- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784781610207
作品紹介・あらすじ
30歳の独身OL理津子。-彼女は幼い頃、父の書斎で偶然見つけてしまったSMビデオがきっかけで、人には言えない鬱屈した性欲を抱くようになってしまった。ある日、S傾向のある部下、塩井に犯され、ついに理津子はずっと妄想してきた淫靡な世界に足を踏み入れることに…。次第にエスカレートしていく塩井との行為。いったい彼の真意はなんなのか。そして、理津子が幼い日に見たSMビデオと塩井との関わりとは…?恋愛と快楽の狭間で揺れる理津子は、やがて驚くべき真実を知ることになるのだった-。性の自立と開花を濃厚に描くミステリアス官能長編!団鬼六賞優秀作受賞一作。
感想・レビュー・書評
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この人が書いた本、初めて読んだけど
他のも読みたくなった。
一人称だけの世界にいちゃいけないとはっとさせられました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
テンポ良く物語が進む
sm性描写は少ない -
深志さんの著書のレビューはこれで2冊目です。官能小説のレビューもブクログでは4冊目(どちらかと言えば古典で括りたいマゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』、バタイユ『眼球譚』をも含めるなら)ですかね。
ヌくと言うより、結構考え込みながら読んでしまいました。純粋に読み物として大変面白かったのです。そして、読みながらマゾッホのことを思い浮かべてしまいました。
きっとマゾッホが現代に生きていたとしても、彼にはこういう話を描く才能はないでしょう。なのに、彼がはるか140年も前にワンダとゼヴェリーンの関係を通して描いたものは、しっかり現代の日本社会の空気の中で、橋元理津子と塩井絢人の関係を通して形を成しているように思えました。それは、「純愛とSMの蜜月」とでも呼べましょうか。つまり純愛という恋愛に対する姿勢と、SMというプレイであり実践が、密接に相互を強化し合う関係を築いているのです。酷く虐めれば虐めるほど純粋な愛情が強化され、相手を愛すれば愛するほどもっと虐めたい/虐められたいと望む。
ここにSMの面白さや醍醐味があるとしたら、まさにこの本は王道を行く王道な気がしますよね。
という訳で、本作はSMモノです。そして、SMモノで言えばやはり、古典中の古典『毛皮を着たヴィーナス』に勝るものはないと現段階では思っています。でも、『ゆっくり 破って』はそれに匹敵する面白さですね。
まぁ、理津子は喪女にしてはかなりの美女だと想像して読んでしまいますよね。どんなに嫌味な上司で、どんなに憎い男の娘(どうでもいいけど文中のこの表記、最初「ニクいオトコのコ」って読んじゃってアルエ?ちんぽ生えた女?ってなったのは笑い話)だとしても、不細工では興奮も勃起もしないんですよ。そこんとこ大変オトコはシビアなんでね。
そりゃあ、いくら虐めても馬鹿にしてみてもちんぽしゃぶられたら気持ちよくなっちゃうのは仕方ないと思いますねぇ〜。仕方ないよ。どっちが囚われているのか分からなくなるのは。ちょろいと言いつつその純粋培養された天然さが恐ろしくなるのは。『毛皮を着たヴィーナス』のワンダも元はと言えばいいトコの美人のお嬢様なので、いいトコの純粋培養された美女というのは純愛やSMに対しての親和性が高いのかなと思ったり。
対して、奈美や部下の岸田は純愛とは真逆の人ですね。おそらく、純愛を信じていないし、信じないことで男と関係を持てるようになったタイプだと思います。サセコという言葉も文中にありましたが、純愛の正反対はフリーセックスなんです。フリーセックス主義も行き過ぎると、結婚を完全否定し、家族を完全否定した上で、自由恋愛を徹底しようとします。この二人はどちらも結婚を選んでいるので純度の高いフリーセックス主義者ではありませんが、「生きるための戦略として結婚や恋愛を考える」賢さを磨いているあたり、少なくともフリーセックス側で純愛は信じていないでしょうね。理津子が羨みつつも、嫉妬したり馬鹿にすらしたりするわけですよ。
などなど色んな人間模様に想いを馳せつつ、私自身元々苦手だったSMモノがだんだん読めるようになってきたのは、こういういい作品に出会えたからかなと。