称で親しまれた詩人・桜井哲夫は、人生を奪った「らい」をどう生きたのか――
その素顔に迫ったフォトドキュメンタリー。
感想・レビュー・書評
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隔離、断種手術を強いた政策の誤り。ハンセン病の歴史は将来に引き継がなければならない
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本書に載っている詩 2編
病者の心情が伝わってくる内容である。
悲しくもあり、希望もうかがえる。
私の知らないことも多く、歴史の重みを感じた。 -
ハンセン病に感謝した詩人を取り上げたフォトドキュメント。
写真家の森住卓さんがFacebookで推薦していたので購入。
もともとハンセン病には関心があったが、本書の主役てっちゃんこと桜井哲夫さん(本名•長峰利造)の生き方に大きな人生の勉強をすることができた。
まずは自分の病気を受け止め、前向きに考えたことである。
彼は韓国の大学院生の授業の中で、「オレは感謝している。だってこの病気にならなかったら、今ごろ何をしているのかと思うと。いまのオレでなければ、みなさんと会ってお話をすることはできないわけだからね。」(p18)と、語ったこと。
また「オレはね、自分の顔に誇りを持っているの。この顔には、苦しみや悲しみがいっぱい刻まれているのね。それを乗り越えてきた自信も。だからね、崩れちゃってはいるけど、いい顔なんじゃないかな。だってこの味わいはオレじゃないと出せないでしょ」(p46)とも語ったことである。
てっちゃんの顔は、写真で見る限り重いハンセン病の状態である。指も整った形をしていない。
人間は姿形の外見ではなく中身の素晴らしさが大事であることを改めて思った。
自分の人生を受け止め、前向きに考えるエネルギーがとても大きい。圧巻だ。
著者が韓国人でもあることから韓国のハンセン病療養所についての記述もある。韓国唯一のハンセン病の療養所は日本の植民地時代に作られた。
日本ではハンセン病患者の、断種手術は結婚時だったが、韓国では懲罰の手段としても用いられた。神社の参拝の拒否や13歳の少年が木の枝を折ったということで断種された記録もある。
日本国内でも軍国主義が強くなる中で1916年「懲戒検束権」が療養所所長に与えられ、各地の療養所に監禁所が建設され、1938年には「反抗的」と見なされた患者たちを送り込む重監房が草津に造られた。鉄筋コンクリートで板敷の独房、外気温はマイナス20度近くまで下がった。「草津送りにするぞ」と言われ、患者たちは恐怖心を植え付けられた。
療養所では偽名を使って過ごした。桜井哲夫も偽名である。家族が差別を避ける側面が強いのだろう。
現在のハンセン病については、2013年5月で全国13の国立療養所で1979人が暮らしている。入所者の平均年齢は82.6歳。
ハンセン病は今では治療できる病気であり、この人たちが亡くなった時にハンセン病についてこの国が患者たちを行ったことを風化させないように教育を積み重ねていく必要があると本書を読み改めて再確認することができた。 -
ハンセン病患者として、櫻井哲夫として、詩人として、そして長峰利造としてのてっちゃんの生き方に迫ったノンフィクション。フォトドキュメンタリー。
てっちゃんのハンセン病に感謝するという考えは私には到底できないと思うし、この考えに行き着くまでに想像を絶する困難を乗り越えて来たのだろうと思った。
てっちゃんの活動、詩、ハンセン病患者たちが受けた苦痛、事実が写真と言葉で綴られていた。
日本人以上の苦痛を強いられた在日韓国人が収容された小鹿島の遺跡や日本のアウシュヴィッツと言われた楽泉園。パンデミック後であり、戦争をしている国があるという今こそ読むべき本だと感じた。
『おじぎ草』にはてっちゃんの生き方がありありと表れていた。
2024年 2月 現在では約810人の元患者さんが生活しているという。元患者の方の話を語り継げるよう私も会いに行きたいと強く思った。